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12章 世界の法則
生きる為に
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建物の中は思った以上に明るく広い。天井を見上げれば吸い込まれそうな程に高く、外壁には頂上に伸びる階段がどこまでも伸びていた。
頭上に気を取られている少女らに向かって、カルヴァンは注意を促す。
「足元に気を付けろ。この木もドリアードのように生きているのだ。気を抜けば、足を踏み外し一番下まで真っ逆さまだからな」
多少の気遣いをしてくれる程度には、少女たちの事を気にかけてくれているようだ。
実際は足場の方から浮いた足によってきてくれるので、落ちることはそうそうないのだが、彼はそう忠告した。
先を進むカルヴァンの後ろで、シャルルはローゼリエッタに声をかける。
「凄いですね……幻想的というかなんというか……まるで絵本の中に入り込んだみたいです」
「本当ね。この世界にこんな場所があるなんて……」
その光景を形容する言葉が思いつかない少女らは、湧き上がる感情に耐え切れず体を震わせた。
登り始めて暫く経ち、三人は世界樹の苗木の頂点へと辿り着いた。
下を見下ろせば身の毛もよだつ光景が広がっていて、入り口は小さくてもはや見分けがつかない。
最後の一段を上がった少女を待っていたのは、木の葉に囲まれた円形の部屋であった。
風で靡く木の葉の隙間から、太陽の光が差し込んでは部屋を照らす。
思わず立ち止まっては、ため息を漏らし周囲を見渡すローゼリエッタとシャルル。
そんな二人を尻目に、カルヴァンは部屋の奥へと進み、一つ設けられた椅子に傅いた。
「只今戻りました。長老様」
「うむ。よくぞ戻った、カルヴァンよ。……何やら可愛らしいお客様をお連れの様だが?」
響いた声は掠れた男の声。
そこにいたのは、純白のローブに身を包んだ一人の老エルフであった。
ローブと同じく長い白髪。髭は綺麗に手入れされていて、皺だらけの顔が露わになっている。
耳は当然とがっていて、容姿を見るだけでも相当な階級にある人物であることが分かった。
彼こそが、ここ『世界樹の苗木』を収めるエルフ族の長老である。
老エルフの細い眼が向けられると、ローゼリエッタは緊張に強張る。
「は、初めまして。ここより北にある町から参りました。ローゼリエッタとシャルルと申します。この度は、お願いしたい事があってまいりました」
可能な限り礼儀を尽くし、無礼の無いように言葉を選ぶ。
少女のその拙い作法が功を成し、エルフの長老は優しく微笑んだ。
「ほっほ。そこまで硬くならんで良い。我々は、神が創りたもうた同じ生命。人だとかエルフだとかは関係ない。どうか言ってみてくれないか。そのお願い事とやらを」
長老の言葉に少し反応を見せたカルヴァンだが、口をはさむような無礼な真似はしない。
予想よりも砕けた物言いに、気分が軽くなった少女は、直ぐに頭の中で発する言葉を選び出す。
ローゼリエッタは、跪くカルヴァンの反応を伺いながら、おずおずと語り出した。
「実は……今私たちの仲間が、バルドリンガという国の軍に追われているのです。戦力差は圧倒的で、戦えば負けることは確かでしょう。どうか、軍を撒くために、少しの間だけでもこちらの森に入らせて頂きたいのです。お願い致します」
少女は真摯に懇願した。ドレスが乱れるのも気にせず、従える鎧の人形と共に膝をつく。
直ぐ近くにいたシャルルもまた、ローゼリエッタを真似て膝をつき首を垂れた。
暫し沈黙が続く。その沈黙の中、二人の少女は只管頭を下げ続けた。
強い風が一つ吹き、真っ赤な髪を揺らす。それに伴って、部屋を覆う木の葉がざあっと音を立てて揺れた。
それが収まる頃、長老は静かに言葉を紡ぐ。
「……分かりました。協力させて頂きましょう」
「なっ!?長老様!?正気でございますか!」
