反魂の傀儡使い

菅原

文字の大きさ
14 / 153
3章 新たな時代

神の技

しおりを挟む
 ローゼリエッタは、徐にアリスの服を脱がし始める。
四肢が一つ一つ露わになっていく景色は、何とも淫靡であり、艶めかしい。
なまじ外見が人間に近しいために、アルストロイとウルカテは思わず顔を逸らしてしまった。
それを目ざとく見つけたセリアは、意地悪そうな顔で笑う。
「何よ貴方達。唯の人形よ?これ」
とはいう物の、見慣れている筈の彼女も、内心恥ずかしさを覚えた。

 確かにそれは、セリアの言う通り人形である。だが、唯の人形ではない。人間と見間違う程良く出来た人形だ。
セリアの言葉に、二人は口をとがらせて反論する。
「それは判ってるけど……なぁ」
「あぁ、ここまで人間に近いと……なんか見ては駄目な気がして……」
二人の気持ちなど関係なく、暫くするとアリスは、一糸まとわぬ姿となってしまった。

 改めて、セリアはその体に見惚れた。
滑らかな曲線で象られた造形美。至極女性的な体つきで、まるで名立たる彫刻師が掘った、裸婦像のような神々しさがある。
二人の男らも抵抗空しく、視線は彼女へ釘付けとなってしまった。
セリアに限っては、人形を作る難しさを知っているからこそ、余計見とれてしまう。


 三人が声も出さずに見とれていると、ローゼリエッタはその人形に何とも惨たらしい行為を働きだした。
人形の鎖骨に当たる部分を注意深く見れば、小さな凹みがあり、少女はそこに親指を付きたてると、胸部を覆う肉をはぎ取ってしまったのだ。
苦虫をかみつぶしたような声と表情で、不快感を表す三人。
胸部が取り除かれたアリスの胴体は、中が空洞で、その中へローゼリエッタは自身の腕を突き入れる。

 ごそごそと、小さな物音を立てて少女が取り出したものは、糸が伸びた木箱だった。
両の掌に丁度収まるくらいの小さなそれを、満足げにセリアに突き出す。
「セリアさん。これが、この子の心臓部です」
そういって、木箱を手渡した。
 渡されたセリアからすれば、それが一体何なのか見当もつかない。
手渡された箱を回転し、裏返し、振ってみたりもしたが、何の変哲もない唯の木箱だ。
その仕草を見て、今度はローゼリエッタが首を傾げる番となった。

 一頻り、箱を弄り回したセリアは、ローゼリエッタに問いかける。
「ええと……これは何?」
「え?何って……心臓部ですけど……?」
両者の話噛み合わない。
それも当然だ。この箱こそが、トレット家独自の傀儡技術であり、これまで公にならなかった秘匿技術の塊なのだから。


 困惑するセリアから木箱を預かり、ローゼリエッタが説明を始める。
「これは、アリスに繋がる傀儡糸を制御する心臓部……なのですが、他の方たちは使わないんですかね?」
見たことも無いと、首を振るセリア。
ローゼリエッタは更に詳しく説明していく。
「アリスに繋がる十本の糸は、絡まない様に各所にある小さな穴から、内側を通ってこの箱へと繋がっています。私の指は十本しかありませんが、人形の稼働箇所は倍以上ありますので、このままじゃ操ることは出来ません。そこで……これの出番です」
少女はその木箱をも分解し、中身を曝け出していった。

 木箱の中は、小さな部品が幾つも組み合わせられていて、十や二十で効かない数の糸が詰まっていた。
「私の操る糸は、人形の四肢に直接繋がっているのではなく、この心臓部に繋がっているんです。厳密にいえば、私が操っているのは心臓部であり、人形ではないんですね。あとは動かしたい仕草に合わせて、心臓部の機構を動かしていくだけです……ほら」
そういってローゼリエッタは、いつの間につけたのか、指輪を付けた右手を見せびらかし、指を動かして見せた。

 人差し指をゆっくりと曲げると、アリスの右腕がゆっくりと上がっていく。
続いて人差し指と中指を曲げると、アリスは左足を持ち上げ地面を鳴らした。
 一連の流れを見て、セリアは驚愕の余りめまいを覚えた。
自身よりも若い少女が行っていることは、自身を含め、他の傀儡師には絶対に行えないであろう領域の、神の技であったのだ。


 セリアの受け継いだフォルオーゼ家と、ローゼリエッタの受け継いだトレット家は、同じ傀儡師の家系である。
そこには基本、上下関係など無く、皆等しく対等である。
だがその本質は、全くの別物であったと、セリアは気づいた。
彼女はぼんやりとした頭で、ローゼリエッタに語る。
「……傀儡師っていうのは、糸で人形を操るわ。でもそれは、糸を通して人形に魔力を流し込み、その魔力を持って意のままに操るということなの。だから私たちは、指から伸びる十本の糸を、手首や足首みたいな要所に繋ぐだけで事足りる」
この方法が、一般的な傀儡師の操術だとセリアは伝えた。

 真剣な表情で語るセリアとは対照的に、ローゼリエッタは自傷気味に語る。
「私、生まれつき魔力を操るのが下手っぴで……だからきっと、祖母もこうするしかなかったんだと思います。祖母は、ここまで大掛かりな仕掛けを使ってはいませんでしたから……」
そういって笑う少女の顔は、少し寂しそうだった。
 ローゼリエッタの話を聞いたうえでも、セリアには納得できない。
人形の稼働箇所は通常、手首や足首、肘に膝、肩に股関節等々、多くてもニ十か所といったところか。
これに加えアリスは、指までをも動かすことが出来る。つまり単純に、十か所は稼働箇所が増えていることになる。

 もしローゼリエッタの言う通り、その全てを十本の糸で操っているのであるならば、一体何十……いや、何百通りの操作を覚えねばならないのか。
仮に十本全ての指を動かす組み合わせまであるのならば、それこそ四桁に届く作業工程を覚えねばなるまい。
(魔力操作が下手?こうするしかない?そんな理由で……あんな技術を?冗談でしょう……?)
セリアは背筋に冷たいものを感じ、体を震わせた。 

 これまでセリアは、若くして後継者となれたことを誇りに思っていた。
確かに彼女は、才覚に溢れ、人一倍努力し、他を超越した傀儡師となったかもしれない。
だが彼女は本能で、そんなものは、目の前にいる少女の前では無きにも等しいのだ、と感じてしまった。
(きっとこの子の御婆様も、同じ感情に悩んだことでしょうね)
 トレット家先代傀儡師の生前を知らないセリアだが、不思議とそんなことを思ってしまう。
そう思えてしまえる程に、ローゼリエッタの熟していることは常人の域を超えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...