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戦いの始まり

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  その頃の凛実の方

  -本丸 西《にし》御殿 -凛実の方の部屋-

 凛実の方は、数日前の爽の話に想いを馳せていた。

 楓菜の方の『もう……楓禾姫と、湖紗若を……大人の都合に巻き込みたく無い』という想い。鈴への想い。子供達が成人してから外喜を……と。願った想いを。

『楓菜の方の気持ちを叶える為に、私は何をすべきか考えた。同時に凛実の立場も。外喜はそなたの叔父であるからな……』

『お待ち下さい! 爽様! 私は『例え叔父でも許されない事をしたのだから、私に一切の気遣いは無用です。なぜ失脚させないのですか?』と申し上げたはずです! しかし、今の楓菜の方のについてのお話を聞き、府に落ちました。叔父に隙を見せて、真実を悟られない為だったのですね』

 楓菜の方を思うと涙が止まらなくなった。

『聡いな。子供達も。そなたも。外喜を追い込む最後の機会となるだろう。互いに些細な動きの連絡を密にし合って……良いですか? 無茶をせぬように!』

 分かりました。爽と約束して。楓菜の方の願いに答えたいと凛実の方は誓って。

(己の役割を果たして、どんな場合にも対応出来るようにしなくては……)

 それから。

「おちちうえさま。わたしは りんみのかた さまに やさしくされても あまえられませんでした。うれしかったのに…… りんみのかたさま に あやまりたいです」

(湖紗若様……)

 湖紗若の健気な気持ちが本当に嬉しかった。

 しかし……ふと、凛実の方は嫌な感じを覚えた。

(落ち着いて考えるのよ……)

 爽は、楓希の方と、陽様と話し合う為に、本丸 東《ひがし》御殿の楓希の方様の居室に向かったはず。

 今日は、家臣団の会議があるから叔父は……鈴と、稜弥様も参加すると話していた。本丸 中央の政務の間 にて……

 本丸 北《きた》御殿では、楓禾姫様と、湖紗若様は、楓禾姫様の部屋で一緒に過ごされていると。確認した持女より報告を受けている。詠史殿はお傍近くにて動いているだろう。


 自分の目の前には、珍しい反物を持参したと訪ねて来た商人が……

(入り用な物が出来たら、こちらから商人を呼ぶ事にしているのに……)

 相手方から訪ねて来たのを、迂闊に部屋に上げてしまったけど……

(まさか……)

 商人を良く見ると……

(叔父上様の腹心の使用人?)

『大叔父上にいつも、何かしらの情報を耳打ちしている男が気になる。お母上、くれぐれも気を付けて下さい』

(鈴にもそう言われていたのに……商人に変装していて……)

 そんなのは言い訳だ。注意力散漫な自分が悪いのだから……

 凛実の方は必死に考えた。

(叔父上様が何か仕掛けようとしている……)

 早く知らせねば! 

「すみません。お茶のお代わりを……いえ、反物の御礼に、こちらからも珍しいお茶をお入れ致しますね」

 -パンパン-

 そう言って、凛実の方が手を叩き合図すると、持女が隣の控えの間から入って来て。

「……良いですね! 本丸 東御殿の楓希の方様の居室へ行きお伝えして下さい! さぁ早く!」

「かしこまりました!」

 凛実の方の命を受けた持女は、大きく頷き返事をすると。脱兎の如く部屋を飛び出して行き……

 見送った凛実の方は。

(冷静に……落ち着くのよ。私のすべき事……)

「すみません。上がって頂いておいて申し訳ないのですが。私、他の方と先約をしていたのを失念しておりまして。 また次の機会に反物を見せて頂きとうございます。約束の時間が近付いておりますので……失礼させて頂きます」

 そう言うと凛実の方は、席を外し部屋を飛び出すと、自分のすべき事の為に……楓禾姫と、湖紗若の部屋に急いだ。

(爽様なら、伝言を聞いて動いて下さるはず!)




















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