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第70話 クリスマス2 4(2)
※(1)からそのまま繋がっています。
* * *
紅茶を飲みながらしばらく談笑していると、やがてアフタヌーンティーの特徴的なスタンドが運ばれてきた。うっすらと存在する知識通り、1段目にサンドイッチ、2段目にスコーン、3段目に華やかなケーキの類が乗っている。
店員さんの説明を聞いてから写真を撮る。私はそうでもないが、アフタヌーンティーに来る人の目的の半分は写真だろう。
店員さんにも撮ってもらって、ようやく涼夏がスマホを置いた。いつもならグループに流すのに、今日はグループにもSNSにも流していない。絢音と比べるといつもと変わらない振る舞いだが、デートを意識しているのだろう。絢音の話題も出さないし、絢音も涼夏の話を一切しなかった。事前に何か決めているのかも知れない。
「アフタヌーンティーは1段目から食べるらしい」
「もしついケーキから食べたら?」
何か面白い反応を期待してそう言うと、涼夏がやにわに目を丸くして唇を震わせた。
「ケーキ、食べてしまったんですか? サンドイッチを食べる前に、何故ケーキを食べたのですか?」
「いや、知らなくて」
たじろぎながらそう言うと、涼夏が悲しそうに首を振った。
「マナーに反する人はお帰りください」
「そこまで?」
「有名なコピペらしい」
「昔奈都が言ってたような覚えがある」
そう言ってから、つい奈都の名前を出してしまったと慌てたが、涼夏は何も言わずにサンドイッチに手を伸ばした。敢えてスルーしたのだとわかる。やはり、デート中に他の女の話などするべきではないということだろう。
サンドイッチはシンプルなハムとキュウリのサンドイッチ、トマトとバジルとモッツァレラチーズのサンドイッチ、ローストビーフとオニオンのサンドイッチの3種に、シーフードグラタン、サーモンとほうれん草のキッシュの全5種。一つ一つは小さいがなかなかのボリュームだ。
「アフタヌーンティーが高いのも頷けるな。種類が多いし、手間がかかってる」
「ラーニングして、今度涼夏ルームでアフタヌーンティーね」
「一人2千円だな。材料費別」
一体材料費はいくらかかるだろう。小さいものをたくさん作るのは、個人だと割に合わない。
サンドイッチは普通に美味しかったが、見た目から想像できる味だった。そういう意味では経験値が増えてきたのかも知れない。
「食べたことがないって言えば、2段目は未知の領域かも」
スコーンはプレーンとドライフルーツの入ったものの2種。これに、クロテッドクリームとジャムを付けて食べる。ジャムはクランベリーとオレンジのジャムだそうだ。
特にこのクロテッドクリームというものはまったく知らないと目を輝かせたら、涼夏が「生クリームだな」と言った。
「ネタバレ踏んだ」
「脂肪分の高い生クリームを加熱してから冷ますと出来る」
「思ったよりシンプルだった。作ったことあるの?」
「部活では」
さすが料理部だ。スコーンはしっとりしていて、それだけだとパンという感じだったが、クリームとジャムをたっぷり付けたらお菓子になった。もう少しパサパサしたものを想像していたので、サンドイッチよりは意外性があった。
紅茶を別のものにお替わりして、いよいよ一番上の段に移る。一口大のケーキが3種にプチシュークリーム、ブッセとブルーベリーのタルトというラインナップだ。
ケーキはレモンケーキ、ショコラ、抹茶で、そこまで華やかな印象はないので、この辺りが4千円の限界だろう。サービスも最初にスタンドを持ってきてそれっきりだ。お値段の高い店だと、店員さんが紅茶を注いでくれたり、スタンドにないお菓子が振る舞われたり、お土産がもらえたりするらしい。
「まあでも、高校生には十分」
私が満足だと首を縦に振ると、涼夏が同意するように頷いた。
「アフタヌーンティーは今後もしそうな気配があるから、少しずつランクを上げるのがいいと思う」
「涼夏的にも満足?」
