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24章 断罪
鳴動
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ここまで来て、アニムは漸く彼らが愚直な突進を続けたことに得心がいった。
彼らの切り札は、精霊の力を借りることなく発動できる高威力の魔法攻撃にあったのだ。その性質から察するに対象の持つ力、または存在そのものを封印するという強力な物。その逆転の一手を敗北直前まで隠し通していたことに、アニムは人間の強かさを見る。
『……末恐ろしい存在になったものだ。世界の一住人でありながら、最古の管理者である我を打倒しうる力を編み出すとは』
妥当しうる力は持っていた。だが、ガンフにはもう剣を振る余力は残されていない。そのガンフに『もしも』があった時の為に、類似する剣を振るえる悪魔の騎士が投入されたのだが、それも今では我楽多だ。また、一度その脅威を目の当たりにした白龍に対し、もう二度とその力が届くことはないだろう。
ここまでこの逆転の一手に希望を寄せ突き進んできた三人だったが、遂に、その希望は打ち砕かれた。
魔物の数は大きく膨れ上がっていた。転送される速度が如実に上がり、殲滅力を上回ってしまったようだ。戦う三人の内、二人は既に戦力にならない。唯一奮闘するリエントだけが、魔法を駆使して魔物を圧倒していた。
リエントは残りに限りのある魔力を使って、片腕を失くしたガンフと人形を失くしたセリアを手繰り寄せる。ガンフとセリアはいまだ動けないローゼリエッタと共に体を寄せると、リエントの戦う姿を見つめる。
そこにいたのは、唯の木の化け物だった。少年の面影は一つもなく、振るう力すらも異質なものに変わってしまっている。魔物の力に浸食されたのか、放つ魔法は次第に黒みを帯び、徐々にその力を増幅させていた。それと同時にリエントの発する言葉からも、人間味が薄れていく。
『ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』
もはや詠唱と呼ぶには難しい掠れた叫び声をあげ、彼は杖代わりの腕を振るった。
その腕には赤褐色の裂傷が走り、魔法が振るわれる度に毒々しく明滅を繰り返している。そして明滅が起こる度、化け物が悲鳴染みた雄たけびを上げる。
リエントは必死に戦った。足りない魔力を命を燃やすことで補い、無限に増え続ける魔物を屠り続けた。理性の欠如と疲弊により何度も接敵は許していて、身体は無傷と程遠い。
いつからか、彼の身体が軋み始めた。傷ついた体が、魔法行使の反動に耐え切れなくなったのだ。
ぎしぎしと軋む音は近くで見守っている三人にも聞こえ、今にも折れてしまいそうで危うい。
彼らは直感的に感じた。リエントもまた、限界が近いのだと。
一方アニムはと言えば、あれから一切の動きを見せない。どうやら自身は直接手を下さず、あくまでも世界の自浄作用に任せようという魂胆らしい。つまりはまだ、魔物を退けることが出来れば存命の可能性もあり得る。だが……愚者の悪あがきを見る白龍も、抗い続ける愚者自身も、それを傍観する者らも皆、敗北するのは人間だと心の中で分かっていた。
抗い続けたリエントも、遂に腕を止める。
屠った魔物は千か万か。数えるのも馬鹿らしくなる程には倒したが……相も変わらず地表は魔物で犇めいていて気持ちが悪い。
人間は戦う力を失った。あとは群がる魔物に貪られるだけだ。
動かなくなった枯れ木に狼が噛みついた。細い腕は瞬く間に噛み千切られ、そのままの勢いで巨体は地に倒れる。
セリア、ガンフも、立ち上がって必死に抗って見せた。だがそこに先刻の力強さは感じられず、取り囲む魔物はまるで嘲る様にけたけたと鳴く。
そんな絶望的な状況の最中、一人の少女は諦めなかった。
ローゼリエッタは見えぬ兄に語り掛ける。
(兄さん。どうか私に力を貸してください)
