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4. 音羽リオの信念――社畜、心に火を灯す
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その夜も「Rhapsody」は穏やかな熱気に包まれていた。
カラオケ対決ナイトから数日。俺は相変わらず残業に追われていたが、仕事帰りの少し余裕がある時にふらりと立ち寄る習慣が身についていた。偶然家が近くて良かった…。
カウンター席に腰を下ろすと、音羽リオがぱっと顔を輝かせる。
「おかえり、圭介君!」
「……ただいま、って言うべきなのかな」
「そうそう! ここはセカンドホームだから!」
からかうような調子に、圭介は思わず笑ってしまう。
店内では、金髪ハーフの月島ルナが「This one’s sweet, you’ll like it!」と観光客に英語でカクテルを説明し、虎柄アクセの東堂アヤメが「課長、今日こそ歌うんやろ?」と常連を茶化し、銀髪眼鏡の神楽セリカは歌本を開いて静かに選曲していた。
――みんな自然体だ。会社では得られない安心感に、圭介は少しずつ肩の力を抜いていった。
「ねぇ、圭介君」
リオが差し出したグラスの中には、深い赤色のカクテルが揺れていた。
「“ライオン・スパーク”。飲んだら絶対元気出るから!」
口に含むと、ベリーの甘酸っぱさとスパークリングの刺激が弾け、胸の奥に小さな火が灯る。
「……本当だ、なんか強くなれそうだ」
「でしょ!私が圭介君を応援したい気持ち、そのまま入れたんだよ!」
リオが急に顔を近づけてきて、少しドキッとする。
「この前のデュエット、楽しかったよね」
「ああ……歌う前は逃げ出したかった。でも歌ったら、不思議と力が湧いてきた」
「そうなんだよ。アニソンってそういう力があるんだよ」
彼女は少し間を置き、真剣な目で話し始めた。
「私ね、高校のとき、大切な親友がいたんだ。進学を諦めなきゃいけなくて、泣き崩れてた。何を言っても響かなくて……『頑張れ』なんて言葉、余計に傷つけるだけだった」
リオは小さく息を整えた。
「でも、一緒にカラオケに行って、『タッチ』(1985/岩崎良美/タッチOP)を歌ったの。その子が小さい頃から大好きだった曲。最初は泣きながら声にならなかったけど、サビを一緒に叫んでるうちに、笑ったんだよ。涙でぐしゃぐしゃの顔で、でもすっごく楽しそうに」
胸が熱くなる。想像できる。泣きながら、それでも笑える瞬間。
「歌い終わったとき、その子が言ったの。『まだ頑張れる気がする』って」
言葉以上に、歌は心に届く――その実感がリオを突き動かしたのだろう。
胸の中で、あのデュエットの夜が甦る。震える自分を、彼女は笑顔で支えてくれた。あの解放感は、彼女の信じる「アニソンの力」そのものだった。
「だから決めたんだ。私も誰かを元気づけられる人になるって」
リオは微笑み、マイクを手に取った。
流れ出したイントロは『ライオン』(2008/May’n&中島愛/マクロスF OP)。
彼女の声が放たれた瞬間、店内の空気が一気に熱を帯びる。
常連が手拍子を重ね、サラリーマン風の客が拳を振り上げ、女性客がリズムに揺れる。
リオは一人ひとりの顔を見ながら歌い、声に「元気」が宿っていた。
――この子は、本当に誰かを勇気づけたいんだ。
胸がじんわり熱くなる。
歌い終わったリオは頬を上気させて笑った。
「どう? 元気出たでしょ、圭介君」
「……ああ。おかげで、また来週も戦えそうだ」
「よかった!」リオは親指を立て、子どものように嬉しそうに笑う。
――Rhapsodyで過ごす時間が、自分の日常を少しずつ変えていく。
そのことを噛みしめながら、赤いグラスを干した。
⸻
▷ 本日のオリジナルカクテル
・ライオン・スパーク
