転生転移転禍為福〜こんなクソゲー作るんじゃなかった⁈〜

やた

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♯136 イチゴの甘い誘惑

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【リグ・ルミナーレ視点】

昨日に引き続き、今日もどっと疲れた。

学園に登校してみれば、昨日昼の『学食での件』のせいで、私とエルは周りから生暖かい目で見つめられるし、エルはエルでそれをまんざらでもなさそうな顔をしながらいつもより私に張り付くし。

ソーマの件についての噂もとんでもなく学園を駆け巡ってて。

廊下ですれ違う学生に「応援してます!」とか「負けないでください!」とか「私は月の女神様派です!」とかよくわからないことを言われた。

普段は遠巻きに見られることはあっても話しかけられることなんて稀なのに、一体どういう風の吹き回しだろうかと思ったが、それについてはスティーバがざっくりと解説してくれた。

どうやら巷では『華麗なるL公爵家の裏側~血塗られた愛憎劇と運命を分けた月と太陽~』とかいうギリギリのタイトルをつけたゴシップ紙が昨日の夜から爆売れしているらしい。

しかもそれ一つでなく、今朝にかけて類似品も多数出回ってて、どれも販売即日完売したそうだ。

要するにそれらはうちの内情を有る事無い事好き勝手に綴ったモノらしい。

昨日の今日でよーやるわという気持ちと、うちのお父様にこんな真正面から喧嘩を売るなんて命知らずだなぁと思った。

おそらくだけど、昔からうちは、父の第二夫人として、私の実母の妹かつ元恋敵と噂されるアンジュさんを迎えたことにより、『そういう意味』での噂の的ではあった。

さらにこの公爵家の子で1人、アンジュさんと血の繋がってない私の存在は、民衆の想像力をかき立てる美味しい題材でもあった。

でも結局それらは口の固いうちの使用人達のおかげもあって、今までは噂の域を超えなかったのだけれど。

今回、ソーマが車まで出したことにより、アンジュさんの起こした騒動が明るみに出てしまい、記者という名の作家達の腕が鳴ったのだろう。

まあ、それがたとえ事実であっても、名誉毀損になることもあるわけで。

お父様の圧力で、最悪何個か出版社が潰れそうだなぁと思った。

もしくは、潰すまではいかなくとも、売り上げを慰謝料として全部没収するくらいのことはやるだろうな。

今、うちカツカツだし。


そんなこんなで精神的にどっと疲れて家に帰ってきたら、今度はミーチェだ。

今回の騒動でなぜかよくわからない方向に火がついてしまい、「私がお姉様の居場所を作ります!」とか張り切って、『公爵家の仕事』を『お気持ち重視』で引っ掻き回すもんだから、お父様とルディと3人で、必死にミーチェを諭しながら、『政治とは』『経済とは』『人の上に立つということは』などを1から教える羽目になった。

純真無垢で全てを救おうとするタイプのミーチェには、『利益のために何かを切り捨てる』ということがどうしても納得できないようで。

「もちろんお父様方のおっしゃることは理解してます!ですがその上で私は提案しているのです!皆さんが幸せになる方向を!」とかキラッキラした瞳で言うので、ミーチェに激甘な我々3人は、最終的に皆渋い顔でただ口をぱくぱくするだけで、何も言葉が出なくなってしまった。

ヒロイン恐るべし。

いや…ダメなのはもちろんわかってるよ?このままじゃ。

だから可哀想ではあるけど、これから毎日現実を叩き込むつもりではある。

でも、今日はとりあえず――完敗だ。

自室で、サリーが運んできた夕食に、そんなこんなの大変だった今日を振り返りながら手をつける。

メインディッシュの白身魚のソテーを口に含んだ瞬間、今日の疲れが一気に吹き飛ぶくらいの味覚の刺激に、思わず顔が綻ぶ。

学園の学食にはさすがに及ばないが、それでもうちのお抱えシェフのポールはかなり腕がいい。

よくうちの安月給でここまでのものを仕上げてくれるよなぁと改めて感心しながら、どんどんと料理を頬張る。

疲れた時は三大欲求を満たすに限るなぁと思いながらあっという間に平らげると、デザートの器に手をつける。

今日はイチゴのコンポートだ。

キラキラツヤツヤとしたまるで宝石のような輝きを放つ美しい見た目に、幸せな気分になる。

一気に食べてしまうのは勿体無いので、デザートスプーンでそっと一粒掬い、光の反射を目で楽しみながらゆっくりと口に運ぶ。

その瞬間、口いっぱいに広がる苺の香りと酸味…などは感じないほどの甘さに、思わず眉を顰めた。

「あっま…」

季節のフルーツの風味を最大限に生かした繊細な味のコンポートは、ポールの得意とするデザートなので、こんなミスを犯すはずはないよなと思いながらも、勿体無いのでもう一粒口に含む。

