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第70話 クリスマス2 3(1)
※今回、話の切れ目ではないところで切っています。
* * *
科学とは何か、というのはプランの本質ではなく、メインイベントは併設されているプラネタリウムだろう。科学館自体が夕方までしかやっていないし、プラネタリウムは上映時間が決まっている。絢音が一番手なのも、先にカフェに入ったのも、その時間調整だったのだ。
ちなみに、今日など混むのではないかと懸念を伝えると、絢音は朝一でチケットを買ってきたと得意げに言った。
「デートだからね。それくらいの段取りはするよ」
「それはご苦労様。デートごっこで奢ってもらう義理はないから、お金は払うからね?」
「そうしてもらえると助かる」
市の施設なので、科学館とプラネタリウムを合わせても千円もしないのだが、それはそれだ。
カフェから科学館までは徒歩15分と言ったところか。歩き始めようとしたら、絢音が妙にしおらしく目を伏せた。
「千紗都、手を繋いでもいい?」
「うん」
毎日のように繋いでいるが、突然どうしたのか。もちろん、デートモードなのはわかるが、デートだといつもしていることが特別になるのなら、それは関係が後退していることにならないか。
並んで歩きながらそう言うと、絢音が好奇心を刺激されたように頷いた。
「いい着眼点だね。ここでは意味合いが違うって考えた方がいい」
「意味合いねぇ。例えば、同じ『ご飯を食べる』っていう行為であっても、単に栄養を摂取するためか、味を楽しむためかの違いみたいな?」
「完璧すぎて、私が付け足すことは何もないよ。会話には少しくらい隙を作った方がいい」
「私が想定する返事を言うだけに収まる女じゃないでしょ」
「常に新鮮さを提供したい」
くだらない話をしながら科学館に入る。プラネタリウムまでは1時間ほどあるので、中を見て回ることにした。
来たのは何年ぶりだろうか。小学生の頃に来た記憶がうっすらとあるが、もう覚えていない。
展示の範囲は私の思う科学より遥かに広く、音や光、天候、化石、生物、暮らし、エネルギー、物質、地球や宇宙と多岐に渡る。
「科学とは万物だ」
私が大きく括った感想を述べると、絢音が満足そうに頷いた。
「科学からは逃れられない。運命のように」
「つまり、科学は運命」
小学校はすでに休みに入ったのか、館内は小学生でいっぱいだった。当然その保護者もいるのだが、仕事はどうしたのだろう。クリスマスなのでサンタ休暇を取っているのかもしれない。
「騙されるな。そこにいるのは全員サンタだ」
私がぼそっと呟くと、隣で絢音がくすっと笑った。
「私でもついていけない謎思考。好き」
「今のは告白? キスする?」
「今のは告白じゃない」
小学生に交ざって科学を堪能する。中央の棒磁石を回すと周囲にある無数のコンパスが一斉に動くとか、入ると平衡感覚がわからなくなる部屋とか、タングステンが重すぎて持ち上がらないとか、キラキラ光るアンモナイトとか、真っ直ぐな棒が何故か平行に並んだ2つの穴を貫通するとか、枚挙にいとまがない。
他にも南極体験とかもあったが並んでいる時間がなく、竜巻の実験や燃焼実験など、興味深いものがたくさんあったが、全部見ていたら1日いても足りない。
「ここ、普通に面白いね」
「プラネタリウムのついでだったけど、こっちが本命感ある。勉強にもなるし」
「ゆっくり元素を眺めたい」
「また来ようか。科学館だけならハンバーガーより安いし」
涼夏がバイトの日の帰宅部活動で何をするかというのは、2年近く経った今でも悩むところである。科学館は安く楽しめて学びもある素晴らしい遊びだが、残念ながら恵坂は絢音の定期券の範囲外だ。それがまた一つ、絢音との遊びの幅を狭くしている原因でもある。
時間になったのでプラネタリウムに移動する。全席指定で、映画館と違って座席の間隔は離れている。絢音とはもちろん隣同士だが、他人のような距離感だ。
椅子に座ると、背もたれがかなり後ろまで下がった。
「これ、横にも回る。面白い」
隣で絢音が右へ左へぐるぐるしていたので、真似をしてみた。かなりの可動域だ。単に座った状態だと真後ろになる西の空が見えないが、椅子を回せば日が沈む様子も確認できる。
すべての椅子が向くところ、この大きなドームの中央に球体の投影機が鎮座している。遠くから眺めていると、絢音が「あれはプラネタリウムの核だね」と言った。
「プラネタリウムのコア……」
「本体」
「億かな」
「億だね。間違いない」
いかにも間違ってそうに絢音が頷く。考えてみたら、すごい機械ではあるがスポーツカーより高いとは思えない。
