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11章 追う者と追われる者
二つの策略
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革命軍とバルドリンガ軍。
二つの勢力は、日を追うごとに戦力を着々と整えていく。しかし、両者の経済力には圧倒的な差があり、それが如実に表れてしまった。
王国はその有り余る資金力にものを言わせ、膨大な量の巨鎧兵を量産していく。
だが革命軍にそんな余裕はない。
精々救出した民の中から有志を募り、戦士として鍛え上げていく程度だ。
そうはいっても順調なことに変わりはない。
程度の差こそあれ、両者は着実に戦力を補強していく。
数日が経った。
兵力の向上に躍起になる革命軍。
それでもこれまでのような切羽詰まった状況とは打って変わって、穏やかな日が続いていた。
朝日と共に目覚め、朝食を取った後は有志を募って、剣や魔法の鍛錬を始める。
日が暮れる頃には近場の川で汗を流し、なけなしの金で買って来た食い物や酒を持ち出しては、細やかな酒盛りを楽しむのだ。
中には持ち出した資金が尽きた者もいて、密かに町で依頼を受けて回るような始末だが、何とか生活できているのだから良しとしておこう。
だが、そんな束の間の平和も長くはなかった。
人形の館に屯する革命軍の下へ、一つの報せが届いたのだ。
部屋の戸をあけ放ち、慌ただしく一人の男が駆け込んでくる。
彼は、かつてパラミシア軍にて諜報員として活躍していた者達の一人。
その力を振るって、男はバルドリンガの動向を探っていたのだった。
男は主の下に跪くと、大きく声を張り上げる。
「ご報告いたします! 王よ……バルドリンガが軍を強化しているとの話が出回っています! 周辺に敵国がない今、王国が攻める先は恐らく……」
諜報員の報せを受けたガンフは、苦々しく呟いた。
「遂に居場所がばれてしまったか……どうする? ローゼリエッタ殿」
その報せは、更に同室にいたローゼリエッタにも届けられる。
今では名実ともに彼女が革命軍を指揮する立場にある。即ち、革命軍の動向を決めるのはローゼリエッタの役目だ。
少女は顎に手を当て、可愛らしくうんうん唸った。
「そうですね……今の戦力では相手に先手を取られた時点で勝ち目はありません。全軍で奇襲をかければもしかしたら……ああでも、ここの守りが薄くなってはみんなに危険が……」
指揮官となってまだ日が浅いせいか、やはり即決するほど判断力は育っていない。
こんな状況に至っても、まだ足かせを抱えながら戦おうとするローゼリエッタに、ガンフはため息をついた。
(甘い。甘すぎる。理想だけでは何も救えないということを分かっていない。だが……)
それを真剣に考えているからこそ、人々は少女の下に集まるのだ。
(未熟な主に注意を促すのも、配下の役目か)
まさか自らがその立場に陥るとは思っていなかった彼は、顔を綻ばしては失笑する。
「ではローゼリエッタ殿。こうしたらどうだろうか?」
その進言は、ローゼリエッタの理想を可能な限り叶える妙案で、少女は快く頷いた。
革命軍に潜入した工作員は、ハルクエルにその居場所を伝えた時から、数度に分けて報告の機会を設けていた。
報告の内容には革命軍の軍事力、抱えている一般民の数、作戦の進捗状況等々、様々な情報が含まれる。
その報告を頼りに、ハルクエルはバルドリンガ軍を完璧なる軍隊に仕立て上げていった。
日も暮れ薄暗くなる室内にて、ハルクエルは何度目かわからない工作員の報告を聞くべく、魔法石に耳を傾ける。
「……どうやら革命軍は、抱える一万超の民を連れて、森の奥へと逃げ隠れるつもりの様です」
伝えられた言葉に、王は顔を顰めた。
