転生転移転禍為福〜こんなクソゲー作るんじゃなかった⁈〜

やた

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♯117 自己犠牲は人を傷つけることもある

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自室で待っていると、程なくして使用人がジオの到着を知らせた。

通信を切ってから1時間も経っていない。

諸々の手続きだってあっただろうに、相当急いできたのだろう。

それだけでも、事の重大さが窺える。


ドアがノックされ、入ってきた彼の険しい表情を見て、僕の緊張も高まった。

ローテーブルを挟んで向き合うようにソファに座り、紅茶を運んできた使用人にしばらく部屋に誰も近づかないように人払いを命じる。

そして僕がテーブルの上に置いた魔道具を使って、部屋に傍受や盗聴を防ぐフィルターを貼ると、それを確認した彼は学園での様子を話し出した。





ジオから聞いた噂で広まっている内容は、ほぼ、あの日『彼女たちが教師たちの前で証言した事実』そのままだった。

前代未聞のランクの魔物が彼女のいる場所に現れたこと。
そして彼女がその魔物への対処の判断をミスったこと。
そのせいでコラード・ノースが怪我をしたこと。
さらに、コラード・ノースの言い分がまるで彼女が魔物を使役しているようだったということ。
そして後から駆けつけた僕らに彼女が指示をして魔物と戦わせたこと。

内容だけ見れば、もうそれは『彼女が認めた事実』でしかないので、何の弁解の余地もない。

そして僕らからも、この噂を否定することもできない。

なぜなら全て『あの二人』が証言した『事実』なのだから。


だから今日僕が登校してたとしても、彼女のためにできることは何もなかっただろう。


ただ、この状況はどう考えてもおかしいのだ。

ジオもそう思ったから僕の元へきたのだろう。

だって、この『事実』はあそこにいた僕らと教師しか知り得ない情報なのだから。

そして緘口令が敷かれているはずだから、漏れるはずもない。


だから今日、こんなにも早く学校中に彼女の噂が流れているということは、確実に彼女を陥れようとしている誰かの関与が疑われるという事だ。


それがあの時あそこにいた誰かなのか、それともあそこに駆けつけた教師たちの報告を聞いた学園の上層部の誰かなのか。

そこを特定するにはまだ情報が足りないが。

だが、あそこにいた面々を考えれば、生徒側に彼女を陥れるようなメンバーはいない。


いずれにしても、犯人は学園側の人間と断定していいだろう。


「なるほど…まぁ、今のところは想定の範囲内かな。」

ジオの話を聞き終わってそう呟くと、ジオは僕の顔をじっと見つめた。

「ソーマはなんかあいつから聞いてたのか?」

「僕が?まさか?あのリグが僕に何か言うと思うのかい?」

僕が鼻で笑って返すとジオはため息をついた。

「それはそうだよな…ただ、噂の中にリグが謹慎処分を受けたから学校に来ないんじゃないかって話もあって。事実を確かめようとリグに通信を入れたけどもちろんあいつは出なかったけどな。」

ジオの言葉にグッと拳を握り締めた。


やはりそうなったか…

彼女の『予言らしきもの』はまたしても当たったということだ。

そうなってくると、ますます学園側の、それもかなり上層部が関わっていると考えて間違いはない。


「まぁそれは、今日、ソーマとリグの妹さんも休んでたから、そこまで信憑性はない感じの流れになってたけどな…だからもしかしたらお前がなんか知ってて、あえて今日休んだのかと思ったわ」

