反魂の傀儡使い

菅原

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7章 魔法の力

戦争の後始末

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 大砲による爆撃により、シャルルの操る巨鎧兵は致命的な打撃を受けた。
反動で前のめりに倒れ込み、赤の巨鎧兵にもたれかかる。
辛うじて倒れることは無かったが、当然ながら、戦闘の続行は不可能な状態だ。
 ひしゃげた鎧人形の中で、シャルルは外へと声を発する拡声器を使い、思わずローゼリエッタに問いかける。
「だ、大丈夫ですか!?お怪我はありませんか、ローゼリエッタ様!?」
「私は大丈夫です!それよりも、全部隊に報告!全員戦場からの離脱を!急いでください!!」
少女は、これ以上互いの被害が増えないように、部下たちに撤退を命じた。

 ローゼリエッタの報告を受け、シャルルは各部隊長へと連絡を入れる。
オージェスに攻め入った三百の巨鎧兵団は、約五十もの命を失い、ニ十に及ぶ兵器が無力化された。
尚且つ、貴重な『隊長機』と『砲撃機』までをも失った今、どれだけ現れるかもわからぬ泥人形を相手に、これ以上戦い続けるのは難しい。
その旨を乱暴な言葉を交えながら伝え、やがて巨鎧兵は全員撤退を始める。
大国パラミシアを蹂躙した巨鎧兵団は、魔法都市の侵略に失敗したのだ。
 敵兵の撤退に、傀儡師とオージェスの兵士らは、歓喜の声を上げた。


 戦闘の終了後、ローゼリエッタとシャルルは、他の巨鎧兵団の者らと共に、オージェスの魔法都市へと通されていた。
身柄を拘束された団員は、無力化された巨鎧兵から二十名。シャルルが長を務める部隊の隊員が九名。
それにローゼリエッタとシャルルを含めた、計三十一名だ。
彼女らは魔法学校の一室にて、オージェスの国王ムーガンと出会う。

 そこは迎賓の間であった。革命軍と捕虜全てを収納しても、余りある程大きな広間だ。
一同が立ち並ぶ中、オージェスの王は少しの衛兵と共に、彼女らの前に姿を現す。
「貴様らが、あの化け物の操縦者であるか」
ムーガンの鋭い視線を浴び、一団を代表して、ローゼリエッタが口を開いた。
「はい。私たちはバルドリンガ国巨鎧兵団に属する兵士です。今回は、貴国に対し多大なる迷惑をかけ……」
ローゼリエッタは、心の底から謝罪の言葉を述べようとした。だが、それをムーガンは拒絶する。
「お嬢さんの謝罪など必要ない。バルドリンガは王政国家。ならばバルドリンガの国王にこそ、謝罪の言葉を求めよう。それに……どうやら訳アリのようなのでな」
彼は、ローゼリエッタと、革命軍に属するアルストロイが並んで立つ姿を見てそういった。


 アルストロイとローゼリエッタは、事の顛末を説明する。
兄妹がこれまでにしたこと。それによって起こってしまった悲劇を。
その説明の後、セリアがある物を取り出した。
「ムーガン様。この仮面に心当たりはありますか?ロゼが付けていた物なのですが」
それはバラバラに砕けた仮面の破片。
それを見て、学校長は首をかしげると小さな詠唱を唱え始めた。
 仮面が淡く光り、それが止むと彼は一つ唸る。
「むぅ……この仮面には『呪縛の魔法』と『忘却の魔法』がかけられておる。身に着けた者は以前の記憶をなくし、操り人形となってしまうだろう」
「つまり……ロゼは王国に操られていたということですか?」
セリアはローゼリエッタを見る。
ここに来て漸く、彼らはローゼリエッタが王国に操られていたことを知った。

 その事実を知っても尚、ローゼリエッタの表情は優れなかった。
自身の手を開いたり閉じたりしながらじっと見つめている。それを見て、思わずアルストロイは問いかけた。
「ロゼ?どうした?」
「……覚えてるの。私は北の国と戦った時、笑いながら人を殺してた……」
操られていても、記憶は残っていたようだ。
 すかさずセリアが口を挟む。
「だからそれは、ハルクエルに操られて……」
だがその言葉は最後まで言えなかった。ローゼリエッタの叫び声が遮ったのだ。
「そんなの関係ない!私は!沢山の人を殺したの!皆に笑顔を与えるはずのこの手で……」
少女の絶叫が部屋に響いた。