「噂通りの様だな。しかし……森の奥か。確かあそこの森は……」
「『森人の森』、でございますか」
ハルクエルの言葉に、傍に仕えていたジェイクが続けた。
バルドリンガの王都から南東にある町スフィロニア。その更に南東には、人が殆ど立ち寄らない大森林が広がっている。
実る物が然程良質でないということも挙げられるが、大部分は別の理由があった。
何故ならその森には、森人の呪いがかけられている、という噂があったのだ。
呪いと言ってもそこまで邪悪なものではない。立ち入った者は三日三晩森を彷徨い、終いに元の位置に戻ってしまうという、深入りしなければ問題のないものだ。
しかも森全土がそうというわけでは無く、中から奥にかけてが危険区域であり、人形の館がある表層は特に問題がない。
それでも、これまで誰一人として森の奥に入れた者はいなかった為に、人々は気味悪く思い、一人も寄り付かなくなっていた。
今では人形を好む酔狂なもの位しか立ち入らない、秘境となってしまっている。
ハルクエルは当初の神妙な顔を崩し、嫌らしい笑みを浮かべた。
「ふ、ふふふ……これはいい。森の奥へ行っても、やがて入口へと戻ってくる。袋のネズミというやつではないか。少数故に逃げ回れては堪らんと、圧倒的兵力を備えて取り囲んでやろうと思っていたが……どうだろうか、ジェイクよ。私は攻めてしまっても良いと思うのだが?」
「はい。巨鎧兵の数も十分ですし、我が国が誇る三将がお一人、パシウス様も動員すれば、まず問題ないと思われます」
一番信頼する家臣の同意に、ハルクエルは気分よく頷いた。
王は一言、近くにいる従者に伝える。
「巨鎧兵団。そしてパシウス隊は、南東にある森人の森へ出向き、革命軍を根絶やしにしろ。兵士だろうが民だろうが気にするな。見かけた者は全て殺してしまえ! ふふふ……はははは!!」
廊下には魔法の明かりが灯り、怪しげに周囲を照らしている。
その中を、狂人が放つような笑い声がいつまでも鳴り響いた。
二つの勢力は、日を追うごとに戦力を着々と整えていく。しかし、両者の経済力には圧倒的な差があり、それが如実に表れてしまった。
王国はその有り余る資金力にものを言わせ、膨大な量の巨鎧兵を量産していく。
だが革命軍にそんな余裕はない。
精々救出した民の中から有志を募り、戦士として鍛え上げていく程度だ。
そうはいっても順調なことに変わりはない。
程度の差こそあれ、両者は着実に戦力を補強していく。
数日が経った。
兵力の向上に躍起になる革命軍。
それでもこれまでのような切羽詰まった状況とは打って変わって、穏やかな日が続いていた。
朝日と共に目覚め、朝食を取った後は有志を募って、剣や魔法の鍛錬を始める。
日が暮れる頃には近場の川で汗を流し、なけなしの金で買って来た食い物や酒を持ち出しては、細やかな酒盛りを楽しむのだ。
中には持ち出した資金が尽きた者もいて、密かに町で依頼を受けて回るような始末だが、何とか生活できているのだから良しとしておこう。
だが、そんな束の間の平和も長くはなかった。
人形の館に屯する革命軍の下へ、一つの報せが届いたのだ。
部屋の戸をあけ放ち、慌ただしく一人の男が駆け込んでくる。
彼は、かつてパラミシア軍にて諜報員として活躍していた者達の一人。
その力を振るって、男はバルドリンガの動向を探っていたのだった。
男は主の下に跪くと、大きく声を張り上げる。
「ご報告いたします! 王よ……バルドリンガが軍を強化しているとの話が出回っています! 周辺に敵国がない今、王国が攻める先は恐らく……」
諜報員の報せを受けたガンフは、苦々しく呟いた。
「遂に居場所がばれてしまったか……どうする? ローゼリエッタ殿」
その報せは、更に同室にいたローゼリエッタにも届けられる。
