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12章 世界の法則
世界の在り方
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螺旋の階段を、カルヴァンは恐ろしい速度で駆け降りる。
時には一周分下の階へ飛び下り、時には壁に張り付いた蔦を滑り落ち、上りに掛かった時間の十分の一にも満たない時間で、彼は最下層に飛び降りた。
「報告!司祭様方!長老様がお呼びです!至急『翠木の間』へお集まり願います!」
部屋に響く切迫した声。その声は、別に司祭に直接届く必要はない。
カルヴァンの叫びを聞いたエルフたちは、直ぐに世界樹の苗木を飛びだし、司祭がいるであろう心当たりのある場所へと走り出す。
そうしている間も、カルヴァンは彼なりに思いつく場所を巡っては、長老の下へ集うように叫び続けた。
騒がしくなる階下に比べ、最上階は何と静かなことか。
窓から外を眺める長老。その姿を静かに見つめるローゼリエッタとシャルル。
まるで何事も起きていないかのような、穏やかな時間が続いている。
だが唐突に、長老は窓の外に顔を向けたまま語り始めた。
「なんと因果なことか。持たざる者らによって、我々はまたもや引っ掻き回されている」
やや自称気味に呟く声は、風に乗ってローゼリエッタの耳に届く。
「持たざる者……?」
「そう、おぬし達ヒトのことだよ」
呟きに対して答えを述べる長老は、窓から視線を外し、真っ赤な髪の少女を見た。
「司祭らが来るまで少し時間がある。折角だ。昔話をしてあげよう」
老人の見開いた翠の目が、二人の少女の視線を吸い込む。
長老は、昔を懐かしむように遠くを見つめた。
「実はな、ヒトがこういった行動をとったのは、今回が初めてではないのだ。遥か昔……何百年も前の事だ。私のひい爺さんが生きていた頃の話だよ」
何の前触れも無く、老人の足から力が抜ける。
腰が落ち、このままでは後ろに倒れ込んでしまうだろう。
慌てて駆け寄ろうとするローゼリエッタ。だが、その手は届くことはなく、尻もちを搗くかと思われた瞬間、突如として外壁の葉がせり出し、長老の身体に寄り添いだした。
葉はまるで椅子のように固まり、年老いた体を浮かせてしまった。
驚く少女らに対し、さも当然のように長老は語る。
「神はこの世界を創造する時、世界を管理する者を作り出した。森にはエルフを、山にはドワーフを、草原にはセリオンを、吹きすさぶ風にはフェアリーを、青く広がる空にはハーピィをそれぞれ宛がい、管理を命じたのだ。それは生まれながらに魂に刻み込まれた神事。この世界に生まれた者は須らく、神に役割と使命を与えられていたのだ。我々エルフに与えられた使命は、この世界樹の苗木を管理し、森を正しい姿に導くことだった」
彼が窓枠に手を伸ばすと、枠を象っていた木の枝が嬉しそうにその手に絡みつく。
そこには確かに、樹木の意思を感じた。決して、反射や習性などではない。言葉には発せなくとも、その動作の一つ一つが、樹木の感情を如実に語っていた。
やがて彼が手を下ろすと、木の枝は名残惜しそうに離れ、再び窓枠に変わっていく。
それを見た長老もまた、寂しそうに顔いろを変えた。
「世界は完全な形を保っていた。だがある時、ヒトと名乗る者達が現れた。ヒトは、何も持っていなかった。生きる技術、冠する名前、神からの使命、何一つも。だから私たちは与えたのだ。魔法を操る力を、鉱石を加工する技術を、そして、寄り添い合って生きる大切さを」
結果、人間たちは大小幾つかの国を作るにまで至り、狭い世界の中で覇権を争って来た。
これまではそれでもよかったのだ。世界を完璧なものにする作業に、全く支障が無かったのだから。
彼ら『神から役目を与えられた者』らは、ヒトも同じく、『神が作り出した意義ある者』だと信じ、自らが持つ技術を惜しむことなく提供した。
だが、結果は言わずもがな。こうして侵略される形で跳ね返ってきている。
「どうやら我らが求めた平和は、ヒトにとっては退屈なものであったらしい。やがて彼らは、鉄で出来た剣と鎧を身に着け、拙いながらも魔法の力を振り回し、我々の領地を奪いに来るようになった。当初はあしらっていたようだが、それも十年、二十年と続くと嫌気がさしてくる。だから我らは、管理に十分な領地を残し明け渡したのだ。それが、神の意思であると信じてな」
話を聞く少女らは、余りにも大それた話に反応が出来ないでいた。
落胆のため息が一つ。
長老の表情も暗いものに変わり、気落ちする様がありありと顔に出ている。
しかし、僅かに彼の声音が変わった。
「だが、君たちのような者が現れたのも事実。理由はどうあれ、世界を乱す者に抗おうとするヒトだ。そう考えれば、我らの先祖が選んだ行いも、決して無駄では無かったのかもしれぬな」
彼が口にした言葉は、そうあって欲しいと願う彼の願望に他ならない。
先祖の行いが正しかったと証明する為にも、彼は多少の傷を覚悟で立ち上がる決心をしたのだ。
老人の長い話が一息つくと、長老ほどではないが、年老いたエルフが数名現れた。
昔話は終わりだ。これからは、侵略者に抗う為の話し合いが始まる。
