この恋は始まらない

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第二十話・お昼ごはんと、メイドさん 一日目

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一時間の休憩をもらい、遅めの昼ご飯を食べることにする。
俺達と休憩時間が被った人は何人かいたが、よんいち組と約束していたので、今は萌花と二人で文化祭を回っていた。
テンションは低めだ。
特に目的はなく、ダラダラと回っていくのが萌花のスタイルであり、俺もそれに合わせている。
萌花は、メイド服から制服に着替えているが、髪型はメイド服の時のままで綺麗に纏めていた。
「どしたん?」
即座にこちらの視線に気付く。
萌花の野生の勘が凄すぎる。
話題を変えて、バレないようにしておく。
「もえは、どっか寄りたいところないのか?」
「あ~、ごはん食べたい」
バタバタした分、体力使ったし腹減ったもんな。
文化祭の食べ物は沢山あるけど、萌花の琴線に触れるような美味しそうなものはないようだった。
「たこ焼きとか、たい焼きは?」
「ちょっとテンション上がらないかなぁ」
「三年のところでも回ってみるか? 二年より凝った店が多そうだし」
三年生は文化祭慣れしているから、面白い出し物やっているかも知れない。
「それもありよりのありだけど。東っちは食べたいものとかないん?」
「俺か? 甘い物以外なら何でも大丈夫だが……」
「ん~、にゃるほど。じゃあ、食堂でも行ってみるっしょ」
「へぇ、文化祭の日にも食堂やっているのか」
「さっきすれ違った人がパックごはん持ってたし、やっているんじゃない?」
なるほどね。
萌花は、よく周りを見ているものだな。
ボーッとしている俺とは真逆である。
弁当持参の俺は、購買部や食堂を利用することはあんまりないが、初山高校の学食は美味しいと有名だ。
色々な名物料理はあるのだけど、三百円パックごはんが学生には人気とのことだ。
美味い。ごはん。リーズナブル。
そりゃ食べ盛りの学生からしたら、大人気になるわな。
「東っち、学食はあんまり食べたことないっしょ? パックごはんは、唐揚げとかカツ丼とか、チャーハンとか色々あって美味しいし、オススメかな?」
「へえ、食べたことないし。せっかくだし、食堂行ってみるか」
「おいっす」
二人で食堂に向かう。
多少混んではいるが、テイクアウトして教室で食べる学生が多く、席に座って食事をしている者は少なかった。
食堂自体の雰囲気はいつもと変わらず文化祭感が少ない。
みんな、自分達の教室で食べたいのだろうか。
五月蝿くても文化祭の雰囲気は重要だしな。

俺達みたいな雰囲気どうでもいい派の人間は、臆することなく平然と座る。
「空いてるから、ここでいっか」
「そうだな」
おばちゃんのところに向かい、パックごはんを品定めする。
「東っちは、どれ食べる?」
「う~ん。どれがオススメなんだ?」
「この中なら、激辛麻婆チャーハンかな。これや」
萌花は、指差しをする。
どす赤黒いこれが食べ物なのか?
