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王太子教育
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1才になって、よちよち歩きができるようになると、ベリルは私を抱えてよく散歩に連れて行ってくれた。
城の庭園には色とりどりの花が植えられていて、芝が植えられている所もある。芝の上の転んでも痛くない場所で私に歩く練習をさせるのだ。
赤ちゃんの身体は頭が大きくよちよちとしか歩けない。コロンと転がってそのまま泣いてしまう事もあった。
でもベリルは手を出さない。自分で起き上がるまでずっと待っているのだ。
(ちょっとベリル、少しは手を貸して欲しいわ。芝ってチクチクして微妙に痛いのよね)
見ているだけで絶対手を出さないベリルにちょっと不満も持ちながら、それでもベリルと1日中こうして一緒にいられるのは嬉しかったから、毎日のお散歩が楽しみでしょうがなかった。
ある日私はいつものように芝の上でよちよち歩きをしていた時、ベリルが侍従に話しかけられてちょっと目を話した隙に転んで石の角に頭をぶつけてしまった。ぶつけた時に少し切ったみたいで額から出血してしまった私に気がついたベリルが慌てて駆けつけて来て、井戸に連れて行った。
なんとこの城では井戸の周りに薬草が植えられていて、薬草をもんで綺麗な水に浸すと傷薬ができるそうだ。
ベリルは私が怪我をした所を傷薬で洗い流してくれた。それで充分治療ができたと思ったのだが、ベリルは私を自分の部屋に連れて行った。私はベッドに座らされベリルが探し物をする間待っていた。
ベリルに与えられた部屋は私の部屋のすぐ近くにあり、家具は立派なのだがベッドとクローゼットと机に椅子しか無い飾りが一切無い殺風景な部屋だった。
その机の引き出しからベリルが取り出したのは小さな布だった。よく見ると、その布は前世で私が刺繍したハンカチだった。そのハンカチを傷口に当ててベリルは言った。
「このハンカチは癒しの魔法がかかっているんだ。これを傷口に当てておいたらすぐ治るからな」
私は癒しの魔法など使えないし、ハンカチに癒しの魔法などかけていない。作った本人だから断言できる。
だが、ベリルは怪我をする度にこのハンカチを傷口に当てていたらしい。何回も洗濯して刺繍糸の色が褪せてきているハンカチを見て、ベリルは何度怪我をしてこのハンカチを傷口に当てたのだろうかと思うと胸が詰まった。
しかし不思議な事にハンカチを当てていたら傷の痛みがスッと消えた気がした。
「ほら痛くなくなっただろう?」ベリルは嬉しそうに言って頭を撫でてくれた。
私は自分があげたハンカチが癒しのハンカチになった事を不思議に思ったが、ベリルをずっと守ってくれたハンカチに強く感謝した。
しっかり歩けるようになると、歩いたり走ったり、ジャンプさせたりと外遊びに興じた。暑い日は水遊びをさせてもらい、水に顔をつけさせて何秒息を止められるか競争した。
3才になると早くも王太子教育が始まった。私の部屋にズッシード王国の歴史や物語、算数を教える先生が訪れ、文字を書く練習も始まった。
私は前世で子爵令嬢として受けていた教育では算数は役に立ったが、詩を作ったり、歌をうたったり、刺繍をしたりする淑女教育はまったく役に立たなかった。
でも教わるとどの授業も面白くて、授業で習う事をできるだけ身につけようと頑張ったのだった。
ベリルには剣と乗馬を習った。子供用の剣をもらい何回も素振りをした。
前世で馬に乗れなくて取り残された経験から、馬には絶対乗れるようになりたかったのだ。最初はベリルの前に乗せてもらうので危険は無いのだが高い馬の背に乗るのは怖かった。だけど涙目になりながら私は頑張った。
そして馬の世話の仕方を習い、アクゥやチャルの世話もこの頃からやらせてもらえるようになった。アクゥやチャルは街中もよく歩いているので人気者だ。よくお店の人が果物を差し入れてくれていたらしい。ベリルも果物好きな彼らのために市場でブドーやリゴーを買って食べさせていると聞いたので、私も城の庭師にお願いしてカーキをもらってきて食べさせた。嬉しそうにキュルキュル言いながらカーキを頬張る鳥達はかわいかった。
時には父王自ら剣を教えに来てくださった。
「上手だぞ、クロウズ!そこはもっと脇をしめてみろ!そうだ、その調子だ!」
国王の忙しい執務の合間に剣を教えに来てくださる父上は本当に楽しそうで、私も父上の期待に応えようと懸命に稽古に励んだのだった。
そうして、私は人と会話で自分の気持ちを語るのに不自由がない年になっても、ベリルに自分はルルレットだと打ち明けられずにいた。
「もし転生しても必ず探し出すから結婚しよう」と私達は言っていた。そしてベリルはその約束を守って私を見つけてくれた。それなのに私は男に生まれ変わってしまったのだ。真実を話してベリルにガッカリされるのを私は見たくなかった。だから私は悩みながらも未だにクロウズとしてベリルに接していたのだ。
毎日勉強と剣の稽古に明け暮れながら、私は6才になった。
その頃には子供用の剣では物足りなくなり、女性が持つ軽い剣を持って一人で馬に乗って走るようになった。
城の狩りの大会にも参加するようになり、貴族たちは私のそんな姿を見て自分の娘をお妃にと画策するようになった。
だが、私は恋愛に対して否定的な考えをしていた。私はクロウズだが、中身は女性のルルレットなのだ。
私は女性を伴侶として愛していけるのか?
