転生転移転禍為福〜こんなクソゲー作るんじゃなかった⁈〜

やた

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♯27 匂いでバレる

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夕方へと傾き始めた頃、リグは昨日同様仕事を早めに切り上げて、『魔術騎士団演習場』にランニングしながら向かっていた。

この国には国軍として武術戦闘員がメインで構成されている『武術騎士団』と、魔術戦闘員がメインで構成されている『魔術騎士団』の二つの騎士団が存在する。

昨日リグ達の武術の鍛錬を指導してくれた武術騎士団長が統括する『武術騎士団』には、魔法が使えないが武術に長けている者や、魔法は使えるがそこまで得意ではなく魔力を主に武術戦闘のために使用して戦うのに特化した人員が所属している。

一方『魔術騎士団』にはその名の通り、魔法による戦闘技術にに長けた者が所属している。

武術も魔術もそれぞれ長所と短所があるので、メリットデメリットを時と場合に応じてお互いが補い合うめに、どちらもこの国にとって欠かすことのできない重要な軍事力だ。


そしてリグはなぜ今、魔術騎士団演習場に向かっているのかというと。

今日は魔術騎士団演習場の隅っこを間借りして、週一回の、『魔術の師から魔術指導を受ける日』なのである。

リグは武術同様、幼少の頃に起きた『あの事件』をきっかけに、父に頼み込んで魔術の鍛錬にも師を付けてもらっていた。


というか、なんならリグにとっては昨日の武術鍛錬よりもこちらのほうに重きを置いていた。



そもそもゲームのシナリオでのリグというキャラクターの設定は、『この世に生まれ落ちた瞬間、悪魔に聖女と間違われて攫われそうになるほどに隠しきれないくらい最強レベルに魔力が高い』という設定だ。
さらに物語終盤ではその魔力を存分に発揮して『魔族が束になっても500年もの間実現できなかった魔王復活を1人でさらっとやってのける』うえに、魔王と融合した暁には『超難敵のラスボス』として主人公たちの前に立ちはだかる。

見た目のせいで幼少の頃から不遇な人生を送ったり、魔力が高すぎるせいで魔族扱いされて人間に迫害されたり、なんやかんやがあってメンタル的に追い詰められ魔王と融合して消滅する絶望的な要素を多く抱えており問題が山積みなキャラではあるのだが、『この世界を滅亡に導くきっかけを作れるほどに高い魔力』は、リグの唯一の取り柄と言ってもいいだろう。

なのでリグが前世の記憶を取り戻して転生に気づいた瞬間、不遇な末路しかないキャラに転生した事実に絶望はしたものの、良くある転生ものの漫画や小説のように、そのチート級の魔力を早い段階で他の追随を許さないエグいレベルまで磨き上げ自由自在に使いこなせるようになれれば、案外チート級に楽に自分の生存率を上げられるのではないかと考えたのだ。

そしてリグは父に師をつけてほしいと頼んだときも、武術の師の選定は父に選択を委ねたが、この魔術の師に関してはゲームの知識を活用して人選し名指しでたのみこんだのだ。


ゲームで主人公たちに魔物の知識や魔術のアドバイスをくれたり、レベリングするための試練を与えてくれる、攻略においてかなり重要なキーパーソンであり、この国の『国家直属魔術特別顧問』という唯一無二の役職についている『アマラン•エヴァーキー』という人物を名指しで。


◇◇◇


リグが魔術騎士団演習場の隅につくと、ちょうど師匠のアマラン•エヴァーキーが背丈ほどの長さがある魔術具の杖を突きながら『弟子』を連れてやってきた。

師匠の金魚のフンのように後ろにピッタリとくっついて演習場に入ってきたその弟子は、いつも通りリグを見つけるや否や敵意をむき出しにしてリグを睨みつけた。

リグは、心なしかいつもにまして今日は弟子の不機嫌度が高い気もしたが、不機嫌度が高かろうが低かろうが嫌われてることには変わりないので、誤差レベルか、と思い気にしないことにした。