「皆集まったな?……ではこれより、方針決議会を執り行う」
神妙な面持ちで集う一同を前に、長老は高々と宣言した。
時には一周分下の階へ飛び下り、時には壁に張り付いた蔦を滑り落ち、上りに掛かった時間の十分の一にも満たない時間で、彼は最下層に飛び降りた。
「報告!司祭様方!長老様がお呼びです!至急『翠木の間』へお集まり願います!」
部屋に響く切迫した声。その声は、別に司祭に直接届く必要はない。
カルヴァンの叫びを聞いたエルフたちは、直ぐに世界樹の苗木を飛びだし、司祭がいるであろう心当たりのある場所へと走り出す。
そうしている間も、カルヴァンは彼なりに思いつく場所を巡っては、長老の下へ集うように叫び続けた。
騒がしくなる階下に比べ、最上階は何と静かなことか。
窓から外を眺める長老。その姿を静かに見つめるローゼリエッタとシャルル。
まるで何事も起きていないかのような、穏やかな時間が続いている。
だが唐突に、長老は窓の外に顔を向けたまま語り始めた。
「なんと因果なことか。持たざる者らによって、我々はまたもや引っ掻き回されている」
やや自称気味に呟く声は、風に乗ってローゼリエッタの耳に届く。
「持たざる者……?」
「そう、おぬし達ヒトのことだよ」
呟きに対して答えを述べる長老は、窓から視線を外し、真っ赤な髪の少女を見た。
「司祭らが来るまで少し時間がある。折角だ。昔話をしてあげよう」
老人の見開いた翠の目が、二人の少女の視線を吸い込む。
長老は、昔を懐かしむように遠くを見つめた。
「実はな、ヒトがこういった行動をとったのは、今回が初めてではないのだ。遥か昔……何百年も前の事だ。私のひい爺さんが生きていた頃の話だよ」
何の前触れも無く、老人の足から力が抜ける。
腰が落ち、このままでは後ろに倒れ込んでしまうだろう。
慌てて駆け寄ろうとするローゼリエッタ。だが、その手は届くことはなく、尻もちを搗くかと思われた瞬間、突如として外壁の葉がせり出し、長老の身体に寄り添いだした。
葉はまるで椅子のように固まり、年老いた体を浮かせてしまった。
驚く少女らに対し、さも当然のように長老は語る。
「神はこの世界を創造する時、世界を管理する者を作り出した。森にはエルフを、山にはドワーフを、草原にはセリオンを、吹きすさぶ風にはフェアリーを、青く広がる空にはハーピィをそれぞれ宛がい、管理を命じたのだ。それは生まれながらに魂に刻み込まれた神事。この世界に生まれた者は須らく、神に役割と使命を与えられていたのだ。我々エルフに与えられた使命は、この世界樹の苗木を管理し、森を正しい姿に導くことだった」
彼が窓枠に手を伸ばすと、枠を象っていた木の枝が嬉しそうにその手に絡みつく。
そこには確かに、樹木の意思を感じた。決して、反射や習性などではない。言葉には発せなくとも、その動作の一つ一つが、樹木の感情を如実に語っていた。
やがて彼が手を下ろすと、木の枝は名残惜しそうに離れ、再び窓枠に変わっていく。
それを見た長老もまた、寂しそうに顔いろを変えた。
「世界は完全な形を保っていた。だがある時、ヒトと名乗る者達が現れた。ヒトは、何も持っていなかった。生きる技術、冠する名前、神からの使命、何一つも。だから私たちは与えたのだ。魔法を操る力を、鉱石を加工する技術を、そして、寄り添い合って生きる大切さを」
結果、人間たちは大小幾つかの国を作るにまで至り、狭い世界の中で覇権を争って来た。
これまではそれでもよかったのだ。世界を完璧なものにする作業に、全く支障が無かったのだから。
彼ら『神から役目を与えられた者』らは、ヒトも同じく、『神が作り出した意義ある者』だと信じ、自らが持つ技術を惜しむことなく提供した。
だが、結果は言わずもがな。こうして侵略される形で跳ね返ってきている。
「どうやら我らが求めた平和は、ヒトにとっては退屈なものであったらしい。やがて彼らは、鉄で出来た剣と鎧を身に着け、拙いながらも魔法の力を振り回し、我々の領地を奪いに来るようになった。当初はあしらっていたようだが、それも十年、二十年と続くと嫌気がさしてくる。だから我らは、管理に十分な領地を残し明け渡したのだ。それが、神の意思であると信じてな」
話を聞く少女らは、余りにも大それた話に反応が出来ないでいた。
落胆のため息が一つ。
長老の表情も暗いものに変わり、気落ちする様がありありと顔に出ている。
しかし、僅かに彼の声音が変わった。
「だが、君たちのような者が現れたのも事実。理由はどうあれ、世界を乱す者に抗おうとするヒトだ。そう考えれば、我らの先祖が選んだ行いも、決して無駄では無かったのかもしれぬな」
彼が口にした言葉は、そうあって欲しいと願う彼の願望に他ならない。
先祖の行いが正しかったと証明する為にも、彼は多少の傷を覚悟で立ち上がる決心をしたのだ。
老人の長い話が一息つくと、長老ほどではないが、年老いたエルフが数名現れた。
昔話は終わりだ。これからは、侵略者に抗う為の話し合いが始まる。
「皆集まったな?……ではこれより、方針決議会を執り行う」
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