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ただ者ではないお方だった……

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 -屋根裏部屋-

 詠史side

  私は、城内の家臣団が住まう区画に屋敷を賜り父と共に暮らしている。

 一仕事を終え、かわやにて用を足し、手水場ちょうずばにて手を清めて。

腰をおろし。

(ふぅ)

さぁ、休むかと思った瞬間。

「失礼致します。楓禾姫様より使いが参っております」

我が家の下男が告げに来て。

(……)


 -屋根裏部屋-


「楓禾姫……なぜに屋根裏部屋に呼び出されるのです?」

急ぎ、場内屋根裏部屋に向かうと、先客の稜弥様がおられた。

「秘密裏の話ゆえ、屋根裏部屋に来て頂いたのです。稜弥様も、詠史殿も。一日の仕事を終えて休もうとされていたのでしょう?ごめんなさいね」

正直、これから?と思った自分を殴りたくなった。労りの言葉をかけて頂いて、気分が跳ね上がったから。

(単純だなぁ、私は)

そんな事思っていたのだけれど。


-ジッ-

(楓禾姫…… ジッと見つめないで頂きたい。 左隣りに座る稜弥様からの、負の感情を強烈に感じるではないですか)

「どうです?詠史殿。六年前に何が起きたのか分かりましたか?」

「楓禾姫? どういう意味でしょう?」

「だって、詠史殿は。絵師。しかしてその実態は……諜報活動をなされている。違いますか?」

 確かに私は、屋根裏に潜み、稜弥様と、お父上に殿様の。軒下に潜り込み鈴様と、凛実の方様の。話を聞いたけども……



思わず楓禾姫を凝視していた。同じく隣りの稜弥様も。

「稜弥様まで、何を驚かれでいるのです?聡い貴方様が、疑問に思った事をそのままになさる訳がありませんでしょう?」

「はぁ、まぁ……あっすみませんっ。失礼な物言いを致しました。お許し下さい。楓禾姫様!」

「構いませんよ。今のは、私の言い方が悪かったのですから。詠史殿?大丈夫ですか?六年前に、庭師である貴方のお父上に『跡継ぎとして、私に弟子入りしました。せがれの詠史です』と紹介された時に。十二で弟子入り。早いのね。と思ったのですよ」

 「六年前、楓禾姫(様)は十歳ですよね!?」
 

思わず、稜也様と同時に叫んでいた。


ただ者ではないお方だった……

普段は、ほんわかとされているようで……聡さを、ただ隠しておられるだけの……


*廁 トイレ
**手水場 廁近くの手洗い場
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