返事はない。既にアルストロイは膨大な魔力を消費していて、意思疎通できる姿ではない。
しかし、一方的ながら兄は感じた。妹の覚悟と決意を。そして、例え疎通は叶わなくともアルストロイは、妹の願いに応える。
突如としてローゼリエッタの身体が光り輝いた。眩い閃光が迸り、襲い掛かろうとしていた魔物の足を一時止める。
驚くアニム、ガンフ、セリア、リエント、そしてローゼリエッタ。言葉を失くしたまま、誰もが少女の身体を注視した。
ローゼリエッタの中に声が響く。
(僕の願いも一緒だよ、ロゼ)
優し気な兄の声。それを聞いただけで、不思議と心の底から力が湧いてくる。
少女は立ち上がった。先までの言うことを聞かない体が嘘のように軽い。何処までも飛んでいけそうな錯覚を覚える程だ。
立ち上がった少女は皆の注目を一身に受け、白龍を見上げるとゆっくりと口を開く。確かな願いと、強き心をもって。
「‶招集”」
ぞわりと、白龍の背筋が凍り付いた。
ローゼリエッタが発した言葉は、確かにアニムが使った『神言』だった。当然言葉だけ真似たところで何かが起こるわけではない。だが、確かな願いと膨大な魔力が込められたそれは、不完全ながら本来の力を発揮する。
白龍が呼び出した次元の黒穴に加え、幾つもの洞穴が姿を現した。そこから現れたのは更なる魔物たち。その数から、恐らくは世界に潜む大多数の魔物がその場に集められたことになるだろう。
これに対し多くの物は疑問を抱えたが、唯一、アニムは激怒し声を荒げた。
『愚者はやはり愚者であったか! 己の身分も弁えず、あろうことか神の御言葉を使うとは……なんと恐れ多い!!』
その怒りに耐えきれず、アニムは少女目掛けて足を進める。その時……
ゴゴゴゴゴ……
大地が大きく揺れた。大きなものが落ちただとか、魔法の衝撃で起こるような局所的な物ではない。世界にある全ての大地が、大きく揺れている。
この未曽有の事態に、その場にいた全ての者は恐怖を感じた。何故なら、誰も経験したことのない現象だったからだ。立つことも儘ならぬ大きな揺れ。この世界が生まれてからこれまでの間で、一度も起きた事のない『地震』が起きた瞬間だった。
彼らの切り札は、精霊の力を借りることなく発動できる高威力の魔法攻撃にあったのだ。その性質から察するに対象の持つ力、または存在そのものを封印するという強力な物。その逆転の一手を敗北直前まで隠し通していたことに、アニムは人間の強かさを見る。
『……末恐ろしい存在になったものだ。世界の一住人でありながら、最古の管理者である我を打倒しうる力を編み出すとは』
妥当しうる力は持っていた。だが、ガンフにはもう剣を振る余力は残されていない。そのガンフに『もしも』があった時の為に、類似する剣を振るえる悪魔の騎士が投入されたのだが、それも今では我楽多だ。また、一度その脅威を目の当たりにした白龍に対し、もう二度とその力が届くことはないだろう。
ここまでこの逆転の一手に希望を寄せ突き進んできた三人だったが、遂に、その希望は打ち砕かれた。
魔物の数は大きく膨れ上がっていた。転送される速度が如実に上がり、殲滅力を上回ってしまったようだ。戦う三人の内、二人は既に戦力にならない。唯一奮闘するリエントだけが、魔法を駆使して魔物を圧倒していた。
リエントは残りに限りのある魔力を使って、片腕を失くしたガンフと人形を失くしたセリアを手繰り寄せる。ガンフとセリアはいまだ動けないローゼリエッタと共に体を寄せると、リエントの戦う姿を見つめる。
そこにいたのは、唯の木の化け物だった。少年の面影は一つもなく、振るう力すらも異質なものに変わってしまっている。魔物の力に浸食されたのか、放つ魔法は次第に黒みを帯び、徐々にその力を増幅させていた。それと同時にリエントの発する言葉からも、人間味が薄れていく。
『ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』
もはや詠唱と呼ぶには難しい掠れた叫び声をあげ、彼は杖代わりの腕を振るった。