今では名実ともに彼女が革命軍を指揮する立場にある。即ち、革命軍の動向を決めるのはローゼリエッタの役目だ。
少女は顎に手を当て、可愛らしくうんうん唸った。
「そうですね……今の戦力では相手に先手を取られた時点で勝ち目はありません。全軍で奇襲をかければもしかしたら……ああでも、ここの守りが薄くなってはみんなに危険が……」
指揮官となってまだ日が浅いせいか、やはり即決するほど判断力は育っていない。
こんな状況に至っても、まだ足かせを抱えながら戦おうとするローゼリエッタに、ガンフはため息をついた。
(甘い。甘すぎる。理想だけでは何も救えないということを分かっていない。だが……)
それを真剣に考えているからこそ、人々は少女の下に集まるのだ。
(未熟な主に注意を促すのも、配下の役目か)
まさか自らがその立場に陥るとは思っていなかった彼は、顔を綻ばしては失笑する。
「ではローゼリエッタ殿。こうしたらどうだろうか?」
その進言は、ローゼリエッタの理想を可能な限り叶える妙案で、少女は快く頷いた。
革命軍に潜入した工作員は、ハルクエルにその居場所を伝えた時から、数度に分けて報告の機会を設けていた。
報告の内容には革命軍の軍事力、抱えている一般民の数、作戦の進捗状況等々、様々な情報が含まれる。
その報告を頼りに、ハルクエルはバルドリンガ軍を完璧なる軍隊に仕立て上げていった。
日も暮れ薄暗くなる室内にて、ハルクエルは何度目かわからない工作員の報告を聞くべく、魔法石に耳を傾ける。
「……どうやら革命軍は、抱える一万超の民を連れて、森の奥へと逃げ隠れるつもりの様です」
伝えられた言葉に、王は顔を顰めた。
「噂通りの様だな。しかし……森の奥か。確かあそこの森は……」
「『森人の森』、でございますか」
ハルクエルの言葉に、傍に仕えていたジェイクが続けた。
バルドリンガの王都から南東にある町スフィロニア。その更に南東には、人が殆ど立ち寄らない大森林が広がっている。
実る物が然程良質でないということも挙げられるが、大部分は別の理由があった。
何故ならその森には、森人の呪いがかけられている、という噂があったのだ。
呪いと言ってもそこまで邪悪なものではない。立ち入った者は三日三晩森を彷徨い、終いに元の位置に戻ってしまうという、深入りしなければ問題のないものだ。
しかも森全土がそうというわけでは無く、中から奥にかけてが危険区域であり、人形の館がある表層は特に問題がない。
それでも、これまで誰一人として森の奥に入れた者はいなかった為に、人々は気味悪く思い、一人も寄り付かなくなっていた。
今では人形を好む酔狂なもの位しか立ち入らない、秘境となってしまっている。
ハルクエルは当初の神妙な顔を崩し、嫌らしい笑みを浮かべた。
「ふ、ふふふ……これはいい。森の奥へ行っても、やがて入口へと戻ってくる。袋のネズミというやつではないか。少数故に逃げ回れては堪らんと、圧倒的兵力を備えて取り囲んでやろうと思っていたが……どうだろうか、ジェイクよ。私は攻めてしまっても良いと思うのだが?」
「はい。巨鎧兵の数も十分ですし、我が国が誇る三将がお一人、パシウス様も動員すれば、まず問題ないと思われます」
一番信頼する家臣の同意に、ハルクエルは気分よく頷いた。
王は一言、近くにいる従者に伝える。
「巨鎧兵団。そしてパシウス隊は、南東にある森人の森へ出向き、革命軍を根絶やしにしろ。兵士だろうが民だろうが気にするな。見かけた者は全て殺してしまえ! ふふふ……はははは!!」
廊下には魔法の明かりが灯り、怪しげに周囲を照らしている。
その中を、狂人が放つような笑い声がいつまでも鳴り響いた。
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