考える度にそれはできないと思った。
王太子なのに女性に興味が持てない事に申し訳なさを感じた。
私はなぜ男に生まれたのか?それを考える度に夜涙で枕を濡らした。私は運命に文句を言いたかった。
そうして私は10才になった。
その頃になると国王の執務室で国王の執務を見学する授業が始まった。
たまに「こんな時におまえならどうする?」と父王に質問される事もあり、そんな時は自分の意見を述べた。
教師との机上の教育ではない実際にある案件に、私は真剣に取り組んだ。
父上は、それに対してなぜそう思ったのか?どうしたら対策できるか?などその都度聞かれた。そしていろいろな角度から教えを授けてくれた。
私は父上とそうした緊張感のある時間を過ごすのがたまらなく楽しかった。
ある日私は前世のゴルシラック伯爵鄭の図書室で見た世界地図を思い出して父上に聞いてみた。
「我が国で産出する鉱石そのものを輸出するより製品にした物を輸出した方が収益が上がると思います。
ラジル王国のゴルシラック港は魔大陸とも取引をしているようですから、あちらの大陸に住むドワーフの技術者をお招きして、付加価値の高い剣や防具にするのはどうでしょうか?」
「なるほど、ドワーフですか。クロウズ王太子殿下は目の付け所が違いますな。ただ鉱石を輸出するより付加価値を付けるのは大変良い方法だと思います。ドワーフが作った武器や防具は桁が1つか2つ違いますからね。わが国で採れる各種の鉱石は品質も高いし種類も多いのです。ドワーフが気に入ってくれれば我が国で工房を持つ者もいるかもしれません」ちょうどその場にいた宰相がそう言った。
「そうだな。魔大陸に使者を送って我が国で採れる鉱石のサンプルを渡してみるか。ドワーフの技術者が興味を持って来てくれれば工房を支援しても良いな。」
「しかしクロウズ王太子殿下は大変優秀な方ですな。将来名君になられることでしょう。国王に即位されるのが楽しみです」
「宰相もそう思うか?実は俺もそう思っていたんだ。俺がクロウズの年にはどうやったら抜け出して遊びに行けるかしか考えてなかったんだがな。本当に俺の子かって宰相も思ってるだろう?」
「ハハハ、私の父が宰相をしていた時は陛下が王太子として一番やんちゃな時で、授業をサボって遊びに行かれてばかりだと言っておりましたな。侍従も殿下を探して机の前に座らせるのが一番大事な仕事だと言っておりましたよ」宰相はそう言って笑った。
「おいおい、それ以上の話はクロウズの前ではやめてくれ。父の威厳が下がる」国王は慌てて言った。
「そうだったのですか、父上が子供の頃にそんな事があったなんて初めて知りました」私も笑いながら言った。
「陛下をくさすばかりでは何ですので良い話もお伝えしますが、陛下はこう見えても誠実で情の厚い方なんですよ。亡くなられた前の王妃様、べランナーシェ様が王太子妃教育で城に登城される日は、玄関までいつもお迎えにいらしてエスコートをしておられました」
「べランナーシェ様?シルビアーナ義姉上のお母さまですよね?」
「そうです。ジルデア公爵家から嫁いでいらしたべランナーシェ様は、王太子妃になる事が決まってから毎週王都のお屋敷から城にお妃教育を受けにいらっしゃっていました。べランナーシェ様がいらっしゃる時間にサイラス陛下が授業を抜け出して、庭の花を持って会いに行かれるのは有名な話でしたよ」
私は、若かりし日の父上の話を微笑ましく思った。