私の質問に、涼夏は「そうだね」と明るく笑った。その後微妙な沈黙があったのは、次は絢音も一緒にと言いかけてやめたのだろう。
今回、絢音のいないところでこの遊びを選択したのは、お金がかかるからだ。逆に、絢音も涼夏はあまり科学館には興味がないと見越してあの選択をしたように思える。
デートという設定だから言葉を飲み込んだだけで、もちろん次は絢音と一緒に来たい。高校を卒業したらいきなりお金持ちになれるわけではないが、たまにアフタヌーンティーを楽しむくらいの余裕はできるだろう。それを待とう。
2時間、しっかりお喋りをして店を出た。外はすでに暗く、西の空は恐らくもう沈んだと思われる太陽の残光に赤く照らされている。今は17時前に日が沈む。
「思ったよりボリュームもあった。でも、空間に価値を感じないと、やっぱり少し高いな」
涼夏が私の手を取りながらそう言った。もちろん、原価と比較するつもりはないが、同じ内容を普通の皿に乗せられて4千円と言われたら、確かに高く感じるだろう。
アフタヌーンティーの感想を語らいながら古々都に戻る。特別なことをしたという意味ではデートっぽかったが、空気はいつものお茶会の延長だったように感じる。
どうだったか聞くと、涼夏はうーんと首をひねった。
「恋人ごっこ、難しいな。ぶっちゃけ、友達でも恋人でも、やること変わらなくない?」
「それはむしろ私が常々思ってる」
「千紗都が他の友達とは違うっていうのは元々だし、隣の席にいたカップルだって、なんか大学の講義の話とかしてたし」
隣にいたのは、間違いなくカップルだった。しかし、何が私にそう確信させたのだろう。少なくとも、会話の内容ではない。
「距離感? 眼差し?」
「余裕は感じたな。夫婦みたいな」
「絶対にただの友達じゃなかったよね?」
「カップルだな。でも、ほとんど大学と友達の話しかしてなかった」
涼夏もわからないと首を振った。
会話が途切れたので、とりあえずという感じでキスをした。唇がひんやりしている。絢音は一応告白っぽい言葉があったが、他の女の話をするのはやめよう。
「恋愛は難しい」
涼夏がそう呟いて、私たちの楽しいアフタヌーンティータイムは幕を下ろした。
* * *
紅茶を飲みながらしばらく談笑していると、やがてアフタヌーンティーの特徴的なスタンドが運ばれてきた。うっすらと存在する知識通り、1段目にサンドイッチ、2段目にスコーン、3段目に華やかなケーキの類が乗っている。
店員さんの説明を聞いてから写真を撮る。私はそうでもないが、アフタヌーンティーに来る人の目的の半分は写真だろう。
店員さんにも撮ってもらって、ようやく涼夏がスマホを置いた。いつもならグループに流すのに、今日はグループにもSNSにも流していない。絢音と比べるといつもと変わらない振る舞いだが、デートを意識しているのだろう。絢音の話題も出さないし、絢音も涼夏の話を一切しなかった。事前に何か決めているのかも知れない。
「アフタヌーンティーは1段目から食べるらしい」
「もしついケーキから食べたら?」
何か面白い反応を期待してそう言うと、涼夏がやにわに目を丸くして唇を震わせた。
「ケーキ、食べてしまったんですか? サンドイッチを食べる前に、何故ケーキを食べたのですか?」
「いや、知らなくて」
たじろぎながらそう言うと、涼夏が悲しそうに首を振った。
「マナーに反する人はお帰りください」
「そこまで?」
「有名なコピペらしい」
「昔奈都が言ってたような覚えがある」
そう言ってから、つい奈都の名前を出してしまったと慌てたが、涼夏は何も言わずにサンドイッチに手を伸ばした。敢えてスルーしたのだとわかる。やはり、デート中に他の女の話などするべきではないということだろう。
サンドイッチはシンプルなハムとキュウリのサンドイッチ、トマトとバジルとモッツァレラチーズのサンドイッチ、ローストビーフとオニオンのサンドイッチの3種に、シーフードグラタン、サーモンとほうれん草のキッシュの全5種。一つ一つは小さいがなかなかのボリュームだ。
「アフタヌーンティーが高いのも頷けるな。種類が多いし、手間がかかってる」