『ライオン』着想。ベリーリキュールの甘酸っぱさとスパークリングの弾ける刺激で、立ち上がる勇気を表現。
カラオケ対決ナイトから数日。俺は相変わらず残業に追われていたが、仕事帰りの少し余裕がある時にふらりと立ち寄る習慣が身についていた。偶然家が近くて良かった…。
カウンター席に腰を下ろすと、音羽リオがぱっと顔を輝かせる。
「おかえり、圭介君!」
「……ただいま、って言うべきなのかな」
「そうそう! ここはセカンドホームだから!」
からかうような調子に、圭介は思わず笑ってしまう。
店内では、金髪ハーフの月島ルナが「This one’s sweet, you’ll like it!」と観光客に英語でカクテルを説明し、虎柄アクセの東堂アヤメが「課長、今日こそ歌うんやろ?」と常連を茶化し、銀髪眼鏡の神楽セリカは歌本を開いて静かに選曲していた。
――みんな自然体だ。会社では得られない安心感に、圭介は少しずつ肩の力を抜いていった。
「ねぇ、圭介君」
リオが差し出したグラスの中には、深い赤色のカクテルが揺れていた。
「“ライオン・スパーク”。飲んだら絶対元気出るから!」
口に含むと、ベリーの甘酸っぱさとスパークリングの刺激が弾け、胸の奥に小さな火が灯る。
「……本当だ、なんか強くなれそうだ」
「でしょ!私が圭介君を応援したい気持ち、そのまま入れたんだよ!」
リオが急に顔を近づけてきて、少しドキッとする。
「この前のデュエット、楽しかったよね」
「ああ……歌う前は逃げ出したかった。でも歌ったら、不思議と力が湧いてきた」
「そうなんだよ。アニソンってそういう力があるんだよ」
彼女は少し間を置き、真剣な目で話し始めた。
「私ね、高校のとき、大切な親友がいたんだ。進学を諦めなきゃいけなくて、泣き崩れてた。何を言っても響かなくて……『頑張れ』なんて言葉、余計に傷つけるだけだった」
リオは小さく息を整えた。
「でも、一緒にカラオケに行って、『タッチ』(1985/岩崎良美/タッチOP)を歌ったの。その子が小さい頃から大好きだった曲。最初は泣きながら声にならなかったけど、サビを一緒に叫んでるうちに、笑ったんだよ。涙でぐしゃぐしゃの顔で、でもすっごく楽しそうに」
胸が熱くなる。想像できる。泣きながら、それでも笑える瞬間。
「歌い終わったとき、その子が言ったの。『まだ頑張れる気がする』って」
言葉以上に、歌は心に届く――その実感がリオを突き動かしたのだろう。
胸の中で、あのデュエットの夜が甦る。震える自分を、彼女は笑顔で支えてくれた。あの解放感は、彼女の信じる「アニソンの力」そのものだった。
「だから決めたんだ。私も誰かを元気づけられる人になるって」
リオは微笑み、マイクを手に取った。
流れ出したイントロは『ライオン』(2008/May’n&中島愛/マクロスF OP)。
彼女の声が放たれた瞬間、店内の空気が一気に熱を帯びる。
常連が手拍子を重ね、サラリーマン風の客が拳を振り上げ、女性客がリズムに揺れる。
リオは一人ひとりの顔を見ながら歌い、声に「元気」が宿っていた。
――この子は、本当に誰かを勇気づけたいんだ。
胸がじんわり熱くなる。
歌い終わったリオは頬を上気させて笑った。
「どう? 元気出たでしょ、圭介君」
「……ああ。おかげで、また来週も戦えそうだ」
「よかった!」リオは親指を立て、子どものように嬉しそうに笑う。
――Rhapsodyで過ごす時間が、自分の日常を少しずつ変えていく。
そのことを噛みしめながら、赤いグラスを干した。
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▷ 本日のオリジナルカクテル
・ライオン・スパーク
『ライオン』着想。ベリーリキュールの甘酸っぱさとスパークリングの弾ける刺激で、立ち上がる勇気を表現。
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