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罠とダンス
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◆◇原初ノ迷宮第五十九層◇◆
この階層はこれまでにない造りだった。
小屋サイズの部屋に扉が四つ。入り口と正面と左右に一つずつの、とてもわかりやすい造り。
「入り口以外のこの三つのどれかが正解って事か。このダンジョンの性質上、外れの二つは選んだ瞬間即死級のトラップかモンスターハウスが発動って所だろうなぁ......三択なんて当たるわけがねぇのに」
向かって右の扉が木製、正面の扉が......多分銀、左の扉が豪奢な扉となっている。どれも怪しくて、どれも外れっぽい。なんとなく直感で木の扉が正解なんじゃないかなぁと予想してみる。
此処は完全にノーヒントらしく、小さい部屋の中を見渡してみても正解に辿り着く為の手助けになるような物は全く見当たらない。【空間把握】は全く役に立たないみたいで扉の先は全然読めない。
「......さて、わからなくても選ばなきゃ何も進まないな......予想はして見たけど当たるわけないし。せめてストックや経験値となるモンスターハウスがいいけど......まぁいい、なるようになれだ」
とりあえず部屋の中央に向かう。これから行おうとしているのは完全なる運任せ。愛棒である金砕棒を地面に立て、金砕棒が倒れた方向へ進むという古来よりある有名なアレだ。
カチリッ
「..................HAHAHA、相変わらずこのダンジョンは意地が悪いなぁぁぁぁぁぁぁあ」
部屋の中央に立ち、さぁ運試しだ! となる寸前、不吉な音が耳に届く。その音が何かを理解した瞬間には、身体が右へと強い力で飛ばされていた。
「マジでふざけんなよクソがっ!! 裏をかかせて一番みすぼらしい扉が正解かもって予想していたけど、結局ハズレなんですねぇ!!」
空中で移動など出来るわけもなく、身体は飛ばされた勢いのまま木製の扉を豪快に突き破って中へと侵入していった。
「くそっ!! ってやばっ!!!」
飛ばされた先、着弾点には殺意に溢れた返し付きの針山が見える。このままアレに突っ込めば荷物や服がズタズタになるのはもちろん、スキルのおかげで死にはしないだろうが頭部にダメージを負う=気を失う。そう抜け出すのが困難であり、そのまま流血してデッドエンドなのは間違いない。
「鉄板とか盾とかがあればっ......手持ちで役に立ちそうなのは......くそっ!! 棒系の鈍器しかない!!」
今の自分の反射神経ならば針山の針を掴める。だが、この勢いのまま突っ込めば慣性の法則とか何やらで掴んでいる針にそのまま突き刺さる。掴もうとする体勢ならば顔面からだろう。却下だ。
「同じように棒をつっかえ棒のようにしようとしても同じ事になるだろう......詰んだ。クソゲーが過ぎるだろうコレ......はぁ、結局これまでと同じで脳筋な戦法に頼るしかない......か」
両手にある金砕棒と悪魔ヌンチャク棒を握る手に力を込める。タイミングは一瞬、失敗すれば串刺しで色々とボロボロになる。もう時間は無い。
「覚悟を決めろ......ふぅぅぅぅぅ......」
腕の筋肉が軋む。普通の武器ならば圧し折れるくらいに握り締め、その時を待つ。
―――そして......
「どらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
着弾の寸前、脅威になる目の前の針に向けて金砕棒とヌンチャク棒を全力で振るう。最低限、頭部だけでも針が刺さるのを免れようとする悪足掻きだ。
針の太さは割り箸の割る前程度、大型魚を釣る時の針ぐらいの返し付き。長さは根元が良く見えないせいで正確には分からない......遠近感はバグり目視は不可、頼みの【空間把握】はコイツには通用しない。
敏捷が育っているお陰で捻り出せた思考時間をギリギリまで使って出た結論は、ここまでで皆さんもお気付きの通り“なるようになれ”だ。
上手い具合いに破壊出来ればかすり傷程度に収められるが、ダンジョン産の謎鉱物の硬度次第の何とも運任せな行為。こうなったら嘆いても仕方ない......
やるしかないのだ!!
ギャリィィィィンッ!!
