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2章 吹き込まれる魂
協力者
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町へと戻った二人は、更に数日の間、体調回復の為に普通の暮らしをしていた。
相変わらず支店に来客はないので、稼ぎはアルストロイの仕事に頼らざるを得ない。
町から館へ往復していた時間が、そのまま短縮されるため、稼ぎ自体は相当多くなった。二人がこの先生活していける程の金額だ。
だが、それは二人が望むことではない。
策を講じるにあたって当面の問題は、劇を行うという告知方法だ。
ローゼリエッタは、店先にある通りにのぼりや看板を出すだけで良いと思っていた。
しかし、店の一つ外は公道である。
本来であれば許可も無しにそういった物を設置することはできないのだ。
ローゼリエッタは、人形に関する知識や技術は優秀であったが、一般常識といった方面には頗る弱かった。
これはアルストロイにしても同様の事が言える。
町に出稼ぎに来る機会があったので、妹程弱くはないが、それでも町に住む者からしたら鼻で笑われるだろう。
彼女の策には、こういった致命的な問題があったのだが、それに気づかない二人は、限られた時間を浪費していく。
比較的規則正しい生活。
これにより、ローゼリエッタの体調も順調に回復していった。
あとは少女の一声で、いつでも劇が始められる、というある日、トレット家第一支店『ドール・ロゼ』に、待望の来客が現れる。
よく晴れた昼下がり。
小さな音を立てて戸が開き、備え付けられた鈴が客の来訪を知らせる。
「すまない。……誰か居らんかね?」
その呼びかけに言葉は返って来ない。
何故なら、現在アルストロイは依頼を受けに出払っている為不在。
ローゼリエッタは店内にいたが、作業部屋にて、人形に集中していて耳に届いていなかった。
数度の呼びかけの後、奥にある扉から、少々汚れた作業着を着たローゼリエッタが姿を現す。
「お待たせしました!ようこそドール・ロゼへ!」
思いがけずの来客に、舞い上がる少女。
取り合えず元気に客を出迎えた。
ローゼリエッタは、来訪者に見覚えがあった。
品の良い召し物、恰幅の良い体躯、髪は白髪の初老の男。
その人は先日、麗しの令嬢人形の受け渡しをした貴族、ハッタ―・ルドルフだった。
ハッタ―は微笑んでローゼリエッタに語り掛ける。
「その節は世話になったね。素晴らしいあの人形は、今も私の館で美しい姿を披露しているよ。ただ、一人というのが少し寂しそうでね……もう一体お願いしようと人形の館に足を運んだのだが……留守だったのはこういう事だったんだね」
砕けた言葉遣いでそういって、彼は物珍しそうに部屋の中を見渡した。
ハッタ―は、新たな人形の依頼をしようと、人形の館に車を走らせていた。
だが丁度、二人が町にいた頃だったらしく、すれ違いになっていたようだ。
ここでも、常識を知らない二人の欠点が露わになってしまった。
ローゼリエッタは一つ頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!せめて入口にだけでも、そういった報せは立てておくべきでした!」
「ああ、いいのだいいのだ。車を使えばあの程度別に苦ではない。だが……一体どういった思いがあってこんなことを?知人の話では仕事も十分にあったと聞いたが……」
顎に手をあて、彼は唸る。
ハッタ―の問いかけに、ローゼリエッタは一つ一つ答えていく。
支店進出の経緯、その思惑、そして現在行おうとしている策についても。
全てを聞いたハッタ―は、大きく頷いた。
「若いのに素晴らしい考えだ。あれ程の人形を作る技術。確かに、影にしまっておくには惜しいものな。若いのにその行動力にも目を見張る。しかし……少々考えなしでもあったようだ。この町では、そういった催しを開く場合、許可が必要なことは知っているかな?」
それから彼は、町の規則を一つ一つ丁寧に説明して見せた。
そもそもの話、店舗を経営する場合、町に申請が必要だったのだ。