「おやおや。リグさん、はやいですね。お待たせしてしまいましたか?」

師匠がリグを見つけるとニコッと笑ってゆっくりとリグの方に近づいてきた。

リグはその師匠の纏う優しく穏やかで、そしてどこか懐かしく感じるような雰囲気に、思わず顔が緩み笑みを返した。

まだ27歳という若さにも関わらず、世界最高峰の知識と技術を持った『歴史的に最も優れた大魔導師』にしか拝命されないと言われている伝説級の役職『国家直属魔術特別顧問』についている師匠は、その落ち着きすぎた纏う空気のせいなのか、それとも重すぎる役職がそうさせているのか、まるで人生を達観した老人のように見える時があるとリグは思っていた。

「お疲れ様です師匠。私もちょうど今着いたところです。いつもお忙しいところすみません。」

リグが師匠に頭を下げると、弟子が師匠の後ろでぼそっと「そう思うんなら来んなよ」と呟いた。

この穏やかな師匠と打って変わってリグに対して態度の悪い弟子は、ゲームでは攻略対象の1人であり、幼少の頃から師匠に鍛えられていたおかげで魔術による戦闘技術がかなり高いキャラだ。

なので、『たとえ攻略キャラであってもシナリオの途中や戦闘パートで死んだら2度と復活できないという鬼畜な仕様』になっているこのゲームにおいて、彼は絶対にラスボス攻略までに死なせてはいけないキーキャラであるとリグの中で位置付けている。

そのためこの世界でリグが師匠を名指しで指名したのは、単純に『国最高峰の魔術の知識と技術を持っているアマラン•エヴァーキーという人物に自分を鍛えて欲しかった』というのももちろんあるのだが、この弟子のスキルアップも自分が関わることで手助けできればと考えていたので、どうしてもアマラン師匠と早い段階で関わりたかったのだ。

この弟子を早い段階でゲームの設定以上の最強魔術戦闘員に育成しておけば、もしかしたらこの『主要キャラですら死亡フラグが多すぎるクソゲー』を『ヌルゲーに』改変できないかとリグは考えていた。


「アスパルもお疲れ様。いつも私の練習に付き合わせちゃってごめんね?」

リグは不機嫌そうに師匠の陰に隠れている弟子、アスパルにも一応ご機嫌を取ろうと声をかける。

するとアスパルはフンと鼻を鳴らしてリグから視線を逸らした。

ゲーム内でも負けず嫌いのツンデレ要員であり、ヒロインの『最強癒しかわいい』を持ってしてもなかなかデレを引き出すのが難しいこのアスパルという人物は、この世界でも『魔力が世界最強レベルで自分の大好きな師匠に頻繁に褒められるリグ』に対して、とてつもなく敵対心を顕にして盛大にツンを発揮していた。

リグとしては、この先『リグを追い詰める可能性のある攻略対象者の1人』であるアスパルとも他の攻略対象と同様程度には友好関係を築きたいという気持ちもあるのだが、ゲームのヒロインですら彼を攻略するにはかなり距離を詰めて手数を打たなければいけないので、そんなことをして万が一友好を通り越してリグの苦手な類の『情』が生まれてしまうのもデメリットしか感じないので、彼と友好的になるのはほぼほぼ諦めていた。

相変わらず溝を感じるアスパルの態度に、リグはまあ仕方ないかとあきらめて軽く肩を回したり飛び跳ねたりして準備運動を始めると、アスパルがふと何かに気づいたようにピクッと肩を揺らした。

そしてリグの方に視線をむけスンスンと鼻を鳴らして渋い顔をした。

「お前…なんか今日におう」

「んえ?!私くさい?!」

その突然のアスパルの言葉にリグはギョッとして慌てて自分の腕を鼻の近くに持っていってスンスンと嗅いでみる。

そんなリグをアスパルは呆れたような顔でみた。

「違う。臭いとかじゃなくて、『体調』の匂い。寝不足…?疲れてんの?」

「え?ああ、びっくりした…いつもの『体調が匂いでわかる』ってやつか…確かに寝不足なのはそうかも…」

リグはほっとして顔に近づけていた腕を下ろした。


この世界のアスパルは生まれつき『鼻がいい』らしく、以前から時々こうやってリグの体調などを言い当てる時があった。

リグとしてはゲームではアスパルに『鼻がいい』という設定は作ってはいなかったので、初めてその能力を知った時には不思議に思ったが、よくよく思い返してみるとゲームのアスパル彼には『勘が良い』という設定を作っていた。

