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番外編 TRPG エピローグ(2)
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※(1)からそのまま繋がっています。
* * *
ルベルーデ家を後にすると、冒険者ギルドに報告に行った。相変わらず同じ職員で、感情の籠らない事務的な対応をされたが、最後にスズカが、「しばらくチェスターにいるから、依頼があったら教えてね」と言うと、職員の男性は無機質に頷いた。
「わかった。今のところ2つくらいあるな。猫探しのお嬢ちゃんたちにはピッタリな安い依頼だ」
嘲るように笑ったが、トゲはなかった。今日はのんびりしたいから、また明日来ると言うと、職員はやれやれと首を振った。
「そういうところが甘いんだ。明日にはないかもしれんのに」
それも一理ある。逆に言えば、明日になったら新しい依頼もあるかもしれない。
外に出ると、ナツが可笑しそうに頬を緩めた。
「キミたちに出来そうなのはないから、2つに増えたね」
「ランクアップだな」
スズカも勝ち誇ったように笑った。ポジティブな人たちだ。
実際、少し認められた感はある。もしかしたら、先程宿で会った3人からも私たちの話があったのかもしれない。
話しかけられた感じからしても、あの3人は私たちの行動を把握していた。しかし、私たちはあの人たちの存在に気付いてすらいなかった。
「私たち、しょぼいなぁ」
大きくため息をつくと、スズカが「まだ15歳だしな」と笑った。それは言える。
お金も手に入ったので、宿に戻って勝利の美酒を味わうことにした。美酒と言ってもお酒は飲まないので、特産の果実ジュースを頼む。宿のマスターが、「酒は飲まんのか?」と呆れるように言った。
「女の子が酔っ払っちゃ危ないって家訓なんです」
適当に答えると、「昨日殺し合いをしてきた人間の台詞じゃねーな」と笑われた。
昨日の殺し合いと言われて、ふと思い出した。そう言えば、すっかり忘れていたが、あのマナ使いがアヤネを見て驚いた顔をしていた。
名前を思い出せずにいると、ナツが「デラリー様だね」と即答した。盗賊スキルを磨いたおかげか、記憶力がいい。
「それそれ。聞き覚えないです?」
マスターに聞くと、マスターは「知らねぇなぁ」と首をひねった。
「ハークゲルトの人かもしれない」
追加で情報を与える。あの男たちが本当にハークゲルトの元兵士だとしたら、彼らが様付けで呼んだ相手はハークゲルトの偉い人だろう。
「そりゃ、ハークゲルトの王女様だろ」
マスターではなく、別のテーブルから声がした。見るとこちらは初めて見るパーティーで、その内の一人が大きく頷いた。
「デラリー王女は、5年前の内乱で殺されたロイモン王の妹だ」
「王女も殺されたの?」
「いや、ずっと前に嫁いでるはず。お姉さんのジェレミー王女も、別の国に嫁いでたはずだ。そうやって周辺の国と上手に関係を築いてたのに、あんなことになっちまってなぁ」
男が声に悔しさを滲ませた。もちろん内乱で国が転覆したことを言っている。ルーファスと国交があったのも今や昔の話だ。
お礼を言ってから、マスターが持ってきたジュースで乾杯した。ついでにお肉も頼む。
「じゃあ、アヤネはその王女様に似てたってことだな」
スズカの言葉に、アヤネが柔らかく微笑んだ。
「光栄だね。いっそデラリーですって嘘をつけば良かったかなぁ」
「ずっと前のことでしょ? 王女が若かった」
「じゃあ、デラリーの娘です」
「王様の姪が冒険者かー」
それはまたお転婆というか、教育を誤ったと嘆くしかないだろう。幸か不幸か、アヤネはルーファスの辺境の村に産まれた、平凡な村娘だ。王女で通じそうな美人だが、それはスズカも同じである。
お肉を食べながら王女様の話で盛り上がっていると、聞き慣れた声で話しかけられた。未だに名前を覚えられないが、スズカはしっかりと覚えていて陽気に手を振った。
「やあ、バイラス君、リツィオ君。どっちがどっちか知らないけど」
「完全に2人セットだな。昨日はお疲れ様。キミたちが無事で良かった」
「せっかく助けてもらったしね。慎重に生きるよ」
