片翼の騎士と魔法の工匠

まめきち

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第十二話

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数日後、風邪がすっかり治り工房にいつもの音が戻った。

炉の火が安定し、金属を打つ澄んだ音が空気を震わせる。
私は深く息を吸い、肩を回した。

「……もう、大丈夫そうね」

「無理はしないでください」

背後から、すぐに返ってくる声。
治ったはずなのに、過保護はそのままだった。

「今日は義手の微調整だけ。
力仕事はしないわ」

そう言って作業台に向かうと、レオンが素直に頷く。

「お願いします」

彼は椅子に腰掛け、義手を外す。
金属が触れ合う軽い音。

私は部品を一つずつ確かめ、魔石の反応を見た。

「この前の魔石、反応が安定してる。
可動域、少し広げられそう」

「……違和感、減りますか」

「ええ。剣を振ったとき、戻りが早くなる」

説明しながら、私は彼の前に立つ。
自然と距離が縮まる。

「少し、腕を上げて」

彼が言われた通りに動かすと、義手の接合部がきしりと鳴った。
私はそこに手を添え、角度を微調整する。

近い。

視線を上げれば、すぐ目が合う距離だった。
けれど、どちらも逸らさない。

「……どうです?」

「軽い、です」

驚いたような声。

「力を入れても、引っかからない」

私は満足して頷き、固定具を締める。

「じゃあ、最後に動作確認」

「はい」

彼がゆっくりと腕を動かす。
義手が滑らかに動き、金属音が静かに響く。

「……いいですね」

「でしょ」

思わず、声が少しだけ弾んだ。

その瞬間、彼の肘が、私の腕に触れた。
軽く、ほんの一瞬。

「あ……すみません」

離れようとするのを、私は止めなかった。
代わりに、もう一度、接合部に触れる。

「いいわ。まだ調整中だもの」

言い訳みたいな言葉。

彼は動きを止め、私に任せた。

作業が終わり、義手を元に戻す。
固定具を締めるため、私は彼の肩に手を置いた。

「完成。
前より、ずっと扱いやすいはずよ」

「……ありがとうございます」

その声は、落ち着いていた。
でも、少しだけ柔らかい。

彼は立ち上がり、義手を軽く握る。
何度か確かめるように開閉し、満足そうに息を吐いた。

「……ちゃんと、俺の手ですね」

その言葉に、胸の奥が少し温かくなる。

「あなたが使いこなしてるからよ」

そう返すと、彼は一瞬だけ迷ってから言った。

「……これがあるのは、あなたのおかげです」

近い距離のまま。
けれど、触れない。

工房の中に、静かな空気が流れる。
それは、二人の日常だった。
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