アスパルの『勘』はゲームのストーリー内でもちょくちょく発揮されていて、勇者パーティ内のメンバーの体調やメンタルの浮き沈みも誰よりも早く気づいて指摘するようなシーンが度々ある。
そのせいで人間関係が拗れたり、逆に修復したりと、ストーリーにおいてもスパイスを加える要員として立ち回っていた。

ゲーム内のアスパルがこの『鼻が効く能力』のおかげで『勘が良い』ように振る舞えていたのか、はたまた『ゲームの彼とこの世界の彼が少し違う』のかはリグとしてはいまだに答えを出せていないが、結果としてはどちらの彼も『他の人が気づかない些細な変化に気づける』事には変わりがなかった。


アスパルは何かを考えるように渋い顔でしばらくリグを眺めていたが、突然ハッとしてリグをまた鋭い視線で睨みつけた。

「今日の鍛錬内容は久々のフリーバトルだけど、僕に負けても寝不足を言い訳にするなよ?!」

そのアスパルの売り言葉にリグがアスパルにニヤリと挑発的な笑みを向ける。

「まさか?わたしがアスパルに負けるとでも?」

リグから返された買い言葉にアスパルは目を見開きこめかみに青筋を立ててぎりっと歯を食いしばって全身から怒りのオーラをリグに向けて放った。

リグはそんなアスパルの様子がまるで猫が必死に毛を逆立てて自分を大きく見せながら威嚇してるみたいだなと思って微笑ましくなって「ぷっ」と吹き出してしまった。

「な?!オマエ!!今僕のことバカにしたな?!」

アスパルはリグの態度にさらにカチンときてリグの胸ぐらを掴もうとリグとの間合いを詰めて手を伸ばした。

「はいはい。喧嘩しない。」

師匠がため息をつきながら今にも飛び掛からんとするアスパルの肩をグイッと引っ張って後ろに引き戻すと、アスパルはハッとして前に伸ばした手をぎゅっと握り、ゆっくりと手を引っ込めて怒りを押し殺すようにグッと堪えた。


「師匠、喧嘩じゃ無いですよ、じゃれあってたんです」

しかしリグはさらにアスパルを煽るようにまたニンマリと笑って見せると、アスパルはすぐにイラッとした感情を表情に浮かべ、カッと目を見開いた。

「はぁ?!誰がお前となんかじゃれあうか!!」

「アスパル。すぐカッとなってはいけないといつも言ってるでしょう?強くなるにはメンタルコントロールも重要なのですよ?」

その師匠の言葉にアスパルはまたハッとして渋い顔をしながら唇を噛み締めた。

「すみません、師匠…で、でも、普段はちゃんとできてて…!だけど、こいつがいつもわざと癇に障るようなことばかり言ってくるので…!それに今日はなんか特に変で…」

「そうですね、あなたが成長しているのはちゃんとわかってますよ。けれどいついかなる時も誰に対してでも例外なく感情をコントロールできなくてはいけませんからね。リグさんと一緒に鍛錬するのはあなたのメンタルのトレーニングも兼ねているのですよ。リグさんのように相手の心を乱すのも心理戦の一つですからね?魔法は心の乱れが大きく影響しますから。」

そう言って師匠がアスパルの頭をポンポンと撫でると、アスパルはまたハッとなって頬を赤らめると大きなため息をついて「はい、師匠」と呟いて肩を落とした。

「では私は今からここに対戦用の空間を作るので少々お待ちくださいね。」

師匠が手に持っていた杖を天にかざして魔法を詠唱し、魔術騎士団演習場の片隅の空間に、3人を包み込むようなかたちで地形変動の魔法をかけながら、同時に魔力が外に漏れないようにドーム型の防護壁を作り始めた。