* * *
科学とは何か、というのはプランの本質ではなく、メインイベントは併設されているプラネタリウムだろう。科学館自体が夕方までしかやっていないし、プラネタリウムは上映時間が決まっている。絢音が一番手なのも、先にカフェに入ったのも、その時間調整だったのだ。
ちなみに、今日など混むのではないかと懸念を伝えると、絢音は朝一でチケットを買ってきたと得意げに言った。
「デートだからね。それくらいの段取りはするよ」
「それはご苦労様。デートごっこで奢ってもらう義理はないから、お金は払うからね?」
「そうしてもらえると助かる」
市の施設なので、科学館とプラネタリウムを合わせても千円もしないのだが、それはそれだ。
カフェから科学館までは徒歩15分と言ったところか。歩き始めようとしたら、絢音が妙にしおらしく目を伏せた。
「千紗都、手を繋いでもいい?」
「うん」
毎日のように繋いでいるが、突然どうしたのか。もちろん、デートモードなのはわかるが、デートだといつもしていることが特別になるのなら、それは関係が後退していることにならないか。
並んで歩きながらそう言うと、絢音が好奇心を刺激されたように頷いた。
「いい着眼点だね。ここでは意味合いが違うって考えた方がいい」
「意味合いねぇ。例えば、同じ『ご飯を食べる』っていう行為であっても、単に栄養を摂取するためか、味を楽しむためかの違いみたいな?」
「完璧すぎて、私が付け足すことは何もないよ。会話には少しくらい隙を作った方がいい」
「私が想定する返事を言うだけに収まる女じゃないでしょ」
「常に新鮮さを提供したい」
くだらない話をしながら科学館に入る。プラネタリウムまでは1時間ほどあるので、中を見て回ることにした。
来たのは何年ぶりだろうか。小学生の頃に来た記憶がうっすらとあるが、もう覚えていない。
展示の範囲は私の思う科学より遥かに広く、音や光、天候、化石、生物、暮らし、エネルギー、物質、地球や宇宙と多岐に渡る。
「科学とは万物だ」
私が大きく括った感想を述べると、絢音が満足そうに頷いた。
「科学からは逃れられない。運命のように」
「つまり、科学は運命」
小学校はすでに休みに入ったのか、館内は小学生でいっぱいだった。当然その保護者もいるのだが、仕事はどうしたのだろう。クリスマスなのでサンタ休暇を取っているのかもしれない。
「騙されるな。そこにいるのは全員サンタだ」
私がぼそっと呟くと、隣で絢音がくすっと笑った。
「私でもついていけない謎思考。好き」
「今のは告白? キスする?」
「今のは告白じゃない」
小学生に交ざって科学を堪能する。中央の棒磁石を回すと周囲にある無数のコンパスが一斉に動くとか、入ると平衡感覚がわからなくなる部屋とか、タングステンが重すぎて持ち上がらないとか、キラキラ光るアンモナイトとか、真っ直ぐな棒が何故か平行に並んだ2つの穴を貫通するとか、枚挙にいとまがない。
他にも南極体験とかもあったが並んでいる時間がなく、竜巻の実験や燃焼実験など、興味深いものがたくさんあったが、全部見ていたら1日いても足りない。
「ここ、普通に面白いね」
「プラネタリウムのついでだったけど、こっちが本命感ある。勉強にもなるし」
「ゆっくり元素を眺めたい」
「また来ようか。科学館だけならハンバーガーより安いし」
涼夏がバイトの日の帰宅部活動で何をするかというのは、2年近く経った今でも悩むところである。科学館は安く楽しめて学びもある素晴らしい遊びだが、残念ながら恵坂は絢音の定期券の範囲外だ。それがまた一つ、絢音との遊びの幅を狭くしている原因でもある。
時間になったのでプラネタリウムに移動する。全席指定で、映画館と違って座席の間隔は離れている。絢音とはもちろん隣同士だが、他人のような距離感だ。
椅子に座ると、背もたれがかなり後ろまで下がった。
「これ、横にも回る。面白い」
隣で絢音が右へ左へぐるぐるしていたので、真似をしてみた。かなりの可動域だ。単に座った状態だと真後ろになる西の空が見えないが、椅子を回せば日が沈む様子も確認できる。
すべての椅子が向くところ、この大きなドームの中央に球体の投影機が鎮座している。遠くから眺めていると、絢音が「あれはプラネタリウムの核だね」と言った。
「プラネタリウムのコア……」
「本体」
「億かな」
「億だね。間違いない」
いかにも間違ってそうに絢音が頷く。考えてみたら、すごい機械ではあるがスポーツカーより高いとは思えない。
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