反魂の傀儡使い

菅原

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8章 激動の時

国の動向

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 魔法使いたちが起動した転送魔法は驚くことに、人間だけでなく巨鎧兵までをも運び出してしまった。
転送先は、ローゼリエッタたちが魔法都市の陥落を目撃した、小高い丘の陰に当たるところで、バルドリンガ兵から見つかることは無かったようだ。
 森に転送されたオージェスの民と革命軍は、少しの間その森で潜伏を続けた。
魔法都市が陥落してから丸一日も経つと、バルドリンガの兵士らは、必要兵を残し大多数が王国へと引き上げていく。
その時を見計らって、彼女らは行動を始めた。
彼女らが目指すは、バルドリンガ領土の片隅にある『人形の館』だ。

 移動、運搬には巨鎧兵が大いに役立ってくれた。
なんせ半分以上の人間が旅に不慣れであり、半分以上の巨鎧兵がただの鉄くず状態なのだ。それを人の力だけで運搬するなど、どれだけの時間がかかるかわからない。
また、魔法学校の生徒らは頗る優秀で、巨鎧兵が付ける足跡や鉄くずを引きずった跡、更に言えば目立つ巨鎧兵の身体から、移動時に起きる騒音までをも、魔法の力で隠して見せた。
この二つがうまくかみ合って、彼女らは時間をかけつつも無事、人形の館に戻ることが出来たのだった。


 ローゼリエッタたちが人形の館につく頃、ハルクエルが住まう王城では、ひと悶着起きていた。
 巨大な半球状の建物。中にはハルクエル王が座る玉座があり、部屋の入り口との間に真っ赤な絨毯が敷き詰められている。
階段を経て少し高い位置にある玉座には、既にハルクエルが座っていて、眼下にジェイクと数名の兵士を付き従えていた。

 ジェイクは魔法都市で起きた概要を伝え、更に王国に寄せられた各国の声明を伝えていく。
「ハルクエル様。魔法都市オージェスの滅亡により、周辺国が傘下に加わりたいと訴えてきております」
「ははは。大方パラミシアかオージェスがどうにかしてくれると踏んでいたのだろう。二つの大国亡き今、我が国に歯向かえるものはいないものな」
ハルクエルの頭の端に浮かぶは一つの疑念。
先の魔法都市侵攻の時に失ってしまった、兵士と巨鎧兵の存在だ。
それ以外の弱小国家は、到底王国の敵になりはしない。
「捨て置け。他力本願な性根の腐った奴らは好かんのでな」
「かしこまりました」
ハルクエルの決定に、口を出す家臣はいない。一般兵から上層に位置する要人でさえも、彼の決定は拒めない。
それが例え付き人であるジェイクであってもだ。


 そんな話をしていると、部屋の入り口が開け放たれ、一人の男が入ってきた。
目つきが鋭く、真っ赤な瞳がハルクエルを見据えている。
彼は絨毯の上を歩き、玉座に座る王の前に跪いた。
「よく戻ったな、“ギネシュア”よ。大まかな話は聞いている。魔法都市を落としたようじゃあないか」
「はっ!王から承った巨鎧兵団長の役目、十全に全うしてきた所存であります!」
若々しいハルクエルと、似通った年恰好。
その瞳には怪しい光をともしている。
ギネシュアの報告に満足したハルクエルは、笑いながら揚々に頷いた。

 気を良くしたギネシュアは、自身の雄姿を壮大に語り始める。
備え付けられた大砲の雨を掻い潜り、堅牢な防壁に一太刀浴びせ分断して見せた。
飛び交う炎の槍、風の剣、水の弾。それらを華麗に躱し、何百という兵士を屠って見せた、と。
ハルクエルはその話をにこにこ笑って聞いていた。

 漸く自慢話が途切ると、ハルクエルが間髪入れずに問いかけた。
「それで?巨鎧兵は回収できたんだろう?」
王のその問いかけで、有頂天だったギネシュアの表情が強張る。
「……は?」
「ん?そこまで立派に奮闘したのだ。奪われた巨鎧兵は勿論取り戻したんだよな?」
「い、いえ……それは……」
青ざめた表情で否定の言葉を発するギネシュア。
その言葉を聞いたハルクエルは、表情を一変させた。

 言葉に詰まるギネシュア。
沈黙の時間が続くほどに、ハルクエルの機嫌が悪くなっていく。
「……では、前隊長ローゼリエッタを始めとした、行方不明の兵士らはどうした?当然、生死の確認位は出来ているのだろうな?」
先程までの声とは違い、明らかな怒りと威圧を孕んだ一言。
ギネシュアは、その言葉にも否定の言葉を連ねる。
「も、申し訳ございません!今すぐに確認を……」
朗らかな空気は一変し、ハルクエルの怒声が響いた。
「もうよい!ジェイク!」
「かしこまりました」
これまで一言も発せず成り行きを見守っていたジェイクが、王の一声で動き出す。

 靴を鳴らし、ギネシュアの下まで歩み寄る。
呆然とするギネシュア。その彼ののど目掛けて、ジェイクは足を払った。
目にもとまらぬとはこのことか。風を切る音がしたかと思うと、音もたてずに足が元の位置に戻っている。
少し遅れて、ごとりと鈍い音が聞こえた。ギネシュアの頭が地面に落ちた音だった。
「ふぅ……操られていようとも、あの傀儡師は優秀であったようだ。まさか他の兵士がこれ程役に立たんとは……」
落ちた頭の切り口から、鮮血が吹き出ては絨毯を赤黒く染めていく。
 部屋にいた兵士たちは、少し表情を曇らせたが、すぐに死体の片付けに入った。
「あの程度の兵、幾らでも変わりはいる。ジェイク、直ぐに次の団長を決めろ。決まり次第弱小周辺国の一掃に掛かる」
「かしこまりました」
足に残る鈍い感触を引きずりながら、出来た家臣は王の声に頷く。
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