ジオがまたため息混じりに呟くと、テーブルの上に置かれていた紅茶を手に取りグイッと飲み干した。


なるほど、想像通り、あの公爵も動いたか。

ということは、やはりリグが謹慎処分を通達されたのはほぼ確定と考えていいだろう。

ただ、まぁ、ミーチェ・ルミナーレを休ませるだけでは噂を薄めるには弱かっただろうなと思う。

こういう噂は、そこに悪意が介入しようがしまいが、より人々の興味を引くように自然と勝手に脚色されていくものだ。

『姉の謹慎処分をカモフラージュするために妹も休んだ』と噂されてしまえばそこまでだ。

僕が今日公欠をとったことに、少しでも意味があったならよかったとホッとする。

まあ、それも焼け石に水程度でしかないが。


「しっかし…アイツもマジで何考えてんだよホントに…俺らが到着する前のことだから、コラードとの話の真偽はもうわかんねーけどさ?せめてあのトカゲに関しては、もっとやりようがあっただろ??しかもどう考えても、ありゃあそこで仕留めておかなきゃ死人が出たろ?それをあたかも過ちだった様に証言しやがって。こうなってくるとあっちの派閥に餌撒くことになって、アイツだけの問題じゃなくなっちまうのにさぁ?こっちの派閥全体の迷惑になるっつーの、流石にわかってねーわきゃねーだろ??」

ジオは頭をガシガシとかきながらぼやいた。

「アイツ、いつもは腹立つくらい頭が回って、二重人格ばりに外面よく飄々とまわりから点数稼ぎしてるくせに、たまにこーゆーところあるよな??誰に利益があんのかわかんねぇ、自分を貶める様なふざけた言動?なんなんあれ??無意識なん??今までは大したことにならんかったから、イラっとはするけど黙って見てたけど…今回は魔物が原因っつーこともあって、このままほっといたらマジで面倒になりそうだわ。かと言って現状だと俺らがなんかできる段階でもねーし…」


ジオの言わんとしていることはわかる。

普段対外に見せている彼女の姿は、自信に満ち溢れていて、それでいて慈悲深く、誰からも好かれるような非の打ち所がないような人物像だ。

彼女の本質を知っている僕らからすれば、確かにあの擬態は見事なものだと思う。

それでいて利に聡く、自分に不利益が被りそうになると、誰よりも早くそれに気づき躱していく。

僕の知っている人間の中でも、彼女ほど生きるのが上手い人はそういない。


ただ、距離の近い僕らに対しての対応は少し違う。

というか、彼女の近くにいなければ気づけないと言ったほうがいいのかも知れないが。

何かトラブルが起きると、すぐに何でもかんでも自己責任で解決しようとする節がある。

要するに人を頼ることをしないのだ。

僕が思うにおそらくそれは彼女なりの線引きだ。

『自分のせいだから後はこちらで対処する。なのでこれ以上関わってくれるな。』ということなのだろう。

そうやって僕らはずっとやんわりと彼女から遠ざけられている。


でもジオの言う通り今回は流石にやりすぎだ。

一人で抱え切れる問題の度を超えている。


それに、面倒というのもその通りだ。

噂だけ見ればまだ大した話ではない様に思えるが。

問題は今まで体裁を完璧に保ってた彼女が綻びを見せたところにある。

要するに落差だ。

落差が大きければ大きいほど、人間という生き物は興味を惹かれ勝手に盛り上げていく。

そしてそうやって人々の興味が集まるところに、悪意を持った人間が集まってくるのだ。


さらに厄介なことに今回の事件は魔物が絡んでいる。

彼女の『あの見た目』に魔物の事件は組み合わせが悪すぎる。

現時点でも、もうすでに、後一つでも軽いきっかけさえあれば、ふとした拍子に一瞬で民衆が掌を返す可能性があるところまで来ていると思う。


そう、それは僕が1番危惧していたことだ。

なんとしてもそれだけは阻止しなくてはならない。


僕は拳を握り意を決すると、ポケットから記録球を取り出してジオの前に置いた。

ジオは訝しげにそれを見つめた。

「ん?…なんだよこれ…?記録球…?」

「コレはあの日、僕がたまたまあの現場で拾ったものだ。コレを見れば僕らが到着する前に何があったかが全てわかる。」

「えっ…?マジ?!」

ジオがすぐに食いついて僕の方に身を乗り出して来たので、僕はため息をついて続けた。

「ただ…見るかどうかは…ジオが判断して欲しい。」

「え…」

僕の重々しい口調に、ジオはごくりと唾を飲み、姿勢を正して僕の次の言葉を伺うように僕を見つめたので、僕は続けた。


「ここに記録されてるものは、国家を揺るがすほどの重大な機密だった。知ればこの先ジオにも辛い選択をさせなければいけないこともあるかも知れないし、君自身を危険に晒す可能性だってある。できれば僕だけの胸の内にとどめておきたかった…でも…僕一人じゃこの件をなんとかするには立場的にも難しい。僕の共犯者になるか、それとも何も聞かなかったことにして今すぐに帰るか。選んで欲しい。」

