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第十四話
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夜の工房は、昼よりも静かだった。
帳簿も道具も片付けられ、ランプの灯りだけが二人を照らしている。
「……考えました」
先に口を開いたのは、レオンだった。
「解放の件」
私は頷き、急かさずに待つ。
「もし、許されるなら……」
彼は一度、言葉を切った。
「解放されたあとも、ここで働かせてください」
その言い方は、願いに近かった。
「雇用、という形で」
私は少しだけ目を見開き、すぐに微笑む。
「それ、私から言おうと思ってた」
彼が驚いたようにこちらを見る。
「工房は、腕がある人手を探してるの。
条件は――」
指を折る。
「賃金あり、契約は対等。
出ていくのも、続けるのも自由」
そして、はっきり言う。
「主従じゃない。
一緒に働く、仲間」
レオンは、しばらく黙っていた。
その後、深く息を吸う。
「……それなら」
そう言って、彼は視線を落とした。
「話しておくべきことがあります」
空気が、変わった。
「俺は……元々、隣国子爵家の長男でした」
その言葉に、私は何も挟まずに聞く。
「剣の才があったので、本家――侯爵家から声がかかりました。
後継として、養子に迎える、と」
淡々とした語り口。
けれど、指先はわずかに震えている。
「……それを、快く思わない人間がいた」
一拍置いて。
「侯爵家の、実の長男です」
ランプの火が、揺れた。
「事故に見せかけた訓練中の襲撃でした。
証拠も、証言も……用意されていた」
彼は、自分の義手を見た。
「片腕を失い、同時に、罪を着せられました。
反逆未遂。主家への不忠」
私は、思わず息を詰める。
「処罰は、追放。
……その後、侯爵の長男の手引きで秘密裏に 奴隷商に引き渡されました」
そこで、ようやく彼は顔を上げた。
「名前も、身分も、全部消えました。
残ったのは……剣を振れない体と、使い道のない過去だけ」
静寂。
私は、ゆっくりと立ち上がり、彼の前に立つ。
「それでも」
低く、はっきり言う。
「今のあなたは、あなたよ」
彼が、戸惑ったように私を見る。
「過去の肩書きも、奪われた立場も関係ない。
ここでは、腕と意志だけで評価する」
少し間を置いて、続ける。
「……それに」
声が、わずかに柔らぐ。
「過去があるからこそ、今のあなたがいる」
レオンは、しばらく何も言えなかった。
やがて、深く頭を下げる。
「……ここで、働かせてください」
「ええ」
即答だった。
「工房の職人として。
それ以上でも、それ以下でもない」
彼は顔を上げ、小さく笑った。
「……不思議です」
「何が?」
「身分を失って、全部なくしたと思っていたのに」
義手を、ぎゅっと握る。
「ここに来てから、初めて……
自分で立っている気がします」
私は、その言葉を、静かに受け取った。
ランプの灯りが、二人の影を並べて床に落とす。
主と奴隷ではない。
雇い主と雇われでも、もう少し違う。
同じ場所に立つ、二人の影だった。
帳簿も道具も片付けられ、ランプの灯りだけが二人を照らしている。
「……考えました」
先に口を開いたのは、レオンだった。
「解放の件」
私は頷き、急かさずに待つ。
「もし、許されるなら……」
彼は一度、言葉を切った。
「解放されたあとも、ここで働かせてください」
その言い方は、願いに近かった。
「雇用、という形で」
私は少しだけ目を見開き、すぐに微笑む。
「それ、私から言おうと思ってた」
彼が驚いたようにこちらを見る。
「工房は、腕がある人手を探してるの。
条件は――」
指を折る。
「賃金あり、契約は対等。
出ていくのも、続けるのも自由」
そして、はっきり言う。
「主従じゃない。
一緒に働く、仲間」
レオンは、しばらく黙っていた。
その後、深く息を吸う。
「……それなら」
そう言って、彼は視線を落とした。
「話しておくべきことがあります」
空気が、変わった。
「俺は……元々、隣国子爵家の長男でした」
その言葉に、私は何も挟まずに聞く。
「剣の才があったので、本家――侯爵家から声がかかりました。
後継として、養子に迎える、と」
淡々とした語り口。
けれど、指先はわずかに震えている。
「……それを、快く思わない人間がいた」
一拍置いて。
「侯爵家の、実の長男です」
ランプの火が、揺れた。
「事故に見せかけた訓練中の襲撃でした。
証拠も、証言も……用意されていた」
彼は、自分の義手を見た。
「片腕を失い、同時に、罪を着せられました。
反逆未遂。主家への不忠」
私は、思わず息を詰める。
「処罰は、追放。
……その後、侯爵の長男の手引きで秘密裏に 奴隷商に引き渡されました」
そこで、ようやく彼は顔を上げた。
「名前も、身分も、全部消えました。
残ったのは……剣を振れない体と、使い道のない過去だけ」
静寂。
私は、ゆっくりと立ち上がり、彼の前に立つ。
「それでも」
低く、はっきり言う。
「今のあなたは、あなたよ」
彼が、戸惑ったように私を見る。
「過去の肩書きも、奪われた立場も関係ない。
ここでは、腕と意志だけで評価する」
少し間を置いて、続ける。
「……それに」
声が、わずかに柔らぐ。
「過去があるからこそ、今のあなたがいる」
レオンは、しばらく何も言えなかった。
やがて、深く頭を下げる。
「……ここで、働かせてください」
「ええ」
即答だった。
「工房の職人として。
それ以上でも、それ以下でもない」
彼は顔を上げ、小さく笑った。
「……不思議です」
「何が?」
「身分を失って、全部なくしたと思っていたのに」
義手を、ぎゅっと握る。
「ここに来てから、初めて……
自分で立っている気がします」
私は、その言葉を、静かに受け取った。
ランプの灯りが、二人の影を並べて床に落とす。
主と奴隷ではない。
雇い主と雇われでも、もう少し違う。
同じ場所に立つ、二人の影だった。
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