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終結
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侵入者......もとい『スマホ中毒者達』が続々とボス部屋へと入室していくにつれ、ボスの纏う紫電の量が増えていく。
『スマホ中毒者達』はここまでほとんど損害を出さず、圧倒的な質量でモンスターたちを蹂躙しながら順調に進んで来れたのでかなりハイになっており、このボスが醸し出すプレッシャーを理解できていない。だがハイになっていない者もいた。
「さぁ皆これで最後だ!! 電波を取り戻す為に挑んだダンジョンのボスは何の因果か電気系統らしいが恐れるな!! 絶縁体を含む装備をしている者、または電気を通しにくい装備の者が先陣を切れ!!」
ハイになっていない人が居るのを見た四股キンが指示を出す。
こういう時は周りに下手に考える時間を与えるのはよくないとこれまでの経験からわかっていた事、それとだいたいの系統がわかってさえいれば対策をして質量で押していけばこれまで通り楽勝と思った故の指示出しだった。
スキルを混ぜて言葉を発せられれば、ここに来るまでたっぷり成功の体験を積んだ人々は容易にノせられる。ノせられてしまう。
決して強いとは言えない数だけが膨れ上がっただけの群れである彼等。リーダーも圧倒的な数の暴力はダンジョンの最終ボスにも届く―――
そう思っていた故の脳死突撃。
実際に攻撃は届いた。
だが、ダンジョンの最終ボスは硬かった。
全ステータスの内、敏捷、魔攻、物防の三つのステータスが特出していた。魔攻アップで強化された雷撃、敏捷で強化された動体視力と機動力、物防アップで万が一の被弾に備える厄介な相手。
素早い上に攻撃が当たっても大して効いた素振りを見せず、相手の雷撃は耐性装備をしていてもそれを突破してダメージを与えてくる。つまり勢いだけでここまで来た彼らはジリ貧となっている。
幸いだったのが物攻が彼らの物防とどっこいどっこいだったので、雷耐性の無い味方を下がらせてどうにか均衡を保てている状態な事だった。
「もうひぃ......無理だ!! リーダー撤退しようぉほお!! このダンジョンでもぉんほぉ......俺らがやれるって事はわかったから対策を立ててもういちッひぃんッ......もう一度挑めばいいぃぃァッッ!!! この雷獣(仮)は今の俺らじゃ勝てねぇへぇっ......」
タンク兼アタッカーの青年が叫ぶ。時々雷撃を受けて痺れながらも撤退を勧めていく。
必死な人間がいる一方、仮称雷獣は数が多いだけで取るに足らない存在であると認識していて、明らかに遊んでいる様子が見て取れた。致命傷を避けるかのように鋭い爪での攻撃はせず、ある程度の強さの電撃と殴打に徹しているのがその証拠だろう。
チラ......と背後の扉を見ると閉じていない。これなら逃げられはするだろう。日本人が初めてダンジョン攻略をした時のレベルよりも上げて挑んだのだが、これでも足りないとはレイド全員が予想出来ていなかった事態だった。
ダンジョン自体の難易度は下級中位から上位で大して難しくもない。だがそれで油断させ、ボスの強さだけで一気に難易度が上がっている事からダンジョン攻略とは一筋縄ではいかないのだと現実を突きつけられる。ボスの情報さえ事前に偵察やら何やらして手に入れられていたら......と後悔する。
「くっ............皆すまない......撤退だ!! 五秒後に煙幕を張るからそれに合わせて引くんだ!!」
悔しげに唇を噛み締め、短い時間だったが考えに考え抜いた上で四股キンは苦渋の決断を下した。
命あっての物種、スマホ中毒者にとってスマホ無し生活は地獄のような苦しみであるが、それだけで人は死にはしない。生命が無ければスマホを弄れる機会など来ないので生きていればまたチャンスは来る。
