反魂の傀儡使い

菅原

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7章 魔法の力

託す思い

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 防壁の上には数多の魔法使いが集まり、残りすくない兵器類が総動員されていた。
もはや周囲に回す防衛力は残されておらず、巨鎧兵が見えた方角に全力を注ぐ。
その中に革命軍の姿は無く、残された巨鎧兵も姿を現すことは無かった。

 多くの兵士は、この戦いを諦めていた。
何せ魔法都市が誇る魔導砲は全てが壊され、残された大砲も残り少ない。
この状況下において、今襲い掛かろうとする巨鎧兵は、前回の侵攻の倍はありそうなのだ。
しかもその中には、先の隊長機と同様、赤色の巨鎧兵が四体もあり、多くの目を引いている。

 彼我の力量差は絶望的であり、勝利する可能性は限りなくゼロに近い。
そんな戦いに革命軍を導入するわけにはいかなかった。
何故なら彼女らこそが、大国バルドリンガの暴走を止める可能性を持つ、唯一の存在なのだから。
 この戦いを持って、バルドリンガに比肩する二つ目の大国は、地図上からその名を消しすだろう。
ムーガンは……オージェスの兵士らは、彼女らに望みを託し、死地へと赴く。


 革命軍は、迫る巨鎧兵から民を守る『最後の砦』と告げられ、オージェスの町の中心部に集められていた。
そこには戦えぬ女子供や、魔法学校の生徒も集められていて、不安そうに防壁の上を見上げている。
 一人の少年が、手を組んで神に祈りを捧げた。
「神様……どうかこの国を御救いください」
その願いは届くことはなく、無情にも防壁の一部が吹き飛ぶ。

 爆音が一つ鳴る度に、防壁の上が破裂し、石と人が吹き飛んでいく。
町を埋め尽くしたのは悲鳴と嗚咽。
残された時間は限りなく少なく、もうすぐ防壁は崩れ落ちてしまうだろう。
 ローゼリエッタは、直ぐに仲間へと指示を出した。
「巨鎧兵団!直ぐに戦闘準備を!!」
その声にはじかれ、圧倒的戦力差がありながら、恐れることなく立ち上がる操者たち。
流石は鍛え上げられた戦士だ。だが……一つの声がそれを制した。
「手助けは無用だ。我々にはまだ切り札が残されている」
不敵に笑うムーガン。だが、兵士らは皆、それが虚勢であると知っていた。
ムーガンは大勢の魔法使いを引き連れ、いきり立つ革命軍を宥めに掛かる。


 ローゼリエッタには理解ができなかった。
まさに今、敵の爆撃により民は死に、国の存亡が危ぶまれているのだ。
だというのに、ムーガンの態度はどこ吹く風。魔法学校の生徒と仲睦まじく話しているではないか。
困惑が焦りに、焦りが苛立ちに代わる。
「何を悠長なことをしているのですか!皆で力を合わせないと……」
言葉を言いかけて、少女は気づいた。
極僅かだが、足元が輝きだしていたことに。

 魔法使いたちは、町の地面に刻まれた巨大な魔方陣を起動したのだ。
発動される魔法は空間通門ゲート。そこに集まる者達を、別所に強制転移させる魔法である。
声を張り上げたのは、先ほど神に祈りを捧げていた少年。
「ムーガン様!どういうことですか!?」
つられるように、オージェスの民が悲痛な声で訴えた。
「我々も共に戦います!」
「死ぬときは我々も一緒に!」
その声に、ムーガンは悲しそうな顔で答える。
「……私たちの国はもうすぐ亡びる。バルドリンガの力は強大で、我々が長年かけて鍛え上げた魔法の力も通じなかった。だが、ただで国をくれてやるわけにはいかない。……ローゼリエッタ殿」
ムーガンの瞳が、一人の女性をとらえた。
恐れのない、まっすぐな瞳だ。
「彼らを……私の愛する者達を頼みます」
まばゆい閃光が視界を埋め尽くす。
その光は、魔法陣に十分な魔力が流され、魔法が発動された証。
やがて光は、目を開けることすら困難なほどに強まり、一同は猛烈な浮遊感に襲われた。


 光が止むと、そこは森の中だった。
爆撃音や悲鳴、怒声といったものは聞こえない。
鳥のさえずる音や、風が木々を揺らす音が聞こえるだけだ。
そこは、オージェスの外れに位置する森の中だった。

 そこがどこか心当たりがあった少年が、突然駆け出した。
祈りを上げ、ムーガンに真っ先に声をかけた少年だ。
一目散にかける彼を案じ、ローゼリエッタも同じく駆け出す。
「皆はここで待機を!近くに敵兵が隠れているかもしれません!気を付けて!」
革命軍はそれに頷き、その場で警戒態勢を取る。
 少年を追いかけたのはローゼリエッタと、その守護者であるアルストロイ。
三人は森の中を駆け、やがて小高い丘に辿り着いた。

 遠方にはオージェスの防壁が見える。
数えきれない程の魔法人形も見えるが、新たな巨鎧兵団を相手にするには荷が重いようだ。
既に防壁はぼろぼろで、侵入を許す時も近いだろう。
 防壁の上で僅かな光の明滅が見えた。
放たれた炎の槍が、巨鎧兵に直撃する。衝撃により後方に倒れたが、すぐに新たな巨鎧兵が進軍してくる。
続けて数発の魔法が巨鎧兵を襲ったが、その数は十を超えることは無かった。
 防壁の上が爆発する。バルドリンガの兵器による攻撃だ。
ぼろぼろだった防壁は、ついに力尽き崩れ落ちてしまう。
続く砲撃により町からは黒煙が上がり、巨鎧兵はぞろぞろと、防壁の亀裂から中に入っていった。


 少年は自身の無力を祟り、力の限り地面を殴りつけた。
何度も、何度も、何度も。
柔らかな草の上からでも、拳が耐え切れず血が飛び散る。
それでも少年は、歯を食いしばり殴り続けた。
「やめなさい!」
振り下ろす腕をローゼリエッタが抑える。だがその力は、とても少女一人の力では抑えきれない。
「はなせ!!はなせええ!!」
癇癪を起こす少年。
ローゼリエッタの手を振り払うと、再び手を振り下ろした。

 傷だらけの拳が、再び悲鳴を上げようとした時、近くにいたアルストロイがその腕を掴む。
思わず顔をしかめてしまう程力強い。
再び少年が声を張り上げようとしたとき。

パシッ!!

無骨な手の平手打ちが飛んだ。
頬を殴られた少年は、目を丸くさせ、アルストロイをみる。
「いい加減にしろ。ここで騒いで、もし見つかったりすれば、それこそ彼らの思いが無駄になる」
アルストロイが町を見ると、少年もつられて町を見た。
 上がる黒煙は数を増し、防壁は虫に食われたように穴だらけだ。
既に勝敗は見えていた。

 戦争は終結する。
一度は進行を防いだオージェスも、バルドリンガの兵器の前に崩れ去った。
これで、大陸にある国の中で、バルドリンガに歯向かえる力を持つ国が無くなった。
残された希望は、森の中で人知れず、静かに怒りを湛える。
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