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♯100 弟はにやけがとまらない
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【ルディ・ルミナーレ視点】
お父様の書斎から出て、扉を閉める際、思わず口の端が緩みそうになるのを必死にかみしめた。
ちょろい。
お父様は、本当にちょろすぎる。
結局のところ、お父様は僕には甘いんだ。
今日、ビタロが家に泊まりに来てもいいか尋ねたら、当然のように猛反対された。
まあ、姉さんがあんな状態なのだから、すぐに了承してもらえるとは思っていなかったけど。
でも、僕がこの世の終わりのような絶望した顔をしながらも、すんなりとその反対を受け入れる素振りを見せ、部屋を出ようとしたら、お父様はすぐに僕を呼び止めた。
だよね。
お父様は僕のこういう顔を無視できない。
僕がお父様によって傷つくのを、お父様は見過ごせないんだ。
だって、そうなるように僕が人生をかけて、じっくりと刷り込んできたから。
お父様の『軽はずみな行動』のせいで複雑な家庭環境になってしまい、幼い僕がどれだけ心に傷を受けながらも、聞き分けの良い子でいなきゃいけなかったか。
僕は長い時をかけて、ジワジワとそれをアピールし続けてきた。
そして、トドメの先日の『姉さんと僕の関係に対するお父様の誤解』を解いた時の『話し合い』が、かなり効いている。
僕が聞き分けの良いふりをすればするほど、お父様の心には罪悪感が毒のように染み込んでいくんだろう。
もうこうなれば、楽勝だ。
それとなく遠回しに、学園で姉さんの一件のせいで自分が置かれている状況を話し、ビタロだけが味方でいてくれたみたいなことを言ったら、渋々ではあったが、すぐに泊まりを了承した。
今回の件で姉さんには真偽を確かめもせずにあんなにも即決で無慈悲に制裁を与えるくせに、僕には甘いお父様が本当に笑えてくる。
まあ、ミーチェへの甘さには比べものにならないけど。
長年見ていて思ったけど、結局お父様にはメンタル攻撃が一番効く。
正論で訴えるよりも、罪悪感を刺激する方が遥かに効果的だ。
世間では『鋼の冷静公爵』なんて呼ばれて、血も涙もないと言われているけれど、それは他人と…姉さんに対してだけだ。
連絡手段を取り上げた上に、部屋から一歩も出ちゃダメなんて、やりすぎだと思う。
謹慎も一週間から三日に縮んだとはいえだ。
今回の件だって、僕ですらすぐに気づいた。
姉さんは嵌められたんだろうなって。
学園でもあんな噂が出回っているけど、みんなまだ半信半疑だし、姉さんを擁護する声もそれなりにある。
お父様だって、それは分かっているだろうに。
だったら、せめて家でくらいは姉さんを自由にさせてあげてもいいのに。
お父様はよっぽど姉さんへの信頼がないんだろうか。
これから姉さんへの風当たりがさらに強くなりそうだなと思うと、楽しすぎて思わず笑みが溢れそうになるのを必死で堪えながら、次なる目的のために厨房へと足を向けた。
お父様を含め、この家の連中の姉さんに対する無慈悲な態度はもちろんどうかと思うし、腹は立つ。
久しぶりにお母様が姉さんにかなりの暴力を振るったとメイドから聞いた時も正直驚いた。
まだあの人はそんな幼稚な感情表現しかできないのかと。
そしてそれをうちの奴らが誰も止められなかったことにも。
せめてあの姉さん付きのメイドくらいなら止めに入っても良いのにとは思ったけど。
この家には結局誰1人として姉さんの味方はいないのだなと改めて思った。
でも、状況がこうなった今、話は変わってくる。
周りが姉さんを嫌い、恐れ、貶めれば貶めるほど、僕に姉さんを手に入れるチャンスが回ってくるのだから。
愚かな奴らめ。
世間の噂に踊らされて、すぐに大事なことを見失う。
