血塗れダンジョン攻略

甘党羊

文字の大きさ
上 下
145 / 146

スッキリ/視察

しおりを挟む
 ダンジョンを出られない間に地上の災厄になってしまいそうな二人を宥め賺し、落ち着いた所で不要物の売却と買い物を済ます。

 身内ボーナスか御祝儀かアレらの元々の単価が高かったのかはわからないけど、全てを売り払った合計BPは15万とちょっとになった。いきなり桁が変わったお陰で今の俺はプチセレブと言っても過言ではないだろう。

「アハハッ」

 あっちに居る時は、卒業して独り立ちする為の資金として貯めるしか出来なかった。
 だけど......今は使える。自分の為に、自由に、生きる為に、生き残る為に、誰に遠慮するでもなく、全てを俺の人......悪魔生の為に......!!
 あの頃に立てていた予定とか展望とかは全ておじゃんになったけど、一応はちゃんと独り立ちしたと胸張って言える結果になった。結果オーライだった。

 残高を見てニヤけ、商品を物色&吟味し、値段とにらめっこして最終的に買う物の取捨選択。爆買いとまでは言わないけど、大量に買い物をして盛大に散財するのは楽しかった。
 今度ババアに会ったらラインナップに加えて欲しいと思っていた物があった様な覚えは薄らとあるが、残念ながらダンジョンの途中で頭から抜け落ちてしまっていた。これくらいで忘れるなら絶対に必要!! ってモノじゃない......はずでしょ、きっと......と言い訳を無理やり自分に言い聞かせ、思い出せそうで思い出せないモヤモヤした気持ちの悪さ切り捨てた。

 思考の切り替え、気持ちのリセットなどはこのダンジョンに落ちてからかなり上手くなっていた。



 ◆◆◆◆◆



『ヒッヒッヒ、毎度あり。次に会う時まで死ぬんじゃないよ』
『どうしても無理だと思った時は、その会員証に向かって「助けて」と呼びかけてくださいね』

 買い物が全て終わると緑茶で一服でもしていけという事でお茶会なるモノをした。緑茶や抹茶は紅茶よりも美味く感じるらしく、ババアのお気に入りになったようでここ最近ずっと毎日飲んでるらしい。

 そんなババアのマイブームはさておき、悪魔さんからは前回貰った“吸血鬼の心臓”の詳細を聞いた。お茶会で話す会話じゃないけど何となく悪魔らしいからセーフ......かな。
 詳しく聞くと、あの心臓はどうやら輸血パックのようなモノらしくて、ピョコっと飛び出てビクビクしてる動脈らしい所を傷付ければ一日一回だけだが10ℓくらいの血液を大体20分くらい掛けて出し続ける逸品らしく、ババアの世界の上位吸血鬼共は日々その輸血パックを求めて血で血を洗う生活をしてるらしい。
 心臓は、その中央にある魔石を砕かなければ鼓動を止めることは無く、永久機関のように血液を製造してくれる。復活する危険があるらしいが、ババアと悪魔さんの施した特殊な処置により現在は安心安全な輸血パックに成り果てている。素晴らしいね......あの時食えばいいのかな? と思って、即実食しなかった自分を褒めてあげたい。

「うん。ババアと悪魔さんも元気でね。またお茶飲ませてよ」

 その後は普通にお茶を飲んでお開きになって今に至る。いつも通りにスっと痕跡を無くして居なくなったババアと悪魔さんを見送り、少しのを感じたまま横になり寝る準備を整えた。

 ......が、眠れない。
 それから色々ゴタゴタと考えて睡眠予定時間を浪費していく。そして――

「ハハハッ、そういう事か。ババアと悪魔さんには言えなかったけどこれからは貰ったベアルって部分だけ名乗ろう......あの二人が言うからステータスにタクミと残るのは受け入れるけど、自分では絶対に名乗らなければいいんだ」

 日本での名など、要らない。

 悪魔名だけあればいい。スッキリした。

 気持ちの整理をつけたら気が晴れ、その後はすんなりと眠りに就けた。



 ◆◆◆◆◆



「ヒヒヒッ」
「あら......これは......」

 脛に傷持つ者や愛好家、若しくはそれの中毒者たちがダンジョンから解放される事を求めて多く訪れるダンジョン、難易度は推定中の上『トーキョー競馬場ダンジョン』。
 特徴は広大なワンフロアの草原型階層、現在三階層までは攻略済。出現するモンスターはほぼ全てが馬型である特殊なダンジョン。
 攻略者の数はオタクたち>破落戸>単なる馬好きの順である。その理由は......闇が深そうなので割愛。

 さて、普通に生きていればその普通に紛れ込めない人達の巣窟にババアと悪魔さんが来ていた。そんな二人が認識阻害らしきスキルをフルに稼働させて何をしているかと言うと......

「ははは、おら! 早く隙を見せろ!」

「居ましたね......そうですか、アレがッッ!!」
「ヒッヒッヒ、落ち着け小娘」

 脛に傷持つ者の......まぁ早い話が、タクミパパの視察に来ていた。そんなタクミパパはというと、破落戸×破落戸の二人組が馬を狩っている背後で隙を伺っていた。観察されているとは知らずに......