「しかし、べランナーシェ様はシルビアーナ王女をお産みになってから床につかれる事が増え、残念な事にシルビアーナ王女がまだ3才の時にお亡くなりになりました。その後嫁がれて来たミレディーナ王妃様もクロウズ殿下お一人しかお産みになっておられません。このままでは王族が担う仕事に差しさわりが出てきてしまいます。クロウズ殿下にはたくさんのお子をもうけていただきたいと思っております」
「宰相の話は気にするなクロウズ、お前に弟は生まれなかったが国王はおまえ一人いれば充分だ。シルビアーナも来年王位継承権を持つジルデア公爵家の嫡男に降嫁するのが決まっている。お前は気を楽にして王妃となる伴侶を探せば良いのだぞ」
私は幼い頃から王太子教育が忙しかったので、シルビアーナ義姉上とあまり話した事は無い。
16才の義姉上は、来年筆頭公爵家であるジルデア公爵家の嫡男に嫁ぐ事が決定していた。20才になるクレナンドは会った事があるが、ズッシードの鉱山はもっと採掘量を増やして輸出するべきだと資料を持ってきて熱心に話していた。
「いやだな、私はまだ10才ですよ。最近貴族達から令嬢の姿絵がたくさん届いているそうですね。宰相も父上も貴族達からせっつかれているのでしょうが、私はまだ結婚なんて考えられませんからお断りしてくださいね」
「やはりわかっておったか」と父王は隠し事がバレたように頭をかきながら言った。
「そうだクロウズ、これから王太子教育も次の段階に進もうと思う。これからは実地に出向けての体験教育だ。国中を回って貴族や国民の意見を聞き、人脈を作り将来の自分の治世に生かすのだ。護衛にはベリルと中央騎士団の精鋭を付ける。国中を回って自分の目で見てこい!」
父の言葉に王太子教育も次の段階に入ったのかと身が引きしまる思いがした。
だが、一方で結婚問題も差し迫ってきているのを感じた。
身体は男で心は女…
そんな私が将来結婚できるのだろうか?
私は考えても考えても答えが見つからずまた思い悩むのだった。
城の庭園には色とりどりの花が植えられていて、芝が植えられている所もある。芝の上の転んでも痛くない場所で私に歩く練習をさせるのだ。
赤ちゃんの身体は頭が大きくよちよちとしか歩けない。コロンと転がってそのまま泣いてしまう事もあった。
でもベリルは手を出さない。自分で起き上がるまでずっと待っているのだ。
(ちょっとベリル、少しは手を貸して欲しいわ。芝ってチクチクして微妙に痛いのよね)
見ているだけで絶対手を出さないベリルにちょっと不満も持ちながら、それでもベリルと1日中こうして一緒にいられるのは嬉しかったから、毎日のお散歩が楽しみでしょうがなかった。
ある日私はいつものように芝の上でよちよち歩きをしていた時、ベリルが侍従に話しかけられてちょっと目を話した隙に転んで石の角に頭をぶつけてしまった。ぶつけた時に少し切ったみたいで額から出血してしまった私に気がついたベリルが慌てて駆けつけて来て、井戸に連れて行った。
なんとこの城では井戸の周りに薬草が植えられていて、薬草をもんで綺麗な水に浸すと傷薬ができるそうだ。
ベリルは私が怪我をした所を傷薬で洗い流してくれた。それで充分治療ができたと思ったのだが、ベリルは私を自分の部屋に連れて行った。私はベッドに座らされベリルが探し物をする間待っていた。
ベリルに与えられた部屋は私の部屋のすぐ近くにあり、家具は立派なのだがベッドとクローゼットと机に椅子しか無い飾りが一切無い殺風景な部屋だった。
その机の引き出しからベリルが取り出したのは小さな布だった。よく見ると、その布は前世で私が刺繍したハンカチだった。そのハンカチを傷口に当ててベリルは言った。