思いもよらぬ言葉を聞き、カルヴァンの抗議の声が上がった。
人の情勢になど関せず、という彼の主張は、いとも容易く覆されたのだ。
目を見開き言葉を無くすカルヴァンを、長老は落ち着いた様子で説得に掛かる。
「カルヴァンよ。彼女らがここまで来た時点で、私たちには選択肢が存在せんのだよ。ここからでもよぉく見える。あの巨大な鉄の鎧がの。あれが付けた足跡が、災いを呼び寄せる。もし仮に、あそこから足跡が消え去ったとして、彼の軍勢は大人しく帰ると思うかね?」
そんなことはありえない。
もし痕跡が唐突に消えてしまえば……いや、そうでなくても、革命軍が森の奥へ逃げたという情報がある以上、バルドリンガの軍は、この森を広く探索し、やがてエルフの集落を見つけてしまうだろう。
その先は……想像に難くない。
「つまり、我々の生き延びる道は唯一つ。彼女らと協力し、バルドリンガという国の軍を打ち破るのみなのだ」
力強い一言が、長老の口から飛び出した。
革命軍が当初予定立てていた案は、森の中で身を隠し、王国軍を撒いた後に、バルドリンガ王都に乗り込み奇襲をかけるという物だった。
だが、今エルフの長老が言った通り、森で身を隠した革命軍を、あのハルクエルが見逃す筈がない。
故にエルフだけでなく、ローゼリエッタら革命軍側も、身の安全を確保するのならば、長老の案に賛同しなければならないのだ。
椅子に座っていた長老は、立ち上がると木の葉で出来た壁際に向かう。
その足取りは覚束なく、今にも倒れてしまうのではという危うさまで感じる。
跪いていたカルヴァンはすぐさま立ち上がると、長老の手を取り歩く手助けを始めた。
二人が壁際まで寄ると、長老は重なる木の葉に手をかざす。すると木の葉は独りでに左右に別れ、小さな窓を作り出した。
窓を覗き込んだ長老は、カルヴァンに告げる。
「カルヴァンよ。司祭を集めよ。災いを振り払う準備をせねばならん」
「はっ!」
彼は頷くと、急ぎ階下へ続く階段へと姿を消した。
再び、穏やかな静寂が舞い降りる。
だが窓の外では、森のドリアードたちがざわめきだしていた。
頭上に気を取られている少女らに向かって、カルヴァンは注意を促す。
「足元に気を付けろ。この木もドリアードのように生きているのだ。気を抜けば、足を踏み外し一番下まで真っ逆さまだからな」
多少の気遣いをしてくれる程度には、少女たちの事を気にかけてくれているようだ。
実際は足場の方から浮いた足によってきてくれるので、落ちることはそうそうないのだが、彼はそう忠告した。
先を進むカルヴァンの後ろで、シャルルはローゼリエッタに声をかける。
「凄いですね……幻想的というかなんというか……まるで絵本の中に入り込んだみたいです」
「本当ね。この世界にこんな場所があるなんて……」
その光景を形容する言葉が思いつかない少女らは、湧き上がる感情に耐え切れず体を震わせた。
登り始めて暫く経ち、三人は世界樹の苗木の頂点へと辿り着いた。
下を見下ろせば身の毛もよだつ光景が広がっていて、入り口は小さくてもはや見分けがつかない。
最後の一段を上がった少女を待っていたのは、木の葉に囲まれた円形の部屋であった。
風で靡く木の葉の隙間から、太陽の光が差し込んでは部屋を照らす。
思わず立ち止まっては、ため息を漏らし周囲を見渡すローゼリエッタとシャルル。
そんな二人を尻目に、カルヴァンは部屋の奥へと進み、一つ設けられた椅子に傅いた。
「只今戻りました。長老様」
「うむ。よくぞ戻った、カルヴァンよ。……何やら可愛らしいお客様をお連れの様だが?」
響いた声は掠れた男の声。
そこにいたのは、純白のローブに身を包んだ一人の老エルフであった。
ローブと同じく長い白髪。髭は綺麗に手入れされていて、皺だらけの顔が露わになっている。
耳は当然とがっていて、容姿を見るだけでも相当な階級にある人物であることが分かった。
