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第七十二話 ギルドメンバー強化スキル

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 子供の蟻を僕達は倒していた。女王も一緒に攻撃してくると思ったのだが、してこず少しずつ回復をしている。(子供をおとりにして、自分だけ回復とか最低だ!)と言いたくなってしまう。あまりにも数が多いので、全然女王に近づけない。

「子供の蟻を倒している間に回復しちゃいますよ」

 アサガオが言う。この子供の蟻は女王の回復の足止めに過ぎない。すぐに女王の元に向かわないと、せっかく削ったHPが無かったことになってしまう。それだけは絶対に避けたい。

「あぁー! 面倒くさい! あれ使うわ~!」

 トモが言いたいことは何となく分かる。SPを全消費するが、広範囲で高威力のスキルを使おうとしているのだろう。

「オッケー! みんな! トモのカバーに入って!」

 僕はみんなに指示する。トモがSP回復薬で回復している間に隙ができてしまうからだ。ツキナはコジロウとトモを囲うようにシールドを張る。そしてトモとコジロウを囲むように陣を組み子供のアルメールアントを倒していく。

「界雷!」

 トモは自分のSPを全て消費して、部屋中に雷を発生させる。雷は部屋にいる子供のアルメールアントを一匹残らず消滅させていく。ついでに回復していた女王にも攻撃を当てた。女王のHPが三割以下になる。
 このスキルを使った後は脱力状態に陥ってしまうので、トモはすぐにSP回復薬を口に入れる。大きなデメリットはあるが、さすがの威力である。
 みんなは「ナイス!」、「ナイスだよ!」、「ナイスでござる!」などとトモを褒める。トモは少しだけ照れくさそうに「ありがとう」と言っている。
 女王までの道は開かれた僕とムサシとアサガオはこのチャンスを逃さないために急接近する。

「天眼雷!」
「燃えちゃえ!」
「鎌鼬《カマイタチ》!」

 後方では遠距離武器を使うツキナ、トモ、そしてリリが攻撃する。全ての属性を含んだ矢の雨、猛炎、風の刃が女王を襲う。

「分身! 炎撃!」
「桜雨!」

 僕よりも先にアサガオとムサシが先行する。アサガオは両手の短剣で五連撃攻撃をする。分身も同じ動作をする。ムサシは六連撃攻撃をする。攻撃をするたびに桜吹雪が起き、追加攻撃を与えていく。

「六明神! 炎! 雪・月・花!」

 僕は複数の属性やられ状態になった女王にとどめを刺す。三割あったHPは全て無くなり、女王は消滅する。

【レベルが85になりました! 軍気を獲得しました!】

「よっしゃぁぁ!」
「やりましたね!」
「やったー!」

 僕達は歓喜の声を上げる。中々、厄介な相手だったので、達成感を感じているからだ。
 やっぱり【雪月花】でフィニッシュできると、とても気持ちが良い。本来の目的であるギルドメンバーを強化するスキルらしきものも手に入ったみたいだ。

「みんなに聞きたいんだけど、軍気というスキル手に入った?」
「手に入れてないわよ」
「そんものは手に入ってないですね」
「そうなのかぁ……」

 ツキナとアサガオの返事とみんなの表情を見る限り、【軍気】というスキルは僕だけが手に入れたみたいだ。
 ギルドリーダーしかこのスキルを手に入れることができないのか。それだったらまだ良いのだが、全員が手に入れることができるのなら、申し訳なく思う。僕は【軍気】の説明を見る。

【軍気、自身から三メートル付近にいるギルドメンバーの全パラメーターを二十分間強化する。ギルドリーダーのみ使用可能。】

 【軍気】はギルドリーダーのみが手に入れることのできるスキルだった。これでみんなが手に入れることができなかった理由が分かった。僕は少しだけほっとする。それにしてもこのスキルは強い。二十分間も強化することができれば、戦闘が大幅に楽になる。

「ヒビト! 軍気ってどんな効果だったの?」
「ギルドリーダーのみが使えるスキルで、ギルドメンバーの全パラメーターを強化するものだったよ」

 ツキナが質問してくるので、すぐに答える。

「目的のスキルをゲットできたと言うことね!」
「おう! 目的達成だ!」
「みんな、見て! 階段が出てきたよ!」

 僕とツキナが話しているとリリが階段のある方を指差しながら、叫ぶ。階層ボスを倒した事で新たに上の階層に行くための階段が出現したらしいのだ。僕はリリの指差した方向を見る。
 見た目が綺麗な石造りの階段。ここにきた時と同じように階段の先が全く見ることができない。また上り切るまでにかなりの時間を使ってしまいそうだ。どうしてこんなにも、
この地下迷宮の階段は長いのだろうか。何か意図でもあるのか。頭の中に疑問が浮かぶ。まぁ、進んでみれば自ずと分かるようになるのだろうか……。
 僕達は十分に休憩を取った後、階段を上り始める。今度は追われてはいないので、歩いて上ってるが、あと何段上ればいいのだろうか。

「長いですねー!」

 元気が戻ったコジロウが言う。アルメールアントのせいで、(トラウマが出来てしまったのではないか)と心配だったので、少しだけほっとする。
 流れを見る限り、今後も虫のモンスターと戦うことになると思うので、耐えて欲しいと思っている。

「そうだな。でも上に行かないと地下迷宮から脱出できないからなぁ~」
「そうですよね! 気長に上りましょう!」

 それにしても長い、何かトラップがありそうだ。こういうフラグを立てるのはあまり良くないのだが……。そう思った側から足元の床が抜ける。

「あぶな‼︎」

 たまたま床が抜けたところには人がいなかったので良かったものの、いきなり床が抜けたら確実に落下する。

「これは……気を付けて進まないといけないな……」

 トモが呟く。確かに気をつけて進まないといけない。崩れそうな場所には何らかの目印があるはずだ。
 僕達は階段を集中的に見ながら進む。階段をよく見てみると崩れる場所には傷が入っていた。よく見ないと分からないくらい細かいものになっている。

「集中して見ないと分からないですね! よく出来ています!」

 アサガオがトラップを褒める。本当に良くできている。
 前からずっと思っていたのだが、このゲームは細かいところまでよく練り込まれている。トモと二人で潜ったダンジョンの時もそうだった。やっぱりこのゲームは楽しい。
 そんなことを考えながら階段を上っていく。次の階層にはどんなモンスターが待ち受けているのか楽しみにしている。
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