社畜は今日もアニソンに酔う〜路地裏に生きる歌姫たちと俺の人生再生譚〜

ただの酒呑み

文字の大きさ
3 / 8

3.空色デイズで覚醒ーー社畜、声を取り戻す

しおりを挟む
 今週は普段以上に仕事が回らず、上司からは令和時代についぞ聞くことが出来ないような言葉で罵倒された。流石に気が滅入る。
 ガムシャラに手元のメールを返し切り、週末を生きる権利を確保した後、調査兵団が必死に壁内に戻るように、また「Rhapsody」の扉の前に来ていた。
 湿気を帯びた街の空気が肌にまとわりつくが、その向こうから漏れるイントロが、鬱屈した気分を少しだけ吹き飛ばしてくれる。

 「今日は特別イベントだよ!」
 カウンターにいた音羽リオが、屈託のない笑みを浮かべた。アイドルと言われても驚かない顔立ちだ。
 「カラオケ対決ナイト!チーム戦で点数を競うんだ」

 「俺は聴いてるだけでいいよ」
 「ダメダメ!一緒に歌おう!」
 リオに押し切られ、気づけば名前を書かされていた。

 ――正直、怖い。
 会社の会議ですら声が震えるのに、見知らぬ人前で歌うなんて。だが、リオの瞳は「大丈夫」と言っている気がした。

 やがてイベントが始まった。
 最初のペアは年配客と若い男性。『残酷な天使のテーゼ』(1995/高橋洋子/新世紀エヴァンゲリオンOP)で合唱の渦となり、得点は85点。
 次は東堂アヤメとスーツ姿の男性。『愛をとりもどせ!!』(1984/クリスタルキング/北斗の拳OP)に拳が振り上がり、店内は熱狂、得点は89点。
 続くのは神楽セリカと控えめな女性客。『For フルーツバスケット』(2001/岡崎律子/フルーツバスケットOP)の優しいハーモニーに、空気が静まり返る。派手さはないが、心に沁みる歌声。得点は…91点。大歓声が響き渡る。

 そして――ついに自分の番。
 「次は、ケイスケとリオ!」
 司会役の月島ルナの声に、視線が一斉に集まった。喉がきゅっと締まり、逃げ出したい衝動が込み上げる。だが隣のリオが、にっこり笑って肩を軽く叩いた。

 「大丈夫、圭介君。私がついてるから!」

 流れ出したイントロは『空色デイズ』(2007/中川翔子/天元突破グレンラガンOP)。観客の中から「おおっ!」と声が上がり、拳を突き上げる人もいる。店内の熱気が一気に押し寄せ、心臓が激しく脈打った。

 先陣を切ったのはリオだった。
 ――眩しい。
 突き抜けるような高音、舞台の真ん中で笑うその姿は、まるで光のように周囲を包み込む。

 堂々たる勇姿に見惚れていた次の瞬間、リオからマイクを向けられ、俺の喉は固まった。声が出ない。
 (無理だ……)そう思った刹那、リオが体を寄せ、肩をぶつけてくる。

 「圭介君、いけるよ!」

 その一言が、胸の奥を震わせた。
 勇気を試すような瞳。逃げるわけにはいかない。喉からかすかな声を絞り出した。

 最初は頼りなく、震えてしまった。
 だが、リオがすぐに笑顔で隣に寄り添い、ハーモニーを重ねてくれる。まるで「そのままでいい」と肯定してくれるように。
 少しずつ、声が外へ押し出されていく。

 サビに差しかかると、胸が自然と開いていた。
 「今日~の僕が~!」
 全力で声を張ると、リオの声とひとつになり、店内総立ちになる。手拍子と歓声が渦を巻き、熱気が全身を包んだ。

 ――俺の声が、届いている。

 その事実が、たまらなく嬉しかった。
 会社では押し殺してばかりの声が、ここでは人に届き、受け入れられている。

 2番に入る頃には、緊張は消えていた。
 リオが高音を突き抜け、俺は自然とハモリに回る。視線が交わり、思わず二人で笑い合った。
 「歌うって、こんなに気持ちいいものだったのか……」
 心の底からそう思えた。

 大サビでは、リオがマイクを観客へ差し出す。
 「答えはそう!」
 掛け声が場内に轟き、俺は肺が焼けるほどの声で最後のフレーズを叫んだ。名乗りをあげたシモンの気分だ。
 隣にはリオ。肩を並べ、同じ空気を吸い、同じ景色を見ている。

 歌い切った瞬間、歓声と拍手が爆発した。

 結果は――92点。
 「やったー! トップだよ!」
 リオが飛び跳ね、肩を叩く。その笑顔に釣られるように、息を切らしながら笑った。

 ――Rhapsodyは、ただの飲み屋じゃない。
 声を出すたびに、自分が変われるかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...