反魂の傀儡使い

菅原

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4章 融合

断れぬ提案

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 床に転がるウルカテは身を捩る素振りを見せた。しかし気絶はしているようで、呼びかけに反応はない。
セリアは彼の下へと足を踏み出す。だがその願い叶わず、ジェイクが立ちふさがり彼女を制した。
「貴方……一体何が目的なのよ!」
セリアは目の前にいる老人を睨みつける。
 ローゼリエッタがセリアと出会ってからこれまでの数日間で、ここまで取り乱す彼女を見たことがない。
その態度だけで、自身よりも他人を気遣う人種であると、ジェイクは気づいた。

 知人の家の中ということで、安心しきっていたセリアは、手元に傀儡を置いていなかった。
傀儡が無ければ傀儡師など唯の女。この状態で、ジェイクの背後にいる兵士が襲い掛かってきたとしたら、二人の女は蹂躙されるだけであろう。
だが彼は兵を向かわせることをせず、律義にもセリアの叫びに答えて見せた。
「目的はローゼリエッタ様がご存知ですよ。唯、返答にはお気を付けください。貴女様の対応いかんでは、彼と……お兄様が要らぬ危険に冒されてしまうかもしれませんので」
「えっ!?兄さんまで!?」
驚く少女の視線を浴びて、ジェイクは微笑んで見せた。


 以前は何とも真摯な御仁であった。
だというのに、今のジェイクはどうしたことか。
暴力を振るっていながら悪びれる素振りも無く、不敵に笑うのみ。
 似ても似つかぬ人物に恐怖し、ローゼリエッタは思わず叫んだ。
「私の持つ技術は差し上げます!ですから、ウルカテさんと兄さんを返してください!」
断った筈の案件を掘り起こし、少女はジェイクにそう懇願する。
 この行動を、セリアは致し方なし切り捨てた。
自身でもそうするだろうことは明白で、先ずは人質の安全を、と考えるのは不思議なことではない。それが子供の頃から一緒に育ってきた者であるならば、尚更その考えに行きつくだろう。

 傀儡技術の入手が彼の目的であるのならば、今彼は、目的を達成したと言える。
ならば技術と引き換えに、アルストロイとウルカテが返ってくる筈だ。
しかし、事はそう簡単には進まない。
「……ローゼリエッタ様は少々勘違いをしておいでの様だ。以前は私らが頼む立場でしたが、今は貴女達が頼む立場でしょう?ここまで状況が変わっているというのに、以前と同じ条件で話が進むとお思いで?」
人質が役に立つと悟ったジェイクは、態度も大きく語り出す。

 彼は、手袋をつけた白い手を持ち上げ、指を二本立てた。
「我々の要求は二つ。一つは、後日に予定されております、我々主催の人形劇に参加して頂きたい。まぁ、人形劇といっても少々過激ではありますが……大陸一の人形技師を決定する大会です。参加者の多くは魔法人形ゴーレムとなるでしょうが、その大会に、貴女は傀儡を持って参加して頂きたい。もう一つの要求は、その大会で優勝をすることです。簡単なことでしょう?」
挙げた腕を下ろし、彼は飄々とした態度で靴を二回鳴らした。

 傲慢な態度を取るジェイクに、セリアが食って掛かる。
「なんて遠回しなことをさせるのかしら。貴方達が欲しがっている技術が目の前で転がっているのよ?そっちに手を伸ばせばいいじゃないの」
その言葉を聞いたジェイクは、徐に転がるウルカテの頭に足を乗せた。
「貴女は、ご自分の立場が分かっていないのですかな?……まぁよいでしょう。我々の目的は、国軍の強化にあります。先日、ローゼリエッタ様がご披露頂いた技術は舞だけで、武に関する情報は一切ありません。今回の大会では、それを見極めさせて頂こうと言っているのです」
ジェイクは少しずつ、頭に乗る足に力を込めていく。

 ウルカテに気を取られていながらも、セリアは気丈な態度を崩さない。
だが抗う術を持たない今、それらは殆ど意味を成さなかった。
「はっ!史上最高の王だなんて噂されてても、腹の中は真っ黒だったってわけね。こんなことをして、国民が黙っているとでも思っているの!?」
力強い叫び。だが、ジェイクは慌てることなく、うんざりといった表情でため息をつくだけだ。
「ふぅ……お好きに騒げばよろしい。日陰者の言うことなど誰も信じますまい。私らはそうならないために、これまで愚民どもに媚び諂って来たのです。……さてと、そろそろ答えを頂けると嬉しいのですが。でないとこの者の頭が、果実のように割れてしまいますよ?」
僅かに、乗せた足が下がった。ウルカテがうめき声を発すると、ジェイクの顔が再び微笑みを讃える。
ガリっと何かが軋む音が鳴った。

 間髪入れずに声を上げたのはローゼリエッタだった。
締め付けられる胸の前で手を組んで、願うように叫ぶ。
「分かりました!……お約束します。大会に出て、優勝することを。ですから!ウルカテさんと兄さんを返してください!」
涙を流しながら訴える少女を見て、ジェイクは満足そうに笑って見せる。
「ははは!お優しい方でいらっしゃる。……良いでしょう。この若者はお返し致します。当初の予定では想定していなかった存在ですから。ですが、お兄様はお返し出来ません。今は従順であっても、約束を破る可能性はゼロではありませんからね」
「そっ、そんな!!」
思わずジェイクをみたローゼリエッタは、そこに狂人のように笑う一人の老人を見た。

 ジェイクはウルカテの頭の上から足を退けると、再び靴を二回鳴らす。
部屋の中は意外と静かで、老人の足音だけが響いた。
 全ての要件を伝え、言質まで取った老人に残された仕事はあと一つ。王都へ帰るだけだ。
「ご安心ください、お兄様の命は保証します。貴方様は唯、大会で優勝すれば良いだけ。そうすれば、貴女様の技術と引き換えにお返ししますとも。……これで用件は終わりましたね。夜分遅くにお邪魔しました。お見送りは結構ですので。では、良い夜を」
話が終わると、ジェイクは来た時同様恭しく礼をして、兵士と共に店を出ていってしまった。


 セリアは気絶するウルカテの介抱を始める。
その様子を、ローゼリエッタは黙って見つめていた。
 部屋にある照明は殆どが消えていて薄暗い。
その為、少女が今どんな顔をしているのかは分からない。
だが握り締める拳が、震える手が、怒りを感じていると物語っている。
 事の最中、ずっと握り締めていた緑の糸は、ここに来てゆっくりと動き始め、少女の意思を代わりに体現する。
その日から、トレット家第一支店のドール・ロゼは、暫く閉店することになった。
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