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父と娘
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ラジル王国の南方に位置するレーシング子爵領は、ズルフ河から運ばれる肥沃な土により農業が盛んな豊かな土地である。
亡き妻との間にもうけた二人の子供の上の息子は、既に結婚して孫も生まれている。
レーシング子爵にとって、来年ゴルシラック家の三男、ベリルと結婚が決まっている娘のルルレットだけが心配の種だった。
王都に行ったベリルは、優秀な成績で早くも騎士の称号を得たという。
ベリルからの手紙で、王都の暮らしに早く慣れるように、王都のゴルシラック家の屋敷で暮らさないかと誘われ、娘が悩んでいるのも知っていた。
娘の悩みは普通の年頃の娘の悩みと違い、十中八九【転生】のスキルについての悩みだろう。
娘のスキルを思うと、”神のいとし子”ではなく、”悪魔のいたずら”の間違いではないかと思う。
愛する人と死に別れて、別の人生を歩めとは、あまりにもむごい話ではないか。
レーシング子爵は、ある日ルルレットを馬の遠乗りに誘った。
「父様、ここはすてきな所ですね。この川がズルフ河ですか?」
今日は天気も良く、吹く風が遠乗りで汗ばんだ身体に心地良い。娘を横乗りの鞍に乗せて二人乗りでやってきた子爵は遠く霞む対岸を見て言った。
「そうだ、河口に近いここは対岸が遠くて見えないが、この川は遠くグルホップ山脈から流れてくるんだよ」
「あの船は何を運んでいるのでしょう?大きな船ですね」
「あれは、ズッシード王国から鉄鉱石を運ぶ船だな。ズッシード王国は大きな鉱山があって、鉄鉱石がたくさん採れる。それをゴルシラックの港で積み替えて、海からよその大陸に輸出するんだろう」
「まあ、鉄鉱石を船で運ぶのですか。馬で運んだり川から海に直接運べないのですか?」
「石は重いからな。大量に運ぶなら馬で運ぶより川を船で運ぶ方が適しているのだ。川を移動する船は海より浅い川底に引っかからないよう平になっている。海を移動する船の底は平ではないのだよ」
「船の底の形が川と海で違うとは初めて知りました。でも下りは良いですが上りはどうするのでしょう?」
「その動力は魔石だよ。水の魔石を船の動力に使っているらしいな」
「ズルフ河をたくさんの人が利用しているのですね」
「遠くズッシードから運ばれた鉄鉱石は、ランドア聖国を通り、このラジル王国のレーシング領を通ってゴルシラックの港に着く。ズルフ河がある事で我が領は水に困ることは無いし、わが国は他国の船から通行料も取れる。ありがたい河だな」
「そうなんですのね。」と言ってルルレットはズルフ河を眺めた。あまりに対岸が遠すぎて見えないが、対岸はミルドレン王国である。そこでルルレットはどこに【転生】するのだろうと思い悩んだ。
レーシング子爵は、娘の方を向いて言った。
「ルルレット、最近元気が無いのは、やはり【転生】の事か?」
「いいえ、お父様。私の【転生】は避けられないようですし、死んで生まれ変わるのも、もうあきらめました。運命に任せようと思います 」
「ただ…」
「ただ?」
「お父様やお兄様、かわいい姪っこや甥っこ達。それにベリル…。今まで可愛がってくださった全ての方の事を忘れてしまうのがとても悲しくて…」とルルレットの声はどんどん小さくなっていった。
死ぬのはもう怖くないが、生まれ変わったら赤ん坊からやり直しだ。ルルレットは皆の事を忘れてしまうのが怖かった。
「忘れても良いんじゃないか?」
「え?」
「新しく生まれた所でまた愛し愛される人を見つければ良いと思うよ。」とレーシング子爵は言った。
「私はミランダが死んでから1日も彼女の忘れたことは無い。だが、もしミランダが生まれ変わったとしたら、幸せに暮らしていたらそれで良いと思う。私の心の中のミランダはどこにも行かない。私が忘れない限りミランダはここにいるんだ」と子爵は自分の胸を指した。
「お父様…」
「それに私はベリル君に聞いた事があるんだが、ルルレットが転生したらベリル君は君を探す旅に出るそうだ。生まれ変わった君が皆を忘れても、ベリル君なら君を見つけだしそうだな」
「まあ、ベリルがそんな事を…」ルルレットは頬を赤らめた。
「だから、ルルレットも今の自分の幸せを大事にしなさい。早くベリル君の所に行って二人で幸せな時間を少しでも長く過ごすのだ」