食欲を誘う美味そうな色合いではなく、人が死にそうな黒いオーラを放っていた。
学生が好きそうな色物料理にしか見えない。
「……美味いのか?」
「もえは好き」
どちらとも言いにくい評価をする。
辛いのは大丈夫な方だが、不安である。食べ物を残すのはご法度だし、食べきれるものを頼みたいところだ。
だが、オススメしてくれたものを断るのも失礼だしな。
「じゃあ、試しに頼んでみるか。もえは何にするんだ?」
「無難にカツ丼にするかな。あ、おばちゃん。唐揚げ串もちょうだい」
「はいよ」
「せんきゅー」
萌花は弁当二つと唐揚げ串を器用に受け取り、小さい身体ながらも難なく運んでみせる。
「もえ、弁当代」
「あー、いいよ。いつも飲み物おごって貰っているし」
「あれはいつも無理してもらっているから、正当な報酬だしな。俺の気が済まないし、ちゃんと払うよ」
「ゆーても、ダチからお金は受け取れんしなぁ。うーん。……じゃあ、コーラおごってよ? それでいいっしょ?」
「それでいいのか?」
「おけおけ。コーラ飲みたかったし」

それから俺達二人はご飯を食べながら、ゆっくりとしていた。
俺が頼んだ激辛麻婆チャーハンは、あまりの辛さに二口で断念し、萌花のカツ丼と交換した。
萌花は、赤黒い激辛麻婆チャーハンなど何ともないかのように、ぱくぱくと食べている。
最後にはコーラを流し込み、ご満悦であった。
「やべぇ! 激辛とコーラは最高の組み合わせや!」
「本当に美味しそうに食べるよな」
ぱくぱくである。
美味そうに笑顔で食べるから、食べていないこっちまで美味しく感じてしまう。
食レポ番組とか得意そうだ。
「そう? 飯食べて無愛想なのは、東っちくらいだよ。あ、でも、激辛過ぎてビビっていたのは笑ったけど」
「いやいや、誰だってデスソースレベルの辛さは無理だわ。激辛過ぎて、口の中で拒絶反応出たぞ?」
「マジ? めっちゃ美味いのに」
萌花は気にせず食べるから、辛くなさそうに見えるけどさ。
こちとら激辛のせいで、カツ丼の味が麻痺しているんだけど。
何口食べても、激辛カツ丼だ。

「そうそう。東っちは昼休み一人でごはん食べてるじゃん? もえ達と一緒に食べればいいのに、何で一人なん?」
「いや、理由はないけど……。食べ終わったら直ぐに部室に行くし、一緒に食べる時間もちょっとだけだから、その為に手を煩わせるのもなぁ」
「ふうも同じように食べ終わったら昼寝に行っているし、気にしなくていいっしょ?」
「そうだけどさ。女の子と昼飯を食べるのも敷居が高いんだよなぁ……」
「もえ達の水着姿も浴衣姿も見てるのに、今更やん?」
まあ、そうだけどさ。
正直、俺が望んで水着姿を見たわけではないが、それを言ったら殺されそうだから黙っておく。
「そうだな。毎回は大変だが、たまになら……」
「おけまる。お昼のちょっとだけでも、れーなは喜ぶし。すまんけど、よろしくな」
秋月さんが喜ぶねぇ……。
陰キャ野郎とご飯を食べて、楽しいものなのかね。
まあ、俺は秋月さんと食事するのは嬉しいけど。
「みんなで食事をするのも、たまにはいいか」
「この世界で一番、青春の要素のない人間がそれをいうのおもろいな」
「そう言うなよ。文化祭で目立つのだって、本当は嫌なんだからさ」
今の立場は、文化祭のクラス委員ではあるが、誰かに頼りにされるのは苦手だ。
自分一人で同人活動をするのが染み付いているため、頼ったり頼られたりするのは慣れていない。
「正直、責任取るの苦手なんだよ」
「……女好きのクソ野郎みたいなセリフじゃん。まあ、女たらしだから、あながち間違いではないってやつ?」
「クソ野郎なのは否定しないが、女たらしではないし、真っ直ぐに言われても傷付くぞ」
俺だって、下心があって女の子と仲良くしているわけではない。
何なら、俺から遊びに誘ったりすることはない方である。
小日向や白鷺あたりは、本人から話掛けてくれるし、秋月さんや萌花だって向こうから話題を提供してくれている。
うん。
くそ野郎だな。
元々が陰キャとはいえど、ちゃんとしないと駄目だな。
毎回のように女子から話題を振ってもらっていたら、萌花だって苦言を呈するだろう。
陰キャでも、最低限の身だしなみと、話題の提供は必須だ。
そういうのが苦手な俺は、萌花にはよくダメ出し受けている。
前髪長過ぎ。
十年以上前のギャルゲ主人公。
追放系で成り上がり好きそう。
通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃。
とか言われている。
最後の方は母親のことだが。
いやまあ、よく色んな漫画とかアニメ見ているなと感心する。
