血塗れダンジョン攻略

甘党羊

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妖怪大戦争

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 死体が埋葬されている墓地から離れた場所にいるのに、足元に腐った手が生えるとか思わないじゃん。
 びっくりして変な声が出たのが悔しい。

「ウォォォォォォォォ!!」

 誰かに見られている訳でもないけど、恥ずかしい気持ちを誤魔化すように地面を抉る勢いで金砕棒を腐ったに叩き付ける。
 ドッゴンドッゴンと人の手では普通は出せない音を部屋中に響かせて粉々に手をブッ潰した。掴まれていた足には手形がクッキリ残っていて気持ち悪い。これも怪我だよね? 早く治しておくれ。
 また新しい布を出して掴まれた足を拭いていると、漸く手形が薄くなってきた。もっと早く治して欲しかったなぁと思いながらもなんか気持ち悪いのが強かったので、皮膚を削る勢いでグリグリと力を込めて拭いた。
 手が飛び出た所の土が盛り上がってきているけど、今は拭くのが優先だからスルーしておく。でも出てきた瞬間に火炎放射をぶち込む。汚物マジ許すまじ。

 そんな俺の努力を嘲笑うかのように拭き終わる前なのに俺を汚したヤツがポップしやがった。


 ──────────────────────────────
 ロングアームレギオンゾンビ
 レベル:92
 未練を残して死んだ遺体の集合体
 極めて強い呪いが腕に集まっている
 ──────────────────────────────

 ......あの手形、汚れじゃなくて呪いだったんだ。それも数年放置された油汚れレベルの強い呪い。耐性が仕事してくれたから落ちたんだよね? 無かったらって考えると......怖っ。

「腕だけ異様に長いし腐ってるし気持ち悪いし......あー......手が治ってるから再生もすんのか面倒くせぇ」

 それでもまぁ、やる事は変わらない。まだ上半身しか出てない今がチャンスだろう。

「ヒャァッハァァァァー!!」

 片手を突き出し、様式美的な声と共に今出来る最高火力で火炎放射をロングアームレギオンゾンビに照射する。ヒヨコが俺に合いすぎてるだけで、普通の魔法はまだまだ制御や威力が心許ない。
 でも、コスパは凄くいい。

『『『『『『GYAAAAAAAAAAAAA』』』』』』

 地面から出る為に使っていた両手を火消しの為に使いだしたレギオンゾンビ。出てこないなら焼き放題じゃないか!!
 汚い叫び声が何重にも重なって聞こえてきて、若干気分が悪くなる。流石集合体、呪いでも乗ってるのか普通に気持ちが悪い。一刻も早く殺したいけど、でもちょっと我慢してここで頑張れば呪いとかの耐性を上げられるいい機会では?

「......あ、強呪耐性が既にもう1上がってる!!」

 足を掴まれたのなのか、今の絶叫かわからないけど、実際に上がるなら有効活用しないと!!

「ヒャッハァー!! もっと叫べぇぇぇぇぇぇ!!」

 両手を突き出してダブル火炎放射。やっぱり雑魚じゃないゾンビには、火や強力な銃器を使うのが王道なのですよ皆さん。

『『『『『『GYAAAAAAAAAAAAAAA』』』』』』

 単発だと消費が少なかったけど、ダブルにした途端MPの消費が加速してしまった。おかしいだろおい、たった十秒くらいのダブル火炎放射で30%以上も削れてしまった。使い方に何か問題があるのかな? でも今はそれを気にしている暇は無いか。

「あぁー気持ち悪いぃぃぃ」

 ダブルからシングルに火炎放射を減らした所為で余裕が出来たのか、ロングアームレギオンゾンビは一際大きい絶叫の後、一気に穴から這い出るようにズルッと抜け出してしまった。
 レギオンゾンビの全貌はとてもバランスの悪いモンスターで、とてもじゃないけど地上で動き回れるようには見えなかった。足が無ければ某モンスター牧場のネン〇ロみたいな感じ。

『『『『『『GUOOOOOOOOOOO』』』』』』

「ちょっ......嘘だろオイ」

 余りのアンバランスさと呪いの影響でちょっと注意力散漫になってしまったのが悪かった。そんな俺目掛けて異常に素早いストレートが放たれていて、気付けば目の前にデカい拳があった。

「............ッふんぬっ!!!」

 急所の頭を何とか後方へ傾け、マト〇ックスの有名なシーンのように仰け反る。その状態のまま急いで足に力を込めて跳ぶ。秘技、マ〇リックス緊急回避!!
 流石に無理があったか、下半身から人体が出しちゃいけないヤバい音が聞こえてきたがどうせ頭さえ無事ならどうにかなるので無視し、金砕棒を盾のように構えて頭を守る。さぁ来い呪いのパンチよ!!