必死で格上も格上のモンスターと戦い、何とか耐えている前衛達からの返事は無かった。だが確りと伝わっていると信じて手元に二つのものを用意しカウントダウンを開始した。
「五、四、三、二、一......今だっ!! 引けッ!!」
「「「「オォォォォッ!!」」」」
手にしたモノの一つに火をつけて玉状のモノを投擲する。投げられたモノから煙が勢い良く吹き出し、周囲を覆い隠していく。味方は反転し駆け出し、そんなモノに全く慣れていないモンスターは困惑の表情を浮かべていくのが見えた。
煙の噴出は続き周囲が全く見えなくなったが、たくさんの足音がこちらに向かって来ているのを確認し四股キンは次の行動へ移る。
「皆はそのまま出口に向けて駆けろ!! 俺もすぐ行く!!」
「「「「おうっ!」」」」
野太い返事に口角を上げ、手元に残ったもう一つのモノから安全ピンを引き抜きモンスターを最後に見た方向へ向けて投擲。その後急いで反転し出口に向けて駆け出した。
投げたモノはポテトマッシャーと呼ばれる柄付きタイプの手榴弾。それを更に殺傷能力を高める方向に改造が施された品である。とある伝手を使い一本だけ入手できた虎の子の一本だった。
投擲から四秒後、大きな爆発が起きた。続いて悲鳴のような獣の叫び声。
煙幕の煙は吹き飛んだが新たに爆発で生じた煙がまたもやモンスターの視界を奪う。どれくらい傷が付けられたか確認出来ていないのが心残りだが、叫び声も聞こえたし流石に無傷ではないだろう、と内心満足し出口へと駆ける。
錯乱したように魔法を暴発されるのが一番最悪の展開だったが、舐め腐って甚振っていたニンゲンに手痛い反撃を受けた事で混乱してくれたお陰で無事に出口まであと一歩の所まで来れた。
「次は絶対倒してやるからな......」
捨て台詞を吐いて外に出た四股キンは扉を閉めようと手を掛けた。
「――アハッ♪」
「え!? ――ッッ!!」
状況に似つかわしくない明るく妖艶な声が耳を犯した。それだけでも脳が混乱するのに追い討ちをかけるように裏腿に鋭い痛みが走る。
「リーダーに限らず、人を率いる立場には責任が伴うわよね。アンタの指揮の所為であの人が死んで、他にも死人が出た。怪我人もいっぱい出たし攻略は失敗......ねぇ? アナタはどうやってこの責任を取るつもりなの?」
「な、なん......ぐぅっ」
振り返ると目がキマった女が立っていた。その女は刺さっていたナイフを引き抜くと、間髪入れずに刃を寝かせて脇腹を何度も突き刺す。
「痛い? ねぇ......痛い? 彼はもっと痛かったはずだわ」
「や、やめ......」
女は再びナイフを引き抜き、痛みで崩れ落ちた四股キンの付けていた腰のポーチとリュックの紐を切り荷物を剥ぎ取っていく。女は防具と衣服だけになった彼の髪の毛を鷲掴みにして強引に目線を彼に合わせた。
「アンタだけは逃げるのを許さない」
感情の籠らない昏く澱んだ目で言い放ち、女は髪を掴んだまま立ち上がり、立ち上がらせる。ブチブチと髪が音を立てているが四股キンは脇腹の痛みでそっちに意識が回らない。
「じゃあね......他の人にアンタの遺品を届けてあげるから安心して死になさい」
「ま、待っ......止めっ」
「止めない、待たない」
無感情に懇願を切り捨て、惚れ惚れするような綺麗な前蹴りを見舞う。
「ぐぅっ......た、頼む......待ってくれ......」
「バイバイ」
冷えきった声、無情とも云える無機質なドアの閉まる音、獣の唸り声、絶望に染まった声の四重奏が密室に木霊する。
「グルルルルルルルルッ」
「あ、あぁ......ぁぁぁぁ」
徐々に煙が晴れ、怒りに染まった鋭い視線が四股キンを襲う。鉄片の刺さった半身が痛々しいものの、生命力に満ち溢れた強い足取りで一歩一歩迫ってくる。
「コヒュ......ッッ――」
怖い......息が上手に出来ない......