 むせび泣くローゼリエッタ。
アルストロイはそんな妹を抱きしめたが、誰も、何一つ言えなかった。
操られていようといるまいと、彼女が人を殺したという事実は消えない。
その事実を嘆いているというのに、どんな優しい言葉であれば役に立つというのか。
 見かねて、オージェスの王が口を開いた。
「ローゼリエッタとやら。そんなに気にするでない。戦争とはそういう物なのだ。戦いの末、人は死ぬ。誰が殺すかの違いでしかないのだよ。例え君が手をかけなかったとしても、その分の命を、君の後ろにいる彼らが殺すだけなのだ」
その言葉を聞いて、ローゼリエッタは背後にいる仲間を見た。
誰もが悲しそうな目で、涙を流す隊長を見つめている。

 操られている時期に出会ったとはいえ、彼女らは確かに仲間だった。
仲間とは、喜びも悲しみも分かち合える存在なのだ。
仲間が悲しめば自分も悲しいし、仲間が喜べば自分も喜べる。
だからローゼリエッタの悲しみも、彼らは分かち合う。
(そうだ……私だけじゃない。皆人を殺したんだ)
巨鎧兵団の中には、ローゼリエッタと年の近い少年少女も多数いる。剣を握ったことがない人もいるし、人を殺したことがない者も当然いる。
そんな人らも、必死に涙をこらえて歯を食いしばっていた。
泣いている暇はない。
そう思ったローゼリエッタは、流れる涙を拭うと、ムーガンに向かって一つ頭を下げた。


 巨鎧兵の撤退より数日。
戦いによる傷跡の修繕に追われる日々が続いた。
次の襲撃に備え、崩れてしまった防壁の修繕から、戦場になった草原に散らばる、魔法人形の残骸の掃除まで、やることは多い。
 当初はオージェスの兵士だけで行われていたのだが、二日目には革命軍も手を貸すことになった。
驚くべきは四日目の事だ。
捕虜として捉えられている筈の巨鎧兵団の者までもが、補修作業を手伝い始めたのだ。
これを見たオージェスの民は、驚き戸惑った。
戦場で無類の力を発揮した化け物が、今では石を抱えて防壁の修繕をしているのだから。

 修復が一段落する頃、兄との再会を果たしたローゼリエッタは、巨鎧兵団を抜ける決意を固める。
国王ハルクエルから提示された条件は、技術と知識の譲渡。
これだけ見事な兵器を作ったのだから、その条件もとうに達成しているだろう。
これから彼女は、革命軍に組し、バルドリンガ相手に一つ事を構えることになる。

 ここで、話をややこしくしたのがシャルルだった。
何と彼女は、巨鎧兵団を抜けるローゼリエッタについていくと言い出したのだ。
敵対勢力へ寝返るこの行為は、とても褒められたものでは無い。
だが、シャルルのローゼリエッタに対する好意は、異常と言える水準に達していた。
「ローゼリエッタ様が出ていかれるのなら、私もついていきます!」
こう叫んだシャルルの言葉に、同意する団員は意外にも多かった。
多くは先日の、泣き叫ぶ姿を見たせいだろう。
素晴らしい技術を持つ、尊敬する人物が、人を殺めたことを嘆く人間味あふれる人であったのだ。
結局捕虜となっている団員全員が、革命軍に組することに決まった。

 二十の傀儡師と、二十の守護者で構成された革命軍は、新たに三十一名の仲間を手に入れた。
だが、手に入れた物はそれだけではない。
戦場で身動きが取れずに放置されていた巨鎧兵が十八機。更にシャルルの隊で直ぐに動ける巨鎧兵が七機。計二十六機の巨鎧兵までをも手に入れたのだ。
ここまで巨大な人形を直すのは相当な手間だが、直すことが出来れば確実に戦力となるだろう。
全ての巨鎧兵を回収し終える頃には、戦いが終わってから十五日が経っており、防壁の修繕も殆どが終わっていた。


 全てがとんとん拍子に進む中、魔法都市に再び魔の手が忍び寄る。
防壁の上を見回っていた兵士が、突然声を上げた。
「敵襲!敵襲!!巨鎧兵団と思われる軍隊が現れました!!繰り返す!……」
再び、新たな戦いが起きようとしていた。
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