反魂の傀儡使い

菅原

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6章 時代の変動

変わり果てた姿

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 巨鎧兵団は、パラミシア連合国を下した後、バルドリンガにある王都へと戻って来ていた。
一足先に帰還していた伝令兵の報せにより、巨鎧兵団が王都に入る頃には、盛大なパレードが開かれ、民は戦争の勝利を喜ぶ。
巨鎧兵たちは大通りを練り歩き、やがて祭り会場を外れると、専用の工房へと向かった。

 そこは、傀儡技術の入手に伴い設計された施設。
王都の北東に位置する区画全てを使い、巨大な鎧人形の製造、補修、改良を行う大工場である。
 赤の巨鎧兵が工房に入ると、作業をしていた多くの技術者がそこに群がった。
巨鎧兵は片膝をつき、左腕を胸に、右腕を地面に伸ばすと、胸の装甲を脱ぎ捨てる。
 堅牢な鎧が取り除かれると、細い緑色の糸で出来た、大きな繭が目についた。
光で照らされつやつやと光沢を放つそれは、かつてセリアがローゼリエッタに差し出した、精霊石の糸である。
その繭をかき分け、真っ赤な髪の、仮面をつけた女が身を乗り出す。
仮面の女は、巨鎧兵の胸の前にある大きな左手に飛び乗り、器用に右手を伝って地面に降り立つ。


 巨鎧兵の操者が地に降りると、屯していた作業員が盛り上がった。
「聞いたぞ!?あのパラミシアを圧倒したんだってなあ!」
「さっすが親方の作った巨鎧兵だ!」
立ち並ぶ作業員の前に、頭を布で縛った一人の屈強な男が歩み出る。
彼こそが巨鎧兵の大本を作った張本人。名を“トキノ・アガツマ”といい、作業員からは親方と呼ばれ慕われていた。
 トキノは、赤の巨鎧兵を操る仮面の女に声をかける。
「よお。活躍したらしいじゃねぇか。流石は傀儡師様だ。……で?実践で操ってみてどうだった?」
「そうね……魔力の通りも申し分ないし、動き回るのに不自由はなかったわ。ただ、やっぱり下半身がちょっと貧弱みたいね。剣を振った時、時々振り回される感触があったもの」
今後障害となる可能性を潰すために、細かなところまで二人は情報を共有していく。


 赤の巨鎧兵が収納された工房に、一人の少女が駆け込んできた。
三つ編みにした緑の長い髪。年は若く、筋肉質とは真逆の華奢な体つきをしている。
外見はどこからどう見ても普通の町娘。
しかし、何を隠そうこの少女も、巨鎧兵を操る操者の一人である。
「ローゼリエッタ様ぁ!どこですかー!?」
少女は、慕う上司に活躍を褒めて貰おうと、仮面の女を探す。

 工房の一画に設けられた、各巨鎧兵の設計図がしまわれている場所にその人はいた。
真っ赤な長い髪がとてもよく目につく為、見つけるのは簡単だ。
「発見!」
仮面の女は、トキノとの会話に夢中で、少女の来訪に気付いていない。
 少女はそそくさと背後に近づくと、前触れもなしに抱き着いた。
「ローゼリエッタ様!」
「きゃっ!あ、あら……“シャルル”じゃない。貴女もトキノさんに用事?」
抱き着かれた仮面の女、ローゼリエッタは、驚きながらも少女の名前を呼んだ。
それを見た親方は、頭を掻きながら苦笑いをする。
「おいおい、またか?シャルル。少し待ってろ。もうすぐ終わるからよ」
待っていろと言われたにもかかわらず、シャルルは話が終わるまでローゼリエッタにべったりだった。


