血塗れダンジョン攻略

甘党羊

文字の大きさ
119 / 146

バンジー

しおりを挟む
 ゲロゲロと溜まった血と海水と胃液を吐き出して暫く、やっと気分が落ち着いた。
 一応人の身じゃ無くなったのになんらかの圧にヤられるとは......もう何段階か進化すれば耐えられるようになったりするのかね? もししないのなら、この身体を活かして敵をハグしてから深海潜って急浮上を繰り返せば、深海魚以外のどんな生き物も殺せる。

 ......あのクソ鎧とかのファンタジーにしかいないアンデッドは死なないかもだけど、海水で錆びるし沈みそうだしで深海に封印できるな。転移とか覚えられたらいいなぁ。

 さて、歩くのも大丈夫になったし進んでいこう。



 ◆◇原初ノ迷宮第七十二層◇◆


 見渡す限り、壁、壁、壁。後ろには扉と壁。上には低い天井、下に穴。

 扉の先は下に奥行きがある壁に囲まれた部屋だった。どうやらこの断崖絶壁に等しいツルツルの壁を降って行けというメッセージなんだろう。死ね。

「死ね」

 念の為、床に全力で金砕棒をぶち当ててみたら抉れたから、これならイケると思ってたら直ぐ再生した。

「死ね」

 念の為、ナイフで刺してみると突き刺さったけど、すぐにヌルリと押し出されて抜けた。

「死ね」

 念の為、ヒヨコを生み出して落としてみた。地面に着いたら爆発しろと命令を下して。



 大体五分経過するもヒヨコに音沙汰爆発は無く、それでも待つ事約十分後......

《レベルが3上がりました》

 アナウンスが聞こえてきて、それからちょっと遅れて光、爆音と連続して着地した合図が届けられた。
 海ではレベル上げられなかったからまぁ良かった。階層全体でワンフロアになってる場合はやっぱり全部殺さないとレベルアップ出来ない。中途半端に倒して階層移動しても経験値は入らないクソ仕様だった。死ねばいいのに。

「一応下の安全は確保されたけど、このまま落ちたらやっぱり潰れるよなぁ......ヌルヌル靴履いて落ちるのも手だけど、着地した時に勢いが全て殺されるか、着地の勢いそのまま滑って全身強打......絶対、後者だよなぁ」

 覚悟が決まらないまま時間が過ぎる。死にはしなくても、落下は本能的な物なのか慣れない。怖い。

「まぁ......ウダウダしてても進まないとなんだけど。はぁ......あ、アレを参考にしてやればワンチャンいける気がする」

 下半身は普通にパンツとズボンと再生ブーツを履いて、上半身は裸、ローブは無し。ナイフと金砕棒は腰に据え、両手は自由にさせてある。

「3、2、1......バンジー」

 紐は無いけどね......と、零してから落ちていった。



 ◆◆◆◆◆



 180秒......181秒......182秒......

 頭の中で時間を数えていく。ズレは絶対に出てるけど頭の中のカウントが七分経過した位から着地に備えた行動をすれば最低でも大惨事だけは回避できると思っている。そう信じて落ちていく。


 360秒......361秒......362秒......

 あっかん、緊張してきた。落下は半分を越えてそろそろ終盤を迎える。イコール、着地か墜落かが決まる。

 大丈夫、一個目の案が成功するイメージならば俺は華麗に着地出来て、人外化の恩恵をこれでもかと味わえるはず。

 401秒......402秒......403秒......

「大丈夫、大丈夫だ......ふぅぅぅぅぅ」

 深呼吸をして精神を統一させる。こんな状況でも慌てふためく事が無いのが幸いだ。

 417秒......418秒......419秒......

 時は来た。それだけだ。

「ハァァァァッ!!」

 背中と尻に部位魔化を掛けて人間の皮を外す。

 背中側はよく見えないのが残念だけど、海の中でやった時とは違う感覚があるから、きっと大丈夫。
 成功したと確信して首を捻って背中を確認する。

「............ブハッ」

 エマージェンシーエマージェンシー!!

 背中には確かに、狙っていた羽根が生えていた。が、生えてきた羽根は悪魔でもなんでもなくて、最近見る頻度が多かった為によーーーーく知っている幼いヒヨコの羽根。というより手羽。

 作戦は失敗。第二案に移行する。

 だけど、羽根はあったからきっと第二案で大丈夫なはず。爆笑してどうしようもなくならなかった自分を褒めてあげたい。吹き出したのは仕方ない事なんだよ、笑ってはいけない状況になればなるほど沸点は低くなるんだから。

「ハァッ!!」

 イメージを明確にすれば魔法はなんとなる。だってヒヨコが出たんだもの。

 首を捻って背中を見た状態のまま魔法を発動させる。ヒヨコの羽根が立派な成鳥の物へ進化するイメージでだ。成鳥の物なんて知らないから、某モンスター牧場のフェニックスが空を飛んでいる場面のイメージ。

「......痒っっ!?」

 背中がゾワゾワとし出したと思ったら猛烈な痒みが襲ってきたが、痒みに悶えながらも背中から目が離せなくなる。
 魔法で出来た羽根がブワッと一気に成長したのが見えたからだ。悪魔らしいのか、ベースが不死血鳥だからなのかは知らないが、禍々しい黒に寄った赤い羽根が煌めきを放つ。

