片翼の騎士と魔法の工匠

まめきち

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第十五話

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役所の奥、一般の窓口とは隔てられた小さな部屋に通された。

石造りの床。
中央には、簡素な魔法陣が刻まれている。

「解放に伴い、魔法印の解除を行います」

担当の魔術官が、淡々と告げた。

「印は、身体のどこに?」

「……左の鎖骨の下です」

レオンの声は落ち着いていたが、私はその横顔に、わずかな緊張を見た。

「椅子に座ってください」

彼が椅子に腰を下ろすと、魔術官が近づく。
私は自然と一歩、近くに立った。

「触れますね」

短い断りのあと、術者の指が、印の位置にかざされる。

そこには、淡く光る紋様があった。
普段は見えにくく、命令や拘束に反応したときだけ浮かび上がる、奴隷の魔法印。

魔術官が詠唱を始める。

低く、規則的な声。
魔法陣が光り、空気がひんやりと張りつめる。

印が、はっきりと浮かび上がった。

「……っ」

レオンの肩が、わずかに揺れた。

「大丈夫よ」

小さく声をかけると、彼は何も言わず、ただ頷いた。

紋様に走る光が、ゆっくりと逆回転を始める。
まるで、絡まっていた糸が、一本ずつほどけていくように。

一瞬、強い光。

そして――

印が、音もなく消えた。

何も残らない。
跡すら、ない。

「解除、完了です」

魔術官の声が、やけに遠く聞こえた。

レオンは、しばらく動かなかった。
自分の胸元に手を当て、確かめるように触れる。

「……何も、ない」

呟く声は、震えていた。

「ええ」

私は、すぐそばで答える。

「もう、ないわ」

彼は深く息を吸い、吐いた。
まるで、胸の奥に溜まっていた何かを、ようやく外に出すみたいに。

「……軽い」

「そう?」

「はい。
……ずっと、ここに何かあった気がしてたんです」

私は、何も言わず、隣に立つ。

魔術官が事務的に告げる。

「これをもって、契約および魔法的拘束は完全に消滅しました」

役所を出たとき、外の光はやはり眩しかった。

レオンは、無意識のように胸元を一度撫で、それから、手を下ろす。

もう、確認する必要がないと分かったのだろう。

「……本当に、終わったんですね」

「ええ」

私は、少しだけ笑う。

「これからは、誰の命令もいらない」

彼は、ゆっくりとこちらを見る。

「……それでも」

一拍。

「ここに、います」

選ぶように言う。

「工房で。
あなたのところで」

私は、即答した。

「歓迎するわ。
今日から、正式に傭兵ね」

その言葉に、彼は初めて、はっきりと笑った。

並んで歩き出す。
もう、印に縛られた影は、どこにもなかった。
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