しかし結構な甘さに、思わずサリーが食後用に入れてくれた紅茶に手を伸ばし、急いで口に含むと、口の中を一旦リセットする。

何をどう間違えたんだろう?と吟味するために、もう一粒スプーンで掬いじっとイチゴを眺める。

けれど見た目では判断できないので香りを嗅いでみる。

いつも通りのほんのりとした白ワインの香り…に混じって、なんだかどこかで嗅いだことのあるような香りが鼻を刺す。

このすこしアルコールが入ったような、甘ったるーい香り…

白ワインの香りで最初気づかなかったけど、コンポートは煮詰めているのでアルコールは飛んでるはずなのに、お酒っぽさが鼻につく…

この感じ…

どこかで――


ん……?

まさか――?!


慌てて顔を上げてサリーに視線を向けると。


サリーが目を細めてにっこりと笑っていた。

「ちょ?!サリーまさか!!!!」

私が立ち上がってサリーを睨みつけると、サリーは首を傾げた。

「どうかされました?」

「どうかされました?じゃないよ!!これ!!『あの薬』でしょ!!あなたは『直接手を出さない』って言ってたのに!!嘘つき!!なんてことしてくれてんの?!」

私が声を荒げると、サリーはくすッと笑った。

「まさか?私はご主人様が『人間に絶望する』のを心待ちにしているのですよ?人間本来の持ってる醜悪さを目の当たりにして、『こんなところにいるより魔界に行きたいなぁ』と自主的に思っていただかないと。私がご主人様を無理矢理魔界に連れて行くなんて『物理的に不可能』なんですからねぇ?」

「あなたがしてないって言うなら、じゃあ誰が――!」

そこまで言ってハッとする。

まてよ…?

よくよく考えてみると、私の体がおかしくなってルディと関係を持つ時って…だいたい食後だったような…?!


その瞬間――


来客を知らせるベルが屋敷に鳴り響いた。

その意味を一瞬で察して今一度サリーを睨みつけると、サリーはとぼけた様子で視線を右上にそらし、わざとらしく顎に人差し指を当てて考える素振りを見せた。

「そういえば…最近ルディ様は厨房によくいらっしゃいますねぇ?もちろん私はお仕事が忙しいので?ルディ様が『私の見ていない隙』に何かをしていたとしても、私には分かりかねますが?」

この悪魔めっ…!!

そういうことか!!

サリーは全部わかっててずっと傍観してたんだ!!

なんならルディの企みが成功するように、あえて『隙』を作ったりしてたのだろう。

なんでもっと早く気づかなかったのか。

こんなことちょっと考えればわかったのに!!


徐々に火照り出した体に歯を食いしばりながらサリーを睨みつけていると、サリーがまた目を細めてにっこりと笑った。

「さて、どうなさいますか?アルゼンハイト公爵家行きの馬車の手配をされますか?それとも…ルディ様のお部屋に行かれますか?私めにできることがあるのでしたら、なんなりとご命令ください?私めは『今』はご主人様の忠実な僕でございますので」

サリーの嫌味にぎりりと奥歯を噛み締めるが、すぐに諦めてため息をつく。

サリーの言う通りだ。

結局サリーは私の周りの人間を煽りはするが、『本質的なこと』には何も手を出していない。

なんならこうやって私の命令はちゃんと聞いて完璧に仕事はしてくれている。

私の身に降りかかる災難は、全て『人間の本質』が引き起こしたものなのだ。

それは私が1番よくわかってる。

『人間は感情の振れ幅によっては簡単に悪魔になってしまう』と言うことを。

だからここでサリーに文句を言ってもなんの意味もないのだ。

深呼吸をして気合を入れると、テーブルに置いてあったイチゴのコンポートの器を手に取り、全て口に流し込む。

こんなものを残して、厨房で誰かが口にしたらとんでもないことになる。

かと言ってポールがせっかく作ってくれた自信作をゴミ箱に捨てるなんて、そんな失礼で勿体無いことはできない。

ならば、一口食べてしまったのならもうどのみち全部食べようが結果は同じなのだ。

嫌な甘ったるさが口いっぱいに広がったので、ティーカップを手に取り、紅茶で全てを胃に流し込んだ。

視線をサリーに戻すと、サリーは訝しげな顔でこちらを見ていた。

「ご主人様は本当にどうかされてますね」

「こうなることをわかって傍観してたくせに。人間の醜悪さを見て悦ぶような性格の悪い『悪魔』に言われたくないね」

私が吐き捨てると、じっと私を見つめてから、ゆっくりと目を細めた。

「いえいえ、私は逆ですよ。人間が大好きだからこそ人間の醜さに嘆いているのです。こんなに日々人のために尽くされてるご主人様が不遇な扱いをされているのが不憫でなりませんよ?」