「......っ痛ってぇ!!」

 無防備な下半身にパンチが当たる。
 怨念の籠った拳は足先から灼けるような痛みと神経を引きちぎるような痛みを与えてくる。跳び退く勢いと殴打の衝撃で後方に吹き飛ぶ勢いは物凄い事になっている筈なのに、それを無視して拳が俺の身体を潰していく。

 呪いが猛烈な痛みを与え、当たった箇所を脆くする。
 真っ黒に染まった部位はそのまま拳に粉砕されて、そのまま真っ黒な血肉となり周囲に飛び散って消える。

 ―――パァンッ

 下半身全てと胴体の鳩尾まで粉砕された所でロングアームレギオンゾンビの拳が伸び切り、炸裂音を響かせ......そこで漸く拳の侵攻が止まる。

「あ゛ぁ゛ぁ゛っ痛えっ!! クソッ!!」

 内臓に焼き鏝を突っ込まれて好き勝手に引っ掻き回されるような痛みに耐えながら、盾にならなかったお陰で自由な金砕棒をクソゾンビの拳の中指に叩き付けて一矢報いてから吹き飛ぶ。

 黒い煤のようになった血を撒き散らしながら後方の壁まで吹っ飛んで激突し、止まる。

「ヤバいなぁ......舐めプしたつもりは無かったけど、かなり厄介だぞ呪い」

 久しく感じなかった叫びたくなる程の痛みに耐えながら金砕棒を叩き付けて呪われた箇所を無事な部位から切り離す。黒くなっている所は全て切り離したと思っているけど、ジクジクと痛む傷口に未だ呪いが残っている気がするけど見えないからどうしようもない。

 幸い、鼬の最後っ屁的に中指をぶっ叩いたお陰かゾンビは上手くコチラへ這いよれずにモタついているのが救いだった。あ、諦めて再生させようとしてる。狡いぞ再生なんて!!

「嘘だろぉ......こっちは再生してこない......」

 耐性云々言っている場合じゃなかったレベルのピンチが悲しい。最初の手形で判断してここまでキツいとは思っていなかった自分のアホさに腹が立つ。
 テケテケ匠VS足のあるネ〇ドロの妖怪バトルの第二ラウンドはまだ始まらなそうなのが救いだった。

「ぬるぬる装備してたら違ったんだろうけど......まぁその前に別のピンチになってたか」

 このギリギリアウトっぽいけど一応リクエストしてリプレイ検証しているような状態の中、収納からこの状況を打破できる可能性のある品物を急いで漁り出す匠。
 ズラっと並んだリスト。無駄に種類が多い中身に辟易しつつ、何か無いかと目を通していく。リストが出なければテンパった某青狸型ロボットのように中身を全てひっくり返していただろう。

「......おっ!! これなら何とか出来る!! くそっ、それにしてもソート機能が欲しい......」

 そして漸く願ってもないモノを見つける。

「解呪ポーション......あれ? 飲むんだっけ、掛けるんだっけ?」

 ......確かあん時は......ぶっ掛けたような気がする、けど、どっちが正解だったっけ?

「まぁいいやどっちでも。患部に直接掛けれる今なら飲むより効くでしょ!! きっと」

 そうと決まれば早速と、匠はなんの躊躇いも無く解呪ポーションを呪いに蝕まれている断面に直接ぶっ掛けた。

「あ゛ッ゛」

 傷口に......というか、剥き出しの内臓や身体の断面に液体を掛ければ、沁みる。そんな幼稚園児でもわかる当たり前の現象が匠を襲った。唯一の救いは、キン〇ンや赤〇ンのように製作者の悪意を疑うほど激沁みる液体では無かった事か。

 うろ覚えな記憶にあるようにぶっ掛けた箇所から黒い靄が立ち上る。記憶していたモノよりは大分色が濃かったが......

「うわぁ......色濃いわー......でもこの呪いの強さにも勝てるこのポーションスゲェ。さすがメイドインババアの店製品」

 黒よりも黒い靄が収まると、漸く身体が再生を始めた。強呪耐性はこの階層に来たばかりの時よりも3も上がっていた。怨念の籠った呪いって凄い。

「......テケテケじゃなくなってごめんね。スゲェ目で見てる所悪いけど今からは討伐のお時間だから......」

 見ればまだ再生の途中のようで、怨念集合体はこっちを見て驚いた顔をしていた。ごめんね、再生力は俺の方が強かったみたいだ。

 愕然としている怨念集合体に向かってまだ飲み終ったペットボトルの底にちょっとだけ残った中身くらいの解呪ポーションの瓶と金砕棒を持って駆け出す匠、それからワンテンポ遅れて匠の迎撃にスタイルをシフトした怨念集合体。

 それでもまぁ切り替えが早いというか......手負いでもなんでも相手はデカいモンスター、リーチが違う。無事な方の腕でとんでもないレベルの剛腕パンチ呪い付きが飛んできていた。
 ただでさえ狂っている遠近感とノーモーションで伸びてくる腕の悪意あるコンボ+掠るだけで発動する呪いの鬼コンボ。動かなくてもどうにか出来る固定砲台ってやっぱり怖いわ。

 迫り来る腕をその場でスライディングするように避けて、返す刀で肘っぽい部位に解呪ポーションの空き瓶を叩き付ける。

 掠った際の保険として持っていたのを苛立ちに任せて使っちゃった事に後悔したが、怨念集合体に効果はバツグンだったらしく、黒い靄を出す伸びた腕をビッタンビッタンと暴れさせていた。

「......っぶねぇ!! でもザマァwwww」

 第二ラウンドはこうして幕を開けた。

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