反魂の傀儡使い

菅原

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6章 時代の変動

北中戦争 2

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 パラミシア軍が見守る中、バルドリンガ軍は行動を開始した。
蠢く兵士達の先頭に、燃え盛る炎のような、真っ赤な鎧が一つ現れた。
他の兵たちは真っ黒な鎧であることから、恐らくそれは隊長格の兵士であると見て取れる。
 敵兵の数は僅か三百。されども勇猛なパラミシアの兵士たちは、バルドリンガの兵士を恐れた。
先の一件での被害は大砲のそれと変わらない。
まるで蛇に睨まれた蛙のように、パラミシアの軍は身動き一つできないでいた。


 じわりじわりと彼我の距離が縮まり、その全容が見えてくる。
バルドリンガ兵の正体は、巨大な鎧であった。
大の男の五倍から十倍はあろうかという巨躯。
それだけの巨体でありながら、自らの足で地を踏みしめ進んで来る。
武装に違いはあれども、全ての兵が均一の全身鎧を身に着けている為、中の様子は見えない。
誰もがその異様な軍を見て、驚愕と困惑に支配された。

 ガンフ王もまた、驚愕と困惑の最中にあった。
(バルドリンガめ……なんて恐ろしい物を作り上げたのだ!あんなもの相手にどう戦えというのだ?)
鎧しか見えていないせいか、人間味の欠片も感じられない三百の軍勢。
 バルドリンガの作った兵器は、この世界にある兵器のどれとも似つかない。
一体どんな理論なのか、幼き頃から教育を受けた王の知識をもってしても、何一つ見当つかなかった。

 真っ黒な鎧の軍勢は、赤の鎧に従うように行進している。
その先頭を行く赤の鎧が、徐に巨大な刀剣を引き抜いた。
重々しい金属音が響く。
パラミシア軍の兵士らは、遂に戦いが始まると察知した。


 バルドリンガが傀儡師の技術を手に入れてから、初めて作り出された兵器。
それが、今戦場を行く巨大人形。名を『巨鎧兵きょがいへい』といった。
これは、従来の傀儡技術をより戦争向けに改良した末に生まれた、最新兵器である。

 傀儡師の戦い方は、後方にいる傀儡師が、前方にいる傀儡人形を操り、敵を打倒するものだ。
その弱点は傀儡師本人であり、次いで傀儡師と傀儡人形を繋ぐ糸が挙げられる。
このどちらかが打ち破られれば、傀儡師は無力化されてしまう。
 しかし、本来弱点として挙げられるこれらの要素は、傀儡師にとってなくてはならない物であった。
元は愛する男と共に戦場に出ようという女が編み出した技術。
戦いの中にも美しさを求める……そういったある種傲慢ともとれる願いを形にした結果生まれた、絶対条件なのである。

 だが、美徳ともとれるその要素をハルクエルは嫌った。弱点である二つの要素を、彼は鎧の中にしまってしまうことで、弱点で無くしたのだ。
結果、操者は巨大な鎧の中に乗り込む形になり、中に備え付けられた操縦席にて、巨鎧兵を操ることになった。
 加えて、ハルクエルは根っからの利己主義者である。
彼は、トレット家が持つ、美しさに関する技術を全て無駄と切り捨て、その浮いた余力分に有り余る戦闘技術を組み込んだのだ。
これにより、複雑だった人形を糸で操る作業も大幅に簡略化され、無関係な人間でも、多少魔力操作の腕に覚えがあれば、数日の訓練を経て操れるまでに至る。

 傀儡師の美を求める技術は凄まじかった。人形を操る過程の大半がそのために作られている物であったのだ。
それを斬り捨てた見返りは大きく、末に手に入ったのが、人を大きく超える巨体と、それまで兵器と呼ばれていた物の搭載である。
 先のパラミシア軍を襲った砲撃がまさにそれだ。
これまでは固定式が主であった大砲を搭載した、砲撃巨鎧兵の攻撃によって、パラミシア軍は多くの被害を被った。


 操縦席で、一人の少女が失笑する。
顔には仮面が付けられていて、外から見えるのは微笑む口元だけだ。
他に特徴と言えば……鎧と同じく燃え盛るような赤い髪だろうか。
彼女は糸に囲まれたそこで、自らの傀儡を操る。
 

 ガンフは見た。
先頭を行く真っ赤な鎧が、剣を引き抜く姿を。
それは唯の剣ではあるが、人間の何倍もの巨体に見合うほど巨大な剣だ。
そんなもので薙ぎ払われれば、唯の人間などひとたまりも無いだろう。
(いかん……いかんぞ!これでは皆蹂躙されるだけだ!!)
「皆の者!撤退だあああ!!」
そう叫んだ瞬間。赤の巨鎧兵が駆け出した。

 巨大な体躯故の広い歩幅で、瞬く間に距離を縮める赤の巨鎧兵。
それが握るのは真っ白な大剣。
恐怖に慄くパラミシア兵に接近した巨鎧兵は、その剣を横に薙ぎ払った。
 飛び散る肉片と金属片。
人同士なら鉄壁と言えるような全身鎧も、何ら意味を成さない。
薙ぎ払った剣は血で濡れ、上半身を無くした肉塊が、大量の血を吹き出しながら地に倒れる。

 何が起こったのか理解できないパラミシアの兵士たちは、唯呆然と、足だけになった同僚を見つめた。
そして、振り払った剣を引き戻そうと体勢を立て直す巨鎧兵を見て、狂乱する。
「逃げろ!逃げろおおお!!」
「ああ……神よ……」
「うわあああ!!」
「アァ……アアア……」
 背を向け逃げ出す若者。神に祈る老兵。頭を抱え蹲る歩兵。馬上で失禁する騎兵。
重なる叫び声は余すことなく一瞬で途切れる。

 眼下で逃げ回る小さな兵を見て、操縦席で一人の女が高笑いを上げた。
「あはは……アハハハハ!!!」
その声は鎧の外に漏れることなく、兵士が気付くことは無い。


 パラミシア軍は二万。バルドリンガ軍は三百。
数字だけを見れば圧倒的と思われたこの戦争は、時計の短針が一周するよりも早く、パラミシアが蹂躙される形で終幕する。
 周辺各国は、諜報員や生き残った敗戦者からこの報せを受け、戦慄を覚えた。
終戦の翌日には、ハルクエルの下へ傘下希望の報せが続々と届く。
自身の領地が一つ、また一つ増えていく度に、彼は歪んだ笑みを浮かべた。
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