「はぁ?別に私は他人に尽くしてるつもりはないし…それに人間なんだからエゴや醜さがあるなんて当然でしょ?私が1番ソレを凝縮した代表みたいなもんだし?魔人族だってそれは同じじゃないの??それとも何?あなた達は人間と違ってみんな完璧で優美とでも言いたいの?」

サリーは驚いたように目を丸くした。

何その顔。

私何か間違ったこと言った??

「ご主人様は魔人族と人族を並列でお考えになるのですか?」

並列?

並列というか、少なくともサリーと話してたら人間となんら変わらないように思う。

ゲームでのこの悪魔は、人の心を踏み躙り弄び、良心のかけらもなく、全ての厄災のトリガーのように描いていたけど、この世界では全ての事象に直接手も下してないし、そんなような人物像には感じられない。

確かにこうやって煽ったり、嫌味な図星をずけずけと刺してくるから耳は痛いけど、そこそこ正しいことを言っていると思う。

正論だからこそ心にグサリと刺さって大ダメージを負うのだ。

「あなたは性格は悪いとは思うけど、人族の私よりまともなこと言ってるとはおもうよ。…認めたくはないけど」

渋い顔をしながらいうと、サリーは腹を抱えて笑い出した。

「あっはっは!そうか。なるほどな?…人のことを『悪魔』と呼ぶから所詮は他の人間どもと同じと思っていたが…」

急に大口を開けて本来の喋り方に戻ったのでギョッとしたが、サリーはすぐさま元のお淑やかなメイド顔に戻る。

「ご主人様はやはり魔王様にお会いになるべきです。魔王様を復活させたあかつきには、魔王様と共にあなた様のお好きなように魔界を統治できますよ?こんな理不尽渦巻く息苦しい世の中より、自分色に染められる世界はきっと楽しいですよ?」

「絶対嫌。それに別に私は自分の思い通りになる世界で生きたいわけじゃないから。もう人生で十分チャレンジはしたし努力もしたから。色々片付いたら、老後の趣味でも見つけて穏やかに好き勝手誰にも邪魔されずに過ごしたいだけ。」

私が前世の自分と今世の自分を振り返りながらボソボソと呟くと、サリーが急激に顔を顰めて、小馬鹿にするように鼻で笑った。

「はぁ?アホか。どう考えてもその性格のあんたにそんな生活向いてないだろ」

「なっ?!それはどういう意――っ――!!」

思わずカチンときて声を荒げると、頭に血が上ったせいか、ドクンと心臓が跳ねる。

慌ててソファに腰を下ろして、深呼吸をして発情を鎮めようと試みる。

そんな私の様子を見下ろしながらサリーが、ニタァと笑った。

「あぁーあ。ご主人様に触れられるのでしたら私が慰めて差し上げるのに残念ですわ?」

「っ――!それはっ…はぁ…そんなこと言うんだったらあなたがお母様を目覚めさせればいいでしょ?!」

「それはできかねますぅ」

私が抗議するとサリーは楽しそうにくすくすと笑う。

あぁもうだめだ。

身体が限界に達してきた。

「探知」

魔法を詠唱して発動させると、ルディの部屋の様子と、来客の状態を確認する。

来客はすでにルディの部屋にもう居るようだ。

そして、何やら――小細工をしているのが感じ取れた。

全く反省の色が見えないその行動にため息が漏れる。

わかった。

そっちがその気ならその罠にあえてハマってあげる。

そして――

今日で全てを終わらせる。


私は下着姿になり薄いガウンを羽織ると、サリーに夕食の片付けを命じる。

サリーは皿をワゴンにのせながら私の真意を探るようにこちらを観察していたが、にっこりと笑って「ご健闘をお祈りいたします」とだけ言ってきた。


相変わらずの嫌味な言い方に癪に触ったが、それを無視して「認識阻害」と唱えて私の部屋とルディの部屋に防音と魔力感知を妨げる壁を張ると、ルディの部屋に座標を定めて「転移」と唱えた。
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