「なんじゃい、ありゃとんでもなく雑魚じゃないか」

 新しく出来た孫が尋常ではない殺意を向ける相手がどんなもんかと見に来てみれば......取るに足らない雑魚すぎて毒気を抜かれてしまった。アレは放っておけば何れ勝手に死ぬだろうし、もし生き延びて力をつけていても孫のデコピンで爆散する程度のゴミという事で、ババアは早々に見切りをつけた。

「ほれ、もういいじゃろ。あんなモンに意識を割く価値すら無いわ。それよりも日本の品物を物色する方が遥かに有意義じゃわい」

「......ッ!?」

 そう言って未だに横で殺気を撒き散らす悪魔さんの頭を叩き、正気に戻した。

「......今すぐにでも四肢を捥いだアレを、あの子の前に持っていってあげればいいと思うんですけど」

「ヒヒヒヒヒッ、それじゃあ坊主の気が晴れないじゃないか。晴れて我が一派の一員になった坊主の憂さ晴らしなんじゃから生暖かい目で見守っておやり」

 気難しく、表舞台から退いて長いババアがまだ表舞台に居た頃の最後の眷属だった悪魔さん。気が遠くなる程の時間一番下だった悪魔さんは、待望していた弟分の誕生で超絶過保護になってしまった。その様子を見てババアも苦笑いを浮かべるが、ババアも実は喜んでいて内心の喜びが透けて見えている。

 ――悪魔さんはババアの事を心配していた。何世紀もの時を経て若々しい見た目を捨てて無気力になっていき、文字通り婆の見た目になっていったババアが新たな孫を得て気持ち的にも若返ってきて見た目も若々しくなってきている。最近はダンジョンに篭っている時間が徐々に減り、明らかに明るくなって外出も多くなってきた。それらの事実がまた嬉しい。
 その様な事もあって悪魔さんがタクミとババアへ向ける過保護にブーストを掛けているが、タクミやババアはそれに気付いていない。

「むぅ......わかりました。貴女様がそこまで言うのなら我慢します」

「ヒッヒッヒ、それでよい。ほれ、坊主が欲しがりそうなモノでも探してこい」

「そっ、それなら仕方ありませんね、行ってきます」

 長年ババアの眷属兼助手兼従者をしていた悪魔さんは、身内限定だがいつしか誰かのお世話をするというムーブに幸せを感じる身体になってしまっていた。
 手が掛かり、目が離せないよちよち歩きの赤子と変わらないスペック(悪魔さんから見れば)のタクミなんて、それはもうお世話のし甲斐に満ち溢れているのであった。人をダメにする悪魔である。

「ふんふふーん」

「ふー......やれやれじゃわい」

 己の眷属の変貌っぷりに呆れつつも、足取り軽くショッピングモールダンジョンへ向かうババアがいた。
 他人から見ればどっちもどっちの似た者主従はトーキョー競馬場ダンジョンから去っていった。




「......なんか身体が軽くなったでゴザル」
「気付いてなかったのか? 殺気みたいのがあったんやで......」
「今ならなんでもやれそうでゴザル!! もう何も怖くないッッ!! 拙者独りぼっちじゃないm」
「やめろォォォォォ!!!!」

 上位者の隠していたつもりのプレッシャーから解放された探索者たちはその後、いつもより探索が捗ったらしい。



 ─────────────────────────────

 タクミ・ベアル

 暴力と血の悪魔・下位

 職業:暴狂血

 Lv:12

 HP:100%
 MP:100%

 物攻:400
 物防:1
 魔攻:300
 魔防:200
 敏捷:400
 幸運:100

 残SP:124

 魔法適性:炎・冷・闇呪

 スキル:
 ステータスチェック
 血液貯蓄ㅤ残649.5L
 不死血鳥
 部位魔化
 魔法操作
 血流操作
 漏れ出す混沌
 上位隠蔽
 中位鑑定
 中位収納
 中位修復
 空間認識
 殺戮
 暴虐
 風神那海
 状態異常耐性Lv10
 壊拳術Lv5
 鈍器(統)Lv8
 上級棒術Lv4
 小剣術Lv7
 歩法Lv10
 崩打
 強呪耐性Lv5
 石化耐性Lv4
 病気耐性Lv4
 熱傷耐性Lv8
 耐圧Lv3
 解体・解剖
 回避Lv10
 溶解耐性Lv6
 洗濯Lv3
 アウナスの呪縛

 装備:
 壊骨砕神
 悪魔骨のヌンチャク
 肉触手ナイフ
 貫通寸鉄
 火山鼠革ローブ
 再生獣希少種革のスラックス
 再生獣革のブーツ
 貫突虫のガントレット
 聖銀の手甲
 鋼鉄虫のグリーブ
 魔鉱のブレスレット
 剛腕鬼の金棒
 圧縮鋼の短槍
 迷宮鋼の棘針×2
 魔法袋・小
 ババアの加護ㅤ残高74000

──────────────────────────────
しおりを挟む

処理中です...