ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

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第60話 プレミアム(1)

※今回、話の切れ目ではないところで切っています。

  *  *  *

 毎月最後の金曜日は、少しだけテンションが高くなる。
「今日はプレミアムフライデー!」
 朝、会って早々そう宣言すると、奈都は残念そうにため息をついた。
「それ、部活やってるとあんまり恩恵がない」
「部活は私もやってる」
「一緒に学校の部活紹介のページを確認しようか」
 そう言って、奈都がにっこりと笑った。なかなか巧みな返し方だ。帰宅部を否定するボキャブラリーがどんどん増えていく。
 プレミアムフライデーとは、月末の金曜日を豊かに過ごそうという国の取り組みで、企業は業務を15時で終え、店舗はそれに合わせて様々なサービスを提供している。
 残念ながら働くのが大好きな日本において、前者はまだ定着していないが、後者は大いに盛り上がっている。
 元々ターゲットとされていた居酒屋で、ビールが半額とか小鉢一品サービスとかはもちろん、ファーストフードでもジュースやポテトのサイズアップ無料とか、唐揚げ1つ増量とか、五十円引きとか、様々なサービスが行われている。
 飲食店だけでなく、カラオケは1時間サービスとか、ボウリングは3ゲームの料金で4ゲーム出来るとか、他にもスーパーマーケットやフィットネスクラブ、家電量販店、アパレル、ホテル、テーマパークと、多種多様な業種で、プレミアムフライデーの取り組みが行われている。
 もちろん、業務を早く切り上げる方が定着していないため、多くの会社員がプレミアムフライデーの恩恵を受けられず、学生も奈都のように部活がある生徒はなかなか店に寄る時間が取れない。
 それも、プレミアムフライデーのある週は40時間労働の決まりを撤廃するとか、学校でも部活を休みにするとか、少しずつ増えてきているそうだが、部活動が盛んなユナ校では恐らく適用されないだろう。何にしろ、帰宅部の私たちには関係なく、少なくとも高校生の中では、最もプレミアムフライデーの恩恵を受けている立場にある。
 学校に着くと、私の席で絢音と喋っていた涼夏が、笑顔でスマホをスワイプした。
「プレミアムフライデーだな。今日は何をするかねぇ」
 表示されているのは、市内のプレミアムフライデーの参加店をまとめたサイトだ。もちろん、公のサイトではなく、旅行会社や旅行系の雑誌の会社が運営しているサイトで、すべての店を網羅しているものではない。それに、掲載されている店に行くこともほとんどないが、涼夏曰く、眺めているだけで楽しいらしい。ウィンドウショッピングと同じだろう。
「パターゴルフが1周の料金で何周でも出来るって」
「それ、誰が行けるの?」
「だね。プレミアムフライデーも、土曜日とかにやってくれればいいのに」
 涼夏がもう少し考えて欲しいと不満を述べるが、それはもはやフライデーではない。サタデーだ。
「プレミアムサタデーとかやったら、どこの店も混むだろうね。これ、平日は暇な業界が、安くしてでもお客さんに来て欲しいっていうイベントだと思う」
「まあ、暇な大学生とか平日休みの人とか専業主婦とか自宅警備の人とか、朝からプレミアムフライデーを満喫出来る人もそれなりにいるだろうね」
 朝からではないが、私たちもその一人だ。金曜日は塾がある絢音がぐったりした様子でぼやいた。
「曜日が固定されてると全然恩恵が受けられない。たまには木曜日とかにやって欲しい」
 それは一理ある。ただ、それはもはやフライデーではない。サーズデーだ。
「塾の方がプレミアムフライデーを休みにするべきでは?」
 涼夏が別の案を述べると、絢音が諦めたように息を吐いた。
「遊びと対極的な存在だからねぇ。むしろ、みんながPFに浮かれてる間に差を付けようってノリだね」
「今日も浮かれる予定だから、どんどん絢音に差を付けられるな」
 涼夏が無念だと首を振ったが、元々涼夏と絢音の差は絶望的に開いている。もっとも、先日の中間テストで涼夏は飛躍的に成績を伸ばしたし、やる気になったら絢音と同じくらいのポテンシャルを秘めている可能性はある。
 テストが返ってきた後、そんなことを言ったら、涼夏は「やる気にならないから秘められたままだな」と笑っていた。勉強を出来ることもまた才能である。今のところはほどほどに頑張って、帰宅部の遊び優先の方針だ。ましてや今日はプレミアムフライデーである。
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