「はいお父様、わかりました。もう迷いません。私は王都に行きます!」
行きと違って明るい表情になった娘にホッとしながらも、レーシング子爵は娘が転生する日が一日でも遅くなるよう祈るのだった
。
亡き妻との間にもうけた二人の子供の上の息子は、既に結婚して孫も生まれている。
レーシング子爵にとって、来年ゴルシラック家の三男、ベリルと結婚が決まっている娘のルルレットだけが心配の種だった。
王都に行ったベリルは、優秀な成績で早くも騎士の称号を得たという。
ベリルからの手紙で、王都の暮らしに早く慣れるように、王都のゴルシラック家の屋敷で暮らさないかと誘われ、娘が悩んでいるのも知っていた。
娘の悩みは普通の年頃の娘の悩みと違い、十中八九【転生】のスキルについての悩みだろう。
娘のスキルを思うと、”神のいとし子”ではなく、”悪魔のいたずら”の間違いではないかと思う。
愛する人と死に別れて、別の人生を歩めとは、あまりにもむごい話ではないか。
レーシング子爵は、ある日ルルレットを馬の遠乗りに誘った。
「父様、ここはすてきな所ですね。この川がズルフ河ですか?」
今日は天気も良く、吹く風が遠乗りで汗ばんだ身体に心地良い。娘を横乗りの鞍に乗せて二人乗りでやってきた子爵は遠く霞む対岸を見て言った。
「そうだ、河口に近いここは対岸が遠くて見えないが、この川は遠くグルホップ山脈から流れてくるんだよ」
「あの船は何を運んでいるのでしょう?大きな船ですね」
「あれは、ズッシード王国から鉄鉱石を運ぶ船だな。ズッシード王国は大きな鉱山があって、鉄鉱石がたくさん採れる。それをゴルシラックの港で積み替えて、海からよその大陸に輸出するんだろう」
「まあ、鉄鉱石を船で運ぶのですか。馬で運んだり川から海に直接運べないのですか?」
「石は重いからな。大量に運ぶなら馬で運ぶより川を船で運ぶ方が適しているのだ。川を移動する船は海より浅い川底に引っかからないよう平になっている。海を移動する船の底は平ではないのだよ」
「船の底の形が川と海で違うとは初めて知りました。でも下りは良いですが上りはどうするのでしょう?」
「その動力は魔石だよ。水の魔石を船の動力に使っているらしいな」
「ズルフ河をたくさんの人が利用しているのですね」
「遠くズッシードから運ばれた鉄鉱石は、ランドア聖国を通り、このラジル王国のレーシング領を通ってゴルシラックの港に着く。ズルフ河がある事で我が領は水に困ることは無いし、わが国は他国の船から通行料も取れる。ありがたい河だな」
「そうなんですのね。」と言ってルルレットはズルフ河を眺めた。あまりに対岸が遠すぎて見えないが、対岸はミルドレン王国である。そこでルルレットはどこに【転生】するのだろうと思い悩んだ。
レーシング子爵は、娘の方を向いて言った。
「ルルレット、最近元気が無いのは、やはり【転生】の事か?」
「いいえ、お父様。私の【転生】は避けられないようですし、死んで生まれ変わるのも、もうあきらめました。運命に任せようと思います 」
「ただ…」
「ただ?」
「お父様やお兄様、かわいい姪っこや甥っこ達。それにベリル…。今まで可愛がってくださった全ての方の事を忘れてしまうのがとても悲しくて…」とルルレットの声はどんどん小さくなっていった。
死ぬのはもう怖くないが、生まれ変わったら赤ん坊からやり直しだ。ルルレットは皆の事を忘れてしまうのが怖かった。
「忘れても良いんじゃないか?」
「え?」
「新しく生まれた所でまた愛し愛される人を見つければ良いと思うよ。」とレーシング子爵は言った。
「私はミランダが死んでから1日も彼女の忘れたことは無い。だが、もしミランダが生まれ変わったとしたら、幸せに暮らしていたらそれで良いと思う。私の心の中のミランダはどこにも行かない。私が忘れない限りミランダはここにいるんだ」と子爵は自分の胸を指した。
「お父様…」
「それに私はベリル君に聞いた事があるんだが、ルルレットが転生したらベリル君は君を探す旅に出るそうだ。生まれ変わった君が皆を忘れても、ベリル君なら君を見つけだしそうだな」
「まあ、ベリルがそんな事を…」ルルレットは頬を赤らめた。
「だから、ルルレットも今の自分の幸せを大事にしなさい。早くベリル君の所に行って二人で幸せな時間を少しでも長く過ごすのだ」
「はいお父様、わかりました。もう迷いません。私は王都に行きます!」
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