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24章 断罪
時の結晶
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ローゼリエッタが放った言葉は、確かに力を持ち、世界に語り掛けた。
これにより世界に住む大部分の魔物が、その場に呼び寄せられ集結したことになる。魔物が穴から流れ落ちる様はまるで黒い滝のようで、地表を埋める光景は宛ら黒い海と言えるだろう。それだけの病魔を食らう物がその場にいるというのに、少女が放つ眩い光により、魔物は自由に動けないでいた。
アニムもまた動くことが出来なかった。心の内を埋めていた怒りは地震のせいで一気に冷め、代わりに彼の思考を埋めたのは恐怖の感情だ。人間が神の言葉を使うことで、神の怒りを買ってしまったのではないか。初めて起きた大地の揺れ、これはその証拠なのではないかと。
中でも一際恐怖を与えた存在は、絶大なる力を持っている筈の白龍が蹈鞴を踏む程の揺れの中、何事もないかのように立つ少女の姿であった。
初めて感じる感情に狼狽える龍。だが次第に、人間がまたしても『大切なもの』を奪い取っていったことに怒りが湧き上がる。
人間はエルフに与えられた魔法の力を奪い、ドワーフに与えられた鍛冶の技術を奪い、セリオンに与えられた動物の知識を奪った。だというのに今、またしても人間は龍に与えられた唯一無二の力、言葉までも奪っていってしまったのだ。
『おのれ……我に与えられしものまでも奪おうとするか! 人間め!! 貴様らのせいで世界は……世界は……!』
世界は崩壊に向かっている。起きる筈のない地震が、その証拠だ。
なぜ地震が起きているのか、詳細まではアニムにも分からなかったが、起こしている者は知れている。
(防がなくては! 神が怒るその前に!)
ある種の焦りを孕んだその感情につき動かされ、龍は体勢を崩しつつも一歩前に踏み出した。
その時。
「‶天回”」
少女の口が、二つ目の言葉を紡ぎ出す。
ローゼリエッタが放つ光により、魔物は一定距離より近づくことが出来ない。その光の中にはセリア、ガンフ、リエントの姿もあって、今四人は魔物に襲われることのない状況だ。
この光の結界によりできた魔物の円の最前列より、突如透明な、氷のような物が突き出した。
それは時間を停止する魔法の結晶体。
その結晶に触れてしまえば最後、忽ち世界から隔離されその者に与えられた時が止まる。当然巻き込まれた魔物は瞬く間に動くのを止め、その命を養分にするかのように、結晶は連鎖的に数を増やし続けた。隙間なく、波打つ黒い海の時が止まっていく。その大海に漂う白き龍も、結晶に飲み込まれかけていた。
『くっ……神よ! 何故主は、人間を創り給うた!? 世界を崩壊に導く者を……何故!!』
白龍は懸命に少女の力を抑えようと試みた。言葉を紡ぎ、止めた時間を動かそうと抗った。だが、叩きつけ一瞬で壊した時計を直すのに時間がかかる様に、止まった時を再び戻すことは難しい。やがて白龍も透明な結晶に飲み込まれ、彼が持っていた永遠の時が止まる。
更に結晶は数を増やし、大地にひしめく魔物全てを掌握する。けたたましい奇声も、いきり立つが鳴り声も、鳴動していた地震すらも止み、静止画に収めたかの如く全ての時が止まった。
時間が止まった世界を見て、ガンフは呟く。
「……やったのか?」
先まで耳を塞ぎたくなるほど煩かったのに、彼の呟きはよく響いた。
続いてセリアも周囲を見渡す。
「皆……時間が止まってしまったみたい」
比喩でも何でもない。確かに皆、時間が止まってしまった。
二人は近くで凍り付いた魔物に近寄って、恐る恐る手を伸ばす。
そこへ、リエントの注意する声がかかった。
「触ってはだめです!」
伸ばし駆けていた手をびくりと震わせ、振り向くガンフ。その視線の先には、ぼろぼろになった枯れ木の化け物が横たわる。
周囲の魔物が全て動きを止め、安全であることを確認した三人は、これを仕出かした少女を見つめた。
いまだ光は収まらず、周囲を明るく照らしている。
「まずはロゼをつれて、早くここから離れましょう」
「そうだな。全く……どれだけ説教してやろうか」
「え……? 僕たち聖女様に助けて貰ったのに、説教するんですか?」
全てが終わったと感じた三人の顔には笑みが零れ、軽口まで飛び出していた。
皆体はボロボロで、満身創痍も甚だしい。それでも生きていられるのは、魔物の生命力を吸収したせいか。大きな戦いを乗り越えた充足感と安心感で、何とか三人は少女に向かって歩き出す。
だが、まずセリアが、次にリエント、最後にガンフが、少女に起きた異変に気が付いた。
自らの身体を抱きしめ、ガタガタと震えている。
「……ロゼ?」
セリアの呟きが響いたが、それに返る答えはない。