「このハンカチは癒しの魔法がかかっているんだ。これを傷口に当てておいたらすぐ治るからな」
私は癒しの魔法など使えないし、ハンカチに癒しの魔法などかけていない。作った本人だから断言できる。
だが、ベリルは怪我をする度にこのハンカチを傷口に当てていたらしい。何回も洗濯して刺繍糸の色が褪せてきているハンカチを見て、ベリルは何度怪我をしてこのハンカチを傷口に当てたのだろうかと思うと胸が詰まった。
しかし不思議な事にハンカチを当てていたら傷の痛みがスッと消えた気がした。
「ほら痛くなくなっただろう?」ベリルは嬉しそうに言って頭を撫でてくれた。
私は自分があげたハンカチが癒しのハンカチになった事を不思議に思ったが、ベリルをずっと守ってくれたハンカチに強く感謝した。
しっかり歩けるようになると、歩いたり走ったり、ジャンプさせたりと外遊びに興じた。暑い日は水遊びをさせてもらい、水に顔をつけさせて何秒息を止められるか競争した。
3才になると早くも王太子教育が始まった。私の部屋にズッシード王国の歴史や物語、算数を教える先生が訪れ、文字を書く練習も始まった。
私は前世で子爵令嬢として受けていた教育では算数は役に立ったが、詩を作ったり、歌をうたったり、刺繍をしたりする淑女教育はまったく役に立たなかった。
でも教わるとどの授業も面白くて、授業で習う事をできるだけ身につけようと頑張ったのだった。
ベリルには剣と乗馬を習った。子供用の剣をもらい何回も素振りをした。
前世で馬に乗れなくて取り残された経験から、馬には絶対乗れるようになりたかったのだ。最初はベリルの前に乗せてもらうので危険は無いのだが高い馬の背に乗るのは怖かった。だけど涙目になりながら私は頑張った。
そして馬の世話の仕方を習い、アクゥやチャルの世話もこの頃からやらせてもらえるようになった。アクゥやチャルは街中もよく歩いているので人気者だ。よくお店の人が果物を差し入れてくれていたらしい。ベリルも果物好きな彼らのために市場でブドーやリゴーを買って食べさせていると聞いたので、私も城の庭師にお願いしてカーキをもらってきて食べさせた。嬉しそうにキュルキュル言いながらカーキを頬張る鳥達はかわいかった。
時には父王自ら剣を教えに来てくださった。
「上手だぞ、クロウズ!そこはもっと脇をしめてみろ!そうだ、その調子だ!」
国王の忙しい執務の合間に剣を教えに来てくださる父上は本当に楽しそうで、私も父上の期待に応えようと懸命に稽古に励んだのだった。
そうして、私は人と会話で自分の気持ちを語るのに不自由がない年になっても、ベリルに自分はルルレットだと打ち明けられずにいた。
「もし転生しても必ず探し出すから結婚しよう」と私達は言っていた。そしてベリルはその約束を守って私を見つけてくれた。それなのに私は男に生まれ変わってしまったのだ。真実を話してベリルにガッカリされるのを私は見たくなかった。だから私は悩みながらも未だにクロウズとしてベリルに接していたのだ。
毎日勉強と剣の稽古に明け暮れながら、私は6才になった。
その頃には子供用の剣では物足りなくなり、女性が持つ軽い剣を持って一人で馬に乗って走るようになった。
城の狩りの大会にも参加するようになり、貴族たちは私のそんな姿を見て自分の娘をお妃にと画策するようになった。
だが、私は恋愛に対して否定的な考えをしていた。私はクロウズだが、中身は女性のルルレットなのだ。
私は女性を伴侶として愛していけるのか?