アスパルはその様子を見ながら深呼吸して気持ちを落ち着かせてまたリグの方に視線を戻し睨みつける。

「寝不足の匂いもそうだけど。それとは別にここにきた時ときからなんか不快な匂いがするとおもってたけど。それもやっぱオマエからだったんだな。」

「え?!まだなんか匂うの?!何の匂い?!」

その言葉にリグが慌ててまた自分の体の匂いを嗅ぎ始めた。

「んー…なんというか…とにかくいやな匂い。前もどっかで嗅いだことあるんだけど…その匂い嗅ぐとよくわかんないけど煽られてるような気がしてイラっとする感じがするんだよ。さっきもオマエの安い挑発に我慢できなかったのも多分そのせいだ。絶対そう。だからぼくが未熟なわけじゃない。」

アスパルが渋い顔をしながらも心が乱れないように深く息を吐きながら呟く。

「え?なにそれ、言い訳?」

リグがまたニヤッと笑ってアスパルを煽ってみると、アスパルはリグをキッとにらむも、今度は深くため息をついて心を落ち着かせ反論はしてこなかった。

そしてアスパルはまた渋い顔になり口を開いた。

「あぁ、思い出した。多分これたまに学園のクラスの女子からもする事ある匂いだ…この類の匂いがするヤツには嫌な感じがして近寄んないようにしてるからよくは思い出せないんだけど…でもそれとは別にもっと違うところで嗅いだことある気がするんだよな…どこだったかな…」

アスパルがボソボソと呟きながら顎に手を当てて記憶を辿り始めた。

そのアスパルの独り言なのかリグに話しかけているのか良くわからない中途半端なテンションの発言を、リグはしばらく不思議そうに聞いていたが、そのアスパルから吐き出された言葉意味をよくよく考えてハッとなった。

なぜならアスパルが呟いたキーワードにリグは心当たりがあったのだ。

リグは先週の鍛錬の日にアスパルと会った時は匂いについてアスパルに何も指摘されてはいなかった。
ということは、ここ最近の出来事のせいでその匂いが自分の体からするようになったということだ。
さらにはクラスの女子生徒からも匂うことがあるとなると。

その二つが指し示しているのは。

(あの媚薬の匂い…?!)

リグはそれしかないと確信した。

なぜクラスの女子からも媚薬の匂いがするのかというと。
これはあくまでリグの推測でしかないが。

リグ自身は参加したことはなかったのだが、学園に通う一部の貴族令嬢たちが『出会い目的のちょっとアダルトな夜会』に参加しているという噂をリグはちらほら耳にしていた。

リグは公爵家令嬢という身分的にも、婚約者がいると言う立場的にも、もちろんそんなところに参加するのはデメリットしかないので、今まで関わったことはなかったのだが、一部の身分の低い家柄の令嬢たちが『ワンチャン』を狙って、『ヤリモクで訪れた身分の高い貴族子息達』と関係を持つために参加しているというのはあるあるの話だった。

そして、一学年下のルディの友達が『あの薬』を頻繁に使用できる状態にあることを踏まえると、自分のクラスの女子たちもそういう夜会で『あの薬』を使用したか、もしくは嫌な話ではあるが相手に無理やり飲まされて『あんなことやそこんなこと』をしている可能性も大いにあり得るとリグは思った。

しかし、もしそうだとしたら、『あの薬』は想像通りかそれ以上に既にかなりヤバい問題を抱えてそうだなとリグは頭が痛くなった。

これはやはりあまり深く関わるべき問題じゃないなと、リグはうんうんと頷きながら改めて心に刻んだ。

そんな1人で妄想にトリップしてるリグの横で、いまだにアスパルはその匂いの記憶を必死に呼び起こそうと頭をフル回転させていた。

「うーん、どこだったかなぁ…もう少しで思い出せそうなんだけどなぁ…あー、それと、あと、その匂いと一緒にあのお前の婚約者。あいつの匂いもぷんぷんする。そのせいで思い出せそうなのに気が散るんだよな」