その申請後に貰える証文を店先に掲げることで、町から認められた優良店であることが証明される。
世間一般では、証文を構えない店には立ち寄るべきではない、というのが定説であった。
何処か後ろめたい理由があるだろうと勘ぐるだろうし、盗品や粗悪品を押し付けられては堪った物では無い。
話を聞いてローゼリエッタは、成程と呟いた。
それと先の公道の件。
それらの申請先に至るまで、ローゼリエッタとアルストロイは何も知らなかった。
だがそれは言い訳にならない。
してしまったが最後、最悪の場合憲兵に取り押さえられることも在り得るという。
この話を聞いて、少女は一つ胸を撫で下ろした。
幸運なことは、取り返しのにつく時点で、こうして教えてくれる者が現れたことだ。
ハッタ―は、常識しらずな兄妹にとって、最高の教諭となった。
「申請は本人が行くべきだろうが……どうだろう?告知のほうは私に任せてはくれないか?先の……傀儡人形だったか。それにも非常に興味がわく。是非とも、成功して貰いたいのでね」
そういって彼は豪快に笑った。
この申し出は、ローゼリエッタにとっても、嬉しい物だった。
少女はその好意に甘えることに決め、礼として格安で、ハッタ―の新たな人形制作依頼を請け負う。
更に数日後、兄妹はハッタ―の力の凄まじさを体験することになる。
人形が躍る姿を見ることが出来るという噂は、瞬く間に町に広がり、通りから店内を覗き込む人影も、日増しに増えていった。
やがて申請が通り、証文を店先に掲げる頃には、当初の様はどこへやら。
閑散していた時が嘘のように、アルストロイまでもが客の対応に追われてゆく。
ここ数日の空き時間で、ローゼリエッタは、一般家庭用の安価で小さな人形も作っていた。
可愛らしい、子ども向けの人形だ。
作成の手間も大幅に削り、簡略化されたそれは、既に店内に十数体と並んでいる。
少女の思惑通り、子ども連れの客がその人形を持ち上げた。
「母さん!可愛いお人形さんがいるよ!」
「あら、本当ね。今月は少し余裕があるし、お家に連れて帰ってあげようか」
嬉しそうに人形を抱きしめる女の子。
微笑ましいその様子を、ローゼリエッタとアルストロイは目を細めてみていた。
相変わらず支店に来客はないので、稼ぎはアルストロイの仕事に頼らざるを得ない。
町から館へ往復していた時間が、そのまま短縮されるため、稼ぎ自体は相当多くなった。二人がこの先生活していける程の金額だ。
だが、それは二人が望むことではない。
策を講じるにあたって当面の問題は、劇を行うという告知方法だ。
ローゼリエッタは、店先にある通りにのぼりや看板を出すだけで良いと思っていた。
しかし、店の一つ外は公道である。
本来であれば許可も無しにそういった物を設置することはできないのだ。
ローゼリエッタは、人形に関する知識や技術は優秀であったが、一般常識といった方面には頗る弱かった。
これはアルストロイにしても同様の事が言える。
町に出稼ぎに来る機会があったので、妹程弱くはないが、それでも町に住む者からしたら鼻で笑われるだろう。
彼女の策には、こういった致命的な問題があったのだが、それに気づかない二人は、限られた時間を浪費していく。
比較的規則正しい生活。
これにより、ローゼリエッタの体調も順調に回復していった。
あとは少女の一声で、いつでも劇が始められる、というある日、トレット家第一支店『ドール・ロゼ』に、待望の来客が現れる。
よく晴れた昼下がり。
小さな音を立てて戸が開き、備え付けられた鈴が客の来訪を知らせる。
「すまない。……誰か居らんかね?」
その呼びかけに言葉は返って来ない。
何故なら、現在アルストロイは依頼を受けに出払っている為不在。
ローゼリエッタは店内にいたが、作業部屋にて、人形に集中していて耳に届いていなかった。
数度の呼びかけの後、奥にある扉から、少々汚れた作業着を着たローゼリエッタが姿を現す。
「お待たせしました!ようこそドール・ロゼへ!」
思いがけずの来客に、舞い上がる少女。
取り合えず元気に客を出迎えた。
ローゼリエッタは、来訪者に見覚えがあった。
品の良い召し物、恰幅の良い体躯、髪は白髪の初老の男。