考える度にそれはできないと思った。
王太子なのに女性に興味が持てない事に申し訳なさを感じた。
私はなぜ男に生まれたのか?それを考える度に夜涙で枕を濡らした。私は運命に文句を言いたかった。
そうして私は10才になった。
その頃になると国王の執務室で国王の執務を見学する授業が始まった。
たまに「こんな時におまえならどうする?」と父王に質問される事もあり、そんな時は自分の意見を述べた。
教師との机上の教育ではない実際にある案件に、私は真剣に取り組んだ。
父上は、それに対してなぜそう思ったのか?どうしたら対策できるか?などその都度聞かれた。そしていろいろな角度から教えを授けてくれた。
私は父上とそうした緊張感のある時間を過ごすのがたまらなく楽しかった。
ある日私は前世のゴルシラック伯爵鄭の図書室で見た世界地図を思い出して父上に聞いてみた。
「我が国で産出する鉱石そのものを輸出するより製品にした物を輸出した方が収益が上がると思います。
ラジル王国のゴルシラック港は魔大陸とも取引をしているようですから、あちらの大陸に住むドワーフの技術者をお招きして、付加価値の高い剣や防具にするのはどうでしょうか?」
「なるほど、ドワーフですか。クロウズ王太子殿下は目の付け所が違いますな。ただ鉱石を輸出するより付加価値を付けるのは大変良い方法だと思います。ドワーフが作った武器や防具は桁が1つか2つ違いますからね。わが国で採れる各種の鉱石は品質も高いし種類も多いのです。ドワーフが気に入ってくれれば我が国で工房を持つ者もいるかもしれません」ちょうどその場にいた宰相がそう言った。
「そうだな。魔大陸に使者を送って我が国で採れる鉱石のサンプルを渡してみるか。ドワーフの技術者が興味を持って来てくれれば工房を支援しても良いな。」
「しかしクロウズ王太子殿下は大変優秀な方ですな。将来名君になられることでしょう。国王に即位されるのが楽しみです」
「宰相もそう思うか?実は俺もそう思っていたんだ。俺がクロウズの年にはどうやったら抜け出して遊びに行けるかしか考えてなかったんだがな。本当に俺の子かって宰相も思ってるだろう?」
「ハハハ、私の父が宰相をしていた時は陛下が王太子として一番やんちゃな時で、授業をサボって遊びに行かれてばかりだと言っておりましたな。侍従も殿下を探して机の前に座らせるのが一番大事な仕事だと言っておりましたよ」宰相はそう言って笑った。
「おいおい、それ以上の話はクロウズの前ではやめてくれ。父の威厳が下がる」国王は慌てて言った。
「そうだったのですか、父上が子供の頃にそんな事があったなんて初めて知りました」私も笑いながら言った。
「陛下をくさすばかりでは何ですので良い話もお伝えしますが、陛下はこう見えても誠実で情の厚い方なんですよ。亡くなられた前の王妃様、べランナーシェ様が王太子妃教育で城に登城される日は、玄関までいつもお迎えにいらしてエスコートをしておられました」
「べランナーシェ様?シルビアーナ義姉上のお母さまですよね?」
「そうです。ジルデア公爵家から嫁いでいらしたべランナーシェ様は、王太子妃になる事が決まってから毎週王都のお屋敷から城にお妃教育を受けにいらっしゃっていました。べランナーシェ様がいらっしゃる時間にサイラス陛下が授業を抜け出して、庭の花を持って会いに行かれるのは有名な話でしたよ」
私は、若かりし日の父上の話を微笑ましく思った。
「しかし、べランナーシェ様はシルビアーナ王女をお産みになってから床につかれる事が増え、残念な事にシルビアーナ王女がまだ3才の時にお亡くなりになりました。その後嫁がれて来たミレディーナ王妃様もクロウズ殿下お一人しかお産みになっておられません。このままでは王族が担う仕事に差しさわりが出てきてしまいます。クロウズ殿下にはたくさんのお子をもうけていただきたいと思っております」
「宰相の話は気にするなクロウズ、お前に弟は生まれなかったが国王はおまえ一人いれば充分だ。シルビアーナも来年王位継承権を持つジルデア公爵家の嫡男に降嫁するのが決まっている。お前は気を楽にして王妃となる伴侶を探せば良いのだぞ」
私は幼い頃から王太子教育が忙しかったので、シルビアーナ義姉上とあまり話した事は無い。
16才の義姉上は、来年筆頭公爵家であるジルデア公爵家の嫡男に嫁ぐ事が決定していた。20才になるクレナンドは会った事があるが、ズッシードの鉱山はもっと採掘量を増やして輸出するべきだと資料を持ってきて熱心に話していた。
「いやだな、私はまだ10才ですよ。最近貴族達から令嬢の姿絵がたくさん届いているそうですね。宰相も父上も貴族達からせっつかれているのでしょうが、私はまだ結婚なんて考えられませんからお断りしてくださいね」
「やはりわかっておったか」と父王は隠し事がバレたように頭をかきながら言った。
「そうだクロウズ、これから王太子教育も次の段階に進もうと思う。これからは実地に出向けての体験教育だ。国中を回って貴族や国民の意見を聞き、人脈を作り将来の自分の治世に生かすのだ。護衛にはベリルと中央騎士団の精鋭を付ける。国中を回って自分の目で見てこい!」
父の言葉に王太子教育も次の段階に入ったのかと身が引きしまる思いがした。
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