その代わりに……彼女の足元で、小さな時の結晶が隆起した。
これにより世界に住む大部分の魔物が、その場に呼び寄せられ集結したことになる。魔物が穴から流れ落ちる様はまるで黒い滝のようで、地表を埋める光景は宛ら黒い海と言えるだろう。それだけの病魔を食らう物がその場にいるというのに、少女が放つ眩い光により、魔物は自由に動けないでいた。
アニムもまた動くことが出来なかった。心の内を埋めていた怒りは地震のせいで一気に冷め、代わりに彼の思考を埋めたのは恐怖の感情だ。人間が神の言葉を使うことで、神の怒りを買ってしまったのではないか。初めて起きた大地の揺れ、これはその証拠なのではないかと。
中でも一際恐怖を与えた存在は、絶大なる力を持っている筈の白龍が蹈鞴を踏む程の揺れの中、何事もないかのように立つ少女の姿であった。
初めて感じる感情に狼狽える龍。だが次第に、人間がまたしても『大切なもの』を奪い取っていったことに怒りが湧き上がる。
人間はエルフに与えられた魔法の力を奪い、ドワーフに与えられた鍛冶の技術を奪い、セリオンに与えられた動物の知識を奪った。だというのに今、またしても人間は龍に与えられた唯一無二の力、言葉までも奪っていってしまったのだ。
『おのれ……我に与えられしものまでも奪おうとするか! 人間め!! 貴様らのせいで世界は……世界は……!』
世界は崩壊に向かっている。起きる筈のない地震が、その証拠だ。
なぜ地震が起きているのか、詳細まではアニムにも分からなかったが、起こしている者は知れている。
(防がなくては! 神が怒るその前に!)
ある種の焦りを孕んだその感情につき動かされ、龍は体勢を崩しつつも一歩前に踏み出した。
その時。
「‶天回”」
少女の口が、二つ目の言葉を紡ぎ出す。
ローゼリエッタが放つ光により、魔物は一定距離より近づくことが出来ない。その光の中にはセリア、ガンフ、リエントの姿もあって、今四人は魔物に襲われることのない状況だ。
この光の結界によりできた魔物の円の最前列より、突如透明な、氷のような物が突き出した。
それは時間を停止する魔法の結晶体。
その結晶に触れてしまえば最後、忽ち世界から隔離されその者に与えられた時が止まる。当然巻き込まれた魔物は瞬く間に動くのを止め、その命を養分にするかのように、結晶は連鎖的に数を増やし続けた。隙間なく、波打つ黒い海の時が止まっていく。その大海に漂う白き龍も、結晶に飲み込まれかけていた。
『くっ……神よ! 何故主は、人間を創り給うた!? 世界を崩壊に導く者を……何故!!』
白龍は懸命に少女の力を抑えようと試みた。言葉を紡ぎ、止めた時間を動かそうと抗った。だが、叩きつけ一瞬で壊した時計を直すのに時間がかかる様に、止まった時を再び戻すことは難しい。やがて白龍も透明な結晶に飲み込まれ、彼が持っていた永遠の時が止まる。
更に結晶は数を増やし、大地にひしめく魔物全てを掌握する。けたたましい奇声も、いきり立つが鳴り声も、鳴動していた地震すらも止み、静止画に収めたかの如く全ての時が止まった。
時間が止まった世界を見て、ガンフは呟く。
「……やったのか?」
先まで耳を塞ぎたくなるほど煩かったのに、彼の呟きはよく響いた。
続いてセリアも周囲を見渡す。
「皆……時間が止まってしまったみたい」
比喩でも何でもない。確かに皆、時間が止まってしまった。
二人は近くで凍り付いた魔物に近寄って、恐る恐る手を伸ばす。
そこへ、リエントの注意する声がかかった。
「触ってはだめです!」
伸ばし駆けていた手をびくりと震わせ、振り向くガンフ。その視線の先には、ぼろぼろになった枯れ木の化け物が横たわる。
周囲の魔物が全て動きを止め、安全であることを確認した三人は、これを仕出かした少女を見つめた。
いまだ光は収まらず、周囲を明るく照らしている。
「まずはロゼをつれて、早くここから離れましょう」
「そうだな。全く……どれだけ説教してやろうか」
「え……? 僕たち聖女様に助けて貰ったのに、説教するんですか?」
全てが終わったと感じた三人の顔には笑みが零れ、軽口まで飛び出していた。
皆体はボロボロで、満身創痍も甚だしい。それでも生きていられるのは、魔物の生命力を吸収したせいか。大きな戦いを乗り越えた充足感と安心感で、何とか三人は少女に向かって歩き出す。
だが、まずセリアが、次にリエント、最後にガンフが、少女に起きた異変に気が付いた。
自らの身体を抱きしめ、ガタガタと震えている。
「……ロゼ?」
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その代わりに……彼女の足元で、小さな時の結晶が隆起した。
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