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もう誰も傷ついてほしくはないの!

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 楓禾side

(話の持って行き方を間違えたわ)

 深い心の痛みを背負った人に対して……

 -ポロポロ-

(な、泣いていり場合ではないのにっ)

 小さく息を吐き、心を落ち着けて。

 「詠史殿。失礼な物言いを許して下さい。私は、逃げてはいられないと。六年前の事を明らかにすべき。と、侍女達から話を聞く事から始めたのです。私の乳母……なずなの母親のゆずなが『ようやく……』と呟いてから……」

「楓禾姫……」

  詠史殿の悲しげな表情が切なくて……

「ゆずなが『認めた手紙を、私が送らせて頂きますね』と、言って退職したその当時の事を知る持女達に手紙を出してくれました。話を聞く行く内に…… 詠史殿の……いえ、忽那家の悲しき運命の事を知りました。桜家の為に 詠史殿の姉君様は……」

 詠史(……)

 瞳を潤ませ、何も言わず私を見つめている  
詠史殿。

「稜弥様。貴方と、稜弥様のお父上様が……叔父上様が。朝比奈家の皆が、私達桜家を影から支えて下さっているからこそ、私も、湖紗若様も無事生きていられるのです。感謝しています」

「楓禾姫様……」

稜弥様の瞳も潤んでいる…… 申し訳なくて……


「鈴兄上様も。凛実の方様も苦しい思いをされている。お二人に苦しい思いを、もうしてもらいたくはないのです。父上様も……湖紗若様を巻き込みたくはない。私は、己の運命から逃れられないのです。だったら立ち上がるまで! そう決心したんです。私の為にっ、もう誰も傷ついて欲しくはないの!」


 涙と共に感情的に叫んでいた。


「楓禾姫…… 間違っておられます」

「楓禾姫様…… 間違っておられます」


「間違っている?」


 一語一句違える事なく、そう言った  詠史殿に、稜弥様。

 その瞳にはもう涙はなく。

(なぜ……そのように穏やかで優しい瞳をしているの?)
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