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第十七話
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付き合い始めてから、日常は少しだけ変わった。
朝、工房を開ける前に交わす短い会話。
魔石の在庫を確認する私の横で、装備を点検するレオン。
触れなくても、互いの存在を意識している空気。
それが当たり前になりつつあった頃だった。
「……噂、ですか」
昼下がり。
常連が置いていった話を聞いて、レオンが低く呟く。
「ええ。中央から視察団が来るらしいわ」
私は作業台に広げた帳簿を指で押さえながら答える。
「名目は“地方の魔石流通の確認”。
でも、その護衛に――」
一瞬、言葉を切る。
「侯爵家の名が出てる」
レオンの動きが止まった。
義手ではないほうの手が、ゆっくりと拳になる。
「……俺のこと、ですね」
断定に近い声音。
「可能性は高い」
私は隠さない。
「あなたは、元奴隷とは思えない戦果を上げてる。
魔石の質も、討伐の安定性も」
視線を上げる。
「中央が放っておく理由がない」
沈黙が落ちる。
やがて、レオンが言った。
「……俺、工房から離れたほうがいいですか」
その言葉は、過去の癖だった。
問題が起きそうなら、自分が引く。
「いいえ」
私ははっきり否定する。
「あなたは今、私に雇われている傭兵よ」
彼を見る。
「正式な契約もある。
魔石採取と護衛、工房防衛を含めた依頼」
書類の束を指で叩く。
「あなたがここにいるのは、正当な理由がある」
「……でも」
「それに」
一歩、距離を詰める。
「恋人を、危険だからって切り捨てる雇い主でもない」
彼は、少し困ったように笑った。
「……傭兵としても、恋人としても、守られる側ですね」
「勘違いしないで」
即座に返す。
「守るし、守られる。
それだけ」
そのとき、工房の扉がノックされた。
「失礼する」
入ってきたのは、中央の紋章を胸に付けた男。
役人にしては、視線が鋭い。
「リオン殿。
魔石流通と、その護衛体制について話を聞きたい」
彼の目が、自然とレオンに向く。
装備の整った姿。
戦い慣れた立ち方。
「……そちらの方は?」
私は一歩、前に出た。
「うちの専属傭兵よ」
一拍、置いてから続ける。
「魔石採取と、私の護衛を担当してる」
そして、はっきり言う。
「――恋人でもあるけど」
一瞬、空気が止まった。
レオンは驚いたようにこちらを見るが、すぐに私の隣に立つ。
「レオンです」
名乗りは簡潔だった。
役人の目が、わずかに細くなる。
「……なるほど。
腕が立ちそうだ」
その視線の奥にあったのは、評価ではない。
探る目。
値踏みする目。
そして――確信。
侯爵家は、もう気づいている。
私は、レオンの手に、短く触れた。
合図のように。
彼は、わずかに頷く。
逃げない。
離れない。
今のレオンは、
誰かの所有物ではない。
私に雇われ、
私の隣に立つ――傭兵で、恋人だった。
朝、工房を開ける前に交わす短い会話。
魔石の在庫を確認する私の横で、装備を点検するレオン。
触れなくても、互いの存在を意識している空気。
それが当たり前になりつつあった頃だった。
「……噂、ですか」
昼下がり。
常連が置いていった話を聞いて、レオンが低く呟く。
「ええ。中央から視察団が来るらしいわ」
私は作業台に広げた帳簿を指で押さえながら答える。
「名目は“地方の魔石流通の確認”。
でも、その護衛に――」
一瞬、言葉を切る。
「侯爵家の名が出てる」
レオンの動きが止まった。
義手ではないほうの手が、ゆっくりと拳になる。
「……俺のこと、ですね」
断定に近い声音。
「可能性は高い」
私は隠さない。
「あなたは、元奴隷とは思えない戦果を上げてる。
魔石の質も、討伐の安定性も」
視線を上げる。
「中央が放っておく理由がない」
沈黙が落ちる。
やがて、レオンが言った。
「……俺、工房から離れたほうがいいですか」
その言葉は、過去の癖だった。
問題が起きそうなら、自分が引く。
「いいえ」
私ははっきり否定する。
「あなたは今、私に雇われている傭兵よ」
彼を見る。
「正式な契約もある。
魔石採取と護衛、工房防衛を含めた依頼」
書類の束を指で叩く。
「あなたがここにいるのは、正当な理由がある」
「……でも」
「それに」
一歩、距離を詰める。
「恋人を、危険だからって切り捨てる雇い主でもない」
彼は、少し困ったように笑った。
「……傭兵としても、恋人としても、守られる側ですね」
「勘違いしないで」
即座に返す。
「守るし、守られる。
それだけ」
そのとき、工房の扉がノックされた。
「失礼する」
入ってきたのは、中央の紋章を胸に付けた男。
役人にしては、視線が鋭い。
「リオン殿。
魔石流通と、その護衛体制について話を聞きたい」
彼の目が、自然とレオンに向く。
装備の整った姿。
戦い慣れた立ち方。
「……そちらの方は?」
私は一歩、前に出た。
「うちの専属傭兵よ」
一拍、置いてから続ける。
「魔石採取と、私の護衛を担当してる」
そして、はっきり言う。
「――恋人でもあるけど」
一瞬、空気が止まった。
レオンは驚いたようにこちらを見るが、すぐに私の隣に立つ。
「レオンです」
名乗りは簡潔だった。
役人の目が、わずかに細くなる。
「……なるほど。
腕が立ちそうだ」
その視線の奥にあったのは、評価ではない。
探る目。
値踏みする目。
そして――確信。
侯爵家は、もう気づいている。
私は、レオンの手に、短く触れた。
合図のように。
彼は、わずかに頷く。
逃げない。
離れない。
今のレオンは、
誰かの所有物ではない。
私に雇われ、
私の隣に立つ――傭兵で、恋人だった。
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