330 / 403
番外編 TRPG 5(2)
※(1)からそのまま繋がっています。
* * *
戦うのなら、この配置はよくない。範囲魔法で一網打尽にされる危険を回避するために、すぐにアヤネとナツが斬りかかった。私は壁の上の男に石つぶてを放つ。スペルなので当たり前だが、直撃して男は壁の向こう側に落ちていった。倒してはいないだろうが、戻ってくるまで時間が稼げる。その数十秒が大事だ。
2対2で斬り結ぶ後ろから、マナ使いの両手から強烈な稲妻が私に向かって迸った。スズカがまだ使えない高位の攻撃魔法だ。
かなり痛かったが、どうにか堪えた。こうなると、私に使ってくれたのは有り難い。倒れさえしなければ、スペルで怪我を治せる。しかも精神力も限りなく満タンだ。
スズカはあくまで攻撃魔法は使わずに、アヤネの武器を強化した。ナツが一人を足止めしてくれている間に、アヤネが一人を打ち倒す。今のところ、1対1で戦って勝てるのはアヤネだけだ。もっとも、それもスズカの補助があってのことで、アヤネも後ろに私たちがいるから全力で戦える。
15年を超える付き合いだ。冒険者としての経験不足はチームワークで補う。
壁から落ちた男が戦線に現れたが、再び私の石つぶてとスズカの放ったエネルギーの矢を受けて動かなくなった。ほとんど同時にアヤネが斬り結んでいた相手を打ち倒したが、それによって前に壁がなくなり、マナ使いの稲妻をまともに浴びる。
アヤネが地面に倒れたが、スズカの魔法の防御もあるので命は大丈夫だろう。
私は剣を引き抜いて走った。ナツの隣をすり抜けて、マナ使いに斬りかかる。
手応えはあったが、マナ使いは踏みとどまって、三度目の稲妻を放った。ギリギリ堪えたが、私ももう限界だ。ただ、さすがにもうマナ使いもスペルは使えまい。
スズカの放ったエネルギーの矢がナツの相手に突き刺さり、前向きに倒れ込んだ。ナツがすぐにマナ使いに斬りかかる。
これで勝ったと思ったが、剣を振り下ろした先に使い魔の猫が躍り出て、ナツは寸前で剣を止めた。男がニヤッと笑って、四度目の稲妻を放った。
いくらなんでも、そんなに精神力がもつはずがない。魔宝石か何かを使っていたに違いない。誤算だ。
既に斬り合いで怪我をしていたナツは、アヤネ同様完全にやられてしまった。無傷のスズカが私に回復魔法をかける。
マナ使いも私の貧弱な一撃を受けただけで、ほとんど無傷だ。もし私が倒されたら、マナスキルの低いスズカでは勝てない。
剣を掲げて走る。男が余裕の表情で両手を突き出す。まさかの5回目。それを使われたら、命まで危ない。
相手の方が一瞬速い。諦めかけた刹那、男の足に魔法的な蔦が絡み付き、私の切っ先が男の胸を深々と貫いた。
どうにか勝ちを収めると、まずはただの猫に戻ったトリノアのペットを確保する。魔法で眠らせたいが、それに精神力を使う余裕はない。
無理矢理袋に押し込むと、仲間のもとに急いだ。最後に死力を振り絞って精霊スペルを使ってくれたアヤネが、もうダメだと大の字になって倒れている。
まずはナツを回復させて、スズカがアヤネの傷を癒した。
マナ使いの腰に提げられた袋を漁ると、魔宝石がごろごろ出てきた。魔宝石はその名の通り、普通の宝石とは異なり、魔力を帯びている。効果は様々だが、それがどういうもので、どのように使うかは勉強したマナ使いにしかわからない。
恐らくこの中には、精神力を回復するようなものもあるのだろうが、生憎私たちにはその知識がなかった。
「ちょっと、帰ったらちゃんと魔宝石の勉強する」