彼こそが、ここ『世界樹の苗木』を収めるエルフ族の長老である。
老エルフの細い眼が向けられると、ローゼリエッタは緊張に強張る。
「は、初めまして。ここより北にある町から参りました。ローゼリエッタとシャルルと申します。この度は、お願いしたい事があってまいりました」
可能な限り礼儀を尽くし、無礼の無いように言葉を選ぶ。
少女のその拙い作法が功を成し、エルフの長老は優しく微笑んだ。
「ほっほ。そこまで硬くならんで良い。我々は、神が創りたもうた同じ生命。人だとかエルフだとかは関係ない。どうか言ってみてくれないか。そのお願い事とやらを」
長老の言葉に少し反応を見せたカルヴァンだが、口をはさむような無礼な真似はしない。
予想よりも砕けた物言いに、気分が軽くなった少女は、直ぐに頭の中で発する言葉を選び出す。
ローゼリエッタは、跪くカルヴァンの反応を伺いながら、おずおずと語り出した。
「実は……今私たちの仲間が、バルドリンガという国の軍に追われているのです。戦力差は圧倒的で、戦えば負けることは確かでしょう。どうか、軍を撒くために、少しの間だけでもこちらの森に入らせて頂きたいのです。お願い致します」
少女は真摯に懇願した。ドレスが乱れるのも気にせず、従える鎧の人形と共に膝をつく。
直ぐ近くにいたシャルルもまた、ローゼリエッタを真似て膝をつき首を垂れた。
暫し沈黙が続く。その沈黙の中、二人の少女は只管頭を下げ続けた。
強い風が一つ吹き、真っ赤な髪を揺らす。それに伴って、部屋を覆う木の葉がざあっと音を立てて揺れた。
それが収まる頃、長老は静かに言葉を紡ぐ。
「……分かりました。協力させて頂きましょう」
「なっ!?長老様!?正気でございますか!」
思いもよらぬ言葉を聞き、カルヴァンの抗議の声が上がった。
人の情勢になど関せず、という彼の主張は、いとも容易く覆されたのだ。
目を見開き言葉を無くすカルヴァンを、長老は落ち着いた様子で説得に掛かる。
「カルヴァンよ。彼女らがここまで来た時点で、私たちには選択肢が存在せんのだよ。ここからでもよぉく見える。あの巨大な鉄の鎧がの。あれが付けた足跡が、災いを呼び寄せる。もし仮に、あそこから足跡が消え去ったとして、彼の軍勢は大人しく帰ると思うかね?」
そんなことはありえない。
もし痕跡が唐突に消えてしまえば……いや、そうでなくても、革命軍が森の奥へ逃げたという情報がある以上、バルドリンガの軍は、この森を広く探索し、やがてエルフの集落を見つけてしまうだろう。
その先は……想像に難くない。
「つまり、我々の生き延びる道は唯一つ。彼女らと協力し、バルドリンガという国の軍を打ち破るのみなのだ」
力強い一言が、長老の口から飛び出した。
革命軍が当初予定立てていた案は、森の中で身を隠し、王国軍を撒いた後に、バルドリンガ王都に乗り込み奇襲をかけるという物だった。
だが、今エルフの長老が言った通り、森で身を隠した革命軍を、あのハルクエルが見逃す筈がない。
故にエルフだけでなく、ローゼリエッタら革命軍側も、身の安全を確保するのならば、長老の案に賛同しなければならないのだ。
椅子に座っていた長老は、立ち上がると木の葉で出来た壁際に向かう。
その足取りは覚束なく、今にも倒れてしまうのではという危うさまで感じる。
跪いていたカルヴァンはすぐさま立ち上がると、長老の手を取り歩く手助けを始めた。
二人が壁際まで寄ると、長老は重なる木の葉に手をかざす。すると木の葉は独りでに左右に別れ、小さな窓を作り出した。
窓を覗き込んだ長老は、カルヴァンに告げる。
「カルヴァンよ。司祭を集めよ。災いを振り払う準備をせねばならん」
「はっ!」
彼は頷くと、急ぎ階下へ続く階段へと姿を消した。
再び、穏やかな静寂が舞い降りる。
だが窓の外では、森のドリアードたちがざわめきだしていた。
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