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第五十二話 地潜獣モクリ

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 茶色の大きな扉を押し開けて、僕とトモは中に入っていく。
 中に入ってみると全面が砂漠みたいに砂で埋め尽くされていた。見た感じボスの姿は見当たらない。地面にでも潜っているのか……。
 僕とトモが警戒しながら奥に進むと目の前の地面がポコポコと隆起をし始めた。

「退避!」

 僕は部屋中に響き渡る大きな声で叫ぶ。状況から推測して地面から先制攻撃を仕掛けられると思ったからだ。
 僕の指示でトモは後方に跳んで退避する。僕もトモと同じように後方に跳ぶ。
 僕とトモが退避してすぐに地面から巨大なモグラが出現した。鼻にはドリルのようなものが付いており、その鼻で突き攻撃をしてきたのだ。後方に退避していなかったら大ダメージを受けていただろう。

「早めに回避して正解だったな」
「おう! ヒビト、ナイス指示だったぞ!」
「それはどうも! でもトモも気付いていたでしょ?」
「気付いてたけど、ヒビトの声で体が動いた訳だ! ありがとう!」

 トモに感謝されたので、嬉しいと思いつつ巨大モグラの方に顔を向ける。巨大モグラの名前は地潜獣《ちせんじゅう》モクリでHPは八万程だ。体も上半身しか出ておらず、厄介な攻撃をしてきそうなボスモンスターである。

 慎重にダメージを与えていかないといけな……。

「序盤は攻撃パターンを見極めたい! 援護を頼む!」
「了解!」

 トモに援護を頼み、僕はモクリの周りを旋回する。そしてモクリの背後に回るとすぐさま接近をする。
 僕の攻撃範囲にモクリが入ったので攻撃をしようと思ったのだが、モクリは振り向きざまに鋭い爪で地面を引っ掻き、泥玉を飛ばしてきた。まるで後ろに目でもあるかのような早技である。
 モクリの不意を突こうと思ったのだが、逆に不意を突かれてしまった。僕は攻撃を避けることができず泥玉に当たってしまった。
 【土無効】のスキルを持っていたので、ダメージは受けなかったが、泥を被ってしまったので体が汚れてしまう。

「うわぁぁぁぁ! 最悪だぁぁぁー! マジで汚い!」

 思わず悲鳴を上げてしまう。泥を被ったのは幼稚園児のとき以来だ。モクリがこう言う攻撃ばっかりしてくるのなら先にメンタルがやられてしまうかもしれない。
 泥を被りながらも攻撃は当てることができたので、モクリのHPを奪うことは出来た。そんなことを繰り返しながら攻撃パターンを確認していく。

「モクリの攻撃パターン、だいたい分かった」
「どんな感じだったんだ?」
「背後から攻撃するより、前から攻撃した方が読みやすい! 積極的に前から攻撃していくべきだ!」
「なるほど、前から積極的に攻撃してくわ!」
「頼む!」

 この攻撃パターンを見切るために十回くらい泥を被った訳だが、なんとかメンタルは持った。もう二度と泥の被るのはごめんだが……。
 モクリは普段は地中に潜っているせいなのか背後からの攻撃に敏感になっているようだ。それなのに前からの攻撃には鈍感だった。
 
「僕が氷山を使って隙を作るから追撃を任せた!」
「任されたぜ!」

 【氷山】を使うと言ったものの、一日一回しか使えないスキルの威力やMP消費量は未知数だ。どんな技かは雪男戦で目にしているので予想はつくが。
 僕は雪男と同じように足をゆっくりと上げ地面に向かって足を下ろす。すると部屋中の地面から氷の針が現れモクリを襲う。このスキルが直撃したモクリはHPを三割近くまで減らした。

「あれ……? ち、力が……入らない……」

 僕はそのまま地面に倒れてしまった。

「おい! ヒビト! 大丈夫か⁉︎」

 トモは僕がモクリに攻撃されないように担いでくれた。【氷山】は高威力だったものの、デメリットが非常に大きかった。

 まさかMPが全損するとは……。

 MPが全損すると脱緑状態に陥るらしい。使い所を考えないと逆にやられてしまう。

「悪い……トモ……」
「いいって、それよりこれを飲めよ!」

 トモはそう言うとSPを回復するための薬を渡してくれた。
 僕は「ありがとう」とお礼を言った後、すぐにSP回復薬の蓋を空け口の中に流し込む。流し込んですぐに効果が出て、歩けるくらいまでになった。