一瞬ジオは驚いた様に目を丸くしたが、すぐに口の端を釣り上げた。

「要するに、アイツの今の状況を救うにはまずこれを見る必要があるっつーことだろ?そんなの聞くまでもなく答えは一択だろ。」





1時間後。

部屋には記録球が映し出した映像の前で頭を抱えて俯くジオの姿があった。

その映像はもう僕らが到着した後に差し掛かっていたので、僕は「停止」と唱えて記録球の映像を止めた。


部屋には静寂が訪れる。


しばらくその重い沈黙は続いたが、ジオが深く長いため息をついて顔を上げた。


「あいつ…バカなのか…?」


全く自分と同じ感想を抱いたジオに、僕は思わず乾いた笑いを漏らした。

「はは、まあ。バカだろうね。でも思いの外ジオが冷静で驚いたよ。」


するとジオは、またため息をついてガシガシと頭を掻いた。

「いや、この映像にツッコミたいことは腐るほどあるよ?!数秒前に命狙われてた相手に、なにあんなホイホイとんでもねぇことゲロってんの??っていうのもあるけど、そもそも魔力量詐称とか無詠唱とか予知とか異次元すぎて頭湧いてんの??って思うし?!あとコラードの領地の魔物の隠蔽とか預言者も、は??って感じだし?!それをまたリグがよくわかんねーリスクしょった提案で解決しようとしてるのも、いやいやいや??って感じだし?!しかもそもそも魔力高いんだからもっとちゃんと索敵して記録球回り続けてることに気づけよ?!あんな魔物も瞬殺できるほど頭の回転早いのになんでそういう変なとことで抜けてんのって感じじゃね?!」

そこまでほぼ息継ぎなしで勢いよく言って、またジオはため息をつくと、拳を握った。

「でもそれより何より1番は…アイツに腹が立って仕方がねぇ。コラードに信じてもらうためにあんなことをゲロったのも、あの馬鹿げた捨て身の提案も…頭のいいアイツならもっとやりようがあっただろ…たとえば、あの後俺らがくることを知ってたならさ…俺らを利用すれば、あんな自分の身を危険に晒す様な…今まで誰にも言ってこなかった様なことをあそこでバラす必要もなかったはずだろ…でも即座に迷いもせず身を削る選択をした…要するにアイツは結局誰も信用してねーんだよ。それが1番ムカつくんだ。まるで自分はどうなってもいいっつーような思考がホント頭くる。周りの気持ちなんも考えちゃいねーんだよ。クソが。」

その絞り出すようなジオの口調が、怒りをぶつけるような内容の言葉とは裏腹に、辛いと訴えているようだった。


「そうだね。僕もそう思うよ。」

僕もため息混じりにジオに返した。


ジオの言う通りだ。

結局彼女は誰も信用していない。

まぁ、家庭環境や彼女の見た目による境遇を考えれば、誰も信用できくなってしまったのは仕方がないのかも知れない。

でも僕らだってそれなりに、彼女と共に時を重ねて関係を築いて来たつもりだし、僕らは彼女を信頼しているつもりだ。

だから僕らは、それが一方通行だったという事実が余計にやるせない気持ちになるし、彼女から信頼を得ることができなかったという自分自身の不甲斐なさに憤りを感じるのだ。

「どーせあいつは俺らが勝手に動くことを望んじゃいねーんだろうな…」

そう呟くと、しばらくジオは拳を握り俯いていたが、両手でバシッと頬を叩くと、僕に向き直った。

「で。俺は何をすればいい。」

決意の表情を浮かべたジオに、僕は笑みを返すと、今日一日考えて練った案をジオに話し始めた。
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