その人は先日、麗しの令嬢人形の受け渡しをした貴族、ハッタ―・ルドルフだった。
ハッタ―は微笑んでローゼリエッタに語り掛ける。
「その節は世話になったね。素晴らしいあの人形は、今も私の館で美しい姿を披露しているよ。ただ、一人というのが少し寂しそうでね……もう一体お願いしようと人形の館に足を運んだのだが……留守だったのはこういう事だったんだね」
砕けた言葉遣いでそういって、彼は物珍しそうに部屋の中を見渡した。
ハッタ―は、新たな人形の依頼をしようと、人形の館に車を走らせていた。
だが丁度、二人が町にいた頃だったらしく、すれ違いになっていたようだ。
ここでも、常識を知らない二人の欠点が露わになってしまった。
ローゼリエッタは一つ頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!せめて入口にだけでも、そういった報せは立てておくべきでした!」
「ああ、いいのだいいのだ。車を使えばあの程度別に苦ではない。だが……一体どういった思いがあってこんなことを?知人の話では仕事も十分にあったと聞いたが……」
顎に手をあて、彼は唸る。
ハッタ―の問いかけに、ローゼリエッタは一つ一つ答えていく。
支店進出の経緯、その思惑、そして現在行おうとしている策についても。
全てを聞いたハッタ―は、大きく頷いた。
「若いのに素晴らしい考えだ。あれ程の人形を作る技術。確かに、影にしまっておくには惜しいものな。若いのにその行動力にも目を見張る。しかし……少々考えなしでもあったようだ。この町では、そういった催しを開く場合、許可が必要なことは知っているかな?」
それから彼は、町の規則を一つ一つ丁寧に説明して見せた。
そもそもの話、店舗を経営する場合、町に申請が必要だったのだ。
その申請後に貰える証文を店先に掲げることで、町から認められた優良店であることが証明される。
世間一般では、証文を構えない店には立ち寄るべきではない、というのが定説であった。
何処か後ろめたい理由があるだろうと勘ぐるだろうし、盗品や粗悪品を押し付けられては堪った物では無い。
話を聞いてローゼリエッタは、成程と呟いた。
それと先の公道の件。
それらの申請先に至るまで、ローゼリエッタとアルストロイは何も知らなかった。
だがそれは言い訳にならない。
してしまったが最後、最悪の場合憲兵に取り押さえられることも在り得るという。
この話を聞いて、少女は一つ胸を撫で下ろした。
幸運なことは、取り返しのにつく時点で、こうして教えてくれる者が現れたことだ。
ハッタ―は、常識しらずな兄妹にとって、最高の教諭となった。
「申請は本人が行くべきだろうが……どうだろう?告知のほうは私に任せてはくれないか?先の……傀儡人形だったか。それにも非常に興味がわく。是非とも、成功して貰いたいのでね」
そういって彼は豪快に笑った。
この申し出は、ローゼリエッタにとっても、嬉しい物だった。
少女はその好意に甘えることに決め、礼として格安で、ハッタ―の新たな人形制作依頼を請け負う。
更に数日後、兄妹はハッタ―の力の凄まじさを体験することになる。
人形が躍る姿を見ることが出来るという噂は、瞬く間に町に広がり、通りから店内を覗き込む人影も、日増しに増えていった。
やがて申請が通り、証文を店先に掲げる頃には、当初の様はどこへやら。
閑散していた時が嘘のように、アルストロイまでもが客の対応に追われてゆく。
ここ数日の空き時間で、ローゼリエッタは、一般家庭用の安価で小さな人形も作っていた。
可愛らしい、子ども向けの人形だ。
作成の手間も大幅に削り、簡略化されたそれは、既に店内に十数体と並んでいる。
少女の思惑通り、子ども連れの客がその人形を持ち上げた。
「母さん!可愛いお人形さんがいるよ!」
「あら、本当ね。今月は少し余裕があるし、お家に連れて帰ってあげようか」
嬉しそうに人形を抱きしめる女の子。
微笑ましいその様子を、ローゼリエッタとアルストロイは目を細めてみていた。
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