急なアスパルの変化球の呟きにリグは昨日のエルとの『あれやこれや』が頭によぎりドキッと心臓が跳ねた。

「あ、あぁ、昨日エルがうちに来て夜遅くまでお茶してたからかなぁ?」

リグは何となく後ろめたくなり、アスパルに理由を聞かれたわけでもないのに思わず咄嗟に言い訳をした。

しかしアスパルはリグのその発言に不思議そうに片眉を上げるとリグの言い訳を即座に否定した。

「ん?そういう次元じゃない。なんか…本人がいるぐらいの濃い匂い。」

リグはまたドキッと心臓が跳ねた。

『鼻がいい』というのは、そんなことまでバレてしまうのかと思い背筋がゾッとした。
こんなんじゃプライバシーも何もあったもんじゃないなとリグは反射的にアスパルの横から2、3歩後退り距離を取った。

するとその瞬間アスパルがスッキリしたような顔をしてポンと手を叩いた。

「あーそうだ、この匂い思い出した。校舎裏の猫の時と一緒だ。」

「へ?猫?媚薬じゃなくて?」

予想外のアスパルの発言に、リグは思わず頭に浮かんだ疑問をそのまま口から出してしまった。

「は?媚薬?」

アスパルがわけがわからないと言った様子で眉を顰めてリグを見つめた。

そのアスパルの表情にリグは自分の失言に気づきハッとなって慌てて話を逸らそうと口を開く。

「あ、いや、なんでもない。で、えーっと、猫?私猫飼ってないけど??」

「いや、そうじゃなくて。発情期にオスにマーキングされたメスの…」

そこまで言って今度はアスパルがハッとして赤面してリグの顔を凝視した。

そのアスパルの顔を見てリグも今までの会話の流れから瞬時にその意味に気づいて思わずつられて赤面して硬直して言葉を失った。



アスパルの言わんとしていること。

それは要するに、『まるで発情期にマーキングされた雌猫のような、雄のフェロモンの匂いと一緒にエルのものすごく濃い匂いをリグがぷんぷんと漂わせている』ということだ。

それはつまるところ。



「お、おまえ、まさか?!嘘だろ?!し、信じらんない!!不潔すぎる!!きもちわるっ!!まだ、けっけっ結婚とかしてないのに?!公爵家令嬢がそっそんなことして良いのかよ?!し、しかもそれって!!なんもそ、そーゆーの使わないでそのまま、な、なかにっ、ってことだろ?!ナニ考えてんの?獣と一緒じゃん!!ばかなの?!モガッ」


さっきまでフィールドを整えていたはずの師匠がいつの間にかアスパルの後ろに回り込んでいて、後ろからアスパルの口を手で塞いだ。

「アスパル、思ったことをすぐ口にするのはやめなさい。人にはいろいろ事情があるのですよ。状況が良くわからない段階で何も知らないあなたが無闇に心無い言葉を発して他人を傷つけるのは、お互いにデメリットしかありませんよ。」

口を塞がれたアスパルは師匠の言葉にピクッと肩を動かしたが、そのまま目を瞑ると大きく鼻で深呼吸をして肩の力を抜いた。

師匠がため息をついてちらっとリグを少し心配そうな顔で見るも、リグはなにも言葉が思い浮かばず「あはは…」と苦笑いするしかできなかった。

ちらっとリグがアスパルに視線を戻すと、リグと目が合ったアスパルは真っ赤になりながらものすごい勢いで視線を逸らした。

しばらくその場にいたたまれないような沈黙の空気が流れたが、師匠が腕の中のアスパルが落ち着いたことを確認すると、アスパルの口から手を離して背中をトントンと叩いた。 
そして「ほら」と声をかけると、アスパルはリグから視線を逸らしたまま眉間に深い皺を刻み「すみません失言でした」とリグに頭を下げた。

リグももうどういう顔をしてこの場に立っていればいいかわからず、「いえ、なんかすみません」と、バツが悪そうに師匠とアスパルにとりあえず謝った。
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