彼の全身は恐怖と威圧に支配され、その機能を失っていく。
血の気が引き、意思に反して震える身体は段々と強さを増していった。何とかその場から遠ざかろうとするもみっともなく手足がバタつくのみ。
「――ッッ」
もう声も出ない。流血と恐怖で身体は冷えきっている。手先足先の感覚はもう、無い。
「グルァッ」
恐怖から目を背けようにも瞼は張り付いたかの如く降りてこない。
彼が最期に見た景色は歪で邪悪な牙と不衛生そうな口の中だった。
──────────────────────────────
オマケ ボスのアレ
合成雷獣
レベル:46(進化三段階目)
四足歩行のキメラ
ベースはハイエナっぽい生き物
獲物を嬲るのが好き
弱いと見ると途端に舐め腐った態度を取る
──────────────────────────────
『スマホ中毒者達』はここまでほとんど損害を出さず、圧倒的な質量でモンスターたちを蹂躙しながら順調に進んで来れたのでかなりハイになっており、このボスが醸し出すプレッシャーを理解できていない。だがハイになっていない者もいた。
「さぁ皆これで最後だ!! 電波を取り戻す為に挑んだダンジョンのボスは何の因果か電気系統らしいが恐れるな!! 絶縁体を含む装備をしている者、または電気を通しにくい装備の者が先陣を切れ!!」
ハイになっていない人が居るのを見た四股キンが指示を出す。
こういう時は周りに下手に考える時間を与えるのはよくないとこれまでの経験からわかっていた事、それとだいたいの系統がわかってさえいれば対策をして質量で押していけばこれまで通り楽勝と思った故の指示出しだった。
スキルを混ぜて言葉を発せられれば、ここに来るまでたっぷり成功の体験を積んだ人々は容易にノせられる。ノせられてしまう。
決して強いとは言えない数だけが膨れ上がっただけの群れである彼等。リーダーも圧倒的な数の暴力はダンジョンの最終ボスにも届く―――
そう思っていた故の脳死突撃。
実際に攻撃は届いた。
だが、ダンジョンの最終ボスは硬かった。
全ステータスの内、敏捷、魔攻、物防の三つのステータスが特出していた。魔攻アップで強化された雷撃、敏捷で強化された動体視力と機動力、物防アップで万が一の被弾に備える厄介な相手。
素早い上に攻撃が当たっても大して効いた素振りを見せず、相手の雷撃は耐性装備をしていてもそれを突破してダメージを与えてくる。つまり勢いだけでここまで来た彼らはジリ貧となっている。
幸いだったのが物攻が彼らの物防とどっこいどっこいだったので、雷耐性の無い味方を下がらせてどうにか均衡を保てている状態な事だった。
「もうひぃ......無理だ!! リーダー撤退しようぉほお!! このダンジョンでもぉんほぉ......俺らがやれるって事はわかったから対策を立ててもういちッひぃんッ......もう一度挑めばいいぃぃァッッ!!! この雷獣(仮)は今の俺らじゃ勝てねぇへぇっ......」
タンク兼アタッカーの青年が叫ぶ。時々雷撃を受けて痺れながらも撤退を勧めていく。
必死な人間がいる一方、仮称雷獣は数が多いだけで取るに足らない存在であると認識していて、明らかに遊んでいる様子が見て取れた。致命傷を避けるかのように鋭い爪での攻撃はせず、ある程度の強さの電撃と殴打に徹しているのがその証拠だろう。
チラ......と背後の扉を見ると閉じていない。これなら逃げられはするだろう。日本人が初めてダンジョン攻略をした時のレベルよりも上げて挑んだのだが、これでも足りないとはレイド全員が予想出来ていなかった事態だった。
ダンジョン自体の難易度は下級中位から上位で大して難しくもない。だがそれで油断させ、ボスの強さだけで一気に難易度が上がっている事からダンジョン攻略とは一筋縄ではいかないのだと現実を突きつけられる。ボスの情報さえ事前に偵察やら何やらして手に入れられていたら......と後悔する。
「くっ............皆すまない......撤退だ!! 五秒後に煙幕を張るからそれに合わせて引くんだ!!」
悔しげに唇を噛み締め、短い時間だったが考えに考え抜いた上で四股キンは苦渋の決断を下した。
命あっての物種、スマホ中毒者にとってスマホ無し生活は地獄のような苦しみであるが、それだけで人は死にはしない。生命が無ければスマホを弄れる機会など来ないので生きていればまたチャンスは来る。
必死で格上も格上のモンスターと戦い、何とか耐えている前衛達からの返事は無かった。だが確りと伝わっていると信じて手元に二つのものを用意しカウントダウンを開始した。
