反魂の傀儡使い

菅原

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6章 時代の変動

会合

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 アルストロイは人形の館で、国から出された公報を片手に打ち震えていた。
北の連合国パラミシアと、王国バルドリンガの間で戦争があったようだ。
通常戦争という物は、短くても数日、長ければ年を跨ぐほど長引くものだが、なんと一日もかからずに終戦したらしい。
公報にはその戦争で功績を残した、『巨鎧兵団』という名と、その挿絵が書き込まれていた。

 椅子に座るアルストロイの隣で、セリアが呟く。
「人間の五倍……三階建ての建物と同じくらいかしら?そんなものが相手じゃ、幾らパラミシアでもどうしようもなかったでしょうね」
挿絵が入っているから想像も容易い。
戦場の一部を想像し、迫る巨大人形にセリアは身震いをした。

 更に、同じ部屋から声が連なる。
「おいおい、『搭乗型傀儡人形』とか書いてあるぜ?……ってことはよ……傀儡師は鎧の中か?」
声の主は、傀儡大会決勝にて、ローゼリエッタと対戦したアンシエラ家の傀儡師、グエノースだった。
椅子に逆座りし、気だるそうに頬杖をついている。
 文句を言う声は、彼らだけではない。
「全く……トレットの先代は一体何を考えていたのだ?」
「これだから若いもんはいかん。戒律を甘く考えとる」
「守護者を切り捨てれば良かったのだ。我らの平和のためには致し方あるまい。覚悟も出来ていたであろうに」
口々に文句を垂れるのは、しわがれた老婆たちだ。
彼女らは、他家の名を受け継ぎし当代傀儡師たちである。

 セリアには分かっていたのだ。
傀儡技術を手に入れたハルクエルが、他国の侵略を企てることが。
あれだけ力を求め、配下もあれだけ異常であれば、その主の行動など容易に想像ができる。
だからこそ彼女はそういった情勢になった時の為に、出来る限りの傀儡師に連絡を取り、トレット家の名を使って招集をかけていたのだった。
 セリアは彼女らに救いの手を求めた。
ところが、セリアが事情を説明すればする程に、上がるのは非難の声だけ。
何故戒律を破ったのか。自ら姿を晒すとは何事か。他家への迷惑を考えろ。
当事者であるアルストロイ、セリア、ウルカテの三名は、そういった言葉が降りかかる度に、身を小さく縮こめしおらしくするしかなかった。


 当初は大人しくしていた。
だが、屯する老婆たちが余りにもねちっこく追及してくるので、セリアも次第に腹が立ってくる。
遂には敬うべき相手に対し、心の内を吐き出した。
「いい加減にして頂けませんか!?確かにあの子も、私たちも不注意でした。でも貴女方に正義があるように、あの子にも正義があるのです。あの子は唯、人形は楽しい物だ、美しい物だと、多くの人に知って貰いたかっただけ。それの何がいけないのです!?」
セリアの叫びに一人の老婆が答える。
「その我儘のせいで、今こうして平和が崩れ去ろうとしているではないか!先祖様方が必死に作り上げてきた物を、お前たちは壊してしまったんだよ!」
 我儘。
ローゼリエッタの純粋な気持ちを知るアルストロイとセリアは、その言葉に激高した。
思わず声を張り上げたのは、少女の兄アルストロイだ。
「我儘……?ロゼの思いが我儘だっていうのか!?なら……ならあんた達が戦いから逃げたのも単なる我儘じゃないか!!」
一人の守護者の力強い言葉に、部屋の中は静まり返る。


 暴君が荒し、賢王が作った今の時代。
戦争は殆どなくなり、交易は増え、農作物も豊富に取れる。
民は飢えを忘れ、治安も良くなり、村や町、国は発展の一途を辿っている。
確かに平和と言えるだろう。だが……平和なのはその国に住む者達だけだ。

 何故、彼女らは姿を隠さねばならないのだろうか。
それは、かつての傀儡師らが、時代の流れから逃げてしまったからに他ならない。
 傀儡技術とは、元々戦場で戦うために生まれた技術である。
ならば戦場に駆り出されるのは必定。
だというのに、かつての傀儡師らは戦うことを恐れ、極端に世間から遠ざかってしまった。
二度と戦場に駆り出されぬように、力を人に見せてはならぬ、という戒律まで作り出し。


 セリアはアルストロイの震える手を抑えた。
それから、強い意志を持って、老婆に言い放つ。
「例え、ロゼが行動を起こさなくても、今回のようなことはいずれ起きる定めだったのです」
老婆らは首を傾げるが、セリアからすれば自明の理だ。
 世界は日々開拓され、徐々に人の手が入らぬ未開の地も無くなっていくだろう。
だというのに、傀儡師らは後継者を見つけ、技術を伝承し、長く後世に残そうとしている。
いずれは今回起きた一連の騒動のように、その力を求める者に見つかり、戦いの場に持ち出されることになる。
その技術が、優秀であればある程に。

 言い返す言葉を失った老婆たちに、セリアは問いかけた。
「貴女方はこの先、一体何を誇りに生きていくのですか?人形の素晴らしさを伝えようともせず、捕らわれた守護者を切り捨て、私たちの技術が悪用されているのに傍観する。そうやって手に入れた仮初の平和に、一体何の価値があるというのです?」
彼女の問いかけに、屯する老婆たちは何一つ答えられなかった。
当然だ。彼女らには誇れる物など何もないのだから。
傀儡師として跡を継いでから、彼女らがした事といえば、戒律を遵守し、只管姿を隠し続けただけ。
そうすれば確かに、一時の平穏は手に入れることが出来るだろう。
だが、その平穏が終わった時は?再びこうして、誰かを悪役に仕立て叱責するのだろうか。


 少しの時間を置き、セリアの問いかけに答えたのは、老婆ではなくグエノースだった。
「俺の守護者も殺された……俺はやるぜ。このまま黙ってたら、エインに合わせる顔がないからな!」
強き意思と共に、椅子から立ち上がるグエノース。
それに同調して、若い傀儡師が何人か立ち上がる。
彼らは知っているのだ。隠れていては何も変わらないことを。

 やがて、部屋の隅で成り行きを見守っていた一人の老婆が口を開く。
「私らは老い先短い年寄り。残された時間くらいは、仮初でも平穏に生きたいものよ。……でもせめて、死ぬ前に一つくらいは、孫に自慢話してみたいわね」
そう言ってかすれた声で笑うと、穏やかに、しかし力強く立ち上がった。
その姿を見て、他の年老いた傀儡師たちもぱらぱらと立ち上がる。


 彼女らはこの時を持って、革命軍を結成する。
構成員の全てが傀儡師であり、人形と共に戦場を舞う傀儡師団。
彼女らの目的は唯一つ。
それは、王国バルドリンガの暴走を止めることだ。
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