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第五十三話 全属性を司るもの前編

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 階段を登り切ると大きな扉が出てきた。そしてその扉には何らかの文字が刻まれていた。書かれている内容はこうだ。

〔ついにラスボスに到達しましたね、おめでとうございます! ここから先は援助アイテムなしです。まぁ、一回では倒せないと思うけど、せいぜい頑張れ!〕

「最後の言葉、絶対に舐めてるよな?」
「確かに! 久々にイラッとしたわ~!」
「絶対に一回で倒してやろうな!」
「おう!」

 僕とトモは決意を固めて、中に入っていく。中に入ってみるとそこには闘技場みたいな場所が広がっていた。
 闘技場の奥には剣を地面に刺し、椅子に座っている全身武装した騎士みたいなモンスターがいた。おそらくあれがラスボスだ。外観だけを見ると非常に強そうだ。

「あの剣、欲しい……」

 僕はボスの外観よりも目立つ、七色に光る剣を見て本音が漏れてしまう。何らかの条件を達成すると手に入るかもしれない。

「弓はないのかな……」

 トモも七色に光る剣に見惚れてしまっている。各々でそんな感想を抱きながらボスモンスターに近づいていく。
 ボスモンスターに近づくと目が青色に光り、椅子から立ち上がった。ボスモンスターの名前は極光騎士《きょっこうきし》でHPはこのダンジョンのボスと比較にならないほど多く三十万と表示されていた。僕とトモは頭に驚愕の色を浮かべた。

「マジか! レイドボス並じゃん!」
「二人で倒すべき相手ではないな……まぁ、ここまで来たら引かないけど……」
「そうだな! やるぞ! トモ!」
「おう!」

 極光侍のHPを見る限り、このダンジョンで倒してきたボスモンスターよりも圧倒的に強いことが分かる。支援アイテムもなしなので、慎重になる必要がある。
 そんな思考を頭の中で巡らせていると極光騎士が動いた。極光騎士は剣を地面と平行に持ち、半円を描く。そして十二個の玉を背後に作り始めた。全ての玉には6種類の色がついており属性玉だと言うことが分かる。
 属性攻撃主体なら【属性無効】スキルをもっている僕とトモには相性がいいかもしれない。【属性無効】スキルは六属性の無効スキルを手に入れたときに進化したものだ。

「ヒビト! この攻撃の対処は俺に任せろ!」

 後ろから大きな声でトモが言ってきたので、僕は数歩下がりトモの後ろに移動した。

「お手玉(六色陣)!」
「あれ? そんなスキルあったっけ?」

 トモが【お手玉】スキルをコンプリートしたときにスキル一覧を見せてもらったのだが、このような名前のものはなかった気がしたので質問した。

「ないよ! 今、俺が作ったから!」

 トモは親指を立てて、僕に言ってくる。六属性の【お手玉】スキルを同時に発動しているので、こんな名前をつけたのだろうか……。

「良いネーミングだ!」

 僕も親指を立てて、トモを褒める。トモは「ありがとう」とお礼を言った後に極光騎士の属性玉を迎撃する。
 極光騎士の属性玉は十二個で、トモの【お手玉】スキルで発動した玉の数は十八個だ。余った玉は極光騎士に直撃したが、効果は無かったようでHPが全く減っていない。
 このことから推測できることは、極光騎士も【属性無効】スキルを持っていると言うことだ。そしてお互いに属性が付与されていない攻撃が有効になると言う訳だ。

「極光騎士も属性無効スキルを持っているみたいだ! 属性付与をされてない攻撃で倒そう!」
「オッケーだ!」
 
 トモが僕の指示を理解してくれたので、バフをかけていく。バフと言うのは有利な効果が発生することを指すらしい。
 まずは【疾風迅雷】を使い、AGIをSTRと同じにし、久々にロングコートの内ポケットで休んでいるアサとヨルを呼び出して雷で攻撃してもらい【窮地】を発動させ、STRを上げる。さらに生存率を上げるために【歌唱】を発動させ、HPとMPの自然回復効果も付けた。
 
「今から近づくからよろしく!」
「オッケー!」

 準備が整ったので、極光騎士に近づく。極光騎士は剣から炎を発生させ、斬撃を飛ばしてくる属性を纏っている斬撃攻撃は僕には効かないので、避けずに一直線に進んでいき胴体に上から振り落とすように攻撃する。まだ攻撃ができそうなので続けて右から薙ぎ払うように斬った。
 【貫通攻撃】を持っているので防御力を気にせずに攻撃できるのは良いのだが、HPが多いので少ししか削れなかった。(【雪月花】を連発して倒そうかな)と考えていると極光騎士は剣に風を纏わせ剣を薙ぎ払ってくる。

「おっと……」

 そう呟くと僕は後方にジャンプして回避をした。だがその直後に目の前で竜巻が発生したので、巻き込まれてしまった。

「うわぁぁぁぁぁ!」

 竜巻により僕の体は高々と上空に打ち上げられ、地面に落下する。属性ダメージはなかったものの落下ダメージでHPが三割ほど減ってしまった。

「ヒビト! 大丈夫か!」

 トモが心配して駆け寄ってこようとしていたが、極光騎士が武器を弓に切り替えてトモの進行を阻む。極光騎士は雷属性を纏わせた六つの矢を二回に分けて一つの弓から同時に発射する。

「マルチショットだと!」

 トモは驚いて目を白黒させていた。そして急停止をし、高速射撃でマルチショットを迎撃する。トモがマルチショットを迎撃している間に僕はHPを一割ほど回復させていた。

「トモ、時間を稼いでくれてありがとう!」
「どういたしまして! とは言ったものの、極光騎士の矢を迎撃していただけだけどな!」
「それでもトモのおかげで回復できたことには変わらない!」

 僕とトモが会話しているとそれを遮るようにいつの間に剣に切り替えていたらしい極光騎士が氷を纏わせ、ツキナの【アイシクルスピア】みたいに氷柱を複数個作り出し、こちらに放ってくる。

「会話を遮るな!」

 と極光騎士にツッコミをし、リズムよく回避をしながら接近をする。
 回避しなくてもダメージはないと思うが【ダンス】スキルでリズム良く相手の攻撃を避けるとSTRが最大、5倍までアップすると言うものがあったのでそれを発動するために避けたのだ。

「雪・月・花‼︎」

 僕は極光騎士に十分に接近した後、思いっきり声を張り上げる。これが当たれば極光騎士に大ダメージを与えることができる。そんな期待した気持ちも込めてスキルを発動したのだが、極光騎士は土属性を武器に纏わせ、多重障壁を作りだした。

「マジかよ……」

 【雪月花】は極光騎士に届かず、完全に防がれてしまった。【雪月花】を防がれたのはこのゲームを始めて初めてのことだったので、少しだけショックを受けてしまう。

「ピィアスアローウ! 高速五連射!」

 極光騎士が障壁を作ったときの一瞬の隙を狙って、トモが射撃を行う。だがこれも極光騎士が素早い反応をみせ、風を体から発生させてすべての矢を打ち落とした。

「ちっ! これでもダメか……」

 トモは悔しそうな表情を見せて呟く。鉄壁の守りと多彩な攻撃を器用に使い分ける極光騎士にダメージを与えられない状況が続く。
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