「五、四、三、二、一......今だっ!! 引けッ!!」
「「「「オォォォォッ!!」」」」
手にしたモノの一つに火をつけて玉状のモノを投擲する。投げられたモノから煙が勢い良く吹き出し、周囲を覆い隠していく。味方は反転し駆け出し、そんなモノに全く慣れていないモンスターは困惑の表情を浮かべていくのが見えた。
煙の噴出は続き周囲が全く見えなくなったが、たくさんの足音がこちらに向かって来ているのを確認し四股キンは次の行動へ移る。
「皆はそのまま出口に向けて駆けろ!! 俺もすぐ行く!!」
「「「「おうっ!」」」」
野太い返事に口角を上げ、手元に残ったもう一つのモノから安全ピンを引き抜きモンスターを最後に見た方向へ向けて投擲。その後急いで反転し出口に向けて駆け出した。
投げたモノはポテトマッシャーと呼ばれる柄付きタイプの手榴弾。それを更に殺傷能力を高める方向に改造が施された品である。とある伝手を使い一本だけ入手できた虎の子の一本だった。
投擲から四秒後、大きな爆発が起きた。続いて悲鳴のような獣の叫び声。
煙幕の煙は吹き飛んだが新たに爆発で生じた煙がまたもやモンスターの視界を奪う。どれくらい傷が付けられたか確認出来ていないのが心残りだが、叫び声も聞こえたし流石に無傷ではないだろう、と内心満足し出口へと駆ける。
錯乱したように魔法を暴発されるのが一番最悪の展開だったが、舐め腐って甚振っていたニンゲンに手痛い反撃を受けた事で混乱してくれたお陰で無事に出口まであと一歩の所まで来れた。
「次は絶対倒してやるからな......」
捨て台詞を吐いて外に出た四股キンは扉を閉めようと手を掛けた。
「――アハッ♪」
「え!? ――ッッ!!」
状況に似つかわしくない明るく妖艶な声が耳を犯した。それだけでも脳が混乱するのに追い討ちをかけるように裏腿に鋭い痛みが走る。
「リーダーに限らず、人を率いる立場には責任が伴うわよね。アンタの指揮の所為であの人が死んで、他にも死人が出た。怪我人もいっぱい出たし攻略は失敗......ねぇ? アナタはどうやってこの責任を取るつもりなの?」
「な、なん......ぐぅっ」
振り返ると目がキマった女が立っていた。その女は刺さっていたナイフを引き抜くと、間髪入れずに刃を寝かせて脇腹を何度も突き刺す。
「痛い? ねぇ......痛い? 彼はもっと痛かったはずだわ」
「や、やめ......」
女は再びナイフを引き抜き、痛みで崩れ落ちた四股キンの付けていた腰のポーチとリュックの紐を切り荷物を剥ぎ取っていく。女は防具と衣服だけになった彼の髪の毛を鷲掴みにして強引に目線を彼に合わせた。
「アンタだけは逃げるのを許さない」
感情の籠らない昏く澱んだ目で言い放ち、女は髪を掴んだまま立ち上がり、立ち上がらせる。ブチブチと髪が音を立てているが四股キンは脇腹の痛みでそっちに意識が回らない。
「じゃあね......他の人にアンタの遺品を届けてあげるから安心して死になさい」
「ま、待っ......止めっ」
「止めない、待たない」
無感情に懇願を切り捨て、惚れ惚れするような綺麗な前蹴りを見舞う。
「ぐぅっ......た、頼む......待ってくれ......」
「バイバイ」
冷えきった声、無情とも云える無機質なドアの閉まる音、獣の唸り声、絶望に染まった声の四重奏が密室に木霊する。
「グルルルルルルルルッ」
「あ、あぁ......ぁぁぁぁ」
徐々に煙が晴れ、怒りに染まった鋭い視線が四股キンを襲う。鉄片の刺さった半身が痛々しいものの、生命力に満ち溢れた強い足取りで一歩一歩迫ってくる。
「コヒュ......ッッ――」
怖い......息が上手に出来ない......
彼の全身は恐怖と威圧に支配され、その機能を失っていく。
血の気が引き、意思に反して震える身体は段々と強さを増していった。何とかその場から遠ざかろうとするもみっともなく手足がバタつくのみ。
「――ッッ」
もう声も出ない。流血と恐怖で身体は冷えきっている。手先足先の感覚はもう、無い。
「グルァッ」
恐怖から目を背けようにも瞼は張り付いたかの如く降りてこない。
彼が最期に見た景色は歪で邪悪な牙と不衛生そうな口の中だった。
──────────────────────────────
オマケ ボスのアレ
合成雷獣
レベル:46(進化三段階目)
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弱いと見ると途端に舐め腐った態度を取る
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