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第十九話 両親と初対面

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 自室に戻ってきた僕は玲奈を迎えにいく準備をしていた。

「準備はこれでよし! あとは玲奈の連絡を待つだけだ」

 僕は玲奈の連絡を待っている間に剣道の素振りでもしていようと考え、道場に向かって歩き出した。
 ゲームはやっているが、まだ剣道はやめていない。
 学校で剣道部に所属しているのだが、ほとんど学校で練習をすることはなく、家の道場でお父さんとマンツーマンで練習を行なっている。
 お父さんも剣道で全国一位になるほどの実力者なので、学校で練習をするより家で練習をしたほうが上達する。
 お父さんは剣道の実業団をやっており、休みの時しか練習をする機会はなかったがお父さんの指導が良いのでここまで成長することができた。ちなみにお母さんは執筆しているライトノベルの売り上げが二千万部を超える売れっ子ラノベ作家である。

「どこいくの?」

 一階のリビングを通り過ぎようとした時にお母さんに話しかけられる。

「道場で素振りしてくる! 今日、彼女が家に来るからご飯多めに用意しといて!」
「分かったわ!」

 僕はそう答えて家から出ていく。

「呼んでくるのね……どんな子かしら……」

 お母さんはにこにこしながら言っていた。
 僕は道場で声を出しながら素振りを始めた。
 素振りを始めてから一時間経った頃にスマホが鳴る。

玲奈
あと十分くらいで着くわよ

悠斗
分かった! すぐに向かう!

玲奈
ありがとう! また後で!

悠斗
おう!

 僕は直ぐに練習を切り上げ、最寄り駅に向かって自転車を走らせた。
 玲奈が最寄り駅に着くのと同刻に到着した。
 玲奈はまだ駅の外には出てきていないようなので、僕は玲奈が出てくるのを待った。
 数秒後、背中にリュックを背負った玲奈が駅から出て来た。

「さっきぶりだね! 玲奈!」
「悠斗! こんにちは!」

 僕と玲奈は軽い挨拶を交わして、家へと向かっていく。
 玲奈は歩きなので、僕は自転車を引いて玲奈のペースに合わせる。

「緊張してる?」
「当たり前でしょ」

 玲奈は声と表情を強張らせている。
 当然のことだ。僕も玲奈の家にお邪魔するとなったらこうなるだろう。

「僕の両親、フレンドリーだから大丈夫だよ」

 僕は玲奈の緊張を少しでも和らげるために声をかける。

「そうなのね……」

 玲奈は小さい声で答えていたが、さっきよりも表情が軽くなった気がする……。
 玲奈と話をしていると僕の家に着いた。

「家はここだよ!」
「広い家ね……」

 玲奈は僕の家を見て驚きの表情を見せていた。
 それもそのはず、僕の家は和風建築で敷地の中には道場と池が存在しているのだ。全てお父さんの趣味である。
 僕と玲奈は門を開けて中に入っていく。
 門に入ってすぐに池が姿を表し、中には魚が元気よく泳いでいる。こちらはお母さんの趣味だ。
 僕と玲奈は家の前に到着し、いつも通りの口調で家の扉を開けた。

「ただいま!」
「おかえり!」

 お父さんとお母さんは僕の帰宅を待っていたらしく、同時にリビングから出てきた。
 
「初めまして、悠斗さんとお付き合いをさせていただいている月城玲奈と申します。つまらないものですが、受け取ってください」

 玲奈は礼儀正しく挨拶をして、手に持っていた手土産をお母さんに渡す。

「ありがとね!」

 お母さんは表情を緩めながら、玲奈の手土産を受け取る。
 お父さんは玲奈をじっと見ているので、玲奈は緊張してしまってる。

「あなた! 玲奈さんに失礼ですよ!」

 お父さんの行動を見ていたお母さんがにこにこしながら、頭にゲンコツをくらわせる。

「いてぇ!」

 お父さんは突然、ゲンコツをされたので大きい声を出した。
 玲奈は驚きのあまり少し後退する。
 お父さんが女性をじっと見つめるときは可愛い人が目の前に現れた時のみなので、ゲンコツの裏には(私がいるのに何で見惚れているの)と言うお母さんの気持ちが込められていると思われる。

「玲奈さん! ごめんね!」
「大丈夫です……」
「料理ができてるから上がって!」
「失礼します」

 お母さんが家に招き入れたので、玲奈は挨拶をしてリビングへと入っていく。僕も後に続く。
 お父さんの方を見てみるとさっきのゲンコツがかなり効いたみたいで痛そうにしている。
 お父さんのことを少しかわいそうだと思いながらリビングに入っていく。
 リビングに入ってみるとテーブルの上には鍋料理が用意されていた。
 僕たちは席に着く。席の配置は僕と玲奈が隣で向かい側にはお父さんとお母さんが座っている。まるで結婚の報告をするかのような配置になった。
 
「いただきます!」

 玲奈を入れて、いつも通りに食事を開始した。

「玲奈さんはどこに住んでいるの?」
「名古屋に住んでいます」
「名古屋はいいところだよね! 実を言うと私も名古屋出身なのよ」
「そうなんですか」

 二人は初対面なのに出身地の話で盛り上がっているようだ。僕は少し安心する。
 女性陣が盛り上がっているので、僕とお父さんは完全に置いてきぼりにされる。

「悠斗、どっちから告白したんだ?」
「どちらかと言うと向こうかな……いきなり好きと言われた」
「俺の時と一緒だな!」
「そうなの? てっきり自分から言ったと思ってた」

 お父さんの性格上、お母さんに告白されたとは考えにくい……。そのため自分の耳を一瞬疑った。

「俺もそうしたかったんだけど……先に言われたんだわ!」
「ヘェ~、そうなんだ」

 まさかお父さんとお母さんが付き合うきっかけになった話を聞けるとは思わなかった。
 その後もお父さんの恋愛話を長々と聞かされたが、そんな話をめったに聞けないと思っていたので新鮮な気持ちで聞いている。参考になるかもしれないし……。

「玲奈さんは律子に似てるかもしれない」
「あなた! 何か言った?」

 お父さんがお母さんの名前を話に出したので、お母さんが反応をした。

「玲奈さんは律子に似てるなと言っただけだよ」
「そう!」

 お母さんはそれだけ言い残すと再び玲奈と話し始めた。
 すっかり仲良くなってしまったようだ。
 玲奈の表情にはさっきみたいな硬さはもうない。
 その後も女性陣と男性陣に分かれて話をしたり、四人で話をしたりしていたら食事がいつの間にか終わっていた。

「ごちそうさまでした!」
「玲奈さん、今日泊まってくなら私の服を使っていいよ」
「ありがたく使わせてもらいます」
「え? マジ?」

 いつの間にか玲奈が家に泊まると言う話になっていたらしく、僕はびっくりして目を開いた。

「マジよ! 悠斗の部屋でお世話になるわね!」

 (一体、これはどう言う状況なんだ……)僕は話が急に進みすぎてついていけてない。
 (自室で二人っきりって何するんだ?)

「頑張れよ! 悠斗!」

 お父さんもにやけながらこんなことを言っている。
 (どうするんだぁぁぁ‼︎ これぇぇぇ‼︎)心の中で僕は頭を抱える。
 とりあえず、僕と玲奈は部屋に行くことにした。
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