「ラーニングして、今度涼夏ルームでアフタヌーンティーね」
「一人2千円だな。材料費別」
一体材料費はいくらかかるだろう。小さいものをたくさん作るのは、個人だと割に合わない。
サンドイッチは普通に美味しかったが、見た目から想像できる味だった。そういう意味では経験値が増えてきたのかも知れない。
「食べたことがないって言えば、2段目は未知の領域かも」
スコーンはプレーンとドライフルーツの入ったものの2種。これに、クロテッドクリームとジャムを付けて食べる。ジャムはクランベリーとオレンジのジャムだそうだ。
特にこのクロテッドクリームというものはまったく知らないと目を輝かせたら、涼夏が「生クリームだな」と言った。
「ネタバレ踏んだ」
「脂肪分の高い生クリームを加熱してから冷ますと出来る」
「思ったよりシンプルだった。作ったことあるの?」
「部活では」
さすが料理部だ。スコーンはしっとりしていて、それだけだとパンという感じだったが、クリームとジャムをたっぷり付けたらお菓子になった。もう少しパサパサしたものを想像していたので、サンドイッチよりは意外性があった。
紅茶を別のものにお替わりして、いよいよ一番上の段に移る。一口大のケーキが3種にプチシュークリーム、ブッセとブルーベリーのタルトというラインナップだ。
ケーキはレモンケーキ、ショコラ、抹茶で、そこまで華やかな印象はないので、この辺りが4千円の限界だろう。サービスも最初にスタンドを持ってきてそれっきりだ。お値段の高い店だと、店員さんが紅茶を注いでくれたり、スタンドにないお菓子が振る舞われたり、お土産がもらえたりするらしい。
「まあでも、高校生には十分」
私が満足だと首を縦に振ると、涼夏が同意するように頷いた。
「アフタヌーンティーは今後もしそうな気配があるから、少しずつランクを上げるのがいいと思う」
「涼夏的にも満足?」
私の質問に、涼夏は「そうだね」と明るく笑った。その後微妙な沈黙があったのは、次は絢音も一緒にと言いかけてやめたのだろう。
今回、絢音のいないところでこの遊びを選択したのは、お金がかかるからだ。逆に、絢音も涼夏はあまり科学館には興味がないと見越してあの選択をしたように思える。
デートという設定だから言葉を飲み込んだだけで、もちろん次は絢音と一緒に来たい。高校を卒業したらいきなりお金持ちになれるわけではないが、たまにアフタヌーンティーを楽しむくらいの余裕はできるだろう。それを待とう。
2時間、しっかりお喋りをして店を出た。外はすでに暗く、西の空は恐らくもう沈んだと思われる太陽の残光に赤く照らされている。今は17時前に日が沈む。
「思ったよりボリュームもあった。でも、空間に価値を感じないと、やっぱり少し高いな」
涼夏が私の手を取りながらそう言った。もちろん、原価と比較するつもりはないが、同じ内容を普通の皿に乗せられて4千円と言われたら、確かに高く感じるだろう。
アフタヌーンティーの感想を語らいながら古々都に戻る。特別なことをしたという意味ではデートっぽかったが、空気はいつものお茶会の延長だったように感じる。
どうだったか聞くと、涼夏はうーんと首をひねった。
「恋人ごっこ、難しいな。ぶっちゃけ、友達でも恋人でも、やること変わらなくない?」
「それはむしろ私が常々思ってる」
「千紗都が他の友達とは違うっていうのは元々だし、隣の席にいたカップルだって、なんか大学の講義の話とかしてたし」
隣にいたのは、間違いなくカップルだった。しかし、何が私にそう確信させたのだろう。少なくとも、会話の内容ではない。
「距離感? 眼差し?」
「余裕は感じたな。夫婦みたいな」
「絶対にただの友達じゃなかったよね?」
「カップルだな。でも、ほとんど大学と友達の話しかしてなかった」
涼夏もわからないと首を振った。
会話が途切れたので、とりあえずという感じでキスをした。唇がひんやりしている。絢音は一応告白っぽい言葉があったが、他の女の話をするのはやめよう。
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