「おぉ......おぉぉぉぉお」

 狙い通りに行き過ぎたのと、予想もしていない羽根の美しさにただただ感動し惚けていた。

 それでも非情なもので落下は待ってくれない。時間にして凡そ十秒と、貴重な残り時間をかなり浪費してしまったのがとても痛い。

「っと、やばい。集中、集中......」

 こんな匠でも、戦闘や危機的状況に対しては百戦錬磨といえる傑物に成長していた。瞬間的に集中を高めて状況を打破する為に動きだす。

「フンッ!!」

 全人類の大半が夢見る空への憧れ。
 もう人では無いが、匠も元は人間。
 憧れていた空への挑戦。

 スキルや魔法が溢れる世界、何れ誰かしらが叶えるであろう事に今、挑戦スル―――

「フンヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ......」

 だが、人にはそもそも備わっていない部位故に、全く動かせる気配が無い。逆に尻尾がブワリと膨らんでいる。

「なんでそっち!?」

 同じく元々備わっていなかった筈の部位である尻尾は動く。この違いは素質の問題なのかな? 尻尾は普通に出せてたし。

「失敗!! 羽根はもういい!! 次ッ!!」

 次は羽根が出せた場合の案。
 背中から生えた羽根を強引に引きちぎって両手に装備した。傍から見れば滑稽に映るが、本人は真面目に状況を打破しようと必死だ。

 鋭い皆様ならもう既にわかっているだろう、匠が次に行おうとしている事を......

「オッシャァァァァァァッ!!!」

 人力で強引に羽ばたきだした。
 動きはさながら白鳥の羽ばたきのように優雅に、だが、顔面だけは取り繕えず必死の形相で。

 結果は――まぁやはりと言うか、やるまでも無く誰もが「知ってた」という結果に。そもそも、飛べる生き物は飛ぶ為に最適化された身体の構造故の飛翔なので、人が羽ばたきの真似事を本物の羽根を使って行っても無理なのである。匠の力技でも落下スピードが僅かに緩む程度だった。
 人が生身で出来るのは、精々出来て鳥人間コンテストのような滑空行為なのだ。

「もうダメだ......手が尽きた」

 途中でカウントするのを止めたので秒数は忘れたが、墜落まではもう60秒も無いだろう。かくなる上は――

「ウォォォォッ!!」

 両手を壁に突き入れて減速を図った。
 両腕に全てのエネルギーが掛かって先ず骨が砕け、続いて肘から先がちぎれて壁に刺さったまま取り残される。落下スピードはほぼ死に、ゆっくりと落下が始まり再びスピードに乗り出す。

「失敗した」

 予定では壁を削りながら落ちる予定だったけど、身体の脆さが計算違いだった。こんな事も忘れているとは、何とも情けない。

 強化した視力で下を見ながら地面が見えてきた頃に再び同じ事をして減速、無事に腕四本を犠牲にするだけで着地に成功し、匠は焼け焦げた地底に降り立つ。


 地面や壁はまだ熱いけど我慢出来ない程ではない。

 そこまで広くない終着点、部屋の中は熱い、さっき手を突っ込んだ壁は熱くなかったからやっぱり穴の中はダンジョンのギミック扱いで特別なモノだったんだろうね、面倒な。

 落ちていた魔石を回収してまた階段を降りた。

 楽だったけど面倒だった。普通に敵を倒したい。

 次こそは単純な階層がいいなぁ......


 ◆◇原初ノ迷宮第七十三層◇◆


 ......階段の先は、街だった。


 ─────────────────────────────

 吉持ㅤ匠

 人化悪魔
 職業:暴狂血

 Lv:1→4

 HP:100%
 MP:100%

 物攻:300
 物防:1
 魔攻:180
 魔防:60
 敏捷:250
 幸運:30

 残SP:1→10

 魔法適性:炎

 スキル:
 ステータスチェック
 血液貯蓄ㅤ残562.6L
 不死血鳥
 部位魔化
 魔法操作
 血流操作
 上位隠蔽
 中位鑑定
 中位収納
 中位修復
 空間認識
 殺戮
 状態異常耐性Lv9
 壊拳術Lv4
 鈍器(統)Lv7
 上級棒術Lv3
 小剣術Lv7
 投擲Lv8
 歩法Lv8
 強打
 強呪耐性
 石化耐性Lv4
 病気耐性Lv4
 熱傷耐性Lv6
 耐圧Lv3
 解体・解剖
 回避Lv10
 溶解耐性Lv6
 洗濯Lv3
 アウナスの呪縛

 装備:
 壊骨砕神
 悪魔骨のヌンチャク
 肉触手ナイフ
 貫通寸鉄
 火山鼠革ローブ
 再生獣革のブーツ
 貫突虫のガントレット
 聖銀の手甲
 鋼鉄虫のグリーブ
 魔鉱のブレスレット
 剛腕鬼の金棒
 圧縮鋼の短槍
 迷宮鋼の棘針×2
 魔法袋・小
 ババアの加護ㅤ残高17000

──────────────────────────────
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

処理中です...