反魂の傀儡使い

菅原

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3章 新たな時代

決意

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 解体されたアリスが元通りにされる頃、外にはもう月が浮かんでいて、夜も更けた時間帯だった。
傀儡師としての性か、ローゼリエッタもセリアも、人形が絡むと時間を忘れてしまっていけない。
部屋の端に掛かっている掛け時計を見て、二人は漸く我を取り戻した。
「あっ!もうこんな時間……どうでしたか?セリアさん。少しは役に立てましたか?」
「ええ、十分よ。ありがとう、ロゼ。とても勉強になったわ。……そうね。私からも少しだけお土産をあげましょうか」
セリアはそういうと、ウルカテへと目配せをする。
すると彼は頷いて作業部屋を出ていってしまった。

 三人が揃って作業部屋から外に出ると、商品が並ぶ空間に、ウルカテが着こんでいた鎧が一式、山積みとなっていた。
疑問に思うローゼリエッタとアルストロイを尻目に、セリアは歩を止めることなく、鎧の前まで歩み寄る。
「正直、貴女に見せるのは恥ずかしいのだけど……見せて貰ってばかりじゃ悪いものね」
背を向けたままのセリアは、徐に両手を広げ、華麗に半回転して見せた。

 観客の方を向いたセリアは、右手を腰に添え、左手を勢いよく振り下ろす。
すると、彼女の背後にある鎧の山は、ひとりでに浮き上がり、セリアより一回り程大きな戦士となって立ち上がったではないか。
 店内にある魔法光に照らされて、怪しく光る黒の鎧。
セリアの傀儡である『黒の騎士ブラックナイト』は、同じく近くにあった黒色の大剣を掴みとり、雄々しく担ぎ上げる。
美しい女性が操る、鎧の戦士。
対照的な両者が並ぶその姿は、絵画の一部をそのまま抜き取ったような、何とも絵になる光景で、二人の兄妹は息をのんだ。

 
 トレット家の力をその眼で見て、圧倒されていたセリア。
美麗な人形、素晴らしい操作技術、そのどれもが他家を圧倒する力を持っている。
 だが彼女は、その裏側にある欠点を見つけていた。
ローゼリエッタだけでは見つけることが出来なかったもの。
戦闘するにおいて、決定的な欠陥を。
「貴女の作った人形は確かに美しい。貴女の操作技術も、同じく素晴らしいわ。でも、今のままじゃあ貴女は、傀儡師本来の役目を果たすことができない」
セリアはそういって、黒の騎士に命令を下す。

 黒の騎士は、掴んでいた剣を地面に卸し、セリアを持ち上げて見せたのだ。
ローゼリエッタの人形にある欠陥。それがここに集約されていた。
「傀儡技術はかつて、戦場へ赴く愛する男と共に歩もうとした女が、自身も戦うことが出来るようにと編み出した技術よ。その本質は、当然戦いの中で輝くわ。例え戦いの場から身を引いた今であっても、その技術は研ぎ澄まさなければならない。それが受け継ぐ者の使命よ。だというのに、糸だけで操る貴女の傀儡では、美しさがあっても力が無いのよ」
セリアは人形を操り、黒の騎士から降りる。


 それは、ローゼリエッタには到底真似できない事だった。
操者を傀儡で持ち上げることも、鉄でできた傀儡を操ることも、糸の力だけでは不可能だ。
これらは魔力を用いて操るからこそできる芸当である。
糸の力だけでは人を持ち上げるどころか、剣をつかみ取ることすら難しいだろう。
アリスのような、軽い木材で出来た空洞の体だからこそ、糸で動かすことが出来たのだ。

 ローゼリエッタは、この欠点を指摘されておきながら、特に気にかける様子は無い。
彼女からすれば、戦いの場に出る心算など毛頭ないし、戦闘に役立たぬ技術であるのならば、利用されたところで命を奪うようなことは起きないであろうと、むしろ安心するような案件だ。
しかしセリアは、未熟であることを指摘された少女が、発奮しないことが理解できなかった。

 国王が使者を遣わしたように、魔の手は既に迫っているのだ。
それを振り払うだけの力は、嫌が応にも身につけねばなるまい。
身支度を整えたセリアは、見守る少女に一つの案を呈する。
「もう夜も遅いし、私たちは帰るわ。でもまた明日も来るつもりよ。その時に、私がやっていた魔力操作の訓練法を教えてあげる。例え今は興味がなくても、いつかはきっと役に立つはずだからね」
これはもうセリアの中で決定事項であり、彼女はローゼリエッタの返事を待たずに、店から出て行ってしまった。


 他家を助長するなど、以前の彼女からすればありえないことだ。
だが純真な少女の心に触れた今、彼女は自ら力を貸そうと決めた。
(きっとそれが、私たち新しい世代が取るべき行動なのでしょうね)
夜空に浮かぶ月を見上げながら、セリアはそう思う。
 この瞬間をもって、長き間停滞していた傀儡師の時間は動き始める。
だがそれと同時に、この世界までもが激動の時代の幕開けであった。
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