貶してくるボキャブラリーの多さは、ある意味天才だった。
萌花の持つセリフ回しの上手さは、漫画を描く身としては欲しい才能である。
「東っちも陽キャみたいなしゃべりしたら、ワンチャンありなんじゃね?」
「陽キャって言われてもなぁ……」
萌花の言われた通りにしてみる。
何度か真似てみる。
あー、あれだ。
ハキハキと喋って、テンション高くするのも体力使うんだよな。
そうか、だから陰キャなのか。
萌花はうんうんと頷いていた。
「うん。分かった。きめぇ」
「やらせといてその言い方よ」
「うーん。もっと爽やかになると思っていたけど、ただの痛い陰キャだったわ。どんなに磨いても石は石っしょ」
「追い打ちするのはやめてくれ。トラウマ作っただけじゃないか」
「……ごめんね」
いつもの萌花より少し優しいのが、なんだか逆に傷付くものである。
「というのか、これって重要なのか? これでコミュ力上がるのか?」
イケメンな一条とかであれば、世渡り上手だしみんなとのコミュニケーションが多いから、必要かも知れない。
しかし、陰キャの俺にこんな練習が必要なのか、よく分からなかった。
萌花はいつも優しい。
いつも話かけてくれている。
気に掛けてもらっているのは有り難いが、申し訳ない気持ちの方が強い。
「まー、男の子に、身だしなみの重要性は分からないか」
うん、わからん。
別に困ったことないし。
俺からしたら、学生なのに毎日化粧する女子がマメなだけである。
「まあ、イケメンっぽい口調はキモいから無しとして。文化祭が終わっても髪型は同じようにセットしなよ」
一条がワックス?って髪型を整えるやつくれたし。
毎日やるのは大変だが、それくらいなら続けられそうだ。
「それくらいなら……」
「東っち。自分のことだと、締まらないな。女の子褒めるときくらいに直でいいなよ」
「え? そう言われても困るわ」
他人だから、気にすることなく褒められるわけである。
自分を褒めるやつは、やばい。
「そんなことはない。自分のことはみんな好きっしょ! もえはもえを褒めるからな!」
どやぁ。
自画自賛。
「ああ。うん。そういうやつだったな」
多少は彼女を見習うべきだな。
自分が好きと自信満々に断言出来るのは、一週回って魅力的であった。
まあ、萌花以外は出来ない荒業だけど。
楽しそうにしているし、静かにしておく。


「ふええ。東山、お帰り。戻ってきてよかった」
クラスに帰ったら、野郎共が出迎えてくれた。
仕事大変なのは分かるが、出会い頭から泣きそうな顔するなよ。
野郎であっても、頼りにされると助けてやらないとなって思うものだ。
エプロンを受け取って仕事を引き継ぎ、死屍累々である男子共と交代する。
萌花の方も、クラスの女子と休憩を代わってメイド服に着替え直していた。
やっぱり、メイド服は可愛いな。見慣れている知り合いの女の子であっても、数倍可愛く見えてしまう。
「東山、女子を眺めてないで助けてよ?!」
「ああ、すまない。コーヒーを淹れておくよ」
紅茶とコーヒーを補充して、足りなくなる前にお湯を沸かす。
飲み物同様に、紙コップの在庫がやばいので、買い出しに行ってもらったり、働き詰めの男子にも休憩してもらう。
せっかくの文化祭だし、女子と一緒に休憩しながら会話したいとか言っていたが、その夢は叶わなかった。
忙しい中で少しの時間を作って休憩している女子は表に出していないが内心は半ギレしていたので、本格的に怒らせないように遠巻きに見守っていた。
「東山、女子に紅茶持っていってよ」
「何で俺なんだよ」
「女子の扱い上手いだろ?」
言い方があるだろう。
女たらしみたいじゃん。
俺だってクラスの女子は苦手な人の方が多いんだが。
「まあ、構わないけどさ。たまには自分で話かけてこいよ」
「だって、好きって気付かれちゃうじゃん」
乙女かよ。
文化祭を一緒に回れるように、努力してほしいものだ。


「東山くん、知り合いの人来ているよ」
女子に呼ばれて、表に出る。
テーブルに一人。
優雅に紅茶を嗜む大人の女性がいた。
我らのメイドさんだった。
「ウッス」
「露骨に表情暗くするの止めてくれませんか?」
「すみません。忙しくて」
他意はない。
普通に忙しいのに、忙しい人が来て、だるかっただけだ。
メイドさんは、私服で年相応の落ち着いた身なりで遊びに来てくれていた。
メイド服姿には慣れていたが、私服だと誰だか分からなくなってくる。
褒めて欲しそうな顔をしている。
「あ、えっと。……私服お綺麗ですね」
「ありがとうございます」
「あはは」
「ふふふ」
なんだこれ。
このやり取り必要なのか?
俺に褒められて嬉しいのかね。
「正直、メイドさんはメイド服を着て来ると思ってました」
「メイド長とは言えども、プライベートでメイド服は着ませんよ。借り物ですからね」
「そうだけどさ。逆にメイド服を着ていたら、キャラ立って良かったんじゃないですか? 知らんけど」
「確かに!」
「というのか、メイド服着ていないと違和感がやばいんですけど……」
知らない大人の女性と会話しているようなものだ。
髪型や服装を少し変えるだけで、女性は違って見えるし、化粧もいつもと違って念入りにしていた。
ほとんど別人レベルだ。
よくよく見たらメイドさん特有の綺麗な顔立ちで判別出来るが、メイドさんイコールシルフィードの制服姿で捉えているので、頭がバグっている。
「そういうご主人様も身なりを整えていて、別人レベルでしょう?」
「そうなのかな? 自分では分からないですけど」
朝一以外は鏡とかあんまり見ないので、日頃とそんなに違っているのか分からん。
でも、知っている人がそう言うならば、髪型や眉一つでも印象は変わるものなんだな。
萌花は身だしなみはずっと続けろって言ってたし、多少は気を配るか。
「喫茶店の店員さんみたいで良いと思いますよ」
「メイドさんレベルの本職の人に褒められるのは嬉しいですが、何かこう……。紙コップの紅茶ですみません」
メイドさんに対して苦手意識はあるが、メイド服や髪飾り。紅茶やコーヒーの調達までお願いしている立場だ。
文化祭の出し物が好評なのは、みんなの頑張りがあってのことではあるが、その為に裏で助けてくれている人は多い。
「文化祭の予算内で頑張っているのですから、紙コップでも仕方ないでしょう? 喫茶店は、楽しめる空間を提供し、美味しい紅茶を飲めることが第一です」
「そうですか。まあ、ゆっくりしていってください」
「ええ。お気遣いありがとうございます」
「そうだ。白鷺とは話しましたか?」
「お嬢様は他のご主人様の給仕をしていますので、まだご挨拶していませんね」
呼び方、ややこしいな。
白鷺は元々女子に人気だし、知り合いが来たとしても簡単に抜けるのは難しいか。
「タイミング見て、呼んできますね」
「いえいえ。元々部外者ですから、そこまで気を遣わなくて大丈夫ですよ」
「ん? メイドさんは俺達の身内でしょう?」
シルフィードやイベントなど合わせれば、十数回以上顔合わせているし、くっそ下らないやり取りばかりだが、気兼ねなく雑談出来るのはこの人くらいである。
それに、こっちが困っていたら助けてくれるのに、他人行儀なのは嫌だし。
「……お優しいですね」
「普通ですよ。そういえば、他の人は居ないんですか?」
シルフィードの人は大体声かけしておいたのだが、居るのはメイドさんだけだ。
「ええ。今日は私一人ですが、明日はダージリンとアールグレイがお暇を頂きますので、お願い致しますね」
「なるほど。まあ、ダージリンさんとアールグレイさんなら心配ないか」
「……ご主人様、私の時と反応が違いませんか?」
「だって、二人とも絶対に迷惑かけないから」
ダージリンさんは寡黙な大人の女性だし、アールグレイさんはドジメイドだけど、真面目な人だから心配ない。
目の前の女性は、まず何するか分からん。
あと、学生ばかりの文化祭で、大人の女性は目立つからな。
警戒するのは自然である。
「私が迷惑かけたことありますか?」
「うん」
「即答は止めてください」
「まあ、ゆっくりしていって下さい。何だかんだ俺の身内は、メイドさんくらいですから」
他のクラスメートは、同中の友達やらプライベートの人達を何人も誘っていたが、俺みたいな陰キャでは一人くらいしか文化祭に招待出来ない。
それがメイドさんだけなのは、コミュ力の低さを証明しているが。
「ふふ、仕方ないですねぇ。ご主人様の話し相手になるのも、メイドの務めですからね」
冗談交じりで話ながら、微笑する。
プライベートの雰囲気で楽しそうに笑う姿は、初めて見たかも知れない。
少しばかしドキッとしてしまう。
メイドさんは、普通にしていたら美人だった。
年齢や生活圏が離れていると、こういうイベントでもなければ、話せないこともあるのだから難しいものだ。
仲が良いと思っていても、知らないことばかりである。
少しは優しくしてあげよう。
「お待たせした! すまない」
「お嬢様、おかわわわわいいい! リアルJKお嬢様がメイドさんとは破壊力抜群ですね!!」
うっせぇわ。
白鷺が来た瞬間から五月蝿くなりやがった。
可愛い女の子に対して反応がよくなるのは、男女関係ないようだ。
キャッキャしているのはしょうがないが、他の人の迷惑だ。
「……出禁にするぞ」
「すみません。何でもしますから出禁は止めてください」
「じゃあ、大声で叫ばないで静かにしててください」
「はい。静かに見ていますね」
白鷺ガン見。
「それはそれで、邪魔だから止めて」
「あれ? 私は何をすれば許されるのでしょうか?」
知らんよ。
とりあえず、白鷺のメイド姿を爪先から天辺までガン見するの止めてやってくれ。
同性でも普通にセクハラだし、やばいぞ。


それから三人で軽く雑談をして、時間いっぱいまで楽しんでもらう。
メイドさんや他のお客さんを送り出し、次の予約時間になるまで片付けをしながら一段落する。
表に居たので片付けを手伝っていたが、女子達だけで充分そうだった。
「すまない。裏方に戻るから、何かあったら言って」
「せんきゅー」
白鷺や萌花に伝えて、お客さんが入ってくる前に裏に戻ろうとする。
「東っち待って」
「なん? やべ、腰やったわ」
急に呼び止められたせいで、変な方向に腰を捻った。
痛みに耐えつつ、萌花の元にいく。
「どうしたんだ?」
「知り合いやろ?」
入り口を覗くと、見知った顔のコスプレイヤーのみなさんがいた。
うん。
みんな、生粋のメイドリストなのに私服で来るから、誰が誰だか分からない。
「ハジメさん、よろしくね!」
「あざっす。席を片付けているので、もう少しだけ待っていて下さい」
他の人達にも軽く挨拶をして、白鷺に引き継ぐ。
メイドリストのみんなは、白鷺の個人的なコスプレ友達であり、俺はサラッと会話するくらいだ。
まあそれでも、メイドイベントでは毎回のように挨拶するし、ツイッターで情報共有もしていたりする。
白鷺と彼女達は、コスプレ仲間として普通に仲良しなんだろうが。
席に案内すると白鷺が担当することになる。
「ふゆお嬢様可愛い~」
「可愛い。昇天するわ」
「え? はやっ!?」
「一般の人ばかりなんだから、静かにしてよね……」
相変わらずの寸劇をするメイドリスト。
ワイワイと楽しんでいるものの、ちゃんと声量はセーブして楽しんでいた。
うちのメイドさんとは大違いである。
「で、何をしていいメイド喫茶なんですか?」
俺に聞いてくる。
「別にメイド喫茶っぽいサービスはありませんよ?」
「握手は? チェキは?」
「ありませんよ」
「えっ」
この世全てに絶望したかのような顔をしていた。
「メイド喫茶ですよ? 可愛い女の子とキャッキャしながら、チェキ撮って癒される憩いの時じゃないのですか?」
「知りません」
「この両替した五百円玉はどうすればいいんですか??」
五十枚セットの棒金持ってくるなよ。
この為に銀行で両替してきたのだろうが、使い道はないぞ。
そもそも、飲食以外の副産物で料金を取るのは禁止だから、無理な話である。
「ふゆお嬢様がオムライスにハート描いてくれたり、チェキで二人でハートマーク作ってくれる世界線は??」
「ないですよ。つか、それは個人的に企画してイベントをしてください」
「ふゆお嬢様のマネージャーはハジメさんでしょう? やってくださいよ」
ええ、俺がやらないといけないのか?
そもそも個人イベントとかやったこともないし、幾ら金額が掛かるか分からない。
「運転資金は我々が全額出しますんで!」
数十万出す勢いであった。
「ふゆお嬢様レベルなら、クラウドファンディングをすれば直ぐに出来ますよ」
「そうね。私達がふゆお嬢様を推していきましょう」
メイドリスト怖い。
別の意味でやばいやつらだな。
メイドリストのみなさんは社会人の集まりであり、現実思考でイベントの企画をしていくから引いてしまう。

白鷺は飲み物とお菓子を運んでくる。
「それはそうと、紅茶やコーヒーを楽しんでください」
「あら、ありがとうございます」
飲み物を嗜みながら、近状報告をしている。
都心部の人間から、名古屋や大阪から来ている人間もいるらしく、女性レイヤーさんの行動力やばいな。
「ああ、忘れていたわ」
ライン通話を開く。
北海道の人と繋がっていた。
『ふゆお嬢様、お久しぶりです! 直接顔合わせ出来なくてすみません』
「いえ、北海道なら仕方ないですよ」
文化祭とはいえど、三十分くらいのティータイムの為に新幹線や飛行機使ってくるのは、金銭感覚が学生の俺には理解出来なかった。
「大阪だとギリ悩むレベルだけど、飛行機で来るのは勿体ないもんね」
「そもそも新幹線使って来る連中も多すぎるから」
「ふゆお嬢様は、プライスレス」
「金で解決する事柄は、全然マシでしょ? 超有り難いくらいで思っておかないとね」
『みんな、楽しくしないで! 私も行きたいのに!』
「文化祭は明日もあるし、今からなら飛行機で向かえば間に合うでしょ?」
「ねー。紅茶美味しいし、来ればいいのに」
ラインを知っている仲だし、心配はいらないようだ。
元々仲良しで日頃から悪態付いているのか。
滅茶苦茶に煽っていた。
『私も文化祭に行くもん! ふゆお嬢様に会いたい!! あと、お前らしばく!』
北海道から来るつもりか?
いや、飛行機代が勿体ないような気もするが。
推し活はプライスレス。

「ハジメさん。あとでチェキ買っておくので、明日は撮影出来ませんか?」
「いや、そこまでしてチェキ欲しいの??」
「ふゆお嬢様とツーショットで撮った、ハートマークのチェキが欲しいの!!」
切実な願いだな。
「分かりました」
しゃあない、学校に許可もらいにいくか。
高橋に頼み込む必要もあるし、また忙しくなりそうだった。
「ねえねえ、オムライスは?」
「飲食は完全に無理っす」
というか、注文の多いメイドリストだな。
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