硬質な物と硬質な物がぶつかり合う音。どうやら自分は賭けに負けたようだと瞬時に悟る。
音の次は手に異様な痺れが、続いて金砕棒とヌンチャク棒を思いっきり振るった上半身をノックバックが襲う。
高速で飛ばされてる中で強引に武器を振るってはじかれる。そうなれば体勢はもうめちゃくちゃでどうしようもない。だが、諦める訳にはいかない。
それにちょうどこのノックバックが良い仕事をしてくれたようで、上半身が後方へと飛ばされたお陰で最悪の結末だけは回避出来たのが不幸中の幸いと言った所か......勢いが強すぎて、そのまま後方へ飛ばされて助かるなんて甘い事実はない。
着弾まで残された僅かな時間......本当にコンマ数秒。
その瞬きほどの時間の間に筋肉やら筋やら関節の可動域やら......それら全ての限界を超えさせ、空中で身体を捻る。
頭さえどうにか守れればいいのだから、他が捻じ切れようが、グチャグチャになろうが、欠損しようが構わない。その時に生じる痛みなんぞ気にならない程に痛みにはもう慣れている。
筋繊維の引きちぎられる音や関節が外れる音を聞きながらの悪足掻きの結果、なんとか足から着弾できるよう調節出来た。
「後はお祈り......か。はぁ、どうか針が頭まで到達しませんように......」
そう祈りながら針山に飛び込んでいき、足から身体の方へと侵入してくる異物感に顔を顰めた。
─────────────────────────────
吉持ㅤ匠
半悪魔
職業:血狂い
Lv:15
HP:100%
MP:100%
物攻:170
物防:1
魔攻:100
魔防:1
敏捷:170
幸運:10
残SP:30
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残301.2L
不死血鳥
部分魔化
血流操作
簡易鑑定
状態異常耐性Lv8
拳闘Lv8
鈍器(統)Lv4
上級棒術Lv1
小剣術Lv4
空間把握Lv10
投擲Lv7
歩法Lv7
強呪耐性
病気耐性Lv4
解体・解剖
回避Lv8
溶解耐性Lv2
洗濯Lv1
■■■■■■
装備:
魔鉄の金砕棒
悪魔骨のヌンチャク
肉食ナイフ
貫通寸鉄
普通のシャツ
快適なパンツ
再生獣革のブーツ
魔鉱のブレスレット
剛腕鬼の金棒
圧縮鋼の短槍
丈夫なリュック
厚手の肩掛け鞄
微速のベルト
ババァの店の会員証ㅤ残高220
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この階層はこれまでにない造りだった。
小屋サイズの部屋に扉が四つ。入り口と正面と左右に一つずつの、とてもわかりやすい造り。
「入り口以外のこの三つのどれかが正解って事か。このダンジョンの性質上、外れの二つは選んだ瞬間即死級のトラップかモンスターハウスが発動って所だろうなぁ......三択なんて当たるわけがねぇのに」
向かって右の扉が木製、正面の扉が......多分銀、左の扉が豪奢な扉となっている。どれも怪しくて、どれも外れっぽい。なんとなく直感で木の扉が正解なんじゃないかなぁと予想してみる。
此処は完全にノーヒントらしく、小さい部屋の中を見渡してみても正解に辿り着く為の手助けになるような物は全く見当たらない。【空間把握】は全く役に立たないみたいで扉の先は全然読めない。
「......さて、わからなくても選ばなきゃ何も進まないな......予想はして見たけど当たるわけないし。せめてストックや経験値となるモンスターハウスがいいけど......まぁいい、なるようになれだ」
とりあえず部屋の中央に向かう。これから行おうとしているのは完全なる運任せ。愛棒である金砕棒を地面に立て、金砕棒が倒れた方向へ進むという古来よりある有名なアレだ。
カチリッ
「..................HAHAHA、相変わらずこのダンジョンは意地が悪いなぁぁぁぁぁぁぁあ」
部屋の中央に立ち、さぁ運試しだ! となる寸前、不吉な音が耳に届く。その音が何かを理解した瞬間には、身体が右へと強い力で飛ばされていた。
「マジでふざけんなよクソがっ!! 裏をかかせて一番みすぼらしい扉が正解かもって予想していたけど、結局ハズレなんですねぇ!!」
空中で移動など出来るわけもなく、身体は飛ばされた勢いのまま木製の扉を豪快に突き破って中へと侵入していった。
「くそっ!! ってやばっ!!!」
飛ばされた先、着弾点には殺意に溢れた返し付きの針山が見える。このままアレに突っ込めば荷物や服がズタズタになるのはもちろん、スキルのおかげで死にはしないだろうが頭部にダメージを負う=気を失う。そう抜け出すのが困難であり、そのまま流血してデッドエンドなのは間違いない。
「鉄板とか盾とかがあればっ......手持ちで役に立ちそうなのは......くそっ!! 棒系の鈍器しかない!!」
今の自分の反射神経ならば針山の針を掴める。だが、この勢いのまま突っ込めば慣性の法則とか何やらで掴んでいる針にそのまま突き刺さる。掴もうとする体勢ならば顔面からだろう。却下だ。
「同じように棒をつっかえ棒のようにしようとしても同じ事になるだろう......詰んだ。クソゲーが過ぎるだろうコレ......はぁ、結局これまでと同じで脳筋な戦法に頼るしかない......か」
両手にある金砕棒と悪魔ヌンチャク棒を握る手に力を込める。タイミングは一瞬、失敗すれば串刺しで色々とボロボロになる。もう時間は無い。
「覚悟を決めろ......ふぅぅぅぅぅ......」
腕の筋肉が軋む。普通の武器ならば圧し折れるくらいに握り締め、その時を待つ。
―――そして......
「どらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
着弾の寸前、脅威になる目の前の針に向けて金砕棒とヌンチャク棒を全力で振るう。最低限、頭部だけでも針が刺さるのを免れようとする悪足掻きだ。
針の太さは割り箸の割る前程度、大型魚を釣る時の針ぐらいの返し付き。長さは根元が良く見えないせいで正確には分からない......遠近感はバグり目視は不可、頼みの【空間把握】はコイツには通用しない。
敏捷が育っているお陰で捻り出せた思考時間をギリギリまで使って出た結論は、ここまでで皆さんもお気付きの通り“なるようになれ”だ。
上手い具合いに破壊出来ればかすり傷程度に収められるが、ダンジョン産の謎鉱物の硬度次第の何とも運任せな行為。こうなったら嘆いても仕方ない......
やるしかないのだ!!
ギャリィィィィンッ!!
硬質な物と硬質な物がぶつかり合う音。どうやら自分は賭けに負けたようだと瞬時に悟る。
音の次は手に異様な痺れが、続いて金砕棒とヌンチャク棒を思いっきり振るった上半身をノックバックが襲う。
高速で飛ばされてる中で強引に武器を振るってはじかれる。そうなれば体勢はもうめちゃくちゃでどうしようもない。だが、諦める訳にはいかない。
それにちょうどこのノックバックが良い仕事をしてくれたようで、上半身が後方へと飛ばされたお陰で最悪の結末だけは回避出来たのが不幸中の幸いと言った所か......勢いが強すぎて、そのまま後方へ飛ばされて助かるなんて甘い事実はない。
着弾まで残された僅かな時間......本当にコンマ数秒。
その瞬きほどの時間の間に筋肉やら筋やら関節の可動域やら......それら全ての限界を超えさせ、空中で身体を捻る。
頭さえどうにか守れればいいのだから、他が捻じ切れようが、グチャグチャになろうが、欠損しようが構わない。その時に生じる痛みなんぞ気にならない程に痛みにはもう慣れている。
筋繊維の引きちぎられる音や関節が外れる音を聞きながらの悪足掻きの結果、なんとか足から着弾できるよう調節出来た。
「後はお祈り......か。はぁ、どうか針が頭まで到達しませんように......」
そう祈りながら針山に飛び込んでいき、足から身体の方へと侵入してくる異物感に顔を顰めた。
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吉持ㅤ匠
半悪魔
職業:血狂い
Lv:15
HP:100%
MP:100%
物攻:170
物防:1
魔攻:100
魔防:1
敏捷:170
幸運:10
残SP:30
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残301.2L
不死血鳥
部分魔化
血流操作
簡易鑑定
状態異常耐性Lv8
拳闘Lv8
鈍器(統)Lv4
上級棒術Lv1
小剣術Lv4
空間把握Lv10
投擲Lv7
歩法Lv7
強呪耐性
病気耐性Lv4
解体・解剖
回避Lv8
溶解耐性Lv2
洗濯Lv1
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装備:
魔鉄の金砕棒
悪魔骨のヌンチャク
肉食ナイフ
貫通寸鉄
普通のシャツ
快適なパンツ
再生獣革のブーツ
魔鉱のブレスレット
剛腕鬼の金棒
圧縮鋼の短槍
丈夫なリュック
厚手の肩掛け鞄
微速のベルト
ババァの店の会員証ㅤ残高220
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