スズカが無念そうに言った。高値で売れるし、そんな高価なものを戦闘や冒険のワンシーンで使うことを想定していなかったが、命には代えられない。今だって、もし精神力を回復させる魔宝石があったら、たとえそれが1万ツェルで売れるものだったとしても、ここで使いたい。
周囲では戦闘が続いている。どうやらこの男がこの集団のボスというわけではなかったらしい。
ひとまず戦利品として魔宝石をいただくと、これからどうするか相談した。
「まあ、行きたいけど無理でしょ」
スズカが苦笑いを浮かべる。目を覚ましたナツも、疲れた表情で頷いた。
本当はドワーフたちにも会って、お礼を言うとともに、確かに私たちもここにいたということを証明したい。この盗賊たちの持つ宝石類も気にはなる。それらがすべてあの5人組に持っていかれるのは悔しい。
ただ、そもそも私たちの受けた依頼は猫探しだし、あのエルフが助けてくれなければ、私たちは今頃くまなく舐められていたか、あるいは殺されていただろう。
今こうして袋に入れた魔宝石だけでも、トリノアのお小遣いでくれる依頼料の数倍は価値がある。実力相応に、これ以上欲を出すべきではない。すでに全員満身創痍で、これ以上の戦闘は無理だ。
それに、猫のこともある。もし何らかのミスをして猫を逃がしたり死なせてしまったら、信頼を得るチャンスを失ってしまう。私たちの初めての依頼を、失敗で終わらせるわけにはいかない。
「退こう」
この遺跡にはまた戻ってくる。「赤の森」同様、しばらくはチェスターを拠点にして「紫の森」を探索するつもりだ。焦ることはない。元々この盗賊退治は予定になかったものだ。
夜陰に乗じて、私たちは遺跡を出て森に戻った。背後ではまだ戦いの音や声がしている。
どうかあの5人もドワーフたちも無事でいてほしい。そう願いながら、私たちは静かに遺跡を後にした。
* * *
戦うのなら、この配置はよくない。範囲魔法で一網打尽にされる危険を回避するために、すぐにアヤネとナツが斬りかかった。私は壁の上の男に石つぶてを放つ。スペルなので当たり前だが、直撃して男は壁の向こう側に落ちていった。倒してはいないだろうが、戻ってくるまで時間が稼げる。その数十秒が大事だ。
2対2で斬り結ぶ後ろから、マナ使いの両手から強烈な稲妻が私に向かって迸った。スズカがまだ使えない高位の攻撃魔法だ。
かなり痛かったが、どうにか堪えた。こうなると、私に使ってくれたのは有り難い。倒れさえしなければ、スペルで怪我を治せる。しかも精神力も限りなく満タンだ。
スズカはあくまで攻撃魔法は使わずに、アヤネの武器を強化した。ナツが一人を足止めしてくれている間に、アヤネが一人を打ち倒す。今のところ、1対1で戦って勝てるのはアヤネだけだ。もっとも、それもスズカの補助があってのことで、アヤネも後ろに私たちがいるから全力で戦える。
15年を超える付き合いだ。冒険者としての経験不足はチームワークで補う。
壁から落ちた男が戦線に現れたが、再び私の石つぶてとスズカの放ったエネルギーの矢を受けて動かなくなった。ほとんど同時にアヤネが斬り結んでいた相手を打ち倒したが、それによって前に壁がなくなり、マナ使いの稲妻をまともに浴びる。
アヤネが地面に倒れたが、スズカの魔法の防御もあるので命は大丈夫だろう。
私は剣を引き抜いて走った。ナツの隣をすり抜けて、マナ使いに斬りかかる。
手応えはあったが、マナ使いは踏みとどまって、三度目の稲妻を放った。ギリギリ堪えたが、私ももう限界だ。ただ、さすがにもうマナ使いもスペルは使えまい。
スズカの放ったエネルギーの矢がナツの相手に突き刺さり、前向きに倒れ込んだ。ナツがすぐにマナ使いに斬りかかる。