スズカがそう言って笑ったが、昨夜の戦いもかなりギリギリだった。本来はもう少し余裕でこなせる依頼だけを受けるべきなのだろう。もっとも、受ける段階では敵の強さはわからないので仕方ない。
「そっちは? 依頼の物は無事に取り返せた?」
私が聞くと、若者たちは当然とばかりに頷いた。
「あんなに色んな人にアシストされて、失敗しましたは恥ずかしいな」
「そう。リーダーからこれを預かった」
そう言いながら若者の一人がテーブルに置いたのは、綺麗な宝石だった。魔宝石ではないが、売ればトリノアからもらったくらいの額にはなりそうだ。
「これは?」
スズカが不思議そうに聞く。二人は昨日の礼だと言った。
「マナ使いを片付けてくれたのと、ドワーフたちを呼んでくれたことに対して、リーダーがお礼にって」
「あのおばさんが? でも、マナ使いの方はお互い様でしょ? 私たちも依頼を受けてたし、助かった」
「それでもまあ、感謝の気持ちだ。うちのリーダーの自己満足だから取っておいてくれ」
そういうことならと、スズカが宝石を受け取って袋にしまった。結果的に今回の冒険で得た宝石類はなかなかの金額になったが、それに見合うだけの危険を冒したのも確かだ。
「次に同じようなことがあったら、もっとちゃんと連携したいね。おたくのエルフさん、ちょっとぶっきら棒だったよ?」
私がそう言うと、若者たちは「次があれば」と苦笑いを浮かべた。首を傾げると、もう一人が口を開いた。
「次の依頼でこの町を出る。シャイードの方に行くことになりそうだ」
「そっか。それは残念だね」
「そういうことだから、今夜は一緒に飲もう」
「それはないかな」
軽くあしらうと、男たちは残念そうに項垂れた。やはりナンパだ。
「次に会う時も味方だといいね」
今回の件で、初めてチームというものを意識した。これまでは4人で遺跡に潜るだけだったが、今回は私たちも含めて4つのパーティーが一堂に会して戦った。
向こうがどうかはわからないし、それが冒険者としていいことかもわからないが、少なからず仲間意識が芽生えた。
男たちが部屋に戻って行き、私たちは再び4人になった。
4人で村を出て、色んな人と会って、別れて、またこうして4人になる。それでいい気もする。
4人で旅を続けよう。次の冒険も楽しみだ。
* * *
ルベルーデ家を後にすると、冒険者ギルドに報告に行った。相変わらず同じ職員で、感情の籠らない事務的な対応をされたが、最後にスズカが、「しばらくチェスターにいるから、依頼があったら教えてね」と言うと、職員の男性は無機質に頷いた。
「わかった。今のところ2つくらいあるな。猫探しのお嬢ちゃんたちにはピッタリな安い依頼だ」
嘲るように笑ったが、トゲはなかった。今日はのんびりしたいから、また明日来ると言うと、職員はやれやれと首を振った。
「そういうところが甘いんだ。明日にはないかもしれんのに」
それも一理ある。逆に言えば、明日になったら新しい依頼もあるかもしれない。
外に出ると、ナツが可笑しそうに頬を緩めた。
「キミたちに出来そうなのはないから、2つに増えたね」
「ランクアップだな」
スズカも勝ち誇ったように笑った。ポジティブな人たちだ。
実際、少し認められた感はある。もしかしたら、先程宿で会った3人からも私たちの話があったのかもしれない。
話しかけられた感じからしても、あの3人は私たちの行動を把握していた。しかし、私たちはあの人たちの存在に気付いてすらいなかった。
「私たち、しょぼいなぁ」
大きくため息をつくと、スズカが「まだ15歳だしな」と笑った。それは言える。
お金も手に入ったので、宿に戻って勝利の美酒を味わうことにした。美酒と言ってもお酒は飲まないので、特産の果実ジュースを頼む。宿のマスターが、「酒は飲まんのか?」と呆れるように言った。
「女の子が酔っ払っちゃ危ないって家訓なんです」
適当に答えると、「昨日殺し合いをしてきた人間の台詞じゃねーな」と笑われた。
昨日の殺し合いと言われて、ふと思い出した。そう言えば、すっかり忘れていたが、あのマナ使いがアヤネを見て驚いた顔をしていた。
名前を思い出せずにいると、ナツが「デラリー様だね」と即答した。盗賊スキルを磨いたおかげか、記憶力がいい。
「それそれ。聞き覚えないです?」
マスターに聞くと、マスターは「知らねぇなぁ」と首をひねった。
