反魂の傀儡使い

菅原

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4章 融合

魔の手

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 翌日から、ローゼリエッタには一つの試練が課せられた。
毎朝開店と同時に顔を見せるセリアとウルカテ。
彼女らの来店の目的は、ローゼリエッタに魔力操作の訓練を施すためだ。
 来客の対応はアルストロイとウルカテが請け負う。
武骨な男二人という顔ぶれだったが、客の反応は意外にも好感色で、然程売り上げに影響は出ない。
彼らが店を切り盛りしている間に、セリアとローゼリエッタは、作業部屋に籠って訓練を開始した。


 二人の傀儡師はテーブルに向かい合って座る。
魔力操作の訓練は武術とは違い、場所を取らくて済むのが良い。
テーブルの上には紅茶の入ったカップも置いてあり、傍から見れば優雅なティータイムにしか見えなかった。
「さて……始めるにあたって、ロゼには聞きたいことがあるわ。当時の事を思い出してほしいのだけど、魔力操作の訓練はどうやっていたのかしら?」
セリアの質問を受けて、ローゼリエッタは記憶を遡る。
 無理だと決めつけ切り捨ててから、長い時間が経っている為、記憶も朧気で埃が被っている。
少女はその埃を払いながら、昔懐かしい記憶を掘り起こしていった。
「確か……座って目を瞑り、意識を集中させて……それから内に眠る力を、手のひらから飛ばす感覚で……」
出来る工程を実際に見せながら答えていく。

 ローゼリエッタの話を聞いたセリアは、徐に、綺麗な緑色に輝く一本の糸を取り出した。
それはまるで硝子細工の様で、少しでも力を籠めれば儚く砕け散ってしまう美しさを見せている。
「これは、精霊の力が宿った鉱石、精霊石で出来た糸よ。精霊石っていうのは、魔力を効率よく循環させる効果を持っていてね。更に魔力の動きにとても敏感に反応するわ」
そういって彼女は、自身の手のひらの上に糸をのせた。
すると少しして、不思議な光景が広がる。

 緑色の細い糸は、意思を持ったかのようにうねうねと動き出した。
それは明らかに自然とは言い難い動きを取り、ひとりでに縦に立ち上がる。
頭に位置する先が左右に揺れ、体を捻っては自身の体に結び目を作っていった。
 その不思議な光景を、呆気に取られて見つめるローゼリエッタ。
少女のその様子がどこかおかしくて、セリアは微笑みながら課題を呈す。
「魔力操作が上手くなれば、こんなことが出来るようになるわ。理想は指一本で動かすこと。まぁ当然よね。いずれは指に繋いだ糸でこれをやるのだから」
セリアは説明しながらも、糸をもとの形に戻していった。
 綺麗に元通りになった糸をつまみ上げると、そのままローゼリエッタの手のひらに滑り込ませる。
「さぁ、最初は両手から始めましょうか。何も難しく考える必要は無いわ。糸を握って、只強く動けと念じ続けなさい。やがて体が無意識のうちに魔力を動かし始めるでしょう」
こうして、長い長い魔力操作の訓練が始まった。


 あっという間に数日が過ぎ去る。
相も変わらずセリアはドール・ロゼに顔を出し続け、ローゼリエッタの訓練に付き合っていた。
ところが少女の言葉通り、ローゼリエッタにはその手の才は無いらしく、一向に糸は動くことをしない。
「まさかこんなに苦戦するとは思わなかったわ……御婆様が諦めるのも無理ないわね。一度動けば後は楽になると思うんだけど……」
「あはは……私もこんなにへたっぴだとは思いませんでした」
自身の髪を弄りながら、少女は笑って見せた。

 糸を握り締め、延々とにらめっこをするローゼリエッタ。
それをしている間はセリアも暇なので、今では少女の代わりに売り物の人形を作るまでに至っていた。
 椅子に腰かけ、糸と針で小さな布の人形を作る姿は、何とも女性らしい。
本来の目的には全く進展がない状態だったが、二人はその時間が、なんとなく気に入っていた。

 閉店の時間が迫り、辺りも薄暗くなってくる。
この日も何の進歩も無かったと落胆するローゼリエッタ。
落ち込む少女を横目で見ながらも、セリアは小さな人形をテーブルに座らせ、一息つこうと立ち上がった。
 後片付けと共に、部屋の明かりを消していき、ではまた明日、と解散しようとしたその時、作業部屋の戸が強く開かれた。


 足を鳴らして乗り込んできたのは、アルストロイやウルカテではない。
小奇麗な容姿、礼儀正しい態度、規則正しい足音。いつか見たことのある初老の男だ。
「ジェイクさん!?」
その人は以前、ローゼリエッタの元を訪れた国王の使者、ジェイクであった。

 ジェイクは優しい微笑みを讃えながら、ローゼリエッタの前まで歩み寄る。
「ご盛況の様で何よりです。ローゼリエッタ様」
恭しくお辞儀をするジェイク。
 その態度は以前会った時と同じ、礼儀正しいものだったのだが、少女の目は何故か、言いようのない違和感を感じ取った。
ローゼリエッタは恐る恐る苦言を呈する。
「あの……そんなに物々しくされると、お客様に迷惑が掛かってしまうのですが……」
「あぁ、ご安心ください。店の方には誰もおりませんでしたので」
閉店間際な時間の為、客はいないかもしれないが、アルストロイとウルカテがいる筈である。
ローゼリエッタはその疑問を口に出すことなく首を傾げた。

 不快感をあらわにしたのはセリアだった。
強い言葉を浴びせながら、鋭い視線でジェイクを睨みつける。
「非常識にも程があるわ。営業妨害でしょう?それに……店の方にはアルストロイとウルカテがいた筈だけど、あの子らは一体どうしたのかしら?」
微笑みを絶やさずに、目だけを動かしセリアを一瞥するジェイク。
不穏な視線を受けながらも、彼女は態度を崩さない。

 肝が据わっているというべきか、怖いもの知らずというべきか……一切変わらぬ彼女のその態度を見て、ジェイクが口元を僅かに歪めた。
「これはこれは……ローゼリエッタ様と仲睦まじいご様子から察すれば、貴女様も傀儡師ですかな?これは運が良い。ならば彼の存在も無駄にはなりますまい」
彼が一つ指を鳴らすと、背後の開けっ放しの扉の奥から、一人の鎧を着こんだ兵士があらわれた。
店の明かりは消されているようで、暗がりから突然現れた男に、二人は驚く。

 兵士は現れるや否や、小脇に抱える人形らしきものを放り投げた。
それは、ゴロゴロとジェイクの足下まで転がり、ぼんやりと光る魔法光に照らされる。
それを見たセリアは、悲痛な声を上げた。
「ウルカテ!?」
そこにあったのは人形などではなく、縄で縛られた傷だらけのウルカテだった。
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