これで勝ったと思ったが、剣を振り下ろした先に使い魔の猫が躍り出て、ナツは寸前で剣を止めた。男がニヤッと笑って、四度目の稲妻を放った。
いくらなんでも、そんなに精神力がもつはずがない。魔宝石か何かを使っていたに違いない。誤算だ。
既に斬り合いで怪我をしていたナツは、アヤネ同様完全にやられてしまった。無傷のスズカが私に回復魔法をかける。
マナ使いも私の貧弱な一撃を受けただけで、ほとんど無傷だ。もし私が倒されたら、マナスキルの低いスズカでは勝てない。
剣を掲げて走る。男が余裕の表情で両手を突き出す。まさかの5回目。それを使われたら、命まで危ない。
相手の方が一瞬速い。諦めかけた刹那、男の足に魔法的な蔦が絡み付き、私の切っ先が男の胸を深々と貫いた。
どうにか勝ちを収めると、まずはただの猫に戻ったトリノアのペットを確保する。魔法で眠らせたいが、それに精神力を使う余裕はない。
無理矢理袋に押し込むと、仲間のもとに急いだ。最後に死力を振り絞って精霊スペルを使ってくれたアヤネが、もうダメだと大の字になって倒れている。
まずはナツを回復させて、スズカがアヤネの傷を癒した。
マナ使いの腰に提げられた袋を漁ると、魔宝石がごろごろ出てきた。魔宝石はその名の通り、普通の宝石とは異なり、魔力を帯びている。効果は様々だが、それがどういうもので、どのように使うかは勉強したマナ使いにしかわからない。
恐らくこの中には、精神力を回復するようなものもあるのだろうが、生憎私たちにはその知識がなかった。
「ちょっと、帰ったらちゃんと魔宝石の勉強する」
スズカが無念そうに言った。高値で売れるし、そんな高価なものを戦闘や冒険のワンシーンで使うことを想定していなかったが、命には代えられない。今だって、もし精神力を回復させる魔宝石があったら、たとえそれが1万ツェルで売れるものだったとしても、ここで使いたい。
周囲では戦闘が続いている。どうやらこの男がこの集団のボスというわけではなかったらしい。
ひとまず戦利品として魔宝石をいただくと、これからどうするか相談した。
「まあ、行きたいけど無理でしょ」
スズカが苦笑いを浮かべる。目を覚ましたナツも、疲れた表情で頷いた。
本当はドワーフたちにも会って、お礼を言うとともに、確かに私たちもここにいたということを証明したい。この盗賊たちの持つ宝石類も気にはなる。それらがすべてあの5人組に持っていかれるのは悔しい。
ただ、そもそも私たちの受けた依頼は猫探しだし、あのエルフが助けてくれなければ、私たちは今頃くまなく舐められていたか、あるいは殺されていただろう。
今こうして袋に入れた魔宝石だけでも、トリノアのお小遣いでくれる依頼料の数倍は価値がある。実力相応に、これ以上欲を出すべきではない。すでに全員満身創痍で、これ以上の戦闘は無理だ。
それに、猫のこともある。もし何らかのミスをして猫を逃がしたり死なせてしまったら、信頼を得るチャンスを失ってしまう。私たちの初めての依頼を、失敗で終わらせるわけにはいかない。
「退こう」
この遺跡にはまた戻ってくる。「赤の森」同様、しばらくはチェスターを拠点にして「紫の森」を探索するつもりだ。焦ることはない。元々この盗賊退治は予定になかったものだ。
夜陰に乗じて、私たちは遺跡を出て森に戻った。背後ではまだ戦いの音や声がしている。
どうかあの5人もドワーフたちも無事でいてほしい。そう願いながら、私たちは静かに遺跡を後にした。
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん