Memory in Vain

サレルノのエルマンノ

文字の大きさ
2 / 8

第2話

しおりを挟む
人間の能力には格差がある。
その差を知るたびに僕は絶望する。
なぜ僕は、能力の差を比較してそのたびに絶望しなければならないのか。
才能、それが可能性とどう違うのか。

資本主義社会の中で才能があるということは、圧倒的に競争に有利だということであり、自己実現のためのゴールの近くにいるということだ。
歴史上多くの人が、少しでも安定した職業につこうと考え、まさにそのため人生の多くの時間を費やし努力してきたことだと考えるのもあながち嘘ではないといえる。
そして才能があるということは、生存競争のトップにいるということになるのだ。
だからマリは楽天的で、才能のない僕は絶望するのだ。

特にマリみたいな天才を見ると、自分なんて虫けら同然に思えてしまう。
でもそれだと悔しいから、マリに負けないように僕も頑張るしかない。
僕はマリの攻撃から守る方法を知りたかった。
ある方法を使えば、秘密情報を守ることができるという。
それを暗号という。
暗号とは、鍵となる情報を知っているものだけが暗号文から元の文章を復元できるような技術を言う。
文字が発明されるのとほぼ同時期から存在する、最も古い技術の一つだ。

同性が好きだなんてことを知られたら、嫌がらせに遭うに決まっている。
だから僕は自分の傾向に関しては誰にも言わなかったし、ずっと暗号で日記を書いていたのだ。
でも、このままだとマリは僕の後を追いかけて次々と僕の恋愛の邪魔をするだろう。
だから黙っていられない。
もし誰かと知り合ったら、そのあとは安全にマリに知られることなく連絡を取り合えないといけない。
つまりマリにも傍受できないような安全な通信路と暗号を使わないといけない。

暗号化の方法を考えるときに、例えば素数を使えば、マリのような天才にもできることが限られる。
なぜなら素数をかけることは簡単でも、かけた結果を元の素数に戻すための効率的な計算方法は誰も知らないから。
暗号技術は古くは外交官や戦争に使われていたものだ。

だから今の状況に当てはめると、マリを無限の能力を持つ攻撃者とするのがふさわしい。
そしてその前提で安全性の定義を与えることができる。
暗号理論を使えば、安全性のモデルに従って僕にも安全な暗号を作ることができるはずだ。

僕は今使われている高機能なパソコンやスマートフォンではなく、機能が限定されたローテクに注目した。
そう、例えばポケコンだ。
ポケコンにはあまり機能がついてない、無線もイーサネットケーブルもない。
それだけじゃない、パソコンやスマホを安全に使うのは難しいことなんだ。
よく問題になるけど、情報漏洩の原因の可能性は多すぎる。
盗聴かもしれない、バグかもしれない、キーロガーかもしれない、ウイルスかもしれない。
要するに何からどうやって守るのか、原因を追求する困難さは手に余る。
機能が多すぎて、どこに盲点があるのかすぐにはわからない。
だからローテクに注目したのだ。
スマホもよくない。
なぜなら電波で情報が漏れてしまうからだ。
暗号で秘密を守りたいだけなのに、スマホもパソコンもリスクが多すぎる。

その点ポケコンの機能はシンプルだし、安全だと思う。
それにポケコンでもプログラムは書ける。
同時に動かせるプログラムは1個だけだから、バックグラウンドで盗聴アプリを動かすことはできない。
あとはポケコンで動く暗号を実装すればいいだけだ。
ポケコンでも暗号化はできるけど、スパコンでもそれを解くのは難しい。
スマホやパソコンは暗号文を送る時だけに使えばいい。

問題はその暗号が本当に安全なのかという事。
それが分かれば、もう自分より強い敵に襲われても、怖がる必要はなくなる。
もちろんそんなことがあればだけど・・・。
もし実装と理論が正しければ、マリには僕の暗号が解けないはずだ。

それとも僕は、とても無謀なことをしているのだろうか。

続く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

坊主女子:女子野球短編集【短編集】

S.H.L
青春
野球をやっている女の子が坊主になるストーリーを集めた短編集ですり

処理中です...