その腕には赤褐色の裂傷が走り、魔法が振るわれる度に毒々しく明滅を繰り返している。そして明滅が起こる度、化け物が悲鳴染みた雄たけびを上げる。
リエントは必死に戦った。足りない魔力を命を燃やすことで補い、無限に増え続ける魔物を屠り続けた。理性の欠如と疲弊により何度も接敵は許していて、身体は無傷と程遠い。
いつからか、彼の身体が軋み始めた。傷ついた体が、魔法行使の反動に耐え切れなくなったのだ。
ぎしぎしと軋む音は近くで見守っている三人にも聞こえ、今にも折れてしまいそうで危うい。
彼らは直感的に感じた。リエントもまた、限界が近いのだと。
一方アニムはと言えば、あれから一切の動きを見せない。どうやら自身は直接手を下さず、あくまでも世界の自浄作用に任せようという魂胆らしい。つまりはまだ、魔物を退けることが出来れば存命の可能性もあり得る。だが……愚者の悪あがきを見る白龍も、抗い続ける愚者自身も、それを傍観する者らも皆、敗北するのは人間だと心の中で分かっていた。
抗い続けたリエントも、遂に腕を止める。
屠った魔物は千か万か。数えるのも馬鹿らしくなる程には倒したが……相も変わらず地表は魔物で犇めいていて気持ちが悪い。
人間は戦う力を失った。あとは群がる魔物に貪られるだけだ。
動かなくなった枯れ木に狼が噛みついた。細い腕は瞬く間に噛み千切られ、そのままの勢いで巨体は地に倒れる。
セリア、ガンフも、立ち上がって必死に抗って見せた。だがそこに先刻の力強さは感じられず、取り囲む魔物はまるで嘲る様にけたけたと鳴く。
そんな絶望的な状況の最中、一人の少女は諦めなかった。
ローゼリエッタは見えぬ兄に語り掛ける。
(兄さん。どうか私に力を貸してください)
返事はない。既にアルストロイは膨大な魔力を消費していて、意思疎通できる姿ではない。
しかし、一方的ながら兄は感じた。妹の覚悟と決意を。そして、例え疎通は叶わなくともアルストロイは、妹の願いに応える。
突如としてローゼリエッタの身体が光り輝いた。眩い閃光が迸り、襲い掛かろうとしていた魔物の足を一時止める。
驚くアニム、ガンフ、セリア、リエント、そしてローゼリエッタ。言葉を失くしたまま、誰もが少女の身体を注視した。
ローゼリエッタの中に声が響く。
(僕の願いも一緒だよ、ロゼ)
優し気な兄の声。それを聞いただけで、不思議と心の底から力が湧いてくる。
少女は立ち上がった。先までの言うことを聞かない体が嘘のように軽い。何処までも飛んでいけそうな錯覚を覚える程だ。
立ち上がった少女は皆の注目を一身に受け、白龍を見上げるとゆっくりと口を開く。確かな願いと、強き心をもって。
「‶招集”」
ぞわりと、白龍の背筋が凍り付いた。
ローゼリエッタが発した言葉は、確かにアニムが使った『神言』だった。当然言葉だけ真似たところで何かが起こるわけではない。だが、確かな願いと膨大な魔力が込められたそれは、不完全ながら本来の力を発揮する。
白龍が呼び出した次元の黒穴に加え、幾つもの洞穴が姿を現した。そこから現れたのは更なる魔物たち。その数から、恐らくは世界に潜む大多数の魔物がその場に集められたことになるだろう。
これに対し多くの物は疑問を抱えたが、唯一、アニムは激怒し声を荒げた。
『愚者はやはり愚者であったか! 己の身分も弁えず、あろうことか神の御言葉を使うとは……なんと恐れ多い!!』
その怒りに耐えきれず、アニムは少女目掛けて足を進める。その時……
ゴゴゴゴゴ……
大地が大きく揺れた。大きなものが落ちただとか、魔法の衝撃で起こるような局所的な物ではない。世界にある全ての大地が、大きく揺れている。
この未曽有の事態に、その場にいた全ての者は恐怖を感じた。何故なら、誰も経験したことのない現象だったからだ。立つことも儘ならぬ大きな揺れ。この世界が生まれてからこれまでの間で、一度も起きた事のない『地震』が起きた瞬間だった。
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