ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

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番外編 インバウンド(8)

※今回、話の切れ目ではないところで切っています。

  *  *  *

 動物園はその後、結局1周回って、展示されている動物を大体見てきた。バイソン、ゴリラ、ライオン、シマウマ、ゾウ、エミュー、もちろんコアラも見てきた。インバウンドでもそうするだろう。
 園を出て駅に戻った頃には、日は西の地平にあり、最後の目的地である商店街にやってきた時には、辺りはすっかり暗くなっていた。もっとも、季節的に日が沈むのが早いだけで、平日ならまだ奈都も私たちも部活をしている時間である。特別な旅行の最中だし、もう2時間くらいは遊びたい。
「そうは言っても、もう1万5千歩も歩いてる。涼夏さんの体力ゲージは限界に近付いてる」
 涼夏が疲れたようにそう言いながら、しなだれかかってきた。二の腕が柔らかい。
「それはどうやったら回復するの? 薬草?」
 奈都の質問に、涼夏がうむと頷いた。
「食べ物だな。そもそも、この町はインバウンド的にはどのように楽しめばいいのか」
 帰宅部でもそれなりの頻度で来ているので、大体どこに何があるかは把握しているが、いつもと同じでは意味がない。こちらは元気いっぱいの絢音が、スマホの画面を指で弾いた。
「カルトリによると、食べ物は安くて美味しくて種類も豊富。ピザ、メキシコ料理、台湾料理、居酒屋、ラーメン、唐揚げ、バブルティーなど、いつもの料理が食べれるって」
「メキシコ料理なんて、いつも食べない」
 奈都が食べたことがないと首を振ると、絢音が楽しそうに言った。
「色んな国の料理があるから、海外の旅行客でもいつもの料理が食べれるっていう意味だと思う」
「おおっ。アヤ、天才!」
 奈都が感心したように手を打った。とてもからかいたい気持ちに駆られたが、生憎私も奈都と同じ勘違いをした組なので黙っておいた。
「つまり、インバウンド的にはいつもの料理、私たちには外国の食べ物を食べるのが良さそう?」
 涼夏がどちらでも良いぞと問いかける。
「メキシコ料理なんてあったっけ」
 そう言いながらスマホで調べると、隣で奈都が、「メキシコってどこだっけ」と言いながら地図アプリを開いた。さすがにただの確認だと思うが、私も時々ブラジルとごっちゃになる。エレベーターとエスカレーターのようなものだ。
 メキシコ料理の店はたくさんあるわけではなかったが、評価の高い店が2軒ヒットした。どちらもタコスがメインで、似た雰囲気のナチョスやケサディーヤという食べ物が売っている他に、片方の店ではタコライスも提供していた。
 普段なら、こういう外国人が集まってお酒を飲むような店は怖いので近寄らないが、今日は4人いるし、何事も挑戦である。
「いざとなったらカニを捧げよう」
 私が神妙な面持ちでそう言うと、涼夏と絢音がわかったと頷いた。奈都は可愛らしく頬を膨らませたが、カニのムーブだろうか。
 幸いにも、店内には外国人が多かったが、普通に日本人の若い女性客もいて、特段危険なことは起きなかった。ブリトーはちょっと重そうだったので、タコスを数種類と、チーズたっぷりのケサディーヤ、チキンがたっぷり乗ったナチョスを注文してみんなでシェアする。
 さも色々なメキシコ料理を頼んだようだが、いずれもトルティーヤである。柔らかいトルティーヤで巻いて食べるのがタコス、チーズを挟んで焼いたものがケサディーヤ、油で揚げたトルティーヤを他の具材と一緒に食べるのがナチョスだ。もちろん、今知った。
「うん。いつもの味がする」
 タコスを頬張りながら、絢音が満足そうに頷いた。独特の味が来るのではないかと身構えたが、想像の範疇を超えるようなことはなかった。店員さんは現地の人らしいが、恐らく日本人向けにアレンジされているのだろう。
「アヤ、英語ネイティブじゃなかった?」
 奈都が美術館で言っていたネタを持ち出すと、絢音が「確かに」と元も子もない呟きを零した。
「じゃあ、アメリカに移住したメキシコ人って設定にする」
「強制送還されそう」
「アメリカへの偏見がひどいね」
 震える奈都に、絢音がくすくすと笑った。南側に現代版万里の長城みたいなのを造っていると聞いたことがあるし、奈都の誤解もわかる。むしろ本当に誤解なのかもわからない。日本人でも結構差別されると聞くし、アメリカには少し怖いイメージがある。
感想 8

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