「復活!」

 少しだけ脱力感は残っているが、水を得た魚のように元気になった。

「良かった、良かった!」

 トモは少しだけ疲れているようだったが、顔に笑顔をにじませながら言ってくれた。
 僕を担いでモクリの攻撃を避けてくれていたので疲れているのだろう。(迷惑をかけた分しっかりと働かないといけないな)そう決意しつつ、モクリの方を見やる。

「よっしゃぁぁ! 仕切り直しだ!」

 気合を入れるために大きな声を出した後、モクリに接近を開始する。モクリは地面に鋭頭を突き刺し、僕に泥の塊を飛ばしてくる。避けなくてもダメージはないと思うが、もう泥は被りたくないので攻撃を避けモクリの顔に一撃を入れる。

「面‼︎」

 さらにそのまま体を回転させて水平に斬る。そしてモクリが怯んだので追撃する。

「雪・月・花!」

 僕の最高威力の攻撃を受けたモクリはHPを大きく減らし、五割を下回った。【雪月花】の威力は相変わらず恐ろしい。 
 HPが半分以下になったモクリは地面に潜る。モクリが潜るとボス部屋の地面が揺れ始めた。

「きた、きた! 大技が来た!」
「ヒビト! 鍵の用意を!」
「もう用意してある!」
「さすがだな!」
 
 僕は鍵を持ってモクリの大技を待つ。モクリが地面に潜ってから五秒がたった頃、地面の砂が崩れ始めた。
 モクリは地中に潜った際に空洞を作っていたらしい。そして支えがなくなった砂が崩れたと思われる。
 このダンジョンのボスの大技は全てが広範囲で高威力のものだ。道中のイベントをスルーしていたら絶対にクリアできないように作られている。

 やっぱりこのダンジョンはよく作り込まれている。面白いほどに。

「土門の鍵!」

 僕は心を踊らせながら、鍵を開ける動作を行う。今回はどんな効果があるのだろうか……。
 僕が鍵を開ける動作を行うとトモの体が空中に浮き始めた。僕の体を空中に浮く。

「おっ! すげぇ!」
「空を飛ぶとは!」

 僕とトモはシステムに身を預け、モクリの攻撃を空から見守る。浮いてすぐに地面の砂が完全に崩れ、モクリの姿が目に入った。
 モクリは鼻についているドリルを回転させ、僕とトモが落下しているのを待っているように見えた。

「巻き込まれなくて良かったな」

 僕は安堵する。あのまま落ちていたらドリルの餌食になり、死んでいたかもしれない。

「ほんと、ほんと」

 トモも安堵しているようだ。

「あれは何だ?」

 モクリの背中の中央に目立つ色で円ができていたのを確認すると指を刺し、トモに質問する。

「モクリの弱点じゃないかな……」

 トモは考える仕草をした後、自信なさそうに答えてくれた。

「なるほど…… 弱点か……」
「確信はないけど、多分そうだと思う」
「よし! ならこの浮遊が解除されたら試しに攻撃してみる」
「おう! やってみてくれ!」

 トモとそんな話をしていると急に体が重くなり、落下を始めた。

「まて、まて、まて! この高さで効果が切れるのはありえないだろぉぉぉぉ! うわぁぁぁぁぁぁぁ! 死ぬ、死ぬ、死ぬぅぅぅーっ!」

 浮遊の効果が切れたのは、地上からおおよそ二十五メートルくらいのところだ。そんなところから落下を始めたので絶叫を上げてしまう。トモはこの距離から落ちたのに「楽しい」とか言ってる。僕からしたらありえない。
 僕とトモは速度が落ちないままモクリの弱点に向かって落下していく。そのまま僕とトモはモクリの弱点に追突した。

「あれ? 全然痛くない……」

 確実に死ぬと思っていたのにモクリの体がとても柔らかくクッションになったのだ。

「ああ言うイベントが発生した時は助かるように出来ているんだからもっと楽しまないと」
「それは絶対に無理だ! 普通は楽しめないからね!」
「そうか? 楽しかったのに……」
「それはトモだけだ!」

 そんなやりとりをしてからモクリの方を見てみると姿は無くなっていた。おそらくHPが無くなり消滅したのだろう。
 
【砂崩しを獲得しました‼︎】

「嘘でしょ! あれで死ぬのか?」
「死んだね! まぁ、結果往来でしょ!」
「それもそうか」
 
 手応えのない終わり方だったが、勝てたのならよしとしよう。そんなことを考えながら階段を登っていく。
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