そして、本当に失った後に、そのことの重大さに気づいて後悔するんだ。
本当に馬鹿な奴ら。
後悔しろ。
後悔してしまえ。
そして、自分のした愚かな選択を一生悔やめ。
でも、僕は違う。
僕は最初から最後まで大切なものを見失わない。
ずっと、ずっと僕には今までもこれからも姉さんだけだから。
厨房の前に着くと、姉さんのメイドがワゴンに料理を並べているところだった。
メイドは僕を見つけてニコッと笑みを浮かべたので、僕も笑顔を返す。
「ルディ様、どうなさいましたか?」
「ごめん。今さらなんだけど…今日、部屋で食べてもいいかな?配膳を頼める?」
「かしこまりました。ちなみに、このことは…」
「父には了承を得たよ。でも執事長への報告はまだなんだ。ただ、時間的に早くしないと…僕の分がダイニングルームに運ばれちゃうと悪いなと思って、ここに先にきちゃった…」
「かしこまりました。お気遣いありがとうございます。配膳変更の手配をいたしますので、少々お待ちください。」
そう言い残してメイドは厨房に入っていった。
相変わらず、このメイドは賢いから話が早くていい。
そして僕の都合に合わせた動きをしてくれる。
僕は急いでポケットから『マジックエナジー』の瓶を取り出し、スープとデザートに垂らしかけた。
瓶の蓋を閉めてポケットに戻すと、ちょうどそのタイミングでメイドが戻ってきたので、心臓がどきりと跳ねたが、何事もなかったように笑顔を作った。
「この後すぐにお部屋にお持ちいたしますので、ご安心ください。執事長にも私の方から連絡を入れて参りますね。」
「あ、大丈夫だよ。今から僕が直接伝えに行くよ。実は、この後客人が一人泊まることになったから、その報告も兼ねてね。それより、姉さんは謹慎中で退屈だろうし、せめて食事くらいは楽しみたいだろうから…早く運んであげて?手を止めさせちゃってごめんね。」
僕が心配そうに声をかけると、メイドは目を細めて微笑むと、頭を下げてワゴンを押して姉さんの部屋へ向かった。
僕はその後ろ姿を見送りながら、にやけそうになる口元を手で覆った。
お父様の書斎から出て、扉を閉める際、思わず口の端が緩みそうになるのを必死にかみしめた。
ちょろい。
お父様は、本当にちょろすぎる。
結局のところ、お父様は僕には甘いんだ。
今日、ビタロが家に泊まりに来てもいいか尋ねたら、当然のように猛反対された。
まあ、姉さんがあんな状態なのだから、すぐに了承してもらえるとは思っていなかったけど。
でも、僕がこの世の終わりのような絶望した顔をしながらも、すんなりとその反対を受け入れる素振りを見せ、部屋を出ようとしたら、お父様はすぐに僕を呼び止めた。
だよね。
お父様は僕のこういう顔を無視できない。
僕がお父様によって傷つくのを、お父様は見過ごせないんだ。
だって、そうなるように僕が人生をかけて、じっくりと刷り込んできたから。
お父様の『軽はずみな行動』のせいで複雑な家庭環境になってしまい、幼い僕がどれだけ心に傷を受けながらも、聞き分けの良い子でいなきゃいけなかったか。
僕は長い時をかけて、ジワジワとそれをアピールし続けてきた。
そして、トドメの先日の『姉さんと僕の関係に対するお父様の誤解』を解いた時の『話し合い』が、かなり効いている。
僕が聞き分けの良いふりをすればするほど、お父様の心には罪悪感が毒のように染み込んでいくんだろう。
もうこうなれば、楽勝だ。
それとなく遠回しに、学園で姉さんの一件のせいで自分が置かれている状況を話し、ビタロだけが味方でいてくれたみたいなことを言ったら、渋々ではあったが、すぐに泊まりを了承した。
今回の件で姉さんには真偽を確かめもせずにあんなにも即決で無慈悲に制裁を与えるくせに、僕には甘いお父様が本当に笑えてくる。
まあ、ミーチェへの甘さには比べものにならないけど。
長年見ていて思ったけど、結局お父様にはメンタル攻撃が一番効く。