 日も暮れかけた王都の通りを、ローゼリエッタとシャルルは並んで歩く。
片方は仮面をつけているが、仲睦まじいその姿はまるで姉妹のようだ。
「ローゼリエッタ様がこの町にやって来てから、今日で一年になりますね」
「そう……もうそんなに経つのね。王都に来る前の記憶はないけど、こんな私を拾ってくれた王国には感謝しなくちゃ。ねぇシャルル?私は、この国のお役に立てているかしら」
謙虚なところも、シャルルがローゼリエッタを気に入っているところの一つだ。
だが時折過剰な時もあり、その度に少女は心の中で呆れてしまう。
(ローゼリエッタ様が役に立っていないのなら、一体誰が国の役に立っているのかしら)
その行き過ぎた謙虚のせいで、ローゼリエッタの名は余り世間に知られていない。

 二人は、何時も寝泊まりしている兵舎に辿り着いた。
既に一階にある大食堂からは、いい香りが漂ってきている。
「あー!まったく、隊長がまだ戻ってきてないっていうのに!」
慕う人物と楽しく会話が出来、夢心地だったシャルルは、食堂の窓を睨む。
 緊張感の無い会話をしている二人だが、国民からすれば立派な軍人である。
そこには世間一般よりも明確な上下関係があり、巨鎧兵団を任されているローゼリエッタは、この兵舎の最高責任者でもあった。
 他の隊であれば、隊長の許可なく食事をとり始めたりすれば、即刻除隊か、最悪投獄される恐れもある。
そういった事情を知っているからこそ、シャルルも怒りを露わにしたのだが、ローゼリエッタがそれを窘めた。
「まぁまぁ。ご飯は出来たてを食べたほうが美味しいじゃない」
こんなところも、ローゼリエッタの良いところだ。
 二人とも腹がすいている。
直ぐに兵舎へと駆け込み、少し早めの夕食となった。


 ローゼリエッタが王都に居を移してから、バルドリンガの兵器は目覚ましい進化を遂げた。
その最たるが『巨鎧兵』である。
 作成開始当初は碌に動かすことも出来なかったのだが、度重なる試行錯誤の末、実践にも耐えうる稼働を実現し、漸く三百もの数を確保することが出来た。
国としては更に量産を重ね、更に戦力の増強を狙いたいところだったが、現実はそう上手くはいかない。
理由は、その製作費用の高さにあった。

 巨鎧兵の身体部分は大半が鉄であり、残りを鋼鉄、黒鉄、金や銀といった、多種多様の鉱石を併用して作られていた。大半が鉄であるのは当然、先に挙げた物の中で一番安価だからだ。
しかしこれらの鉱石は、どれも市場で良く取引されている物であり、全てを含めたとしても、巨鎧兵の総製作費の一割にも満たない。
では何処に膨大な費用が掛かっているのか。

 問題は、巨鎧兵の胸部にある緑の繭にあった。
あれを構成する精霊石の糸は、手のひらを横断する程度の長さであっても、貴族が眉を顰める程の高値が付く。
これを繭が出来る程まで収集するのは容易な事では無く、ましてやそれを三百機分集めようとすれば、小国の国家予算程度では到底足りない。
それを用意することが出来たのは、バルドリンガという大国の後ろ盾があったからであった。


 三百ある巨鎧兵はこの日、連合国パラミシアを蹂躙した。
二万の兵を蹴散らしておきながら、被害はほぼ無し。精々鎧に多少傷がついた程度である。
これの修復に役三日程の時間が必要となり、その間操者たちは、束の間の休息を楽しんだ。
 しかし、ローゼリエッタとシャルルが兵舎に駆け込んだその日から、三日後の朝。
国王ハルクエルから、新たな指令が出された。

 『東の魔法都市、オージェスへ向かい、これを打ち滅ぼせ』

 操者はすぐさま、自身の巨鎧兵が保管されている工房へ駆けていく。
シャルルは戦いの後、ローゼリエッタに褒められる場面を思い描きながら。
ローゼリエッタは戦いの中、お気に入りの傀儡人形で、思う存分に暴れる場面を思い描きながら。
 両者は口元に不敵な笑みを湛えたまま、巨鎧兵へと乗り込んだ。
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