「ハークゲルトの人かもしれない」
追加で情報を与える。あの男たちが本当にハークゲルトの元兵士だとしたら、彼らが様付けで呼んだ相手はハークゲルトの偉い人だろう。
「そりゃ、ハークゲルトの王女様だろ」
マスターではなく、別のテーブルから声がした。見るとこちらは初めて見るパーティーで、その内の一人が大きく頷いた。
「デラリー王女は、5年前の内乱で殺されたロイモン王の妹だ」
「王女も殺されたの?」
「いや、ずっと前に嫁いでるはず。お姉さんのジェレミー王女も、別の国に嫁いでたはずだ。そうやって周辺の国と上手に関係を築いてたのに、あんなことになっちまってなぁ」
男が声に悔しさを滲ませた。もちろん内乱で国が転覆したことを言っている。ルーファスと国交があったのも今や昔の話だ。
お礼を言ってから、マスターが持ってきたジュースで乾杯した。ついでにお肉も頼む。
「じゃあ、アヤネはその王女様に似てたってことだな」
スズカの言葉に、アヤネが柔らかく微笑んだ。
「光栄だね。いっそデラリーですって嘘をつけば良かったかなぁ」
「ずっと前のことでしょ? 王女が若かった」
「じゃあ、デラリーの娘です」
「王様の姪が冒険者かー」
それはまたお転婆というか、教育を誤ったと嘆くしかないだろう。幸か不幸か、アヤネはルーファスの辺境の村に産まれた、平凡な村娘だ。王女で通じそうな美人だが、それはスズカも同じである。
お肉を食べながら王女様の話で盛り上がっていると、聞き慣れた声で話しかけられた。未だに名前を覚えられないが、スズカはしっかりと覚えていて陽気に手を振った。
「やあ、バイラス君、リツィオ君。どっちがどっちか知らないけど」
「完全に2人セットだな。昨日はお疲れ様。キミたちが無事で良かった」
「せっかく助けてもらったしね。慎重に生きるよ」
スズカがそう言って笑ったが、昨夜の戦いもかなりギリギリだった。本来はもう少し余裕でこなせる依頼だけを受けるべきなのだろう。もっとも、受ける段階では敵の強さはわからないので仕方ない。
「そっちは? 依頼の物は無事に取り返せた?」
私が聞くと、若者たちは当然とばかりに頷いた。
「あんなに色んな人にアシストされて、失敗しましたは恥ずかしいな」
「そう。リーダーからこれを預かった」
そう言いながら若者の一人がテーブルに置いたのは、綺麗な宝石だった。魔宝石ではないが、売ればトリノアからもらったくらいの額にはなりそうだ。
「これは?」
スズカが不思議そうに聞く。二人は昨日の礼だと言った。
「マナ使いを片付けてくれたのと、ドワーフたちを呼んでくれたことに対して、リーダーがお礼にって」
「あのおばさんが? でも、マナ使いの方はお互い様でしょ? 私たちも依頼を受けてたし、助かった」
「それでもまあ、感謝の気持ちだ。うちのリーダーの自己満足だから取っておいてくれ」
そういうことならと、スズカが宝石を受け取って袋にしまった。結果的に今回の冒険で得た宝石類はなかなかの金額になったが、それに見合うだけの危険を冒したのも確かだ。
「次に同じようなことがあったら、もっとちゃんと連携したいね。おたくのエルフさん、ちょっとぶっきら棒だったよ?」
私がそう言うと、若者たちは「次があれば」と苦笑いを浮かべた。首を傾げると、もう一人が口を開いた。
「次の依頼でこの町を出る。シャイードの方に行くことになりそうだ」
「そっか。それは残念だね」
「そういうことだから、今夜は一緒に飲もう」
「それはないかな」
軽くあしらうと、男たちは残念そうに項垂れた。やはりナンパだ。
「次に会う時も味方だといいね」
今回の件で、初めてチームというものを意識した。これまでは4人で遺跡に潜るだけだったが、今回は私たちも含めて4つのパーティーが一堂に会して戦った。
向こうがどうかはわからないし、それが冒険者としていいことかもわからないが、少なからず仲間意識が芽生えた。
男たちが部屋に戻って行き、私たちは再び4人になった。
4人で村を出て、色んな人と会って、別れて、またこうして4人になる。それでいい気もする。
4人で旅を続けよう。次の冒険も楽しみだ。
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