上 下
3 / 6
序章

第三話 過去の出来事 前編

しおりを挟む
 三人では広すぎる程、大きな部屋の中心にある豪華な長テーブルに、俺達は横一列に並んで腰をかける。
 拠点にしている場所は師匠が長年住んでいた家なのだ。【五神星】だったこともあって貴族屋敷みたいな大きさがある。もちろんメイドや執事も居る。
 今日の食事はフランスの高級料理店で出されるようなコース料理だ。前菜、スープ、魚料理と言う順番で運ばれてくる。
 普通の家庭で育った俺にとっては勿体無いくらいの料理だ。毎回、感謝をしながら食べている。
 欠陥だらけのカイリなので、行儀良く食べることはできないだろうと思い不意に横を向いてしまう。しかし予想とは裏腹に非常に行儀良く食べれているのではないか。(何で、高級料理の食べ方なんか知ってるんだ?)と思う。
 軽い会話をしながら食事を平らげていき、幸せな時間は終了した。

「師匠! 部屋割りはどうするんですか?」
「えっとだな……悠也とカイリは一緒の部屋で!」
「何でぇぇぇ?」
「どうして?」

 (こんなに広い家なのになぜに部屋が足りなくなるんだ?)と言う疑問が湧く。カイリも同じ疑問を感じているらしく、同時に質問する。

「言いにくいのだが……人を雇い過ぎて部屋がもう余っていないんだ……」

 師匠は苦笑いを浮かべている。どうして雇いすぎたのかが凄く気になるが、それを聞くと長い話になりそうなので、辞めておく。

「分かりました……」

 別に美人と二人になれるなら悪い気はしないし、カイリが嫌いと言うわけでもない為、了承することにした。カイリは頬を少し赤らめているようだったが、了承したようだ。
 まぁ、何もするつもりはないし。部屋もかなりの広さがあるので問題ないだろう。一つ問題なのはベッドが一つしかないことくらいか……。
 師匠に部屋割りを聞いた後、お風呂に入り部屋に向かった。まだカイリはお風呂から出てきていないようだ。
 魔族がお風呂に入ることにもびっくりしたが、女と言うのはこうもお風呂に入る時間が長いんだろう。別に長くても問題はないのだが……。
 俺が考えに耽っていると扉がノックされる。

「やっと来たか……」

 俺は足早に扉に向かう。こうも急いでいる訳は前の世界から唯一、持ち込むことが出来たスマホでアニメを一緒に視聴するためだ。
 何か暇つぶしに出来る事はないかと考えた結果、アニメを見ると言う案が浮かんできたのだ。
 カイリを部屋に入れるとすぐにベッドに向かい寝転がる。

「早くっ! 隣に寝転がって!」
「何で、そんなに急いでるの? それにその手に持ってる物、何?」
「これか? これはスマホと言って、遠くの人と話したり、時を切り取ったりすることができる物だ! こんな風に!」

 俺はそう言うとカイリの写真を撮った。フラッシュで一瞬だけ眩しそうにしていたカイリだが、すぐに近づいてきてスマホを覗き込んできた。

「へぇ~。これ凄いね」

 カイリは写真に写っている自分の姿を見て、心を打たれている様子だ。

「だろ! 他にもこんなこともできるんだ!」

 俺はカイリと一緒に見ようと思っていたアニメの再生ボタンを押す。それを隣に寝転がってきたカイリが見入っていた。
 前の世界の技術なので、当然こんな反応になる。カイリの姿を眺めながら俺は前の世界で出会った同い年くらいの女の子を思い出していた。

 ***

 一年前、太陽が雲によって遮られた休日の朝。俺は鏡に向かって身支度を整えていた。今日は学校で仲良くなった女の子。千歳奈絆と会う約束をしていたからだ。
 奈絆は同じバドミントン部に所属する同級生で、最初に声をかけてきてくれた心優しい子だ。クラスは違うけれども時々、こうやって遊ぶ仲になっている。

「お母さん! 行ってきます!」
「気をつけていってらっしゃい!」
「は~い!」

 俺は勢いよく家から飛び出した。ずっとこの日を楽しみにしていたので、心が小躍りしていたのだ。
 いつも通りの日常。俺は歩き慣れた道を走って、集合場所に向かった。
 走ったことで、集合時間の三十分前に着いてしまった。
 
「少し早すぎたかな……」

 俺は腕時計を見ながら呟く。まぁ、遅いよりは良いか。俺は気長に奈絆を待つことにした。
 集合時間の十分前、前方から手を振ってくる黒髪のショートカットの女の子。俺が今日会う約束をしていた奈絆がやってくる。俺は手を振り返した。

「神崎くん! 待った?」
「いや、今さっき来たところだよ!」
「本当?」
「うん!」
「よかったぁ~。待たせたかと思ったよ」

 本当は三十分前からここにいるのだが、それを隠すのが男というものだ。
 それにしても今日、奈絆が来ている服はいつもとは違い黒色のワンピースに黒色のシューズを履いている。
 明るい色を着ることが多い奈絆が今日に限って暗い色を着ているのはどうしてだろうと疑問が湧く。

「奈絆! 今日は珍しく、暗い色の服を着てるね!」
「うん! 昨日、お母さんがたまたま買ってきたから試してみようと思って」
「へぇ~、そうなんだ。とても似合ってるよ!」
「えへへ……ありがとう」

 奈絆は微笑を口角に浮かべていた。やっぱり奈絆はどの服を着ても似合う。俺も奈絆を見て、自然と笑みが溢れる。そんな和やかな雰囲気のままショッピングに向かう。
 ショッピングに向かう理由は奈絆がずっと欲しかったものがあるからだ。それにこれから行くお店はシネマ館もあり、ショッピングが終わった後に映画を見る予定もある。
 俺達が歩いているとパトカーのサイレンが聞こえてきた。

「最近、多いよね……」
「そうなんだよな……奈絆が危険な目にあったら俺が絶対に守るから」
「ふふふ……ありがとう」

 奈絆が憂わしげな表情で言うので、場を和ませる為に声を掛けた。それを聞いた奈絆はにっこりしながら答える。安心してくれてないよりだ。

「キャァァァ!」

 奈絆は悲鳴を上げながら何も無いところで転けそうになっていた。

「おっとと」

 俺は慌てて、奈絆を支える。

「どうしたんだよ、急に」
「……ごめんなさい……足が絡まっちゃって……」

 (普通のシューズでかい‼︎)と言いたくなってしまう。奈絆は少しおっちょこちょいなところがあるのだ。ただ、そんな奈絆も可愛いのでよしとする。
 そんな問題があったものの、あの後は何もなく無事にショッピングモールに着いたので、俺達は買い物を始めることにした。
しおりを挟む

処理中です...