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第十三話
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工房の帳簿を閉じて、私は小さく息を吐いた。
「……想像以上ね」
机の上には、今回手に入れた魔石の売却記録。
必要経費を差し引いても、まだ余りがある。
生活費、工房の維持、材料の補充。
それらを全部考えても――十分すぎる。
「レオン」
名を呼ぶと、彼はすぐに顔を上げた。
作業を手伝っていた手を止め、こちらを見る。
「座って」
少し真面目な声だったのだろう。
彼は何も言わず、私の向かいの椅子に腰を下ろした。
私は帳簿を指で押さえながら、言う。
「今回の魔石でね……しばらく、かなり余裕ができたの」
「……そうですか」
頷きはしたけれど、彼自身のこととしては受け取っていない。
いつものこと。
私は一度、言葉を選ぶために視線を落とす。
「だから……提案がある」
その一言で、空気が少し張り詰めた。
「あなたを、解放できる」
顔を上げると、レオンは動きを止めたまま、私を見ている。
瞬きも忘れたように。
「……奴隷契約を、終わらせられる」
はっきり言う。
「借金も、契約金も、全部清算できる。
今日にでも、手続きはできるわ」
静寂。
彼の指が、膝の上で強く握られた。
義手ではないほうの手。
「それは……」
言いかけて、言葉が続かない。
私は続ける。
「ここにいるかどうかは、あなたが決めていい」
逃げ道を、最初に用意する。
「工房を出てもいいし、街を離れてもいい。
誰の許可も、もういらない」
しばらく、彼は黙っていた。
やがて、低い声で言う。
「……どうして、俺に」
「当然でしょ」
即答だった。
「あなたは、もう十分すぎるほど、働いてる。
それに――」
言葉を区切る。
「私は、縛っておきたいわけじゃない」
彼の喉が、小さく鳴った。
「……もし、俺が出ていったら」
「それも、あなたの選択よ」
私は、彼をまっすぐ見る。
「引き止めはしない。
でも……」
少しだけ、間を置く。
「一緒にいたいって言うなら、それは“選ばれた”ってことになる」
彼は、はっとしたように目を見開いた。
「主命令でも、契約でもない。
あなた自身の意思」
レオンは、しばらく下を向いていた。
考えているというより、何かを噛み締めているようだった。
やがて、ぽつりと。
「……少し、時間をもらってもいいですか」
「ええ」
「……すぐに答えられない」
「それでいい」
私は、静かに言う。
「答えは、急がなくていい。
でも、選ぶ権利があるってことだけは、忘れないで」
彼は、深く息を吸い、吐いた。
「……分かりました」
立ち上がるとき、彼は一瞬だけ躊躇ってから言う。
「……ありがとうございます」
その言葉は、主に向けたものではなかった。
夜の工房に、静かな灯りが揺れる。
二人の関係は、また一つ、形を変えようとしていた。
「……想像以上ね」
机の上には、今回手に入れた魔石の売却記録。
必要経費を差し引いても、まだ余りがある。
生活費、工房の維持、材料の補充。
それらを全部考えても――十分すぎる。
「レオン」
名を呼ぶと、彼はすぐに顔を上げた。
作業を手伝っていた手を止め、こちらを見る。
「座って」
少し真面目な声だったのだろう。
彼は何も言わず、私の向かいの椅子に腰を下ろした。
私は帳簿を指で押さえながら、言う。
「今回の魔石でね……しばらく、かなり余裕ができたの」
「……そうですか」
頷きはしたけれど、彼自身のこととしては受け取っていない。
いつものこと。
私は一度、言葉を選ぶために視線を落とす。
「だから……提案がある」
その一言で、空気が少し張り詰めた。
「あなたを、解放できる」
顔を上げると、レオンは動きを止めたまま、私を見ている。
瞬きも忘れたように。
「……奴隷契約を、終わらせられる」
はっきり言う。
「借金も、契約金も、全部清算できる。
今日にでも、手続きはできるわ」
静寂。
彼の指が、膝の上で強く握られた。
義手ではないほうの手。
「それは……」
言いかけて、言葉が続かない。
私は続ける。
「ここにいるかどうかは、あなたが決めていい」
逃げ道を、最初に用意する。
「工房を出てもいいし、街を離れてもいい。
誰の許可も、もういらない」
しばらく、彼は黙っていた。
やがて、低い声で言う。
「……どうして、俺に」
「当然でしょ」
即答だった。
「あなたは、もう十分すぎるほど、働いてる。
それに――」
言葉を区切る。
「私は、縛っておきたいわけじゃない」
彼の喉が、小さく鳴った。
「……もし、俺が出ていったら」
「それも、あなたの選択よ」
私は、彼をまっすぐ見る。
「引き止めはしない。
でも……」
少しだけ、間を置く。
「一緒にいたいって言うなら、それは“選ばれた”ってことになる」
彼は、はっとしたように目を見開いた。
「主命令でも、契約でもない。
あなた自身の意思」
レオンは、しばらく下を向いていた。
考えているというより、何かを噛み締めているようだった。
やがて、ぽつりと。
「……少し、時間をもらってもいいですか」
「ええ」
「……すぐに答えられない」
「それでいい」
私は、静かに言う。
「答えは、急がなくていい。
でも、選ぶ権利があるってことだけは、忘れないで」
彼は、深く息を吸い、吐いた。
「……分かりました」
立ち上がるとき、彼は一瞬だけ躊躇ってから言う。
「……ありがとうございます」
その言葉は、主に向けたものではなかった。
夜の工房に、静かな灯りが揺れる。
二人の関係は、また一つ、形を変えようとしていた。
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