正論で訴えるよりも、罪悪感を刺激する方が遥かに効果的だ。
世間では『鋼の冷静公爵』なんて呼ばれて、血も涙もないと言われているけれど、それは他人と…姉さんに対してだけだ。
連絡手段を取り上げた上に、部屋から一歩も出ちゃダメなんて、やりすぎだと思う。
謹慎も一週間から三日に縮んだとはいえだ。
今回の件だって、僕ですらすぐに気づいた。
姉さんは嵌められたんだろうなって。
学園でもあんな噂が出回っているけど、みんなまだ半信半疑だし、姉さんを擁護する声もそれなりにある。
お父様だって、それは分かっているだろうに。
だったら、せめて家でくらいは姉さんを自由にさせてあげてもいいのに。
お父様はよっぽど姉さんへの信頼がないんだろうか。
これから姉さんへの風当たりがさらに強くなりそうだなと思うと、楽しすぎて思わず笑みが溢れそうになるのを必死で堪えながら、次なる目的のために厨房へと足を向けた。
お父様を含め、この家の連中の姉さんに対する無慈悲な態度はもちろんどうかと思うし、腹は立つ。
久しぶりにお母様が姉さんにかなりの暴力を振るったとメイドから聞いた時も正直驚いた。
まだあの人はそんな幼稚な感情表現しかできないのかと。
そしてそれをうちの奴らが誰も止められなかったことにも。
せめてあの姉さん付きのメイドくらいなら止めに入っても良いのにとは思ったけど。
この家には結局誰1人として姉さんの味方はいないのだなと改めて思った。
でも、状況がこうなった今、話は変わってくる。
周りが姉さんを嫌い、恐れ、貶めれば貶めるほど、僕に姉さんを手に入れるチャンスが回ってくるのだから。
愚かな奴らめ。
世間の噂に踊らされて、すぐに大事なことを見失う。
そして、本当に失った後に、そのことの重大さに気づいて後悔するんだ。
本当に馬鹿な奴ら。
後悔しろ。
後悔してしまえ。
そして、自分のした愚かな選択を一生悔やめ。
でも、僕は違う。
僕は最初から最後まで大切なものを見失わない。
ずっと、ずっと僕には今までもこれからも姉さんだけだから。
厨房の前に着くと、姉さんのメイドがワゴンに料理を並べているところだった。
メイドは僕を見つけてニコッと笑みを浮かべたので、僕も笑顔を返す。
「ルディ様、どうなさいましたか?」
「ごめん。今さらなんだけど…今日、部屋で食べてもいいかな?配膳を頼める?」
「かしこまりました。ちなみに、このことは…」
「父には了承を得たよ。でも執事長への報告はまだなんだ。ただ、時間的に早くしないと…僕の分がダイニングルームに運ばれちゃうと悪いなと思って、ここに先にきちゃった…」
「かしこまりました。お気遣いありがとうございます。配膳変更の手配をいたしますので、少々お待ちください。」
そう言い残してメイドは厨房に入っていった。
相変わらず、このメイドは賢いから話が早くていい。
そして僕の都合に合わせた動きをしてくれる。
僕は急いでポケットから『マジックエナジー』の瓶を取り出し、スープとデザートに垂らしかけた。
瓶の蓋を閉めてポケットに戻すと、ちょうどそのタイミングでメイドが戻ってきたので、心臓がどきりと跳ねたが、何事もなかったように笑顔を作った。
「この後すぐにお部屋にお持ちいたしますので、ご安心ください。執事長にも私の方から連絡を入れて参りますね。」
「あ、大丈夫だよ。今から僕が直接伝えに行くよ。実は、この後客人が一人泊まることになったから、その報告も兼ねてね。それより、姉さんは謹慎中で退屈だろうし、せめて食事くらいは楽しみたいだろうから…早く運んであげて?手を止めさせちゃってごめんね。」
僕が心配そうに声をかけると、メイドは目を細めて微笑むと、頭を下げてワゴンを押して姉さんの部屋へ向かった。
僕はその後ろ姿を見送りながら、にやけそうになる口元を手で覆った。
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